なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
『まだ時間は掛かりますか?』
「ごめん、あと三分……いや一分持たせて!」
『それはまたなんとも……中々の難題を』
前回に引き続き、ファイヤー・イデオンとの戦闘中なわけだが……これが中々。
シュウさんが意図的に歪曲フィールドの出力を上げることでなんとかもたせているが、それは同時に剣と盾のうち剣の担当である彼が本来の役目を果たせていない、ということでもある。
これは、単純にマシュとイデオンの相性が悪いのが問題だった。
一部のマシュを思い出して貰えばわかるのだが、彼女の防御と言うのは自身についてはわりと度外視している部分がある。
というか、じゃないと彼女だけが消し飛ばされる……なんて状況がありえない。*1
その理由は、彼女の持つスキル『自陣防御』が
言い換えると、自分を含めない縛りがあるからこそ
……つまり、彼女は相手の攻撃の余波による自身への被害を防ぎきれないのである。
もっとも、相手の実力によってはそれも問題ないはずだった。
限界を越えた防御を発揮する際、相手からの影響を削減しきれないのでそれを埋める手段が必要となる……というのが『自陣防御』が必要である理由なので、余裕で耐えられるような攻撃ならば『自陣防御』のデメリットを気にする必要もないのだ。*2
すなわち、
「……くっ、これくらい……っ」
「無理をするなよマシュ。例え本物には及ばないとは言え、仮にも無限力なんてものを謳う存在が使っている器なんだ。ともすれば、発揮できる力の上限はこちらの予想を上回りかねないんだぞ」
「くっ……」
中身がイデそのものでなくとも、その器がそれを納めるに足る大きさを持つものである、ということは変わらない。
簡単に説明すると
結果、余剰分が彼女の体力を削ることとなり、それを嫌ったシュウさんが防御役に徹する必要がでてきてしまった……と。
一応、さっきみたいにマシュにもう一度【偽界包括】による強化……敢えて名付けるのならば【
「一日に二度もやるのはおすすめしないね」
『一応訪ねておきますが、その理由は?』
「
『──なるほど』
それは最終手段も最終手段、現状ではほぼ確実に選ぶことのない選択肢であった。
理由は単純明快、例えそれが複製の世界であれ、そこにある者達は一種の本物。
……言い換えると、【偽装召喚】は『逆憑依』の上から『逆憑依』をしているようなものに近いのである。
よりその人本人である属性が高まる、とでも言えばいいだろうか。*3
本来『逆憑依』とは本物のガワを持ってきて、その中に核となる魂を埋め込む……みたいな感じのもの。
中身は保護され休眠し、代わりに外側が考え動くため原作の彼らに近しい行動を行うが……同時に、彼らは扱いとしては英霊の座から呼び出されたサーヴァント、すなわちコピーに近いものである。
ゆえに、この世界での経験は原作の彼らにはフィードバックはされない。
反対は頻繁に起きるが、こちら側が
だが、【偽装召喚】の場合その前提が崩れてしまう。
本来一方通行、こちらの情報を受け取ることのない原作という絶対的な存在。
それと等価にして複製でもある【偽界包括】内の彼らは、『逆憑依』と長く触れすぎるとその参照先を自身に書き換えてしまうのだ。
本来【偽界包括】内の存在は、原作という絶対の存在からしてみれば所詮は
ゆえに、外から付けられた
この辺りはデータのコピーの話がわかりやすい。
デジタルデータというのはどちらが本物でどちらが偽物、ということを断じることがとても難しい。
何故なら、それが保存されている場所や保存された時間などの間接的な要素でしか『どちらがより古いのか』、すなわちどちらが元になっているのかを語れないからだ。
なんなら、タイムスタンプなどの差異となり得る部分を完全に書き換えてしまえば、どちらが最初に作られたモノなのかも曖昧になってしまう。
……物理の存在と違って容易に複製できてしまうからこその問題と言うわけだが、原作という存在と【偽界包括】についても近いことが言えてしまうのだ。
基本、【偽界包括】を持つものの観測を起点として対象となる原作と同じ存在を作る、というような仮定になっているわけだが。
その際に本来生じうる
そしてその上で、さらにそこからコピーを作ってしまうとどうなるのか。
……コピー元が違えどどちらもコピーであることは変わらず、結果そこから元のデータを辿ってもその真贋を判定することはできなくなってしまう。
その結果、『そう言えてしまう』という事実が拡大解釈され……『逆憑依』の参照先が本来不正である【偽界包括】内の存在になってしまう、と。
これの面倒臭いところは、データ的にはミスとも言いきれない点。
相互にデータをやり取りするのがあるべき姿だとするのなら、どう足掻いても大本のデータにはアクセスしかできない原作より、こちらの経験を書き込むことでアップデートを図ることのできる【偽界包括】側の方がある種健全である、と判断できなくもないのだ。
その結果なにが起こるのかと言うと、本来再現度などで調整されているガワの影響が深刻化し、中身の核にまで波及してしまう。
分かりやすく言うと、本来の『逆憑依』なら起こらない
『中の人間との同化、ですか』
「『逆憑依』ってやつは原作に近付けることを目標にするくせに、
「なるほど、侵食率みたいなものが設定されている変身アイテムみたいなもの、ということだね。二本使えばもちろん性能は上がるが、その分侵食率も二倍になる……と」
「……まぁうん、その説明で理解できるならそれでいいよ」
ハザードトリガーとかみたいな扱いなのはどうかと思うが、実際暴走の代わりに本人そのものになってしまう、という危険性がある時点で変わりはないとも言えなくもない。
まぁともかく、【偽装召喚】を安全に使用するのなら一日一度までが限度、それ以上は中身と外見の癒着を進める可能性が高くおすすめできないのは確かである。
……え?そういうのってどこかで二度めの変身をやる羽目になる?いやだなーそういうお約束。
仮にそうなった時、本来考えられるデメリットを別方向に回避した結果さらに変なことになりそう、という意味も含め。
「うーん、特撮とかのお約束。……まぁ私が権限握ってるんだし、大丈夫でしょ」
「ぴっかぴかぴ?」*4
トリムマウうるさい。
……ともかく、現状はマシュをどうにかするような手段は残されていない。
となれば、外部から別の救いの手が来るのを待つしかない、という消極的な方法しか残されていない、ということになってしまうのだけれど──。
「……なるほど、だったら僕が来た意味はあったみたいだね」
「えっ?」
「ここは彼に肖りこう叫ぼう。──赫灼、熱拳!!」
その願いを聞き届けたかの如く、私たちの前にヒラリと舞い込んでくる炎の塊が一つ。
それは、この熔地庵に住まう特殊な存在。
炎で構成されたその体は、相手の炎を受けてもなお変わらず燃え盛っている。
本来想定される本人のテンションと違うのは、あくまで彼がその姿を仮初めのものとして定めているがゆえ。
……されどそれは、この場においてある種の皮肉──原作の彼がなりたくてもなれなかったものへの錯覚を引き起こすような登場の仕方で。
イデオンソードを炎の拳で払った彼は、人好きのする笑顔をこちらに向けながらこう告げたのだった。
「確か、こういう時はこういえば良かったんだったかな?──大丈夫、僕が来た」
「だ、荼毘さん!?」
そう、現れたのはこの熔地庵の主──荼毘ことヒードランだったのだ!