なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「え?……え?」
「おや、マシュさんがオーバーフローしてしまったようです。流石に突拍子もなさすぎましたか」
「その言い種だと……君は今のキーアの世迷い言を予め聞いていた、という事でいいのかな?」
「ええまぁ。こちらに呼び出された際、念話で詳しいことは幾つか」
はてさて、小松君こそ私たちの探していた相手だ、と告げた結果巻き起こったのは『んなアホな』みたいな空気の蔓延。
……まぁ確かに?私もこれを自分が言ったのではなく他人が言っていたのであれば、『マジかこいつ』みたいな顔になっていたのはほぼ間違いないわけだが。
何故そうなるのか、といえば──やはり、トリコ君の方ではなく小松君の方を指定した、という部分になるだろう。
この二人を並べて『どっちが特別?』と問われれば、大半の人が主人公であるトリコ君の方を選ぶはずだ。
──まぁ、だからこそ、という面も無くはないのだが。
「……突然のことに驚いてしまいましたが、確かにお二人の内どちらが特別か、という問いには小松さんの方を挙げるべき、というのは私にも理解できます」
「あー、食運だったか?食に愛される才能、みたいな話だったと思うけど」
「作中最高峰の食運の持ち主は別だけど、小松君の食運も普通にヤバいラインだからね」*1
二人をよくよく見比べた時、よりどちらが重要なのか……という点において、『トリコ』という作品がなにを目的としたものなのか、という部分が重要視されることを考えると、自ずとどちらが特別なのだろう、という問いの答えは収束する。
……確かに、トリコ君は戦闘力の面で言えばかなりのもの。
インフレを繰り返して行くその姿は、大インフレの先輩たるドラゴンボールのそれを思い起こさせるほどであり、ゆえにこそ彼が特別であると認知することは間違いではない。
……ないのだが。
そこで問題となるのが『インフレしていく』作品である、という点。
彼は確かに強者であるが、同時に彼より強い存在が全くいない、ということではないのだ。
インフレして行く作品というのは、基本的にその物語を進めるための要素──イベントとして、自身より強い誰かをライバル役に置く、ということが繰り返されるものである。
先に例に上げたドラゴンボールで言うのなら、ピッコロ大魔王に始まりベジータやフリーザ、セルや魔神ブウのような存在達が、その時点での悟空より強い存在として現れるわけだ。
悟空はそんな相手に勝つために、自身の戦闘力を上げていく……その繰り返しの中で、比類するものなき強者になっていくわけである。
この形式の作品の問題点は、物語を続けるにあたって『新しい敵』を用意し続けなければならない、という部分。
それも、基本的には小細工には走らず、純粋にこちらの戦力ではどうしようもない相手を供給し続けなければならないという点である。
強い主人公の例としてよく挙げられる悟空だが、その実最強系の主人公達とは微妙に文脈が違うのだ。
……まぁ、見方を変えれば『格下扱いされても最後には勝つ』という属性を持っていると判断することもできるため、クロスオーバー作品などで最強系主人公とぶつけても最終的にはいい勝負をできる可能性を付与されている、と見なすこともできるわけだが。*2
そんな悟空と同じタイプなのがトリコ君、ということになる。
……もっと細かく言えばジャンプ系主人公は大抵この『成長型』の主人公であるのだが、それゆえ実のところ『本人の特別性』においてはさほど重視されない、みたいな部分も多くなるのだ。
いや、ツッコミが飛んでくるのはわかる。
悟空は微妙だが、トリコ君や一護君、ナルト君のように血筋が特別……みたいなキャラもジャンプ主人公には多い、ということは。
ただ、その特別というのが
何故かと言えば、その属性は主人公が持つものというよりは、主人公が守る相手・ないし仕えるべき相手に付随することの多い属性であるがゆえ。
言い換えると、それはヒロイン属性に近いものになるのである。*4
一昔前の『守られるお姫様』的属性、とも言い換えられるかもしれない。
何故そうなるのかと言えば、そういった属性は『代えの利かない』ものであるがゆえ。
例えば『滅びた王国の唯一の血筋』みたいな出自を持つ人間がいた場合、そのキャラを中心に据えるとどうなるのか。
……答えは、その人物の死が同時に作品の死、いわばゲームオーバーに繋がってしまうのだ。
何度もやり直せるゲーム作品ならいざ知らず、
敗走まではいけても、そこから死亡するまではやれない……みたいな感じというか。
プロットアーマーで『死なない』と紐付けられているようなもの、とも言えるかもしれない。
自身の死を伴わない敗走が下らない、などと言うつもりはないが……同時に、読者に『なにかしらがあって勝つんでしょ』と思わせてしまう危険性があることも同時に覚えて置かなければならない、とでも言うべきか。
ともかく、『特別な属性』持ちを主人公に据えるのは意外と難しい、というのは覚えておくべきだろう。
無論、それらの属性を持った主人公をきちんと動かしている作者もいるのは確かだが……負けて成長するみたいなタイプとは相性が悪い、というのも確かなのだし。*6
……話を戻して、これらの情報を『トリコ』という作品に当てはめてみると。
確かにトリコ君はわりと特別な出自なのだが、実のところ無二というわけではなく
一応、持っているグルメ細胞の悪魔が特殊であるような描写はあったものの……あれはどちらかと言えば成長フラグの方であり、なければないで成長のきっかけを掴めないので特別と言い張るのは微妙なところ。
作中の最終話においては宇宙へ飛び出し、自分よりもさらに強大な相手がまだまだ存在する、と示唆していたことから……戦力的な頂点はまだまだ先、と見なすこともできる。
……つまり、トリコ君はまだまだ成長期、目指す頂きはまだ彼方であるわけだ。
それに対して小松君の方だが、こちらは確かに彼より上の食運を持つ存在も示唆されてはいたものの、そちらが一応美食家であるのに対して彼は料理人なので種別が違うともいえる。
さらに、彼自身の調理の腕もかなりのもので、食運は成長することはない……と考えれば、その属性は『特別な出自』に該当するとも考えられる。
なんなら、先ほどの『ヒロイン属性』云々の話からしてみても、作者や読者からあるしゅのヒロイン、として定義されていた彼は見事に当てはまっていると言えるだろう。
──つまり。二人を並べた時、あくまで戦闘職──極端なことを言えば他の誰かに変えても一応回せなくもないトリコ君と、専門職──特殊調理食材など、彼でなければどうにもできないものが明確に存在する小松君とでは、重要性の高低は火を見るより明らか、ということになるのだ。
……例えば、トリコ君じゃないと倒せない敵でも入れば、話は違ったのだろうけど。
「……一応、料理人というのも本来なら代えが利く存在だと思うのだけど?」
「そこは『食運持ちの料理人』という存在として見ると、ってことかな。……同じ文脈で『食運持ちの美食家』としてゾンゲ君が候補に挙がりかねないのはノイズだけど」
戦闘職なのに戦闘できないのはどうなの?……みたいな。
まぁともかく、二人の内どちらを特別だと選出するのか、と問われれば私は小松君を推す、というのは間違いない。
……ただ、これだと彼が特別だという理由にしかならず、彼が【顕象】であるという理由にはならないように思えてくるのだが……。
「そこで『逆憑依』の性質が話に絡んでくるわけだ」
「……なるほど。作中トップクラスの食運を再現しようとすると、生半可な『逆憑依』の再現度では足りない、ということになってしまうのですね」
「そういうこと。そのレベルでなりきれる人、なんて早々発掘できるもんじゃないからね」
──そこで、特殊技能である『食運』の再現に、生半可な『逆憑依』では耐えられないだろうというのが理由に上がってくるわけである。
これは、影龍皇が本来
半分生身とはいえ、本来の影龍皇──応龍皇は機械生命体。
ついでに言えば、野菜とはまっったく関係のない存在である。
さらに、さっき私が消し飛ばした時の状況からもわかる通り、影龍皇の構成材質は黒雲──水蒸気と、せいぜい静電気である。
要するに、それを調理した結果が野菜鍋、というのがどう考えてもおかしいのだ。
そのおかしな状況を成立させるのに『食運』が必要だと考えれば、この状況を引き起こせるだけの『食運』持ちの小松君が【顕象】ではない、などとは思えないということになるわけである。
「なるほど、よくわかりました。……それで、僕が仮に【顕象】だとして、そこからどうなるのでしょう?」
「……今日の夕食は
「はい?」
「ハロウィン仕立て、ってことかな。……あっ、てことは他のみんなもさっきみたいに包丁代わり、ってことカナー?」
「……ええと、どうしたんですこの人?」
「すみません小松さん。せんぱいは現実を受け入れきれてないみたいです……」
「語ってる内はよかったけど、結論にたどり着く頃には壊れてたってことか……」
で、ここまで語ったことで、私たちが探していた『黒雲』が小松君だった、というのが確定的になったわけだけど。
……それでどうなるのか、というのがさっきも話した『オルトの調理』になる辺り、今日って厄日なんじゃないカナーってキーアん思うわけ。
……ふて寝していいんじゃないかなこれ(真顔)