なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「よし、後は少し味付けをしてそのまま煮込むこと数分……これで行程は全て終了しました!」
小松君の完了報告に、みんなから歓声があがる。
都合数時間に及ぶ調理は、オルトが明確に特殊調理食材であることを示すものであった。
いやまぁ、この場合は小松君の干渉によって特殊調理食材になった、という方が近いのだろうが。
ともかく、カボチャ系の食材であると定められたオルトは、密かに確保されていた影龍皇由来の野菜と共に煮込まれ、美味しいポトフに調理されたというわけである。
……仮に名付けるなら『クモカボチャと影野菜たっぷりのポトフ』とかになるのだろうか?
「うん、上手い!でも食レポは期待しないで頂戴!」
「……いえ、この味をしっかりと文章で伝えるのは難しいと思いますので、それは仕方のないことだと思いますよ?」
ほかほかと湯気をあげるポトフを一口、その旨味に感嘆を溢す私。
……なのだが、こういう場面でよくある味のレポートは期待しないで欲しいとも告げる羽目になった。
なんでって?味の深みが凄すぎて語彙力が足りないのです()
ちょっとだけ表現するとすれば……影野菜が何故真っ黒なのか、みたいな部分に波及するというか。
光と色の三原色の話をしたことはあったと思うが、この野菜の色もそれを元に説明できる。
そう、そもそもこの野菜達自体が様々な野菜の集合体みたいなものであり、味もまた複雑に混ざりあっているわけだ。
それゆえ、この野菜で出汁とか取るとエグいレベルの深みが出るわけなのだが……その辺りは確かこの野菜達を鍋にした時にも話したんだっけ?
それを踏まえた上で、このポトフの話に戻るんだけど。
こっちはそれらの複雑な味のバランスを持つ黒野菜達が、なんと完全に脇役になっているのである。
代わりに主役となっているのはオルトの身。
……カボチャ系のそれがポトフの主役になっている、というのは意外だが、これがなんとも。
黒野菜が持つ深みが、全てオルトの身の味を引き立てるためのスパイスになっているのである。
その相乗効果はもはや言葉では表しきれず、今の私に言えることは『オルトの身は単なるカボチャ風味のものではなかった』くらいのことになってしまう……みたいな感じだ。
もっと私に語彙力があるのなら、どの野菜がどの味を引き立てエグみを抑え……みたいなことを解説できるのだろうに……。
「……結局食レポしてる、ってツッコミはした方がいいのかい?」
「はっはっはっ。……上手い人はもっと上手いってことで!」
ライネスからツッコまれたため、反省を促すダンスでごまかす私なのであった。
……そういえば、よくよく見ると今年も居たな、マフティーダンス(※マフティーとは関係ありません)してるパンプキンスケルトン……。
はてさて、目下のところ最大の脅威であったオルトを調理し、なりきり郷および地球の危機は去った、と言いたいところだったのだけれど。
「そうは問屋が卸さない……ってことなのかなぁ、これは」
思わずボソッと呟いてしまった私を、一体誰が責められるのだろう。
きっかけはほんの些細なこと……いや、ここはこう言い変えるべきか。
まるでシンフォギア第一作におけるボス・フィーネが倒された後かのよう。*1
目の上のたんこぶ──現状の自身が反抗したところであっさり返り討ちにあうだけ、みたいな相手が既に存在するからこそ、蜂起できなかった……。
そんな者達が、自身を抑え込んでいる目障りな蓋とも言えるその存在の陥落により、再び
まぁ、分かりやすく言うと『オルトが倒れたので好き勝手しますねー』みたいな主張で動き出したやつがいた、というわけである。
……うん、まぁあからさまに放置されてた人とかいたからね、その事自体は別に予測できて然るべきなので、そこまで嘆くとか悲しむとかそういうことはない。
なので、ここで特筆すべきは一つ。
蜂起したのは、別に一組だけってわけでもなかったという部分だろう。
「「…………」」
見つめあうのは二人の少女。
片や今もっとも春だと言っても過言ではない、
ある種の後釜として生を受け、ゆえにその後釜という役目に忠実に動き始めようとした者。
そしてもう片方、破滅を避けるための片割れとして生み出された……みたいなことを言っていたが、そもそも彼女の生まれる原因となった存在自体が今回の騒動の引き金であり、それを親と嘯く彼女がその意思を継いでいないはずがない……といった感じのポジションの人物。
……うん、勿体ぶって遠回しに説明してみたけど、身も蓋も無いことを言えば現在対峙しているのは、キリアちゃんとなりきり郷ちゃんの二人なのであった。
これには自身の料理に調味料を振り掛けたところ、何故かテロい*2呪物に変じてしまい、首を捻っていたエリちゃんもびっくりである。
「……これ、食べた方がいいと思う?」
「流石に捨てていいと思う」
睨みあうような形になった両者を横目に、エリちゃんが掛けてきた言葉に助言を返す私であった。
……ポトフうめぇ(現実逃避)
いや、そりゃ現実逃避だってしたくなりますよ。
さっきまでいい子にしてた二人が、突然豹変してこんな感じに蜂起し、さらに同時に蜂起した自分以外の人間を見たことでフリーズした、なんて笑い話にしかならないし。
とはいえ、いつまでもフリーズしたままということもありえないだろう。
仮に再起動した場合、キリアちゃんの方はすっかり手懐けているシンユニロボによって暴れまわりそうだし。
なりきり郷ちゃんに至ってはこの場所そのものに紐付いた存在、ゆえになにをしてくるのかわかったものじゃない。
なので、仮に動き出した場合その出鼻で挫けるように、密かに準備してた私なのだけれど……。
「……ふむ、では私も再度蜂起してみるといたしましょうか」
「いきなりなに言ってるのショウさん???」
その隣で静かにポトフを食べていたはずのシュウさんが突然立ち上がり、自分も蜂起するだとか言い始めたものだから、思わず先ほどまでの準備を忘れて彼のことを見上げてしまうのも仕方のないこと。
え、なに?冗談?悪ノリ?そのどっちだとしても私はみんな殴るけどいいの???(おめめぐるぐる)
……と、こっちまで正気を失いそうな気分になっていたところ、ちょんちょんと背中を誰かが突っついている感覚が。
こっそり振り返ったところ、そこにはいつの間にか近付いてきていた小松君の姿。
身を屈め目立たないようにしていた彼は、口許に手を当てながらこっちに近付いてくる。
……他の人には聞かれたくないような話、ということなのだろうか?
よくわからんが彼を疑う意味もないので、素直に内緒話に応じる私。
……そしてすぐさま、それを受けたことを後悔したのだった。
「……すみませんキーアさん、この料理にはとんでもない副作用が含まれていました」
「はい?副作用?」
「ええ。オルトっていうのは生き汚さの化身、みたいなものなんですよね?」
「うんまぁ。最後のは最早生きてると言っていいのかは謎だけど」
「まぁ、自身の存在の連続性をそこまで重視していない、というのは確かですよね。どの細胞もどの細胞に成り代われるからこそ、姿形や属性にそれほど拘泥しないというか」
「……あーうん。確かにオルトって存在が残ってるんならそれでいい、みたいなところはあるかも」
「それです」
「はい?」
「この世界のオルトは、自身の存在をハロウィンの化身と定めた。それゆえに、彼は
「……いや待った、いやな予感がしてきたからそれ以上の説明は」
「そして、先ほどまで暴れまわったオルトは、それでもハロウィンとして認められてはいた。自分で周囲を塗り替えといてなにを言っているんだという話ですが、ともかく
「君がなにを言っているのかわからないよ小松君!?」
彼が話した内容を、簡単に纏めるとこうなる。
……この料理、自身の肉体を諦めたオルトの意志が溶け込んでしまっている、と。
本来ならばその意思を抜く作業をもう一つ挟む必要があったのだが、これが初めての調理ということもありその行程に気付かなかった……と。*3
言ってしまえばフグ鯨のようなもの。
解毒に失敗しても身の上手さは変わらないため、命を惜しまずそれを食べようとする──ないし
そして、オルトが望むのは自己の存続ただ一つ。
それを為すものが誰であれ、オルトが続いていると解釈できるのならなんでもよい……みたいなのは、本編での彼の変貌ぶりを見ればなんとなく理解はできるはず。
つまり、この料理を食べたものは一定の確率でハロウィン存続のための尖兵と化してしまうのだ。
……おのれオルトぉ!!!(最早やけくその叫び)
「で、その後フリーズから復帰した二人、および蜂起しようとしたシュウさんを止めようとした私の前で、実は座っていた配置が魔法陣みたいになってるってことで、なんらかの儀式の要項を満たしてしまったエリちゃんズにより、料理の鍋を媒介として召喚式が成立。残っていたハロウィンゲージとかオルトの残留思念とかをパワーソースにして生まれたビーストⅤi──仮称
「やっぱり次の年からハロウィンに参加するのは止めときましょう、マジで」
「否定できないわ、マジで」
……うん、ツッコミしきれねぇや(白目)
ハロウィン・完!