なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「まったく、酷い目にあったよ、誰かさんのせいで」
「うぐっ」
ライネスからジト目で見られ、思わず言葉を詰まらせる私である。
……うん、トリコ君以外のみんなから同じような視線を向けられてるから、息が詰まりそうでやんの。
いやまぁ、わかるけどね?そういう視線を向けられる理由は。でもさー。
「あのまま戦ってたらじりじり持久戦で磨り減らされてたと思うんですけどー!」
「それはそうだが、だったらその状況を打開する行動を取る前にこっちに許可を取れと。別に言うほど喫緊の状況ってわけでもなかっただろう今さっき」
「ぬぐぅ……」
あのまま戦ってたら、いつまでもあそこで足止めを受けていた可能性が高い。
相手の影龍皇が『黒雲』の条件に見合うかも微妙だったため、とりあえず一掃することを選んだのはそうおかしな判断ではないはずだ。
……まぁ、影龍皇含む周囲の黒雲ごと吹っ飛んだのは流石に予想の範囲外だったわけだが。
確かに『虚焦』は範囲指定の難しい技法だが、だからといってなにもかも吹っ飛ぶわきゃないというか。じゃないとこんな場所で使えないというか。
……などとぶちぶち言う私を見かねてか、マシュが声を掛けてくる。
「え、ええとせんぱい?できれば先ほどの『虚焦』という技?についてお教え頂けるとありがたいのですが……」
「ああ、そこに関してはマシュに同意だね。さっきの技をどういう意図で使ったのか、是非ご教授願おうじゃないか」
「……むぅ」
なんだろうね、このどことなく漂う『素人質問で失礼ですが』感……。*1
ともあれ、確かに説明が必要と言うのも確かな話。
というわけで、突然の説明会in青空教室開幕、である。
「ぴっかぴかちゅー」*2
「やかましい。……とりあえず、さっき私が使った『虚焦』っていうのは、【星の欠片】である【虚無】を戦闘に使うことを前提とした流派……的なものの中の一つだね」
「流派?」
「使える人間ほとんどいないのに、って言いたげだけど……正確には、そういう風に纏めておいた方が管理が楽だから設定としてそうしておいた、ってだけの話だよ」
要するに、例のノートに書かれているものの一つ、ということである。
まぁ、【虚無】の中でも特殊な部類として想定していたため、ノートの内容を知るBBちゃん辺りでも把握しているかは謎だが。
「それはまた、どうしてだい?」
「純粋にノートの一番最後の方に書いてたってのが一つ、それからまず使えるものじゃないってのが一つかな」
「使えるものじゃない?」
「初期も初期に考えてたものだから、原理とかちゃんと考えてないってこと」
他に私が考えたもの──例えば『神断流』とかは、一応それが使えるようになる理屈みたいなものを考えながら組んである。
どっこい、さっきの『虚焦』を代表とする流派──通称『虚無式』は、起こる現象だけが決めてあってそこに至る可能性については考えていない。
言い換えると、ドラえもんのひみつ道具の如く荒唐無稽なのだ、『虚無式』の技というのは。
「……でも、先ほどは使えていましたよね?」
「そりゃまぁ、あくまでも
まぁ、だからこそ
……『逆憑依』は根本的にはなりきり、再現するもの。
新しく作り出すモノではないため、知らないモノについては再現もなにもないというか。
「なるほど、そういえば今の君は個別の存在として独立している、とも言っていたね」
「うむり。だからこそ
(……うむり?)
(何故今うむり……?)
久しぶりに接種する機会があったからですがなにか?*3
……冗談はともかく、今の私が再現度の話から半ば離れている、というのはキリアちゃんに出会った時に説明した通り。
そしてそれゆえ、以前のままなら原理があやふやであるがゆえに使えなかった『虚無式』も、
その辺りを前提として、改めて『虚焦』について解説すると。
「トリコ君には簡単に説明したけど、『虚焦』によって引き起こされる現象って言うのは『ダンスパーティ』のそれに近いんだよね」
「『ダンスパーティ』……『灼眼のシャナ』シリーズのキャラクター、"狩人"フリアグネが多数持つ宝具のうちの一つですね。元々は燐子を使って戦闘を行う『燐子使い』に対する対抗手段だったそうですが、作中では寧ろ『燐子使い』に近い側が活用する結果になっていた……」
「『燐子使い』云々については私も今知ったけど……うん、起きる現象に関してはそれが一番近いね」
──『ダンスパーティ』。
ハンドベル型の宝具であり、その効果は『その音色を聞いた燐子の爆破』。
正確には、鳴らした音に燐子を共鳴させ、存在の力の炎の鼓動を加速せしめ最後には限界を迎えさせる……みたいな感じらしいが、そこまで詳しい説明は必要ないのでここでは割愛。
必要なのは、『虚焦』との類似性のみである。
「『虚焦』も原理としては似たようなものなんだよ。まぁ、正確にはあまねく全てに含まれる【
「なるほど、固有振動数を活用するのか」
「せいかーい」
物体には、固有振動数と呼ばれるものが存在する。
ものが振動する際、自然と維持される振動数……とでも言うか。
分かりやすく言えばその物体が振動した時、一番振動しやすい振動数……みたいな感じか。
これは、ギターの弦を弾いた時に同じ音がなる理由であったりもする。
音と振動は密接な関係があり、特定の音が出るというのはすなわち
ともかく、この固有振動数というのはあらゆる物体に存在している。
……そのせいでと言うと語弊があるが、問題になるのが『共振』という現象だ。
この固有振動数というのは、物質が振動する場合自然とその振動数になる、というもの。
この『振動する場合』というのが曲者で、音が振動である以上
音を鳴らした時、異様にそれが残り続ける経験がないだろうか?
あれは鳴らした音の振動数に近い固有振動数を持つ物体が、つられて震えているがゆえに起きる現象なのだ。
そして、そのせいで思わぬ騒音被害に繋がることもあるのだが……その辺りの話は割愛。
ここでは、『共振』がもたらすもう一つの弊害について注目していく。
「それが振動の増幅とそれによる破壊だね。固有振動数に該当する振動を外部から加えられ続けると、振動は加算・増幅され、やがて物質が耐えられないほどの振動に達し──」
「ついには壊れる、と。ガラスコップを声だけで割る、とかそういうやつだね」
洗濯機が大きな音でガタゴトと揺れてうるさい、みたいなことを経験したことはないだろうか?
あれも共振による被害の一つ。洗濯機の発する振動が加算・増幅された結果洗濯機そのものが動き出してしまうほどのエネルギーを得てしまった、というわけだ。
この共振という現象、元の振動が小さくともそれが継続的に外部から供給され続けている場合、振動の合成が発生し最終的に『その振動では絶対に動かないもの』も動かせるくらいのエネルギーになってしまう。
七人掛かりで押してもびくともしない釣り鐘が、固有振動数を理解した人間の指押し一つで動いた……みたいな実験もある。
振動、というものが持つ力は例え小さくとも侮るべきではない、というのがよく分かるだろう。
で、それを踏まえた上で『虚焦』の話に戻ると。
これは、相手に含まれる【星の欠片】に対して固有振動数による共振、さらにはそれによる振動の過大化と破壊を起こすものである。
……あるのだが、これをそのまま鵜呑みにするととんでもないことになる。
「とんでもないこと?」
「【星の欠片】ってあらゆるものに含まれるわけじゃない?例外はないっていうか。……ということは、なにも考えずに共振を起こすと、周囲のものが全部塵になってもおかしくないってことに……」
「ひぇっ」
そう、共振というのは物質の持つ固有振動数を利用したもの。
そして【星の欠片】はなんにでも含まれるもの……もし仮に【星の欠片】の持つ固有振動数の数値を正確に理解できた場合、文字通り一切の例外なく周囲の全てを焦土にできてしまう、ということになるのだ。
それも、術者本人も含めての壮大な自爆として。
「だから、固有振動数と言いつつ別種の条件付けをして使うものってわけ。さっきは『黒雲』……というよりは黒い無機物、って感じで対象指定してたんだけど」
まぁ、実際はもう少し絞った範囲(じゃないと、身に付けている黒いものも合わせて爆ぜる)だったのだが……ともかく、単純な【星の欠片】単体指定ではなく、条件付けの上での使用でないと危なっかしいのはまず間違いあるまい。
……その癖、明確に指定しすぎると【星の欠片】を対象とするという部分を逸脱してしまい、効果が発揮できなくなったりするのだから困り者である。一対多においては結構使い勝手いいんだけどね。
「……つまり?」
「黒雲まで含めた覚えはなかったってこと。……ってことは必然的に答えがでてくるでしょ?」
「影龍皇はそもそも黒雲だった、ということか」
「あたりー」
これまでの話を総合すると、見えてくる答え。
それは、影龍皇は影とかではなく黒雲が姿を変えたもの、すなわちあそこにあったのは徹頭徹尾黒雲だけだった、ということ。
……もしかしたらトリコ君側の話に引っ張られて、黒雲状の生き物だったりしたのかもしれない。
そんなことを語れば、「だったら食ってみたかったなぁ、あいつ」などと呑気なことを彼は言っていたのだった。