なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……確かに、ネオ・グランゾンのワームスマッシャーがその捕捉数を伸ばしていたのなら、あの数の鱗を一人で受け持つことも不可能ではない……か」
『その通り。突然念話で呼び出された時はなにごとかと思いましたが……なるほど、完成したネオ・グランゾンの肩慣らしには丁度よい相手だと言えるでしょう』
ワームホールを潜ってこの場に転移してきたシュウさんは、黒雲の中に鎮座する影龍皇を前に不敵な笑みを溢す。
はからずもスーパーなロボット大戦的展開になってしまったが……ともあれ、彼が来てくれたのなら数の問題はある程度解決できるとみていいだろう。
前回も解説した通り、彼の扱う機動兵器『ネオ・グランゾン』の武装の一つ・ワームスマッシャーは、グランゾンの時点でも七万近くの捕捉数を誇る対多数兵装。
それが変化したことで順当に捕捉数を増やしたのなら、その予測される捕捉数はおよそ五十億。
数値の上では無限には程遠いが、物理的な話をすればほぼ
……無限には程遠いのに何故?みたいなツッコミが飛んできた気がするので一応説明すると。
基本、数を数えられないほどの無数、というものを簡潔に表現する際『天文学的な』という言葉が使われるが、これには明確な基準というものはない。*1
現在話題の中心になっているものに対し、それが語られる中で一般的に頻出する数字より大きく上回るような状態……みたいな時に使われるというような感じであり、ゆえに『億』でも『兆』でもさらにその上の単位でも、語る内容によっては『天文学的な』数値になるわけだ。
さて、それを踏まえて話を戻すと。
主に魚類の鱗というのは、基本的に幼魚の時から成魚になるまで、その総数に変化はないのだという。*2
その本質が骨であると述べたように、成長に連れて鱗も大きくなるのだ。
それによって覆う範囲が広がり、同時に体表の保護も確実に行えるようになる……と。
また、蛇を代表とする爬虫類達の鱗が表皮の変化である、と先ほど述べたが……総数の部分では魚と変わらないそうで、生まれた時から成長しきるまで、鱗の大きさは変われどその総数は変化しないとのこと。
……つまり、それらと共通する特徴を持つ龍の鱗というのも、生まれてから育ちきるまで、その総数に変化はないということになるわけだ。
さらに、体の巨体さと鱗の総数に相関はなく、あくまで決まった数値である……と考えた時、同じような体型である『蛇』とその鱗の総数はさほど変わらない可能性が高い、ということにもなる。
参考までにニシキヘビ類の体鱗列数*3は六十から八十ほど、体長は百から百五十センチメートル。
それを計算すると大体全体の鱗の数は二千から四千枚ほど、くらいになる。
これは腹や顎などの部分を除いた鱗の数を大まかに数えたモノなので、実際にはもう少し多いだろう。
また、相手が龍という特殊な生き物であること・およびその長さを考慮して、幾つか色目を付けて……影龍皇の鱗の総数は十万ほど、と仮定する。
……そう、多く見積もって十万である。
一枚一枚が並みの機動兵器より大きな鱗、ともなれば例え長大な体を持とうとも、その総数はそこまで増えはしない。
とはいえ、元々爬虫類の鱗が多くて四桁台、魚の場合だと三桁どころか二桁になることもあると考えれば、影龍皇の鱗の数は遥かに多い──天文学的、と言い換えられなくもない。
あくまでも『言い換えられなくもない』と言うのがポイントで、これを踏まえた上でネオ・グランゾンの捕捉数を見てみるとどうだろう。
……うん、こちらはあからさまに天文学的、と言えてしまうことがわかるはずだ。
二桁だ三桁だ四桁だ、などと競っているところに持ち出された六桁、そしてそれをさらに越える九桁の数値。
そりゃまぁ、『こんなの余裕だよ』と言ってしまっても、それを傲慢だと責めることはできないだろう。
『解説ありがとうございます、と言っておくと致しましょう。……彼我の桁数が大幅に違う以上、例え相手側が無尽蔵に鱗を運用したところで焼け石に水。私のグランゾンの前ではまさに赤子の如し、というわけです』
「ゆえに鱗の処理は気にする必要はないってわけ。ということは──」
「なるほど、本体へのノッキングが届くってわけか!」
「そういうこと!そのあとの処理に関しては、小松君の勘に頼る形になるけど」
そして、邪魔な鱗の処理の道筋が見えたのなら、本体をどうにかする道筋だって見えてくる。
倒すのではなく動きを止める、というだけならば私一人でどうにかできる。
どこぞのノッキングマスター*4じゃないが、指一つ動かせないように抑え込んでみせようじゃないか。
……そうして前処理の目処が立ったのならば、次に仕事をするのは料理人──小松君である。
生憎、ここまでやっても雨風・雷に関してはそのままとなるだろうが……本体の抵抗に比べれば、そんなものは児戯のようなもの。
そもそもマシュが手隙であるのだから彼女に守って貰えばいいし、普通の調理器具では歯が立たないというのならトリコ君に包丁代わりになって貰えばいい。
「熱を冷ましたい、というのなら私のミニトリムマウを出そうじゃないか」
「水銀で熱を冷ます、というのは本来意味がわからないのですが……ライネスさんの月霊髄液ならば、その辺りを気にする必要性はあまりないのかもしれませんね……」*5
「ぴっか、ぴかっちゅー」*6
他の面々も、己のできることで貢献していくと宣言する。
……つまり、今小松君の近くにいるのは、すべて彼が扱う調理器具のようなものになった、ということになるわけで。
「……わかりました!皆さん、手を貸してください!」
「「「「「「了解!」」」」」」
そこまでお膳立てされて、震え立たぬ料理人もいまい。
覚悟を決めた小松君は、みんなを見渡したのちに力を貸して欲しい、と力強く告げたのだった。
『ではまず、抑え込むとしましょうか。──『ワームスマッシャー』!!』
「じゃあこっちも、久しぶりに──天よ、我が手のままに地に堕せ!【破天・戒】!!」
こちらの攻勢を予知したのか、影龍皇から飛び出してくる龍鱗機達。
そのまま放置すれば先ほどの二の舞になるため、私とシュウさんは続けて行動する。
相手の総数より遥かに多いビームによる飽和攻撃に、そうして鱗の抜けた本体を抑えるための天からの重圧。
……シャナと戦う羽目になったあの時以来の【破天】、その派生である【破天・戒】はその名の通り相手を戒めるもの。
天を崩して相手を束縛する檻の如く扱うそれは、その規模ゆえに今の私でなければ扱いきれない技でもある。
「なるほど、周囲の大気ごと束縛のために利用するから、それによって天候の方もある程度制御できるのか!」
「あくまでついでに、だから全体的に操作できるわけじゃないけどね。でもさっきよりは雨風もマシになったでしょ?」
「──はいせんぱい!これなら十二分に、抑えきれます!【
そうして弱まった雨風を、マシュが宝具を持って押し留める。
ランクというか種類と言うかが先ほどより下がってしまっているのは……多分、さっきのがわりと頑張り過ぎていたからか。
そこら辺を見越していたわけではないが、結果的には彼女の負担を減らすことができたとポジティブに考えよう。
「小松!こっからどうする!」
「ひとまず、この龍の頭まで連れていってください!本質が雲であるのなら、他の部分をどうにかしても意味はないと思いますので!」
「了解!みんな、しっかりついてこいよ!」
「オーケー、じゃあメイトリックス君、よろしく頼むよ」
「ああ、任された」
そして、互いに肩へと二人──それぞれ小松君とライネス──を乗せたトリコ君・メイトリックス氏が、影龍皇の体を駆け上って行く。
トリコ君はさすがの身体スペックだが、それに追い縋るメイトリックス氏も中々の脚力だと言えるだろう。
「さすがは、筋肉もりもりのマッチョマンってわけだね」
『そうですね、あの様子ならば上りきる分には問題ないでしょう』
問題があるとすれば、その後ということですか。
……そう呟くシュウさんの視線が、こちらに向いていることをなんとなく察する。
ネオ・グランゾンの中にいるのにそれを感じられるのは、それだけ彼が現状を把握しているからなのだろうか。
『先ほどの念話の際にも窺いましたが……本当なのですか?』
「……まぁ、そう考えるしかないからねぇ」
状況が揃いすぎている、ともいう。
……それらの情報を纏めると、先ほど彼に念話で告げたことが真実だ、と判断せざるを得ないというか。
私がそう告げると、彼はそれきり黙り込み、状況を静観していたのだった。
無論、影龍皇の足掻きは軽く踏み潰しつつ、だが。
──そうして数分後、影龍皇の調理が終わった、という報が私たちの元に届くことになったのだった。