なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、アーミヤさんと別れ、代わりにスカジを一行に加えた私たちは、次の目的地に向けて移動中。
……なのだけれど、先ほどからココアちゃんから突き刺さるような視線が飛んでくるんですが、これ如何に?
「えっとね?キーアちゃん、彼処は取り壊しじゃなくて縮小、みたいなこと言ってたじゃない?」
「彼処?……ってああ、隔離塔のこと?」
「そうそう。で、その理由はみんなの病気が治ったから、みたいな話だったけど……もしかして、誰か治らない人とかいるんじゃないのかなーって思って」
「……鋭い目の付け所だね、ココアちゃん」
「え?そ、そうかなー?」
そうして飛び出した問い掛けに、思わず感心してしまう私である。
結果的に褒められた形になるココアちゃんは、ちょっと照れ臭そうに頬を掻いていたが……確かに、彼女の言う通り
「……あれ?治らない人じゃなくて?」
「治らないっていうか、治しようがないって感じかな。理由としてはそれが
「せいしんめん?」
勿体ぶるのもあれなのでぶっちゃけると、彼処に残るのはいーちゃんである。戯言シリーズの。
彼はただそこにあるだけで周囲を狂わせる、という『無為式』と呼ばれる存在。
それゆえ、他者との触れあい自体を彼が厭ったのだ。
「……なるほど、彼のそれは体質に近い。ゆえに再現度による優先度も高く、劣化もほとんどせず成立してしまっている……と?」
「多分ね。ただまぁ、仮に再現しきれなくてもコナン君達みたいになにかしらの要素が【継ぎ接ぎ】されて元のそれを再現し始める、みたいな可能性はゼロじゃあない。……言い方は悪いけど存在罪*1、みたいなもんだよね。ロイドさんと同じく、彼自身の安定を促す身内もいないし」
少なくとも、私が知る限り他の戯言シリーズのキャラはなりきり郷にはいない。
割合に物騒な人間が多かったり、そもそも再現性に難がある複雑なキャラクターをしていたりと、『逆憑依』として選ばれ辛い構造をしているのもポイントなのだろう。
……あと、作中で明確に死亡した表現があるキャラクターは、仮に再現しやすくても『逆憑依』にはなりにくい、みたいな制約もあるだろうし。
人気が出ようが死ぬ人は死ぬ、みたいな作品だとこういう弊害があるというか?
「作中の死亡描写が良くないのか?」
「良くないっていうか、逸話弱点になる可能性が高いというか?例えばマシュだと、強大な敵の明らかに防げないような攻撃に晒されると
言ってしまえば、これも【継ぎ接ぎ】の一種というか。
原作であった要素が再び発生した時、それに対して抵抗するのが難しくなるとでもいうべきか。
……ともかく、本来中の核を守るために呼び出されると思わしき『逆憑依』が、その本分すら果たせずあっさり消滅するというのは避けたい、というのは誰でも思うことだろう。
ゆえに、戯言シリーズのキャラは多重の意味で『逆憑依』としてやって来づらい、ということになるのであった。
「その上で、
「……でも、それだと可哀想だよ?」
「向こうはそうしてあれこれ言ってるこっちを眺めて楽しんでるから大丈夫だよ」
「…………あれ?」
なるほど、優しいココアちゃんは一人でずっといなければならない彼を心配していた、ということらしい。
でもその辺は最初から医者達とかも懸念していて、結果こちらから干渉せず、あちらからも干渉しないことを徹底すれば問題ない、ということが判明していたのだった。
本来『見る』という行為は立派な干渉だが、例えばジャンプを読んでいる人がその内容を改変する、というような影響は発生しえない。
それをするのならば、必ず読者側が『見る』以外の干渉をする必要がある。*3
つまり、今の彼は私たちを
「なんで、ココアちゃんが心配するほど向こうは気に病んでないってこと」
「ん、んんー……いいのかなぁ、それで」
「これ以上許した結果、なりきり郷存亡の危機にでも発展されたらことだからね。なんやかんやここってなにも企んでないってわけでもないし」
「あー……」
いやまぁ、悪の組織みたいな話ではないけども。
でも、あれこれと頭を悩ませ、日々考えごとをしている人物が多いというのも事実。
……下手するとそうして用心すること自体狂うので余計のこと、である。
なので、彼自身の提案もあって今の状況に甘んじているのだと告げると、ココアちゃんは微妙な顔をしつつも一応の納得を見せたのだった。
……まぁ、彼女がその辺気にする理由は、わからないでもないんだけどね。
はてさて、隔離塔云々の話が終わって、やって来たのは熔地庵。
年中溶岩が沸いてる危険地帯にして、安全地帯では露天風呂などが人気のスポットである。
ここに来た目的は勿論、荼毘君もといヒードランさんへの挨拶、なのだが……。
「……なんか、やけに気球が多いね?」
「そうだねー、それも上の風船?部分だけのやつ」
思わず空を仰げば、辺りに広がるのは気球の群れ。
正確には、今しがたココアちゃんが述べた通り、気球の上部分──
下に籠などはなく、まるで空に浮かぶクラゲのような見た目となっているそれらは、しかして一般的に人が思い浮かべるような大きさのそれ、というわけではない。
具体的に言うと人一人分かもう少し、くらいの小さい気球であり、それらが視界のそこらに飛んでいる……という状況なのである。
……うん、どうやって浮いてるんだろうね、この気球達。
いやまぁ、気嚢内の気体が溶岩の熱で暖められて浮力を得ているんだろうなー、というのはわからんでもないのだけど。
ただこう、それだけだと宙に停滞してるのは意味がわからんというか。
そうして「なんだろうねこれ」「ねー」みたいな感じで会話していると、一部の面々の反応が目に入る。
……具体的にはライネス・はるかさん・ロー君の三名だったわけだが、揃って「あー……」みたいな、微妙な顔をしていた。
いやそれ、どういう感情……?
「知らないのか、キーア」
「……?いや、なにか既視感はあるけど思い出せないというか」
「なるほど。じゃあ……あー、丁度よく来たみてぇだから、あれを見るのが早い」
「ん?来たってなにが?」
ロー君が微妙な顔をしながら、とある方角を指差す。
その動きにつられて視線を動かせば、その先に見えたのは小高い丘のようなもの。
その頂点に、なにかがいることを察知した私は、その何者かに視線を凝らして……あっ、と思わず声を漏らしたのだった。
言われてみれば、この地形は確かに。
溶岩地帯に浮く小さな気球……それはつまり、それを乗り継いで向こう側へと向かうためのもの。
では乗り継ぐのは誰なのか?気球なんて不安定なものに乗り、その先へと向かう存在。
それは、誰もが知る世界的スター……の、初登場作品であるとあるゲームの、ボス役……のキャラクターの弟分。
ボス役のキャラクターの名前を冠した作品のうち、彼が取っ捕まりそれを助けるために弟分が活躍する……みたいなコンセプトのもの。
その作品内の隠しステージにおいて、溶岩の中に浮かぶ気球を乗り継ぎ先へと進む……というものがあることを思い出した私は、ゆえにこそ彼処にいるのが誰なのかを悟ったのだった。
「……ディディーコングじゃんあれ!?」
「ウキャ?」*5
国民的スーパースター、マリオの初代ライバルであるドンキーコング。
彼を主役として発表された『スーパードンキーコング』、二作目の主役であるチンパンジーの男の子。
真っ赤な帽子がトレードマークのディディーコングは、こちらの言葉を聞いて不思議そうな顔をしていたのだった。