なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……仕事終わり・帰る間際に、追加でめんどくさい仕事が入ってきた時のサラリーマンの気分だったよ」
「私は帳簿にミスが見付かった時の、年末帰る前の気分だったわ……」
女二人、話をするだけで悲しくなってくるような話題に花を咲かせつつ、
あのあと、結局リゾットやらピラフやらの洋食系を頼んだアルトリアと、あいも変わらずオレンジ系にこだわりを見せるジェレミアさんなどの注文も終わり、今はとりあえず料理に集中しよう、と全部を先送りにした私達。
……酒を飲むと愚痴っぽくなるせいで、結局先送りにできてないような気がしないでもないけども……まぁ、それはそれである。
「むぅ、マーリン?何故私には、お酒の類いを一切飲ませようとしないのですか!」
『ああもう、
「
『うわぁ?!だから別に、君になにか思うところがあるわけじゃないんだってば!……この人、酒も飲んでないのに絡んでくるんだけど?!』
「そりゃ貴方が悪いわよ。羽毟られないだけマシだと思いなさい」
『恐ろしいことを言うな君は?!』
マーリンは先ほどから、カシスオレンジやらカルーアミルクやらの、軽めの酒類*2に手を伸ばそうとするアルトリアを、ずっと押し留めている。……わりと必死に見えるが、まさか彼女は悪酔いするタイプなのだろうか?
隣のマシュもわりと空気酔いとかするタイプなので、ちょっと心配というか、怖いというか。……プラシーボも起こすタイプだからなぁ、彼女。*3
まぁ、幸いにして彼女は今のところ、普通に夜定食に舌鼓を打っていらっしゃるけども。
ともあれ、だいぶ賑やかな夕食風景である。
ついでに言うなら、感覚的にはかなり久しぶりの、日本での食事である。
『向こうの一日はこちらでの一分。……一月ほどの滞在だったから、経過時間は三十分ほどだ。周囲からすれば、懐かしいと感じる君の姿は、少しばかり不思議なものに見えるだろうね』
とはマーリンの言だが……期せずして、いつぞやかにヤベーモノ扱いしていた、バーストリンカー*4の同類になってしまうとは。
つくづく、人生と言うものは山あり谷ありである。
『せんぱーい?たそがれるのは構いませんが、人生にお疲れならメンタルへ!*5……ならぬ、貴方の心の処方箋、BBちゃんをお忘れですかぁ~?』
「そ、その声は!我が友、李徴子*6……もとい、具体的には三章終わり頃からすっと姿の見えなくなっていた月の上級AI、BBではないか!?」
『はぁい、
『ほぉー?なるほど、電子の妖精まで居たとは。私に驚く必要性、なかったんじゃないかい?』
「……?え、罵られたかったの?」
『いや
と、ちょっとしみじみと頷いていたら、勝手に画面が点灯し、ホログラムのように空中に飛び出してくる小さな人影。
現れたのは、最近確かに姿を見ていなかった気のする、BBちゃんであった。……いやちょっと待った。今私のスマホから飛び出した?どうやって?
……聞きたいことが増えてしまったが、今は再会を祝うだけにして、彼女の話を静かに聞く私。……と、横合いから会話に割り込んできたマーリンに、なに言ってんだこいつ……という視線を送る私。
私と私で私がダブってしまったな。……私が私を見つめてました?*8
『いや、気安く分裂しようとしないでくださいねせんぱい?』
「リアルに分身できる人とかいないから、思考がどんな感じになるのかはちょっと興味があります」
『どこかの蜘蛛の子*9みたいに、ヤバいことになる予感しかしないので止めましょうね』
「はーい」
うむ、いつも通りの打てば響く会話である。……こうしてくだらない話をしていると、帰ってきたのだと実感するなぁ、としみじみしながらお猪口の中身を一口。
……うん、見た目だけだと凄いなこれ、幼女が日本酒飲んでるとか。まぁ、東方とかだとよく見る光景だけども。
そうして、夜の時間は流れていって───。
「聞いてましゅかせんぱい?!」
「はい、聞いてますよ」
「……や、やっと寝落ちした……」*10
数分後。
……いやさ。やらかしおったマーリンに対抗して、アルトリアにカルーアミルクをあげたのだけれど。
「マーリンの奴はどこだぁっ!!ひっく」
『はぁーい!さっき綺麗な女性を見掛けたので、ほいほい声を掛けに行きました~☆』*13
「おのれマーリン、ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
「よう、お前ら……満足か?こんな
……収拾が付かねぇ!
誰だよアルトリアにお酒なんて与えたの!……私だったわどうしようもねぇ!!
『約束された勝利の剣』を二本持ちして、キレ顔ダブルソード*15しているアルトリアさんと、そんな彼女に逃げたマーリンの所在を投げるBBちゃん。……(状況が)終わってやがる、早すぎたんだ!*16
「ネタの大渋滞ねぇ。……まぁ、いつも通りに戻ったといえば、その通りなんだけれども」
「いつも通りかなぁ!?これ、本当にいつも通りかなぁ!?」
店内でエクスカリバーを振り回そうとするアルトリアを、背後から羽交い締めにしつつ押さえ付ける私と、その隣で呑気に枝豆を剥きながら食べているゆかりん。
ジェレミアさんは気を利かせて店内の避難誘導を行っているし、店主と店員の二人は楽しそうに笑うだけ。何故か近くを通っていた子犬も、しっぽを振るだけ。……ん?*17
ともかく、この事態をどうにか鎮圧しなければ、なりきりの未来はない!
大袈裟ねぇ、と酒を飲み続けているゆかりんは、現状毛ほどの役に立たねぇから無視だ無視!
「そういうわけでゆかりさん!手伝ってください!」
「ほわっ!?……なんでこういう時は、目敏く私を見付けるんですかキーアさん」
「そっちこそ、そんな抜き足差し足忍び足で動いてたら、声を掛けてくださいって言ってるようなものだと思いますよ?」
「くっ、言われてみれば……」
なのでいつかのように、ゆかりんちぇーんじ!
ゆかりはゆかりでも結月のゆかりだ、さすがの馬力だ地力が違いますよ!(?)
……というわけで、前と同じように店内に居たゆかりさんに、救援要請。
クエスト内容は『暴走アルトリアの鎮圧』。……
「呼んだかしら、子ネコ?」
「呼んでなっ……いけど、来てくれたならありがたい!手伝ってエリちゃん!」
「……あれ?冗談のつもりだったのだけれど。でもまぁ、求められたのなら答えなくっちゃね!」
なんて、余計なことを考えたせいか、すっとスライド移動してくるのは天下御免のエリザベート・バートリー。……そのスライド移動は、余所のゲームの十八番じゃないですかね?*18
まぁ、ともあれ。
清楚な白百合のごとき少女騎士から、ともすればゴジラ辺りに例えられるようなバスターぶりを発揮し掛けているアルトリアに対峙する私達。そう、
「キーア!」
「ゆ、ゆかり?」
「エリザベート!」
「ゆかり!」
「オレンジ!」
「「「「「五人揃って、ゴレンジャイ!」」」」」*19
……………。
……うん、
いそいそと元の場所に戻っていく
「というかですね、ツッコミはしないと仰いつつ、何故か棒立ちでこちらを見ているリリィさんにも、ちょっとばかり疑問が湧くというかですね?」
「勇気が湧いてきたわ!」
「りんりんに湧いてきたぞ!」*20
「いやだから、脇道に逸れないでくださいってば」
ふむ、ゆかりさんは今回落ち着かせるべき相手である、アルトリアが何故か棒立ちなのが気になる様子。
確かに、さっきまで烈火のごとく荒ぶり猛る獣……もとい部長みたいな様相だった彼女ではあるが、現在はまるで電池が切れたかのように静止している。
これで彼女の後ろの方に、
まぁ、酔っぱらいだしなぁ、とため息をついて、固まっている彼女に(ゆかりさんからの制止を聞き流しつつ)近付けば。
「……うん、やっぱり。酔いが回って寝てますね」
「ええ……じゃあ私、捕まり損じゃないですか……」
微かな寝息を漏らしながら、立ったまま眠っているのが確認できた。
うん、なんかその、すみませんねゆかりさん?凹凸に巻き込んだ挙げ句、唐突に解散ですわ、これは。
……流石にそれだと彼女に悪いので、一品奢ることでチャラにして貰いましたとさ。