なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ふんふんふーん♪」
「……ご機嫌だねぇ」
「そりゃまぁ、いい感じの眼鏡見付けちゃったからねー♪」
ちょっとへこんだりしたけれど、私は元気です。
……みたいな感じで、購入した新しい眼鏡の入った袋を抱えて、スキップを踏む私。
他人に勧めるのはまぁ、ちょっと自重することにはしたけれど。自分が鏡の前で眼鏡ショーするのは、別に誰かに迷惑掛けたりしないから自由だもんね!
……って気付いたため、幾分がテンションを持ち直したのである。
「……眼鏡スキーって、自分は対象外なんじゃねぇのか?」
「うん。だからほら、
「……あー、あー?……俺らと違って外身と中身が厳密には違う……んだっけ?」
「そーそー。……まぁ、これが
「お、おう……」
中身と外身とが厳密には違うからこそ、私が着飾るのはある意味誰かを着飾らせるのに近い……という、ちょっとした抜け穴である。
抜け穴という通り、着せ替えが楽しくなくなってくると、そろそろヤバいってことになるわけなのだけれど。
……ズレが完全に無くなろうとも、結局自分の眼鏡にも萌えてそう?……せやな!()
「いやどっちだよ……ったく、次はどうすんだ?」
「時間帯もいい感じだし、お昼にしよお昼っ」
眼鏡屋であれこれ見ていたら、普通にお昼を過ぎてしまっていた。……銀ちゃんがどうかは知らないけれど、こっちはいい感じにお腹が空いてきた感じである。
なのでまぁ、
「いや、寄るってどこ……あー、なるほど?」
「あはは、たまには顔見せろーって言われてたしね?」
「……まぁ、俺は今日は付き添いみたいなもんだし、好きにすればいいさ」
「へーい。……ってことで、たのもー!」
へいへい、と声を返してくる銀ちゃんを連れて、とある建物の扉を開ける。
扉の上に据え付けられた鈴の鳴る音を聞きつつ、店内に歩を進めてみれば。
「はーい、いらっしゃいませー!……ってあー!!キーアちゃんだ!」
こちらに元気な挨拶を返してくるのは、仕事着に着替えたココアちゃん。
……まぁ、捻りもなにもなく、ラットハウスに向かっていたわけである。
いい加減に顔を見せに来い、とライネスに言われてから早何ヵ月。……そろそろライネスから再び小言が飛んで来そうなのもあって、今日は最初からここに寄るつもりでいたのでしたとさ。
「はい、キーアですよー。お昼を食べに来ました」
「おおーっ、ついに約束を果たす気になったのですな?……マシュちゃんマシュちゃーん、お客さんだよー!」
「……はい?どうされましたかココアさ……せんぱいっ!?」
「やっふー。マシュ特性オムライスが食べられると聞いて来ました」
「ええええ!?らららライネスさん、そんなメニューあったでしょうか!?」
「落ち着きたまえよ、マシュ。そんなもの、キーアの出任せに決まってるだろう?」
ココアちゃんにテーブルへと案内して貰いつつ、途中で倉庫から戻ってきたマシュに軽く挨拶を投げる。
……うむ、凄くテンパりながらライネスに確認取りに行ったけど……ふっふっふっ、甘いなライネス!ここで伏せていたリバースカードオープン!*1
「出任せだと思うのなら、これを見ろぉっ!!」
「は?……!?なんだこれ?!」
「お、どしたどした?」
近くのテーブルからメニュー表を引っ張りだし、
これぞラットハウス隠しメニュー、店員さんの愛情たっぷりオムライスだ!!*3
メニューが自分の知らないうちに増えているという怪現象に、慌てて近付いてきたライネスが目を皿のようにしながら、メニューを上から下に確認し尽くしていく。……無論、何度見ようともそこに書かれたメニューが変わることはない。
だってこれ、ゆかりんが面白半分で突っ込んだ奴だからね。
「はぁ!?あの隙間女、いつの間にこんなことをっ!!?」
「許可はウッドロウさんに取りました」
「ウッドロウゥゥゥッ!!?」
「なに、気にすることはない」
「気にするわァァァァッ!!!」
スキマによる折り畳み技術の無駄遣いにより、所定の動作をしなければそもそも発見することのできない隠しメニュー。
……どうせならコマンドはステーキ定食・弱火でじっくりとかでも良かったのだけれど。*4
それだと念の修行とかにまで転がっていきそう、というジェレミアさんの指摘により、お流れになっていたりする。
ともあれ、メニューに書かれているのだからやって貰おうじゃないか、ライネスの『萌え萌えきゅん☆』をな!!*5
……などと宣いつつ、案内されたテーブルにつく私達。
「……マシュじゃなくて良かったのか?」
「いや、マシュはほら、家でやって貰えばいいし」
「せんぱいーっ!?」
対面の銀ちゃんから疑問の声が飛んでくるが、よくよく考えたらマシュには家でやって貰えばいいや、ということに気付いたため、ここでしか見れないライネスの『萌えきゅん』を優先することにした次第……と返す。
銀ちゃんから「……ほどほどにしてやれよ」と嗜めの言葉を掛けられたけれど、こういうのは情け容赦ないくらいで丁度いいのよ、と返してライネスに視線を戻す。
……笑顔がすっごく引き攣ってるけど、私のオーダーに変わりはないですよ?
「いやいや待ちたまえ、いいかね?私はあくまでコーヒー係、料理は専門外、オーケー?」
「ノー!下手くそなら下手くそでいいから作れアルー!」
「いやなんで神楽
「いいよ!ノらなくていいんだよ!私の味方をしてくれよどうせなら!!?」
余裕のない様子のライネスに、にやにやと笑みを返す私達。
……勝手に付け加えられたメニューなんて無視すればいいじゃないか、とか言われそうだが、実はこのラットハウスはメニュー至上主義なのである。
……なに言ってるかわからない?大丈夫だ、私にもわからん。
まぁ、詳しく説明すると。
この店のメニューは、原則的に投票性なのである。
……道楽に近い営業形態のため、売れるモノというよりは人気のあるモノを優先する運営方針になっており、メニューに記載されているものはその人気投票の上位のみ。
その仕様のせいで、メニューの片隅にはひっそりと「メニューにあるものしか作りません」という文面が記載されているのである。
元々はメニュー外の商品を頼む人への、お断りの文面でしかなかったのだけれど。
店を始めた最初の方、メニューに無いものを頼む客が多発したらしく、そのせいでこの文面、半ばギアスみたいな強制力が持たされているのである。*6
……対処の仕方がバカっぽいのは、それだけ
なにはともあれ。
メニュー至上主義を掲げねばならなかったが故に、メニューそのものに細工をされるのには弱かった、ということに話は落ち着くわけなのでして。
……いや、ゆかりんとかでもないと改竄不可なくらい、厳重なセキュリティが付属してるらしいんだけどね、このメニュー。
でもまぁ、ゆかりんが愉快犯と化したらどうしようもない、と言うのはよくわかったんじゃないかな?
……というようなことを、言外に匂わせる私。
「ぐ、ぐぐぐっ!……お、お待ちくださいませお客様……」
「はーい、大人しくまってまーす」
羞恥を抑え、厨房の方へと消えていったライネス。
代わりにウッドロウさんが表に出てきた。……毎回思うけど、この人エレガント感か空気感しか発してないな……。
今日はエレガントの日らしく、なんだか周囲に花が舞っているような気がする。
「……そういや、ウッドロウには勧めねーんだな、眼鏡」
「ん?……いや、なんか天に立ち始めそうだから」
「あー、そういや同じ声か……敵方になられても困
「眼鏡パリーンとか許せるわけがねぇ……っ!!」
「……そっちかー」
机に肘杖をついてこちらに疑問を呈してくる銀ちゃんと、渡した眼鏡が無惨にも砕かれてしまうところを想像して身震いする私。
……ウッドロウさんそのものには、眼鏡とか普通に似合うと思うのだけれど。中の人的に眼鏡破壊が普通に選択肢に上がってきそうで、どうにも勧めるに勧められないでいるのだった。
いやまぁ、あれはあれで名シーンだとは思うのだけれど、なんというか心胆を寒からしめる感満載というか、ね?*7
「なに、気にすることはない」
「……それ、ごまかしの言葉じゃないですからね?」
「ふむ。……では、考える。もっと考える。……答えが出るまでね」
(……ごまかす気しかないなこの人……)
それわりと迷言よりの言葉じゃないかな?*8
……みたいな感想を飲み込みつつ、
「まったく、ほら、待たせたね……って、なんだいこの空気?」
待つ間に考えすぎた私達は、皆一様に
「いやわけわかんないんだが?いいから、わざわざ私に作らせたんだから、ちゃんと完食したまえよ」
「おお、洋食屋でよく見る、卵を切るタイプのやつや」
……今のは次回に続く流れだったと思うんだけどなぁ。(メタ視点)
調子を外された感を味わいつつ、ライネスが出してきた皿に視線を向ける。
最近ではすっかり一般的になった、半熟のプレーンオムレツが上に乗ってるタイプのオムライスだった。*9
「……いや、ライネスのことだから真面目に作ってくるだろうとは思ってたけど、ここまで真面目に作るとはねぇ」
「ふふん、どうせ私は料理なんかできないと思っていたんだろう?残念だったね、今の私には苦手なものなんてないんだよ!」
「おお、すごい自信だ。……じゃあ、仕上げをお願いします」
「……ん?仕上げ?」
意外に料理上手だったことに感心しつつ、ライネスに最後の仕上げを頼む私。……首をこてんと傾けて、疑問符浮かべていらっしゃる。
その姿は可愛らしいが、そこで思考停止されても困るんだけどね?
「だってこれ、『萌えきゅん☆オムライス』やで?ここにケチャップでハートマークと萌え萌えな台詞を描くことで完成……って料理のはずだけど」
「……?……。……!」
「この反応、作ってる途中で思考が逸れたやつだな……」
いつの間にやらフルーツサンデーを頼んでがっついている銀ちゃんの言葉に、ライネスが顔を真っ赤にしながら彼に殴り掛かっていった。
……子供なのでぽかぽか言うだけのダメージの無いモノだが、銀ちゃんは「いてて」と呻き声をあげている。
「バカか私はっ!!?まんまとノせられてまんまと完璧なオムライスを完成させて、その上でハートマークを自分で描く、だとぉっ!!?どう考えてもただのバカじゃないかっ!!」
「いや知らんがないてててて、俺にあたんないててて」
「うるさいうるさいうるさぁいっ!!!」
……こりゃ暫く戻ってこないな。
オムライスが冷めないようにしつつ、暫く二人のじゃれあいを眺める私なのでした。