なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「オイラはトカゲ!」
「精神崩壊してやがる……」*1
はてさて、巨大ビィ君が爆発四散した結果、そこから飛び出した小さな物体。
回収されたそれは、なんと小さな……と言っても元々のサイズなわけだが、ともかくビィ君本人なのであった。
なんでや、とツッコみたい気分を抑えつつ、彼から話を聞こうとしたのだけれど……ダメだこりゃ、完全に精神崩壊してやがる……。
いやまぁ、わりと真面目に死にかけたのだろうから、それも仕方のない話なわけだけど。
「いや言い方ぁ」
「一番追い詰めたのキーアさんだと思うんだけどなー」
「え?私攻撃なんてしてないけど?」
「え、でもあれって……」
「いや予め説明しておいたじゃん、あの戦闘中私は攻撃担当としては全く役に立たない、って」
「ゑ?」
……なんかこう、話が噛み合ってないな?
んじゃまぁ、先ほどの戦闘の反省会の意味も込めて、ちょいと解説に移るとしよう。
「オイラも詳しい話が聞きたいぜぇ」
「お、正気を取り戻したみたいだね?じゃあとりあえず前提から話すけど──あの戦闘において、役割が限られてたのはクラインさんただ一人だね」
「いやまぁ、キリの字やアスナちゃんがおかしいだけで、普通のプレイヤーってあんなもんだからな?」
まぁ、これが仮にSAOならそんな泣き言言ってられなかっただろうけどよぉ、と頭を掻くのはクラインさん。
今回の戦闘においては基本逃げ回るのみの役割、という形になっている。
……とはいえそれも仕方のない話、なにせ外ならまだしも『tri-qualia』内のクラインさんはほぼ一般プレイヤーのようなもの。『逆憑依』特有のプラス効果はあれど、それだけでは火力面で全く足りてないことは言うまでもなく。
その辺りを補えるものを持っている面々ならいざ知らず、クラインさんは今のところそういうものを持ってないので今回は囮・誘導役として立ち回って貰うことになっていた。
「……?囮ってそっちの姉ちゃんじゃねぇのかぁ?」
「キリトちゃんのこと?それに関してはビィ君も身に染みてわかってると思うけど、主な役割は煽り役と最後のとどめ役だよ」
「あー……あれ無茶苦茶だったもんなぁ」
ここまで話したところ、不思議そうな顔をしたビィ君がキリトちゃんを指差した。
囮、という意味では目の前であれこれやってた彼女の方が印象に残ったらしい。
……まぁ実際、囮という扱いでも間違いではない。
単に複合して色々役割を押し付けられてた、というだけの話であって。
彼女の主な役割は、唯一の飛行能力持ちとしてビィ君を撹乱すること、およびその流れで可能な限り自身に視線を向けさせ続けること。
そしてその最後に、宝具──もとい必殺スキル*2によるとどめを刺すことである。
実のところ、うちの面々でビィ君を倒せる存在は彼女くらいしかいなかったのだ。
「あれ?キーアは?」
「生憎外ならいざ知らず、ここでの私はダメージディーラー*3ではないので……」
「……そういえば、五層での戦闘でもどちらかというと補助役でしたね……」
少女ちゃんが思い出したように呟いたが……その通り。
基本的に『tri-qualia』での私はバッファーであり、火力を出すようなポジションではないのだ。
その辺りを踏まえると、まともにやってビィ君にダメージを与えられるのは──イシュタルの能力を持つキリトちゃん、大神使で押し潰しに掛かれるアスナさん。
それから、ギリギリダメージを通せそうな少女ちゃんと、それから反則になるけどハセヲ君くらいのもの、というか。
「……ん?そいつもなにか出来たのかぁ?」
「今回は裏方に回って貰ってたけどね。一応、やろうと思えば出来なくもないと思うよ?」
「その結果BANされるんならまだマシで、罷り間違ってAIDAでも生まれた日にゃ謝っても許されねぇことになるだろうがな」
そう、ハセヲ君の場合は『データドレイン』という反則技があるため、一応ビィ君相手でも対処できなくないのだ。
……まぁ、流石にあの大きさの相手を改変しようとする場合、明らかにゲーム自体への負荷が掛かりすぎるだろうから無理があるわけだが。
というか、『データドレイン』に関しては必殺スキルでもなんでもなく、普通に仕様外攻撃だから多用禁物だし。
「……え゛、それマジでデータドレインだったのか?なんかそれっぽい技とかじゃなく?」
「俺の場合この姿が『逆憑依』としての基本だからな、寧ろ使えねぇ方がおかしいんだよ。……つーか、そういう意味だとお前らも大概危ねぇんだからな?」
「あー、心意のこと?多分使ってる気はするんだよねー……」
私の言葉に、キリトちゃんが思わずとばかりに呻き声をあげる。
確かに、あの危ない攻撃トップクラスであるデータドレインが本物である、というのは驚愕の事態だろう。
どっこい、危なさ云々で言えばキリトちゃん達だって同じだというか。
……そういう意味では、ネトゲからの転移であるためこの空間と相性が良いと言うだけで、特に危険な能力のないミラちゃんはかなり安全な部類というか?
話を戻して。
今回ハセヲ君は、データドレインをフィールドオブジェクトに対して
内容は、そのオブジェクトの属性の書き換え。
破壊可能なオブジェクトであるそれらを、データドレインによって
「……あ、ってことは?」
「ご明察、あの浮島で出来た壁は、ハセヲ君がせっせと夜なべして作ってくれたモノだったんだよ」
「夜なべって……」
より正確に言うと、
クラインさん率いる面々は、浮島を次々と跳び回りながらその細工を施していたわけである。
「で、それに可燃性の液体を仕込み、さらに無数の軍勢を召喚してお主に特攻させたのがなにを隠そうわしの仕業、というわけじゃな」
「なんか裏に居る気はしてたけど……そうかぁ、ゴーレムの群れだったのかあれって……」
で、この世界と相性がよいお陰である程度自由にゴーレムを召喚できるミラちゃんが、先の浮島の壁を押してビィ君に突撃していた……と。
あとはついでにビィ君の近くに寄ることで、キリトちゃんに宝具のチャージ時間を与える役目もあったというか。
「代わる代わる展開することで、お主を困惑させる役目も負っていたというわけじゃな」
「で、俺の場合は空を走れるってことで、手の足りない部分の手助けってのが主な役割だったわけだ」
その役目を終えて飛び降りた彼女を抱き止めたサンジ君は、全体的な補助の役割。
キリトちゃんが取っ捕まった時の救助や、飛び降りたミラちゃんの確保など、もう一人の飛行()能力持ちとして、彼は結構重要な役目を振られていたわけである。
もしビィ君の防御がもう少し巧みであったのならば、それをその都度妨害するようにもお願いされていたり。
「……確かに、オイラの手を蹴っ飛ばすだけのパワーはあるから、そういう役目には持ってこいだなぁ」
「まぁ、あくまで弾くだけでダメージは入ってなかったがな。……その辺は武装の問題っつーか」
まぁ、このゲームの宿命というか、装備品として優秀な靴がないため火力要因にはなれないわけなのだが。
それでもノックバック誘発できるだけ十分なんだけどね?
サンジ君がそんな感じで便利枠だったのに対し、ピンポイント起用だったのがすーちゃんさーちゃんの二人である。
本来の姿ならともかく、今の二人は少女の姿。
……火力要因としては運用できないが、代わりにその姿に見合った射撃能力を備えていたため、そっち方面で活用した形になる。
「いや、このゲームのバッファーって凄いねー。強化幅エグすぎって言うか」
「代わりにデメリットも大きめですけどね。……その戦闘中攻撃行動及び防御行動不可、というのは中々重たいといいますか」
で、今回はすーちゃんの方をうずまき擬きによる狙撃主、さーちゃんの方を観測主としての起用となった。
これは、
付与術士の覚えられるスキルには、自身が攻撃・および防御行動を行えなくなる──観測主に徹する代わりに、対象一人に特殊なバフを付与する、というものがある。
この特殊バフ、命中精度や火力など、様々な部分を強化することができるかなり強力なものなのだが……一人がほぼ棒立ち化するデメリットの方が重すぎるため、滅多に使われないものだったり。
その代わりと言うことなのか、とりあえずスキルを使うだけならばサブ職に付与術士を追加するだけでほとんど手間も要らなかったりするので、今回みたいなパターンでは有効活用できるというか。
……正直、強化なしの二人の火力だと武器の関係でほぼ役立たずなので、そっちの方で押すしかないというか?
とはいえ、図らずも二人の共同作業みたいなことになったのが功を奏したのか、二人のコンディションは最高潮。
見事、難しいはずのギミックの起動をこなしてみせた……と。
まぁ、できると見込んでお願いしたので、やってくれなきゃ困るわけだけども。
「私たちの場合は、キーアちゃんにバフを掛けて貰った大神使で遠方から狙撃ポイントを探す、って感じだったかな?流石に背後からはもう通じない可能性が高い、って話だったし」
「私の方は、最初の一撃からずっとキーアさんにバフを掛けて貰いっぱなしというか……」
「え、バフ?」
「はい。さっきの付与術士が覚えられるスキルがどうとか……」
「…………」
「そんなに見つめなくても教えるってば」
で、アスナさんと少女ちゃんは、二人でビィ君の横っ腹をぶち抜くため大神使で遠方を移動。
私が大神使に付与した『
……で、今しがた彼女が触れたけど。
私が使ったバフというのは、確かに付与術士が覚えられるスキルではある。
……あるのだが、これを覚える条件が中々に厳しく、現状多分私しか覚えていない……と思われるモノになってしまっている。
そしてそのスキルこそ、私が『攻撃なんてしてない』という証拠になるのだが……あれこれ述べるより、スキルの効果を告げた方が早かろう。
と、いうことで。
「まず、覚える条件が『メイン職が付与術士であること』」
「え、サブじゃなくて?」
「うん、サブじゃなくて。……攻撃手段をサブ職に頼る形になるから、スキル覚えるのが辛いんだよねこれ」
条件はまず、メイン職が付与術士であること。
付与術士はその名の通り周囲の味方にバフを付与したり敵にデバフを掛けたりする職なのだが、びっくりすることに攻撃スキルを一切覚えないのである。
サブ職のスキルはメイン職を育てることで解禁されていくものなので、自身でジョブ経験値を稼ぎ辛い付与術士をメインにすると、育成が茨の道になってしまうのだ。
一応、サブに入れて育てる分にはまだなんとかなるが……その場合、サブ職のスキルを使った場合メインが機能不全に陥る、みたいなことになる可能性もあるので問題山積みというか。
ピンポイントで使いたい時だけセットするならともかく、普段使いとなるメイン職に付与術士を入れるのは正気の沙汰じゃない、というのは確かだろう。
……まぁ、その辺り私の場合はなんとかなる余地があったわけだけど。
「……?……あ、もしかして」
「そう、マジカル聖裁キリアちゃんのお陰というか、この姿になっても付与術士との相性は良いまんまなんだよね」
キリアちゃんが基本的に他者の補助特化であったためか、このアバターにおいてもその時の追加効果が有効になったままなのである。
そのため、メイン職なのにサブ職として育成できる、みたいな効果を得ていたというか。*4
……まぁ要するに、サブ職で戦闘できていたと。
その辺りはややこしくなるのでまたいつか説明するとして、ともかくそうして付与術士をメインにすることで覚えられるスキルの一つに、【他者集中:EX】というものがある。
これは先ほどさーちゃんが使っていた【他者集中】の上位版であり、かつ付与術士の覚えるスキルの中では数少ない『使用する場合術者がその戦闘中攻撃・防御行動を行えなくなる』というタイプのデメリットを抱えるもの。
その分通常のバフより高性能、というのが売りなのだが……基本的に強化率が対象のステータスが倍に到達するかしないかくらいのものであるため、有用ではあるものの使いにくい……という評価を受けているものでもあった。
……あ、この説明は普通の【他者集中】の場合の話ね?*5
どっこい、【他者集中:EX】の場合は話が違う。
確かに強化幅には然程差はない。無いのだが──効果範囲が違うのだ。
「効果範囲?」
「具体的に言うと、一時的に強化対象の
「え」
「攻撃値ないし防御値を一段階、場合によっては二段階上げられるってわけ」
「……チートでは?」
「その分攻撃と防御だけじゃなく移動も縛られるんだけどね。正直スキルのダメージ倍率が高いヘカートⅡ相手だからこそ意味があったというか」*6
攻撃値『3』でギリギリ『5』にダメージを与えられるくらいの補正があるからこそ輝く、みたいな?
あとはまぁ、相手がコラボ武器であるため、補正値の上昇で重複スキルが有効になるというのもプラスに働いたというか。
結果、攻撃値『5』相当になった上に更なる火力プラススキルも有効になったヘカートⅡは、巨大ビィ君の体力をあと一歩で全損させるほどの威力になった、というわけである。
「……あれ?じゃああの攻撃は……?」
「『龍封・断天閃』のことだろうけど……あれ、ノリでそう呼んだだけでやってることは『龍属性・神属性・巨大属性を持つ対象に対し、属性を満たすごとに成功率・効果の上昇するデバフ』をぶつけただけだからね?」*7
「……あー、ビィ君がバハムートの器だからこそ、よく効いたってことか……」
「最後にその辺りのことを否定したからこそ、効果範囲から逃げられたとも言えるね」*8
巨大な自身から小さな自身を切り離し、属性をそちらに置き去りにすることでデバフの対象から逃れた、とも。
……その辺りの判断が咄嗟にできる辺り、なんともクレバーな存在だなぁ、と思わず唸ってしまう私のなのでありましたとさ。