なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「おおーっ、これがアイツから出来上がった料理か!」
「まさかこんなことになるとは思ってなかったですけどね……」
はてさて、影龍皇を倒してからしばらく。
再度相手が現れたりしないかを警戒していた私とシュウさんだったが、結局再び影龍皇が現れるようなことはなく。
黒雲が消え去り、すっかり晴れ渡ってしまったフロアの中心部では、小松君によって調理された影龍皇の頭が、その実食を今か今かと待ち構えていたのであった。
……え?なんか説明の際の表現が変だった?
いやいや、説明に関してはこれであってるんですよ。なんでかというとね……。
「……まさか、ハロウィンのかぼちゃみたいなことになるとは」
「色々と衝撃的、というべきなのでしょうかね」
そう、影龍皇は小松君による下処理を終えたことで撃破判定が出たらしく、それ以降は彼が調理をしていた部分──頭以外の部位が全て散り散りになって消えてしまっていた。
……いたのだが、残った頭の方が問題だった。
どうやらこれ、扱いとしては一種の『かご』のようなものになっているらしく……。
「まさかアイツが
「いや、ツッコミどころしかないんだが?」
「お、落ち着いてくださいライネスさん……」
「……これは食ってもいいものなのか……?」
「大丈夫だと思いますよ、危険な気配は感じませんし」
「ぴっか、ぴかっちゅぴ」*1
「……いや、そういう意味じゃあないと思うよそれ」*2
頭蓋骨に当たる部分を切って開けたところ、中にはさまざまな野菜が自生していた、というわけなのだった。
……端的に言うと影龍皇の中身が家庭菜園になっていた、みたいな?
正直自分で言ってて「なに言ってるんだこいつ」感が凄いが、実際そうとしか言えないのだから仕方ない。
ついでに言うと、骨に当たる部分以外は可食部らしく、こっちは野菜なのに肉の味がする……みたいな不思議材質になっているそうで。
それを取り零さず全て料理に使おう……と画策した結果、最初に例えたようにハロウィンのカボチャみたく目と口・鼻の部分がくり貫かれたような見た目になった……と。
……うん、なんか強引にハロウィンに合わせてきたなぁというか?
いやまぁ、これをやったのは小松君なので、合わせてきたのはあくまで彼の方、ということになるわけなのだが。
「で、過程はともかく出来上がったのがこれ、と」
「はい!ここまでたくさん野菜があるなら、やっぱりこうするのが一番じゃないかと!」
「黒野菜たっぷりのあったか鍋、ってところか?いやー、滅茶苦茶うまそうだな!」
……ともかく、影龍皇を調理した結果出来上がったのは、豊富な野菜と影龍皇の肉──実際には植物性──を団子にしたものを放り込んで、贅沢に煮込んだ鍋料理。
見た目が全て黒いため、トリコ君の言うように黒野菜……黒鍋料理、とでも呼ぶべきものとなったそれは、見た目的にはあんまり美味しそうには思えなかったり。
「えー!?」
「いや、そりゃそうだろう。黒い食材、というのは確かに幾つか種類があるが……こんなに真っ黒になるほど突っ込む、なんてこと早々ないだろうに」
「……人間の食い物に見えん」
「あっはっはっはっ……元が黒いせいで、色味を付けようとしても全部黒に呑まれちゃうんですよね……」
その辺りは調理人である小松君も気にしていた様子。*3
……確かに、黒い食材というのは少なからず存在はしている。茄子やひじき、海苔なんかはその代表格だといえるだろう。
だがしかし、それらが料理に締める割合は少なかったりするのがほとんど。
一応、茄子のおひたしだとかのり弁だとか、黒っぽい料理も無くはないが……それらも、よく見れば黒一色だけ、ということはない。
茄子は外側は黒くても中身はそうではないし、のり弁は海苔単体ではなく揚げ物などを上に乗せるので色味は多くなる。
それらを踏まえて、この鍋料理を見てみよう。
黒一色の野菜達は切り分けた中身も黒く、肉団子も同じように真っ黒。
なんなら滲み出る出汁すら真っ黒い有り様で、境目が辛うじて認識できなければ最早単なる黒い塊、と誤認されてもおかしくない状態だといえなくもなかった。
一応、世の中には黒い料理──イカスミパスタのようなものもあるわけだが、基本的には黒いものが食欲を増進させる、という風には思われないだろう。
なので、小松君も色味を変えようとあれこれ工夫をしていたみたいだが……出汁まで黒となると、最早変化のさせようがないというか。
基本的に黒に勝てる色なんて存在しないからね、仕方ないね。*4
……ともかく。
見た目がどうあれ、恐らく美味しい鍋になっていることは間違いないだろう。
そういう意味では、是非とも食べてみたい気分はあるのだが……。
「……え、ええと。どうしましたキーアさん?」
「ごめんね、ちょっと覚悟をさせて」
「はい?」
特に疑問を挟むこともなく、こちらにお椀を渡してくれた小松君には悪いのだけれど……これをそのまま食べることには、少々精神的な忌避感があるというか。
──当たり前である。
ゆえに、迂闊に口に入れていいものか悩んでしまうのだ。
「んー?食わねーのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……こう、ちょっと箸が伸び悩むというか」
「あー……確かにこんだけ真っ黒だとな。でも小松の料理の腕に間違いはねーから、安心して口に入れていいと思うぜ」
そんな私を見て、訝しげに首を捻るトリコ君。
こちらを気にせず料理に口を付けようとしていた、シュウさん以外の面々もこうして悩む私の様子を見て、その箸を止めてしまっている。
……こうなってくると、こちらとしても箸を付けないわけにもいくまい。
こちらが料理の黒さに怖じ気づいている、とトリコ君が勘違いしている間に、さっさと片付けてしまうのがベスト……ということになるというか。
(ええい、南無三!)
意を決し、黒い料理の中の具材の一つ──恐らくは白菜だと思われるものを箸で取り、口に運ぶ。
──そして、私は若干の後悔を滲ませることになったのだった。
いや、不味いとか苦いとか酸っぱいとか、そういうマイナス面の話ではなく。
「……美味しい……」
「だろ?小松の飯は滅茶苦茶うめーんだよ」
ばんばん、とこちらの背中を叩いてくるトリコ君に辟易しつつ、他の食材にも箸を伸ばす。
黒が全ての色を飲み込む……と先ほど述べたと思うが、この野菜達もその性質を一部受け継いでいる、ということになるのだろう。
周囲の具材が持つ旨味を全て呑み込んだかのように、深く複雑な味わいをあらゆる食材が持っている……とでも言うべきか。
それでいて肉団子であればしっかりと肉の味が、白菜なら白菜・大根なら大根の味もそこに含まれていて、それらは確かに他の味に負けずに主張しているというのだから、なんとも。
黒はあらゆる色を混ぜた先に現れるものであるが、この鍋に関してはあらゆる旨味を集めたもの、ということになるのかもしれない。
一度食べたら病み付きになる、まさしく至高の一品と呼ぶべき料理であった。
……まぁ、
「……なんか、あんまり嬉しそうじゃねぇな?」
「いやまぁ、美味しいのは美味しいんだよ?……だからこそ、こっちの懸念が本当だった、ってことがほぼ確定になったのが頭が痛くてね……」
「懸念?」
「……トリコ君に関しては微妙だけど。でもまぁ、こっちは確定だよね」
思えば、問題としては最初から一貫しているというか。
──あの予言は言及している部分が少なく、こちらが探しているものについて意図的にぼかしているようですらあった。
それは恐らく、相手との遭遇の際に変に警戒しないように、みたいなお節介の面もあったのだろう。
……正直逆効果のような気がひしひしとしているが、予言にそんなことを言っても仕方あるまい。
ここで重要なのは、ただ一つ。
そもそも、
そしてその中でも──、
「【鏡像】を料理にしてしまえる、というその特異性。──小松君は【顕象】で、私たちの探している『黒雲』その人だ」
「はい?!」
小松君の特異性は、群を抜く。
……探していた相手は機動兵器ではなく、