なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「がっ!!?」
「あらしぶとい。流石は腐っても竜、ってことかしら」
遥か遠方より、流星の如く放たれた一つの魔弾。
それは過たずビィの核──心臓の部分を撃ち抜き、そこに大きな風穴を開けることに成功していた。
本来なら、その時点でポリゴンとなって霧散してもおかしくないのだが……目の前のビィは瀕死の様子ながら、明確にそれを耐えてみせた。
──
とはいえそれを相手に悟られては元も子もない。
ゆえにキリトは先ほどと変わらず、イシュタルの真似をしながらビィを煽るのであった。
「くっ……くくく、中々やるじゃねぇか。だけどよぉ、オイラを倒すにはちょっと足りなかったみてぇだなぁ?」
「そうみたいね。見た感じリジェネもあるのかしら?」
「その通りだぜぇ。生半可な攻撃はそもそも効かず、例え効いたとしても一撃で倒せないのならそのあと回復して元通り……つまり、お前達にオイラを倒す手段なんてない、ってことなんだぜぇ!!」
「ふーん。ところで、一ついい?」
「なんだぁ?」
彼が語るところによれば、このビィというレイドボスは高い防御値・高い体力の上に、更に
ゆえに、彼を倒すのは不可能に近いとも。
……確かに、一般プレイヤーがまず越えられない防御値の上、それを越えた上でかなりの倍率の攻撃を当てなければならず。
しかも、それが例え『1』でも相手の体力を残す結果となれば、ほぼ確実に体力を全快される結果となる……と。
なにせ追撃にも高火力を求められるのだ、さらに二の矢があってもそれを当てる暇が無ければ意味がない。
なるほど、彼が慢心し増長するのも理解できる。理解した上で、油断なく構えている辺り狡猾にもほどがある。
だからこそ、キリトはそれを理解した上で、さらに煽りをいれる。
──そんなことは、端から折り込み済みであるがゆえに。
「悠長にお話をしてる暇がある、なんて思ってる辺り、竜の傲慢ってやっぱりあれよね。──敢えて言うわ、付き合ってくれてありがとう、ってね」
「は?なにを言って……!?」
彼女の言葉に訝しむ様子を見せたビィは、しかし背後に迫る何者かの気配に振り向き──そして仰天した。
そこにあったのは、周囲の浮島が幾つか繋ぎ合わされたような大きさの、まさに壁と言う他ない巨大な物体。
それが、加速しながら自身に襲い掛かって来ているのである。
「お、おおお!!」
意味がわからないが、ビィは反射的にそれを受け止めた。
何故なら、例えビィであってもこれは耐えられるか怪しいものだったからだ。
詳しい計算などは省くが、こういうフィールドオブジェクトにぶつかったことによって発生するダメージというのは、原則防御値を無視するようになっている。
例えどれほど頑丈な鎧を持とうが、落下して地面にぶつかればただでは済まない、というわけだ。
フィールド側が向かってきた時にどういう扱いになるかは不明だが、しかしダンジョンには左右から壁が迫ってきてプレイヤーを押し潰す、みたいなギミックもある。
……となれば、こういうパターンにおいても致死ダメージが適用される可能性はゼロではない。
ゆえにこの壁を受け止めたビィの判断は間違いではない。
間違いではないが──その前に試すべきものがあったことも確かな話。
(いや、攻撃すれば割れたんじゃねぇのか!?……いやダメだ、こうして受け止めたからこそわかる!こいつ
それは、この壁が壊せるのか否か。
こうして受け止めた今だからこそわかるが、その前に破壊を試すべきだったことは間違いない。
それを選べなかったのは、直前までキリトの戯れ言に付き合っていたから。
つまりこれは、相手の策略ということになり──、
「──おおっと、流石にこの程度では縛りきれぬか。なら次の手、というわけじゃな」
「───!?」
そうして次の動きを探ろうとした瞬間、耳元で聞こえてきた少女の声。
見れば、いつの間にか自身の肩に一人の少女が立っているのが見える。
その少女──ミラは、ビィが未だ冷静であることに感心したような様子を見せると、バッとその場から飛び降りた。
飛行能力も無いやつがなにを、と思わず目で追えば、彼女を抱き止めたのは先ほども空を走っていたサンジとかいう青年。
だがしかし、先ほどその人物はビィより遥か離れた場所に跳んでいたはずで、にも関わらずこうまで迅速にその少女を拾えたということは──、
「さーちゃん、ファイヤー!」
「了解。撃ち抜きます──!!」
「!今度はなっ!!!?」
その思考を掻き消すように、再度別の少女達の声。
そしてそれを聞いた瞬間、弾け跳ぶ目の前の壁。──それと同時、自身に襲い掛かってくる高熱と炎。
理屈は不明だが、不壊属性を持っていたはずの目の前の壁は崩壊し、爆炎と瓦礫をビィの身に降り注がせることとなっていた。
とはいえ、咄嗟に防御体勢を取ったためダメージは軽微。
ゆえにそれは直ぐ様回復し、相手の策略は徒労に終わったと確信して、
「──大いなる天から、大いなる地に向けて」
「……!!」
今度こそ、特級の危機が迫っていることに全身が総毛立つ。
振り返れば、いつの間に準備したというのか、キリトの背後に揺らめく大きな星の影。
それは瞬く間に圧縮され、小さな弾丸として彼女の武器──天の船・マアンナによって引き絞られる。
その間、およそ一秒にも満たず。ゆえにビィが出来たことは、
「今度こそ、本気よ!『
「う、うおおおおおおあああああああっ!!」
その砲撃に、自身の拳を合わせることのみ。
先ほどの爆発とは比べ物にならない、文字通りの致死の一撃。
まともに食らえば先ほどの射撃と同じく、自身を脅かすに違いないその一撃は、されどもビィの拳による攻撃と相殺し、彼の命を危ぶめるには至らない。
その姿に、キリトは内心震え上がっていた。
前提条件が違うとはいえ、この
それを自身の攻撃によって相殺するとは……あのティアマト神が劣化して再現されたものであるとはいえ、流石は創星の竜の器と言うことなのか。
……とはいえ、その驚愕を表に出すことはない。
「は、ははは!残念だったなぁ!オイラはこの程度じゃやられ」
「何度も言わせないで。私は言ったわよ、付き合ってくれてありがとうってね」
「───!!」
ここまで言われれば、ビィも悟るというもの。
目の前の攻撃は確かに相殺しているとはいえ、それが止む気配はいまだない。
ゆえに彼は前を向き続けなければならず、背後はがら空き。
──そう、先ほどの狙撃を受けることとなった、無防備な背後はがら空きのまま──!
だからビィは、背後の羽根に指令を出した。『オイラを守れ』と。
即座にその羽根は硬度を増し、あらゆる攻撃を通さぬ堅牢な盾となる。
──これで背後は完璧、とビィが笑みを浮かべた瞬間。
「──何度でも、撃ち込んであげる。敗北を告げる、弾丸の味。『ファントムバレット』!!」
「が、あっ!?」
──衝撃は、横からやってきた。
何故、と考えながら視線を横に向ければ、その遥か遠方に空を駆ける黒き巨大ななにかの姿が見えた。
「まったく……大神使を維持するにも結構な労力がいるんだから、ね!」
「ありがとうございますアスナさん。どうにか、私の役目をこなせました」
「あ、いや違うの!貴方に愚痴ったわけじゃなくてね?!」
それは、アスナの召喚する大神使と、その背に乗る少女達の姿。
彼女達は背後からの狙撃が警戒されていることを前提に、狙撃ポイントを移動していたのだった。
……理屈はわかるが、大神使が空を駆けることができている理由は不明である。
ともあれ、再度の狙撃を許してしまったビィ。
されど、結果としては先ほどと同じ。この狙撃ではビィの体力を全損できず、ゆえにビィは回復の余裕を得る。
それを阻むのが目の前の攻撃であるならば、それを打破すればいいというだけの話!
「残念だったなぁ、オイラはどれだけ傷付こうが動きはにぶらねぇ!ここまでやって押しきれなかったお前達の負け……っ!?」
「何度も言わせないでって、それこそ何度も言ってるでしょ?──もう終わってるのよ、アンタは」
ゆえにビィは今度こそ目の前の攻撃に集中しようとして──先ほどまでとは比にならない、命の危機を感じ取った。
確かに、さっきの攻撃も、今目の前にある攻撃も、共に自身を危ぶめる威力のものであることに違いはない。
だからこそ彼はそれを警戒し、ここまで対処を行ってきた。
だが、突然現れたこの気配はなんだ?
そこにあるのはたった一つの念。──
首元に刃を突き付けられているような、余りにわかりやすい殺気。
だからこそ解せない、何故この規模の殺気がことここに至るまで一つも察知できなかった?
「うーん、ある程度想定はしてたけど……ここまで札を切らされるとなると、このゲームを舐めてたと言わざるを得ないのかも。──だからまぁ、これに関しては得難い教訓として、しっかり胸に刻ませて貰うわ」
聞こえるはずの無い独白が耳に届く。
それが発せられたのは、最初狙撃が飛んできた位置──このフロアの開始地点である浮島。
そこに一人佇むのは、銀の髪を棚引かせる一人の少女。
彼女はまるで両手になにかを──恐らくは鞘に収まった刀を持っているかのように、静かに構えを取っている。
それだけだ、彼女がやっていることはそれだけ。
なのに何故、それを見ていると体が震えるのか。
その理由を、ビィは理屈ではなく本能で理解していた。
なにも持ってない?なにをバカなことを。
アイツは持っている、自分に届きうる牙を持ち合わせている──!
全力で防御しても足りるかわからない、今すぐにでも後ろを向いて待ち構えたい。
だがしかし、それを目の前の金星が許さない。この手を離せばお前を焼き尽くすと明確に主張し続けている。
ゆえに、ビィにできたことは。
「う、お、ああああああああああっ!!!!」
「っ!まだそれだけの力が」
驚いたキリトの前で、異音を上げながらビィの羽根が変貌していく。
いや、それはもはや羽根とは呼べまい。──翼。創星の竜に相応しき、荘厳にして優美なる王の翼。
恐らく、それを攻撃に転用すればこの場に居る全てを殲滅できるほどの力を持つ、余りにも雄々しき翼。
それほどのモノを自身が顕現させた事実に喜びの声すら上げそうになったビィは、
「あ、自分から特攻対象であることを強調してくれるとは、ありがとねー」
「────」
自身の選択が──
されどもう止まらない、これから起きることは確定事項。
今さら他の対処もできず、ゆえにその刃は牙を剥く。
「────神断流、派醒」
「う、お、あ、ああああああああああっ!!!!」
意味の無い叫びが喉から絞り出される。
なにを言おうとも変わらぬ、絶対の滅び。
それをもたらす一閃が、今、
「『龍封・断天閃』」
「──────」
彼の者の防御をあっさりと貫き、その身を縦に割る。
その様をキリトは見て──恐ろしい、と息を吐いた。
可能な限り周囲に影響は与えない、という彼女の言葉を信じ、以降の攻撃を任せたが──。
「いや、おかしいだろこの威力」
思わず素に戻って、呆然と呟く。
──巨大なビィを割ったその一閃は、その後ろに控えていた浮島ごと、直線上の物体を全て縦に断ち割っていたのだから。
その光景に暫し唖然としていた彼女は、されど気を取り直して最後の締めに掛かる。
こごまでやってなお、倒したというエフェクトか出現していなかったためだ。
ゆえに、対抗するビィの力が失われたことを確認し、駄目押しを指示しようとして。
「オイラは、オイラは、
「……えっ、はっ!?」
最後の最後にビィが叫んだ言葉に、別の意味で唖然とする羽目に。
直後、彼女の攻撃はビィを飲み込み、その五体を全て爆散させ──。
結果、『