なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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飲んで忘れられるほど世の中楽じゃない

「……とりあえず、貴方達は単なる移住者、ということなのよね?」

 

 

 あれこれと会話を続け、疲れたようなため息を吐くゆかりん。

 対するマーリンにも、些か疲れが見えていた。……まぁ、外が暗くなるまでずーっと話していたのだから、さもありなん。

 

 

『ああ、そういうことになる。差し当たっては、住居とかを工面して貰いたいのだけれど──』

「ああそうね。……んー、とりあえず、今日に関してはキーアちゃん、貴方にお願いできる?」

「ん?私に?」

 

 

 そうして話が纏まり、次は住む場所についての話になったのだけれど……。え、なんでうちに?

 そう問い掛ければ、ゆかりんは呆れたような声をあげ、理由を解説し始めた。

 

 

「なんでもなにも、現状このなりきり郷で一番安全なのは、貴方のところでしょう?……マシュちゃんに貴方、どっちか片っぽでもお釣りが来るレベルの防衛力じゃない」

「ああ、なるほど。……なんで防衛力?」

 

 

 ……そういえばそうか。

 私とマシュが預かるのが、一番危険がないというのはわかった。けれど、何故郷の中で防衛がうんぬん、みたいな話になるのだろう?

 そう思いながら更に問い掛けると、ゆかりんは頭痛を堪えるように額に手を当て、深いため息を吐く。

 

 

「……貴方、つい最近まであれこれとドンパチしてたの、忘れてるんじゃない?」

「……あ」

「はぁ、まったく……いい?今の郷の中は凄く不安定なの、そこに余所のお国のお姫様なんて放り込んでみなさいな、どう考えても厄介事の火種にしかならないわよっ!」

「お、おう。ゆかりん落ち着いて……」

「これが落ち着いてられるかぁっ!!」

 

 

 ひぃっ、ゆかりんがヒートアップしてるっ。

 最近はあれこれと問題が起こりまくっていて、おちおち飲みにも行けやしないって愚痴っていたっけ、そういえば。

 ……そりゃまぁ、更なる面倒事持ってきやがって、みたいに怒鳴りたくもなるわな、ということか。

 

 うーむ、どこかで休ませてあげなければなぁ。

 などと考えつつ、興奮したゆかりんをどうにか落ち着かせる。

 

 

「いい?ただでさえまだよくわかってない【顕象(デミ・ゴッド)】なのよ?この間のハロウィンみたいに、彼女を中心に良くないものが寄ってくる可能性も……」

『おっと、そこに関しては心配しなくてもいい』

「……はぁ?なんでよ?」

 

 

 苦い顔をしながら話を続けようとしたゆかりんに、マーリンが待ったを掛ける。……()()、というのは変なものが寄ってくる可能性について、だろうか?

 

 

『そうそう。彼女は確かに【顕象】ではあるが、その成り立ちが特殊でね。()()()()()部分に関しては心配ないと、この花の魔術師が保証しよう』

「……まぁ、なにかあったら困るのはキーアちゃんだし、別にいいけど」

「おいィ?それはちょっと話が違うのでは?」

 

 

 ……無自覚な聖杯みたいな機能はなく、普通にそこに生きている人となんら変わらない……ということだろうか。

 まぁ、神とか影鯖とかノーバディ*1とか、そういったモノを引き寄せないんならなんでもいいや。……それはそれとして、おいこらゆかりん。

 

 

「冗談よ冗談。……んー、ならまぁ、そこまで神経質になる必要性もない、かしら?」

『そうだね。まぁ、それはそれとして彼女の居住地に興味があるから、ついていくのは吝かでもないけどね!』

「……いやまぁ、いいけども」

 

 

 ……この夢魔、なーんでこっちに興味津々なんだろう?

 よくわからない関心を持たれていることに、ちょっと辟易しつつ。

 時間もそれなりであるため、とりあえずご飯に行こうという話になる。

 

 

「今日はおしまーい!!飲む!今日こそ飲む!」

「はいはい。飲むのはいいけど、予約とかは?」

「……キーアちゃんお願い!」

「へーい。ほら、マシュもアンリエッタも。ご飯食べに行くよー」

「あ、はいせんぱい。アルトリアさん、行きましょう」

「ええ、喜んで。キーアさんも、アルトリアで構いませんよ?」

「やだこのお姫様ぐいぐい来る……」

 

 

 部屋の中の全員に声を掛け、皆が片付けを始めるのを横目に、何処の店に行こうかと思案。

 飲むことを前提にするのなら、居酒屋とかの方がいいのだけれど。……うーむ、マシュは飲めないし、アルトリアに関しては異世界初日で居酒屋に連れ込むのもなぁ、といった感じだし。

 ……まぁ、別にいいか。

 いちいち飯屋選びにまで時間掛けたくなーい。

 

 

「今日はあそこにけってーい」

「……何故かはわかりませんが、せんぱいが判断を投げたことだけは伝わりました」

「キーアちゃんも大概お疲れよねー」

『ははは、私には縁遠いことだから、ちょっとばかり興味深いね』

「あら、貴方飲み食いはできるはずだけど?」

『味は感じないからね。場の雰囲気を楽しむことはできるわけだけど』

 

 

 ……外野がうるさいが、気にせずに。

 行く場所をゆかりんに伝え、私達は揃ってスキマをくぐるのでした。

 

 

 

 

 

 

「また懐かしいお店ねぇ」

 

 

 そうして向かったのは、いつかの定食屋。

 店員さんが美人だったために、実はなりきり組なんじゃないかと疑ったりした、あのお店である。

 なお、場所が場所だけに客層が極端に変わる、ということもないようで。……いやまぁ、そもそもの話をすれば、定食屋なのに夜もやってるんだ、みたいなところの方が気になるところだろうけども。*2

 

 

「夜は居酒屋として、やらせて頂いてます」

「なるほどー。あ、焼き鳥お願いしまーす」

『私は冷酒を頼もうかな、こんな体だからそんなには飲めないけどね』

「え、えと。それではこの日替わり夜定食というものを……」

「はーい、少々お待ちをー」

 

 

 案内された席で、出された水をちびちびと飲みつつ、みんなが料理を頼むのを眺める私。

 ……席に着く前にアルトリアが、やけに不思議そうな顔で店内を眺めていたのが気になったけど……まぁ、多分異世界の店が珍しかった……とかだろうとあたりをつけて、私もメニューを開く。

 ……ゆかりんが焼き鳥頼んでたし、私はとりあえず唐揚げでも頼もうかなぁ?

 

 

「……こちらでは、洋食も出るのが一般的なのですか?」

「んぅ?……へぇ、リゾットとかパエリアとかグラタンとかもあるんだ、ここ」

「一応定食屋なのに、なんだか珍しいわねぇ」

「ああ、洋風定食もやってるんですよ、うち」

「ほへー」

 

 

 アルトリアがメニューを指しながら、不思議そうに声を溢す。

 見れば、メニューの一画には居酒屋とかではあまり見ないような、ハンバーグとかピラフのようなメニューが並んでいた。

 

 ……いや待て、よく見たらこのメニュー……。

 横からメニューを覗き込んでいたアルトリアに断りを入れて、メニューをパラパラと捲ってみる。

 和食、洋食、中華。フランス料理にイタリア料理、ドイツにインド・エスニック系に、果てはスターゲイジーパイ……。*3

 

 ……んんん。

 

 

「……えっと、店員さんはなりきり勢ではない、のですよね?」

「はい?……はい、()()()()()()ないですね」

「…………oh」

 

 

 メニューの内容があまりにも多様すぎるため、恐る恐る以前の問いを店員さんに投げ掛けてみたのだけれど……。あ、これアカンやつ。

 思わず額を押さえる私と、私の様子から事の重大さに気が付いたゆかりんが、小さく呻き声をあげる。

 ……関係ないけど、昔小学生の時に『今年の重大ニュースを纏めなさい』みたいな宿題があった時、暫く『十大ニュース』だと思っていたのは私だけじゃないと思う。……知らん?だよね。

 

 混乱からわけのわからない方向に思考が飛んでいる私の隣で、ぽんっと手を叩いたアルトリアが、楽しげに声をあげる。

 

 

「やっぱり、ここは()()()のお店だったのですね!道理で!」

 

 

 ……その眩しい笑顔とは裏腹に、御同輩とか道理でとか、気になる台詞が多過ぎて胃が痛くなってくる。

 半死半生みたいな自身の主と私を見かねて、ジェレミアさんが結論を告げた。

 

 

「……つまり、この店の店主と店員は、どちらも【顕象】だった、と?」

「わー!!聞きたくない聞きたくない!うちの節穴ぶりが明らかになるような話なんて聞きとうない!」

「紫様……」

 

 

 ……最初の勘であってたじゃねーか!!

 そんな思いから机に崩れ落ちる私と、いやだいやだと首を振るゆかりんなのであった。

 

 

 

 

 

 

「はいせんぱい、お水です。……落ち着きましたか?」

「……正直帰って寝たい」

「お気持ちはわかりますが、まだ暫く頑張ってください……」

「がんばるぅ~……」

 

 

 マシュに注いで貰ったお水を一気飲みして、気合いを入れ直した私。

 まだ酒も飲んでないのに「なんでよー!」と泣き上戸*4と化したゆかりんと、それを慰めるジェレミアさんを横目に、改めてこの定食屋の店員さんと向かい合う。

 

 ……美人だな、という感想が一番に浮かぶような、スタイルのよい黒髪の女性。

 特になにかしらの原作があるわけではなく、『異世界食堂』系の店員の概念の集合体……みたいな感じの存在らしい彼女は、人好きのする笑顔を浮かべて、今は私達の対面に座っていた。

 ……本当なら店主さんにも話を聞きたいところなのだが、今はまだ営業時間中のため、とりあえず店員さんから話を聞くことになっている。

 

 

「えっと、じゃあとりあえず年齢から……」

「せ・ん・ぱ・い?」

「あ、はい冗談です……えっと、名前とかはあるんでしょうか?」

 

 

 こ、後輩が怖い……。

 ちょっとしたお茶目だったというのに、目敏いというかなんというか……。*5

 幸い、そこらへん相手方は気にした様子はなかったので、そのまま話を続けることに。

 

 

「特にこれといってないのですが、皆様からはマキと呼ばれていますね。由来もなにもない、本当に呼ぶためだけの名前ですが」

「はぁ、なるほど。マキさん、ねぇ……。えっと、いつからこちらに?」

「この場所がこうして人の集まる場所になってから、でしょうか?」

「わー!!最初期からってことじゃないのそれぇー!!もういやー!!!」

「……え、えっと。なんで料理屋を?」

 

 

 途中、ゆかりんが大声をあげて泣き崩れたけれど、どうしようもないのでジェレミアさんに対処を投げ、そのままマキさんからの事情聴取を続ける。

 そうして聞くところによれば、彼女達はそもそもが料理漫画などに向けられた様々な感情から生まれた存在であり、料理を作るのはもはや呼吸をすることに近い、とのことだった。

 また、店主と店員のセットなのは、それが料理屋漫画のオーソドックスなメインキャラだから、なのだそうで。

 

 

「店主だけの話も多いですが、店員もいれば話の幅が広がりますし」

「なるほど……」

 

 

 男性店主と女性店員といえば、料理屋漫画ではわりとお馴染みの人選か。

 その基本型を起点として、彼らはこの建物に顕現したらしい。

 ……まぁ、顕現と言っても単なる飯屋、なにができると言っても結局は料理、それゆえに周囲に露見することもなく、細々と料理屋を続けていた……ということのようだ。

 いやまぁ、そもそもの話近くの飯屋が、波旬と宿儺がやってる店な時点で、普通のお店のはずがなかったんだけどね!

 

 

「……もうやってらんねー」

「せんぱい、どうか気を確かに……」

 

 

 もう知らねー、今日は酒飲んで寝るー。

 と半ば不貞腐れながら、お猪口の清酒を一気飲みする私なのであった。……マーリン?横で腹抱えて笑ってやがったからデコピンしときました☆

 

 

*1
『KINGDOM HEARTS』シリーズより、心を失った肉体と魂が別の世界で生まれ変わったもの。白い化物のような姿をしているモノが大半。基本的には雑魚敵

*2
定食屋はいわゆる『大衆食堂』と同一視されるもの。定食を主体に販売している場合、定食屋と呼びわけたりするようだ。夜は居酒屋になる店が多いが、夜に開かず昼だけ開けている、という店も多い

*3
イギリス料理でも有名な一品。嵐吹き荒れる冬の海に一人で漁に出て魚を獲ってきたトム・バーコックの行為をたたえ、12月23日に食べられるのが基本。星を(Star)眺める(Gazy)(魚の)パイの名の通り、パイ生地から魚の頭が突き出した、奇抜過ぎる見た目が特徴。縁起物でもあるため、この形式から崩すことはできないそうな。なお、星を見る人(Stargazer)ではない

*4
上戸(じょうご)』という言葉自体は、酒が多く飲める人のことを指す言葉。『下戸(げこ)』の対義語。由来は諸説あるためここには記さない。『上戸』だけだと単に酒に強い人、みたいな感じなのだが、手前に動詞がくっつくと、あんまり酒に強そうに見えなくなるのは何故なのか。意味もなく笑ったり、意味もなく泣いたり、意味もなく怒ったりする様が、酒に強そうには見えないから、なのだろうか?

*5
あっ(察し)

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