なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……うーん、変な踏み心地だ」
「落ちたら面倒だぞー、落ちないように進めよー」
なんだろう、ふわふわというか変に固いというか、新雪を踏んだ時に近いというか……。
決して気持ちの良いものではない、不安定な足場の感覚に思わず顔を顰めてしまう私である。
というか、その上で変な踏み方すると跳ねるのだから、フォールガイズで雲でできた道を登る時と似たような心境になるというか……。
「……あ、思い出したら腹が立ってきた。丸い棒をギリギリ飛んだら登りきれる、みたいな階段作るの止めなさいよマジで。何回かマッチしたけど誰もクリアできてる人見たことないんだけど?」*1
「唐突になんの文句をぶん投げているんだ……?」
あれよ、競争ゲームに変な高難易度はいらないというか。*2
……とまぁ、唐突に蘇ってきたムカムカを適当に投げ捨てつつ、ピョンピョンと雲を登っていく私たちである。
「……うーん」
「どうしたのトリコ君?足元を見つめながら唸ったりして。なんとなくなに考えてるのかわからなくもないけど」
「いやなに、白いんなら甘いのかと思ったんだが……黒いと苦いのかなって思ってただけさ」
「なんでもかんでも食べられること前提に考えるの止めない?」
貴方の食欲だと、下手すると足場全部食べきっちゃうでしょうが。
……とかなんとかツッコミを入れたりしつつ、順調に登っていく。
途中、小松君が足を滑らせて落下しそうになった時は、私が腕を伸ばして助けたりもしたけど。
「……お前、まさかルフィを食っちまったんじゃねーだろうな……?」
「いや食べてないわよ?確かにあの世界のシステム的に、仮に能力者を食料として消費したらそのまま能力が継承されそうな気はするけど」*3
「と、トリコさん……流石に失礼ですよそういうの……」
「む……いやすまん。手が伸びるというと、どうしてもアイツを思い出しちまってな……」
「いえ、これに関しては手を伸ばす以外の方法で助ける手段も持ち合わせているはずなのに、敢えて手を物理的に伸ばす方法を取ったせんぱいが悪いので気にならさずとも大丈夫です」
「マシュが私に冷たいんだが???」
「なんでもかんでも甘やかしてくれるタイプじゃない、ってのは知ってるだろう君?」
「……左様でございますね……」
なお、咄嗟に(物理的に)腕を伸ばしたせいで、何故か私が責められる流れになったりしたのだが。……理不尽じゃねこの流れ?
まぁともかく、多少のトラブルはありつつも、私たちは積乱雲の中を比較的順調に進んでいたわけである。
……ゆえに、その順調さこそがある種のフラグだった、というか。
「……これ、私たちが探してるものであってるかなぁ?」
「定義としてはまぁ、間違いは無さそうだね。……ただ、今までの流れからするとちょっと怪しくもあるかな?」
「二人とも、現実逃避してる暇があるんならさっさと避けた方がいい」
「「はーい」」
突然酷くなった雨風、それから雷。
下手に登ろうとするとまず間違いなく振り落とされる悪天候の中、私たちの目の前に現れたのは一つの長大な影。
──それは、本当に長大な影であった。
影の途切れる場所が見えない……すなわち、どこまでも続いていると錯覚しそうになるほどの巨大さ。
それはその巨大さからしてみれば細く、されど逞しく。
まるで無限大を描くかのように、黒雲の中を貫通している。
そして、先端と思われる部分──恐らくは頭だろうと思われるそこには、威厳溢れる龍……東洋の龍とおぼしき顔がある。
一瞬、千剣山に住まうという蛇王龍の名が頭を過るが──かの龍はどちらかと言えば雷に縁深いとは言い辛いので除外。*4
となれば、あれがなんなのかは自ずと絞れてくる。
雷を操りし東洋の龍……の、姿をした
──真・龍王機、ないし応龍皇。*5
その姿を模したとおぼしき黒い影が、私たちの目の前にゆったりと漂っていたのだった。
「……まぁ、こいつが現れた途端雨風が強くなったんだから、こっちに喧嘩売ってるのはまず間違いないんだがな」
「真っ黒だから『黒雲』……ってのは、安直が過ぎるよねぇ」
というか、今まで出会った相手(?)がなんやなんやと敵対的ではなかったのに対し、目の前の影の応龍皇……影龍皇とでも呼ぶが、こいつからは敵意らしきものしか感じられない。
つまり、これは単なる敵だということであり──。
「とりあえず、戦闘態勢!マシュはライネス達の防御を!」
「お任せください!」
「オーケー!じゃあまぁ、行こうかトリコ君!」
「おっしゃ、昼食前の腹拵えと行くかぁ!」
その首がなにかを吐き出すために大きく仰け反ったのを確認して、私たちは対応するために動き出したのだった。
「とりあえず、行き掛けの駄賃だ!持ってけ──十連、釘パンチ!!」
「おお、トリコの十八番だ!」
滅茶苦茶ナチュラルに空中を駆け抜けて行った気がするんだけど、いつの間に『月歩』覚えたんで?*6
……などというツッコミもほどほどに、影龍皇の顔面に放たれたのはトリコ君お得意の釘パンチ。
二重の極み*7にも似た原理を持つこの技は、打撃の威力を内部に浸透させ破壊するという何気にえぐいもの。
相手の剛性に関わらずダメージを与えるため、固い相手ほど有効打になるのだが……。
「技のキャンセルはできたが……いまいち効いてるのかどうかわからねぇな」
「今なにかしたか?……みたいな感じに無造作に下がった首を戻したね」
恐らくは龍王豪雷槍とか応龍豪雷槍とかの『口から雷撃を吐き出す』攻撃を行うつもりだったのだろうが、顔を思いっきり殴り飛ばされたことでそれらはキャンセルされた。
……のだが、相手側にそれを気にするような素振りはない。
いや、寧ろ端からこちらのことを気にしていないのか?単に攻撃するべきと定められているからこそ、それを忠実にこなしているだけだと。
その証拠、とでも言わんばかりに、隙の大きい雷撃を止めた影龍皇は自身の鱗を分離させ、
「……もしかして、空想樹の種と同種の存在か?!」
「まぁ、そうなるねぇ。確か龍鱗機、だったかな?」
即席の軍隊として、それこそ山ほどの量の波状攻撃を仕掛けてくる。
しかも、波状攻撃と言いつつその規模は甚大。……鱗自体の大きさが並の機動兵器より巨大であるといえば、その攻撃がどれほど規格外であるかも知れようか。
……マシュ一人では対処が難しいかもしれない。
「どこで使い方を習った?」
「説明書を読んだんだよ……って、まさか私がこのやり取りをすることになるとは思わなかったなぁ!」
「お、お二方とも!反撃するのはいいのですが、できれば私の背中から出ないで頂けると!」
「無茶を言うなよマシュ!私に仲間を背後から撃つような趣味はないぞ!」
「ぴーか、ぴかぴーか?」*8
とかなんとか言っていたら、突然の爆発音。
見れば、ミニトリムマウをロケランに変化させたライネスが、龍鱗機を攻撃したらしい。
マシュの背後からひょいっ、と飛び出しての攻撃だったため、守りきれなくなるから止めてくれと彼女が抗議をしているが……どうにも本物の龍鱗機よりは弱そうだとはいえ、その数と巨大はやはり脅威。
ゆえにライネス達も手伝わないとじり貧になる、と判断した結果のようだ。
なお、なりきり郷ちゃんはぴったりマシュの背後にくっついている。
まかり間違って雷撃なんて受けた日には、彼女から伝播してなりきり郷全体が感電する……なんてことにもなりかねないので宜なるかな。
……とはいえ、今のところ拮抗しているように見えても、相手が応龍皇をモデルにしているのであれば問題は山積みだ。
「と、言うと?」
「鱗って言ってるでしょ?あのデカさからして鱗が何枚あるんだって話」
「……まさか、あれ全部攻撃してくるってのか?」
「まぁ、だからこそ超機人の長、だなんて呼ばれてるわけだし……」
先ほどライネスはこの鱗を『空想樹の種』と例えたが、ある意味それは正解に近い。
……そんなとこまでミクトランめいてなくていいのだが、ともあれ泣き言を言っている場合でもない。
そもそも影龍皇という敵がいるのに、そこから生み出される雑魚に手間取っていてはキリがない。
下手すると、それを好機と見て先ほどの雷撃発生準備に再度移行するかもしれないし。
「……仕方ない、ちょっと荒っぽく行くとしよう。幸い、これが相手なら余計な心配をする必要もないし」
「ん?なにするつもりだ?」
「──ある意味、君たちの真似事かな?」
「俺の真似事……?」
要するに、これの対処に時間を掛けすぎるとゲームオーバー、ということ。
なので私は、これらを一掃するための準備を始めることに。
……相手が影だからこそできる方法であり、他の形態──それこそ空想樹の種とかだとちょっと危うかったが、これなら問題はあるまい。
ゆえに、
ハンドベルに近い形をしたそれは、まるでガラス細工のように透き通った一品である。
……なお、これがなにか特別なアイテムであるというわけではなく、どちらかと言えばこれを使った『音』の方に意味がある、という形だ。
「ダンスパーティって知ってる?『灼眼のシャナ』って作品に出てくる宝具の一つなんだけど」*9
「ん?いやまぁ知って……まさか?」
「まぁ、あれそのものってわけじゃないんだけどね。──そういうのを、私は真似できるってだけ。──虚無式・開」
どんなものでも数に頼って無理矢理再現できる、というのが【星の欠片】の利点である……みたいな?
というわけで、概念構築。
対象は周囲の無機物。……その中でも黒いものに限定。
効果の仕様上どうしても範囲が大雑把になってしまうのがこの技の悪いところだが、今回は相手側がある程度絞りやすい姿をしてくれているので助かった。
……今から使うのは、
この姿になったからこそ使えるようになった、【星の欠片】としての力の一端。
対象となった存在の頭を楽器とし、音を反響させ連鎖的に爆破する無慈悲な一撃。その名を、
「──虚焦。……みぃんな、爆ぜちゃえ」
……爆ぜちゃえ、まで含めて詠唱である。
ポイントはメスガキが囁くように……ってなに言わすんじゃい()
なにを考えてたのか、当時の
などと思いつつ、手に持った鈴の音が響き、対象となったものが連鎖的に爆ぜていく。
鱗が全て爆ぜ、影龍皇が爆ぜ、黒雲が爆ぜ……って、あれ?
「……そうだな、雲も無機物だな、うん」
「あっはっはっはっ……ごめんみんなー!!」
突然足場がなくなって、私たちはみんな仲良く地面に向かって落下する羽目になったのでしたとさ。
……うん、敵は倒したから許して!マジで!!