なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「一般通過ボス、ねぇ。……つまり、最初から食うとかそういうのは無理だった、ってことか?」
「まぁ、冷静に考えるとそうなるねぇ」
あとに残るものがなにもない以上、食べるとかそういうのは論外である。
……以前サンマ鬼を赤城さんと沈めた時にも、似たようなやり取りがあったような?
あれも時期的には、ハロウィン直前って感じだったはずだが。
ともかく、相手が一般通過中ボスだったと考えると、この場所にはもうなにもないかと思われる。
一応、晴れ渡った空の向こうにトリコ君達が探す……ベジタブルスカイ?だかなんだかが存在するという可能性はゼロではないが……。
「……いや、
「──下手をすると『空の上に野菜の天国がある』という情報を知る存在を好んで引き寄せるタイプ……というやつだったのかもしれないね、あれは」
「ん?どういうことだ?」
「空にあるという野菜達も、全て単なる影だったのかも知れないということさ」
「……なるほど、蟲惑魔か!」
「そーいうこと」
……いきなりなにを言い出してるのだろうか、この二人は。
ライネスの言葉になにかを理解したのか、大きな声を出しながら納得したように頷くトリコ君に、思わず困惑してしまう私である。
というか、蟲惑魔?*1もしかして、さっきの影龍皇のことを言っているのだろうか?
だとすれば、あの姿は実は葉っぱみたいなものだったと言い出すのでは──。
「……あー、なるほど。確かに、方向性としてはそれだったのかも」
「なんだ、お前といいアイツといい、なにを理解したって言うんだ?」
「メイトリックスさん、皆さんはあれが
「擬態?」
少し考えたことで、さっきの話がなにを意味していたのかを悟る。
……トリコ世界の生き物の中には、こちらの世界の生き物の特徴を、殊更に強調したような存在が数多く生息している。
その中でも特に脅威と言えるのが、なにかに擬態するもの──獲物を誘き寄せるために、なにかしらの
紙に擬態するペーパークロコダイル、ブドウの木に擬態する舞踏ぶどう。
陸上にいる時限定だが、そこにある様々なモノに擬態して獲物を待つメガオクトパスなどなど、嘘を吐くことで獲物を捕らえる捕食者というのはそう少なくない。
それらの捕食者と、さっきの影龍皇は同じタイプの生き物だったのではないか?……と二人は話していたのだ。
恐らく、実際にあの積乱雲を抜けた際には野菜の楽園──雲の上の菜園が広がっていたのだろう。
それを実際に見たものがいたからこそ、こうしてトリコ君がここに赴くきっかけになったと。
……同時に、そのような噂を流したのもあの影龍皇だった、という可能性があるわけで。
「言い方を変えると、
「つまり、アイツは家畜みたいなもんだったってことか……やっぱり、適切な処置をしてたら食えたんじゃねぇか?」
「まぁ、その可能性は少なくないかもね」
「マジか!?クソー!!」
……【兆し】は周囲の想念を、祈りや夢と呼ばれるようなものを集めることで成長する。
となれば、その中心となった願いが彼のものだった場合、その意向を強く受けていた可能性は少なくない。
端的に言えば、あの影龍皇は特殊調理食材*2だった、ということになるわけだが……どっちにしろ、試す機会が再度訪れるかはわからな……い?
思わず、空を見上げる。
私の突然の行動に、周囲は不思議そうな顔をしていたが……すぐに、その行動がなにを意味しているものなのかを実感することとなった。
先ほどまで、遮るものもなにもなく晴れ渡っていた空。
──そこに、ポツリと浮かんだ一つの影。
それは天高くに座しており、ゆえにそれがなんなのかを目視するのは至難を極めたが……すぐに、一々視認しなくともそれがなんだったのかを知る羽目になる。
「……なっ?!」
「まさかとは思うが……
「でしょうね……どうやら向こうさん、素直にここから帰す気はないみたいだ」
周囲のみんなが、驚いたように声をあげる。
ほんの小さな黒点だったそれは、みるみるうちに周囲へと広がっていく。
もくもくと、ギラギラと、ゴロゴロと。
様々な音を立てながら、立体的に・瞬間的にそれは大きくなって──再び、長大な黒雲を形成した。
そうして時を置かず、再び雨と風・雷が私たちを襲い始める。
それはまるで、初めてこのフロアに私たちが立ち入った時のように。
そしてそれはつまり、再度あの影龍皇がこちらの挑戦を待っている、ということに他ならず……。
「……ってことは、もう一回チャンスがあるってことか?!アイツを食べるための!?」
「あーうん、そういうことでいいんじゃないカナー?」
「よっしゃあ!!行こうぜ小松ー!!」
「わっちょっ、トリコさーん!!?」
ゆえにトリコ君だけが、現状を喜ぶように大声をあげていたのだった。
「おいキーア、これはどういうことだい?」
「どういうこと、っていうのは?」
「惚けるなよ。さっきの説明通りだとすると、取り零しなんて発生する余地は一つもなかっただろうに」
さて、大喜びで小松君を連れて再戦の準備をしているトリコ君を他所に、眉をひくひくとさせながらライネスがこちらに近付いて来る。
内容は先ほど私が話していたこと……『虚焦』の効果について。
先の説明に間違いがないのなら、こうして再度影龍皇……もとい黒雲が現れるなんてことは無いはずなのでは、という確認のため声を掛けてきたということなのだろう。
とはいえ、
「始めから
「……主体じゃなかった、というと」
「雲を発生させる装置的なものの方に【兆し】が関与してたのなら、こうして時間を置いたら復活する……ってのもわからなくはないってこと」
この場合の装置とは、別にドラえもんの道具とかでもいいし、このフロアに仕掛けられたシステムそのものでもいい。
とにかく、あくまでも私があの時『虚焦』の対象にしていたのは『黒い無機物、かつあの鱗に関連するもの』だけ。
なので、その条件から外れたものが根本理由だったのであれば、『虚焦』による影響が終わったあとに復活する可能性は決してゼロではない。ないのだが……。
「……その言い種だと、なんでこうなったのかについて予測が付いていると?」
「まぁ、確証はないけどね。……とりあえず、もう一回同じようにやってみてからが本番、ってことになるんだけど……」
「なるんだけど?」
「……もし予測が正解だったら、って思うとその先が辛い……」
「はぁ?」
思わず項垂れる私に、ライネスがわけがわからん、とばかりに声をあげる。
……いや、状況をよくよく見てみると、色々と説明が噛み合ってしまうのだ。
実際、全部終わったあとに起こることを予想すると、彼らが適任の可能性は更に高くなるし。
ただそうだとすると、必然的に
……そりゃまぁ、心労とかが響いてくるのも仕方がないというか。
そんな風にうにゃうにゃ言ってる私をライネスは怪訝そうに眺めていたが……やがてその脳内で私が断片的に漏らした情報が結び付いたのか、顔をサッと青褪めさせたのだった。
「えっ、まさかそういう……」
「その可能性がとても高いってわけ。……これから試した結果がどうなるか、次第ってとこもあるんだけど」
「うわぁ」
問題を共有できたことににっこりと笑う私と、こんな問題なら共有したくなかった……とばかりに肩を落とすライネス。
互いに苦笑いを浮かべながら、改めて空に視線を移す。
そこには、もはや先ほどまでとなんら変わらぬ威力を取り戻した雷鳴り響く黒雲が、こちらの挑戦を今か今かと待ち構えていたのだった──。