なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……うん、ぶっつけ本番みたいなものだけど、上手く行って良かったよ」
「な、何故荼毘さんがここに……?」
「なんでって、僕の家の近くで騒いでたらそりゃ気になるってものじゃないかい?」
イデオンの発生させた炎を自身の炎で相殺しつつ、荼毘君はこちらに朗らかな笑みを返してくる。
……炎とマグマはモノが違う、みたいなことを仰っていた海軍の大将がいたが*1、炎同士でも色々と勝手が違うというのは事実。
具体的には、科学薬品による火災や独自に酸素を供給できるものの火災などが当てはまるだろう。
言い換えると、単純に水を掛けても消えないような炎、というべきか。
これに関しては花火がわかりやすい。
大抵の花火は火薬と共に酸化剤が配合されており、これが熱を与えられると酸素を発生させる。*2
結果、水の中でも酸素が供給される上、それによって絶えず燃え続けることで熱が下がらず火も消えない、という状況を発生させるのだ。
また、水を掛けると水素を発生させてしまうナトリウムなんかも、水による消火を受け付けない素材の一つだろう。
これらの禁水性物質*3は化学反応による熱と、水の分解によって発生する水素により文字通り爆発する。
その上で、すべての反応が終わるまでは水による消火を受け付けない。
化学反応は無限に起こるモノではないが、同時に材料が供給され続けるのならば持続するもの。
ならば、後から材料を継ぎ足すに等しい『水による消火』が逆効果、というのは容易に察することができるだろう。
こういう状況において、消火活動を行う際に重要となることが一つ。
燃焼とは基本的に酸素を介すものであるため、酸素を供給できなくすれば基本は消える……ということ。
ゆえに、こういった水を使えない状態での消火には粉末式の消火剤*4が使われる他に、もう一つ特徴的なやり方が存在している。
それが、先に酸素や燃えるものを使いきってしまう方法。
他の火災で問題となる火災を制御する、というやり方である。
「炎っていうのはどこまでいっても他者に依存するものだからね。燃えるものが無ければ消えるし、燃えるための要素がなくても消える。そういう意味では、他の炎というのは炎の天敵にもなりうるわけだ」
とはいえ、やり方如何によっては余計に被害を広げることもあり、最終手段的に用いられる手法であることも確かだけど……と告げる荼毘君である。
例えば、大規模な森林火災が起きたとする。
このまま放っておくと火災はどこまでも延焼していくが、かといって消防車などのキャパシティ的には今すぐ消火する、というのは難しい。
こういう時に使われるのがバック・ファイア──迎え火やバーン・アウトなどと言われる手法。
火災の進行方向先にある可燃物を先に燃やしてしまうことで、そこから先に延焼が広がらないようにする手法である。
炎は自然現象であり、生き物ではない。
ゆえに、それに定められたルールに沿って行動するのが普通。
そのため、可燃物が無ければ燃え広がらない……という当たり前の対処の前には沈黙せざるをえないわけである。
また、これに似ているようで違うやり方として『爆風消火』というものがある。*5
こちらは炎ではなく爆発を利用するやり方だが、燃焼のための酸素や可燃物を吹き飛ばすことで炎を消す、という意味合いでは似たようなものであると言えなくもないかもしれない。
……ともかく、火に対する火というのは意外と効果のあるものである、ということは間違いないだろう。
それが能力者の使う炎にまで当てはまるのか、というところには多少の疑問もなくはないが……こうして相手の炎を押し戻せてる辺り効果はあるのだろう、多分。
いやまぁ、少年漫画的な表現の範疇、という可能性もないではないが。
ともかく、機体を通して炎を発射するイデオンと、体そのものなマグマの塊である荼毘君では、どちらが優位かと言うのは一目瞭然。
……そう簡単に壊れたりはしないだろうが、やはり機体から熱を吹く、というのが負担になりかねないイデオンの方が不利であることは間違いあるまい。
ゆえに、この対決において荼毘君側の負けはほぼない、ということになるのだが……。
「……おおっと、これは意外だね」
「炎の様式を変化させた……?」
「ますますなにが入ってるんだこいつ、って感じだなぁ」
このままでは勝てないことを察したのか、相手は無秩序に吐き出していた炎を変化させる。
それは、研ぎ澄まされた刃のような変化。
圧縮された結果硬い物質のように密度の上がったその炎は、生半可な炎であれば焼き切るほどの鋭さを得た。
……ある意味では、イデオンという存在には似合わぬ小手先の細工、ということになるのだろうか?
とはいえそれが効果的であることは間違いない。
炎同士ならともかく、それが別の形態を得たのであればその性質を活かした攻撃を行えるようになった、と見るべきだろう。
──そんな風に、第二ラウンドは開始したのであった。
『ところで、向こうの複製に関しての進捗は?』
「今の流れのせいで検索のし直しだよ!悪いけど追加であと一分!」
気を抜いたのが悪いというか、相手が一枚上手だったというべきか。
……ともかく、先ほどまでなんとなく掴みかけていた相手の正体がするりと腕の間をすり抜けてしまったため、【偽界包括】による複製の
これが本来の使い手──『星女神』様や『月の君』様なら問題はなかったのだろうが、そうではない私には検索とう仮定は省略できないのでどうしようもない、というか。
……そういうわけなので、他の人には悪いのだがもう暫く対抗をお願いしたい私である。
まぁ、先ほどまでよりは遥かに楽そうでもあるので、なんとか時間を稼ぐことはできそうでもあるのだけれど。
「一瞬警戒してしまいましたが……寧ろ今の方が対処が簡単のような気がしますね」
「それ、向こうからしたら噴飯ものの台詞だと思うけどなぁ」
『下手に密度を上げたせいで、純粋に物理攻撃に近付いてしまっていますからね。……そうなれば彼女のこと、その堅牢な盾の前には型もなし……という感じでしょうか?』
その理由は、マシュが盾役として前に出やすくなったことに理由があった。
先ほどまでのイデオンの発生させる炎は、いわば現象としての炎。
防ごうと思うと単純な盾では難しい、不定形の攻撃であった。
そこに炎熱の追加効果まで付随していたのだから、生身の人間である彼女には非常に辛い相手だったわけである。
だがしかし、今のイデオンの攻撃は物理的な破壊力を伴うようになった結果、逆に普通の物理的な防御でも対処しやすくなってしまったのである。
……いやまぁ、密度が上がった結果発する熱も高くなってるんだけどね?
ただ、純粋な熱に関しては荼毘君が吸収して無効化しているため、結果としてイデオンの攻撃は物理的な破壊力の方が重視される結果になってしまったのだ。
で、その破壊力というのも本来のイデオンからすれば全然足りておらず。
結果、先ほどまでの不甲斐ない自分を払拭するように、発奮するマシュによる的確な防御に全て阻まれることになってしまったと。
で、盾たる彼女が正常に機能すれば剣であるシュウさんも十全に働けるようになる、というわけで。
『弱いものいじめのようで気が引けますが……どちらにしろ私たち側に有効打がないのも事実。ですので精々張り切って、貴方の足を引っ張ることと致しましょう。──ワームスマッシャー!』
「なるほど、攻撃の起こりを邪魔すると……なんとも的確な対処だねぇ」
後のことを考えるとイデオンを破壊することはできないので、こっちが行うのはほどほどの攻撃……という感じだが、それでも的確に動きの起こりを潰していくシュウさんは流石、というか。
ともかく、荼毘君の参加により本来の役目を果たせるようになった二人は獅子奮迅の活躍を見せ、結果私が【偽界包括】を発動するまでの時間を稼ぎきったのであった。
……うーん、パーティメンバーの選出ってやっぱり重要なんだなぁ……。