なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
君と一緒が一番!……そう思っていた時期が私にもありました
「───そもそもの話。近日になって取り沙汰されている、三つの異常。あれらは、全くもって異常でもなんでもないのであーる」
「ふむ、ご主人擬きはみょうちくりん*1なことを言うのだナ。もしかして明日の天気はところにより飴、にわかに晴れ上がって嫁が来たる予感?」
「
郷から遠く離れたとある社屋の最上階、胡散臭い男と女が、何事かを話し合っている。
「【
「ふむ、それはつまりはこういうことだナ?──おのれ運営!」
「……まぁ、それで間違いではないであるが」
逆憑依というモノに付随して現れた者達。
されど、それらは『なりきり』の本分から外れたものではない、と彼らは嘯いている。
しかし、それを是と認めるには異質が過ぎる。
……そんな声が聞こえたかのように、彼らは話題を切り替えていく。
「おかしいのはそもそもに逆憑依から。……壁を越え集まりし異端異常異質!……はてさて、どこまで転がり落ちたものやら」
「ふむ?
「ぬおわっ!!?やめるである、我輩をひっくり返しても金貨も銀貨もでないのである!」
「にゃはははは~♪」
会話は密やかに、移ろうのは速やかに。
社長室前で入室に迷う社員が意を決して中に入るまで、彼らはくるくると縦回転し続けるのであった───。
……した私達は、据わった目で対面に座る人物達を眺めるゆかりんを、はらはらとしながら眺めている。いや、だってねぇ?
『ははは。そう怖い顔をしないでほしい。ここにいる私は無力で無害なただの妖精。君達が心配するようなことは、何一つできないのだからね』
「……それを『はい、そうですね』と承服できるほど、私は耄碌などしていませんわ」
『おお、怖い怖い。わざわざ
……胡散臭い夢魔と、ずーっとバチバチと言葉のドッジボールしてるんですもの。
大人ゆかりんは微笑みを浮かべているけれど、ずっと額に青筋が浮かんでいるし、対するマーリンもマーリンで口が止まらないし、わーもうここに居たくねぇ!!
……第一発見者が私なので、立ち去ろうにも立ち去れないんですけどね!誰か『タチサレ……ココカラタチサレ……』*3ってやってくんないかな!?
あんまりにも気まずい空気の中、二人の視線が火花を散らしているような錯覚まで見えてきて──。
「もう、ダメですよマーリン。貴方がなにを考えているのか、私にはわかりませんが。こうして言葉の干戈を交えるばかりでは、お互いに歩み寄ることもできませんよ?──だから、えいっ」
そんな彼を嗜めるように、隣に座っていた少女──姿形はアルトリア・リリィなアンリエッタ・ド・トリステインが、マーリンの頭上に平手を落とす。……うん、一瞬星が見えたね、マーリンの頭から。
突然の横からの攻撃に、マーリンは手前につんのめりながら声をあげた。
『あ痛ぁっ!?ちょっ、乱暴だな君はっ!?』
「貴方が言葉で止められないことなど、私はよーく知っていますから。悪いのは貴方ですよ、マーリン。……改めまして、数々の無礼な行い、どうかお許しください、紫さま。お望みとあらば、この者の首も考慮する次第にございますゆえ、何卒」
「………はっ!?あ、いや、そこまでしていただく必要はありませんわ、アンリエッタ王女」
……お、おおう。
アンリエッタではあるものの、アルトリアの要素を持ち合わせているためか、一種の威風すら感じさせるその姿に、ゆかりんがたじろいでいる。
というか、マーリンの首て。首て。
「殺しても死なないような妖精ですから、マーリンは。ね、マーリン?」
『はははは、なんだか知らないけど最近本気で命の危険を感じるようになったから、できれば止めて欲しいなー……』
「だったら、自重するように。ただでさえ、貴方の言動はわかり辛いのですから」
『……はーい、マーリン自重しまーす』
「よろしい」
……この二人、アンリエッタの方が立場が上なんだな、なんて風に納得しつつ、改めて居住まいを正し、向かい合う私達。
対面の少女は──にっこりと笑って、こちらに声を掛けてくるのだった。
「それでは、改めまして。──こんにちは、遠き世界のお歴々。私は、アンリエッタ・ド・トリステイン。親しい者はアルトリアと呼びます。どうか、仲良くしてくださいませね?」
時間は遡って、午睡から目覚めたあの時。
ミラさんからの言葉によって、近くで倒れたように眠る少女と、その傍らで宙に浮く妖精を見付けた私。
なんでいるの、とかどうして彼女も一緒に、みたいな疑問が脳裏を駆け巡る中、膝の上で身動ぎしたマシュに気を取られ、一瞬彼らから視線を逸らしてしまう。
……膝の上のマシュは、身動ぎしただけ。気持ち良さそうな寝顔で、呑気に眠りこけている彼女の姿は、ちょっとだけ珍しいような気がする。
『ふぅむ?なるほどなるほど。
「っ!?」
『うおっとぉっ!?反射で叩き落とそうとするのは止めてくれないかな!?』
「あ、ごめん、つい」
『やっぱりあたりがつよいなぁ、君は!』
視界に写り込んできたその笑みに、思わず右手が動いた。
……危ねぇ!わりと真面目に叩き落としそうになった!
一応彼には(今のところ)非はないのだから、さすがに叩き落とすのは可哀想なので、避けてくれてよかった。……なら最初からやるなよって?いやさ?
「……それで、どうしてここにいるのかな、マーリン?」
『はっはっはっ。……どうしてだと思う?』
「………」
『おおっとストップ!ストップ!私が悪かった!だから本気で叩き落とそうとするのはやめておくれ!!?』
……目の前にこっちをからかってくるマーリンが居たら、そりゃ反射的に殴りたくもなるじゃんっていうね?
「……誰を連れてきたのかと思ったら、花の魔術師っすか。久しいっすね、元気だったっすか?」
『そういう君は相変わらず龍生を謳歌しているようだねぇ、祖なるもの、白き王。いや、今は白き王女とでもお呼びした方がいいかな?』
「好きにしてくださいっす。明日にはまた変わってるかも知れないっすしねー」
『……相変わらず移り気だねぇ、君は』
などと思っていたら、ひょっこりと私の後ろから顔を覗かせたミラさんが、まるで往年の友のように会話を始めた。
……元の板とかで知り合いだった、とかだろうか?そんな思いを込めて声を掛けたのだが。
『いや?彼女とは初対面だよ?』
「こっちも初対面っすねー。打てば響くので流したっすけど」
「ええ……?」
まさかのアドリブであった。
……そういえばあさひも、大概よくわからないタイプの子だったっけ……。本人でもなければなりきりでもないけれど、模倣しているのは確かなので、不思議系めいたキャラになるのもさもありなん……ということなのだろうか?
いやまぁ、正確なことを言えば、不思議系ではないらしいけれども。
「あんまり気にしなくてもいいっすよ?たまたまなんでもできる子って条件で探したら
『長い時を生きる龍らしい適当さ加減だね。いや、悪い意味じゃないよ?』
……うん、この二人の会話に付き合っていると、胃が際限なく痛くなってくる。
ここはひとまず寝ている二人──マシュともう一人の少女を起こす方向で動くことにしよう。とてもじゃないけど付き合ってられん!
そうして二人を起こして、私はゆかりんの元に説明しに向かったのだった──。
「えーと、つまりはなに?並行世界とはまた別に、位相のずれた世界も存在しているってこと?」
『そうなるねぇ。この建物内に突然現れる人達というのは、原則細かい綻びからこちらに溢れ出てきたもの、というわけだ。……まぁ、私達に関しては、意図して存在感を薄め、そこの彼女の帰還に相乗りした形になるけどね』
「……そういえば、最後の方居るのか居ないのか、微妙な感じになってたね君達……」
時間は戻って現在。
マーリンからあれこれと話を聞く私達と、一先ずは寛いでいて貰おう、ということでこっちの集まりから離れて、ジェレミアさんとマシュと一緒にお茶会をしているアンリエッタ……もといアルトリアの集まりとにわかれて話が続いていた。
途中、どこからか嗅ぎ付けてきたXちゃんが「この世界でもセイバーが増えると言うのですか!?おのれ○内ィッ!!」とか宣っていたが、丁寧にお帰り頂いた。
……そもそも、見た目とか性質とかアルトリアだけど、この人は区分的にはアンリエッタ……つまりはキャスター系だし。
まぁ、そもそもの話───。
「……【
『そうなるね。彼女は異世界であるハルケギニアの国の一つ、トリステインの王女を触媒として顕現せし者だ。私がこうして姿を見せ、ここに至る必然性となった少女だ』
「必然、ねぇ……」
この少女、なりきりではない。
以前のBASARAなノッブなどと同じく、人々の意思や祈りを集め、人の形として顕現した現象、なのである。
属性的に神性を持たないだけで、そのなり立ちはまさしく神と呼んで差し支えないものなのである。
……道理で、リリィの見た目なのに、どことなく獅子王のような空気を滲ませるわけだ。
一応、ここにいる彼女はあくまでも
『彼女を
「……勝手に人の深層心理と意気投合しないでほしいんだけど?」
臆面もなくこちらを利用した、と述べるマーリンに、思わず顔が歪んでくる。……別に、それによって不利益を被ったわけではないのだけれど。
「なんというか、
「洒落になんないこと言うの止めなさいよ貴方……」
おおっと、無駄に心の声が漏れてしまったぜ☆
そんな風に周囲をドン引かせながら、私達の会話は進んでいくのでした。