なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
結局、問題解決については投げることにした。
今の彼女の均衡を崩し、どちらかに傾けるのがいいのかもわからない以上、成り行きに任せるのが一番だと判断したためである。ビバ日和見!
……まぁ、日和見に移行した一番の理由は、本人がさっきまでに比べてリラックス──安定しているから、というところが大きいが。
もしこれが本人のメンタルバランスガッタガタなら、早急になにかしら対策を考えるべきところだけど……ご覧の通り彼女の様子は健康そのもの。
ビィ君によるアニマルセラピーでも行われているらしきその姿に、一先ず彼の身を差し出して安定するならそれでいいや、となった次第である。
「オイラは哀れな犠牲者!」
「ははは……まぁうん、頑張って……?」
「でも、本当によかったんですか?私がこの子を頂いちゃっても」
「見た感じ特別な効果とかない()*1みたいだし、貴方が居なかったらそもそも倒せてなかっただろうから気にしないで」
「はぁ……」
なお、ドロップ品扱いであるビィ君の所有権は彼女に譲った。
……彼がドロップ品であるということに気付かず、なんなら私たちの会話すら右から左に聞き流して彼を愛でていた彼女は大層驚いていたが……。
ビィ君を手離したくないオーラを滲ませていたこと、およびドロップ品としての彼には特に変な能力はない()ことから、私たちは満場一致で彼女にビィ君を渡すことに決めたのだった。
当のビィ君からは、恨めしいという念が漏れていたが……すまんな、既に成立した【顕象】よりまだ成立してない『逆憑依』の方が優先度は高いんや。
などと心の中で謝罪しつつ、話を戻してここからどうするかということになるのだけれど。
「うーん、別にビィ君ってフロアボスでもなんでもないんだよねー……」
「……あ、そういえばそうか。唐突に湧いた野生(?)のボスでしかないから、別に倒しても次のフロアへの道が開いたりはしないんだね」
「お主、大概はた迷惑というやつではないか?」
「オイラはドロップ品!」
(恨めしい気持ちを隠してまで、ドロップ品として振る舞うことで追及から逃げてやがる……)
あれだけの戦闘を終えたあとでなんなのだが、実のところあれは突発的に発生したモノであって本筋のボスというわけではない。
そのため、掛かった労力に対して得られるものがほとんどない、というなんとも言えない状態になっているのである。
分かりやすくいうと、使ったモノに対してリターンが無さすぎ。
「特に必殺スキルを使っちゃった面々が、ね」
「えーと……確かこのゲームでの必殺スキルってのは、一日のうちに使用できる回数の定められた強力なスキル……って認識で良かったか?」
「そうなるね。……特にキリトちゃんの
特に、費やしたリソースとして痛いのが必殺スキルの使用回数。
キリトちゃんの『
「……あれ、一回?なんで?」
「攻撃の瞬間だけ強化、みたいな風に説明したでしょ?」
「あーなるほど、二発撃ったから二回分ってことか……」
うん、なんとも使い辛いことに攻撃一回につき使用回数一回分必要なんだよね。
連続攻撃とかなら一連の動きで一回分……って扱いになるけど、生憎狙撃みたいなタイプの攻撃は一発大きいのをドカン、という形になるので何発も撃つならその分強化をかけ直さないといけない、と。
……そういう意味で、本当に彼女以外で勝ちを拾うのは難しかったんじゃないかなーって。
最終手段としてキリトちゃんの宝具を強化する、って方法もあるけど、あれはチャージタイムを必要とする上になんとかして相手を止めないと普通に避けられる可能性があるし。
……え?本来の攻撃範囲なら逃がさずに倒せるんじゃないのかって?
その場合フィールド全域かつ
「……まさか、敵味方識別なしってことか?」
「そんなお優しい機能がついてるわけないだろ……っていうか、そんな打ち方したら俺も巻き込まれるっつーの」
「ええ……」
クラインさんがキリトちゃんの説明に唖然としているが……よく考えて頂きたい。
何故かその格好をしているし宝具も使えるけど、キリトちゃんはそもそも
言い換えると、彼女が宝具を使えるのはある意味イシュタルのお目こぼしがあってこそ。
それすら無くなる全力運用、なんて
……あれだ、仮に外から凛ちゃんを連れてきて、彼女にその装備をあげるとかすればその辺りの利便性もアップするかもだけど……。
「その場合、確実に凛ちゃんイシュタル化するよ?【継ぎ接ぎ】としてあんまりにも相性がいいからトラブルメイカー増えるよ?」
「そしてその上で、本当に周辺被害を考えて手加減してくれるか怪しいって話になるな。……寧ろ『私の宝具に巻き込まれて死ぬとか、逆に感謝を私に捧げるべき栄誉だと思うのだけど?』とか言われかねないというか」
「うわぁ、言いそう」
あとはまぁ、下手すると相性良すぎて
……ともあれ、イシュタルとしての攻撃の時点で大概なのに、それに『他者集中:EX』まで付与なんてしてたら自殺志願以外のなにものでもない、というのは間違いあるまい。
そこまでしてもチャージタイムが必要、って部分が変わるわけじゃないし。
なんなら相手によってはその隙に逃走・ないし妨害が飛んできておじゃんになる可能性も否定できない。
それなら、彼女以外にもう一本の矢を用意し、そちらを確実にぶちこめるようにした方が確実であったのだ。
そこら辺も考慮して今回のMVPは少女ちゃんになったし、ドロップ品を入手する権利も得た……と。
「なるほどなぁ、色々考えた上でのこの結果、ってわけか」
「無視してたらどうなったかわからない、ってのも理由にあったしねぇ」
得るものはなくても、護れたものはあったんじゃないか、みたいな?
……そんな感じに自分を慰めてみるけど、現状でフロアの奥まで進もうとするのはわりと自殺行為、というのは変わらないので話が振り出しに戻った、というのと事実なのであった。
いや、真面目にどうしようねぇこれから。
結局、あのあとの話し合いで『とりあえずボス部屋の前まで進んでみよう』という話になった。
ボスに挑むのは無謀だが、その手前まで攻略するくらいなら今の私たちでも余裕だろう、と判断したためである。
あとはまぁ、運良く他のパーティがボスに挑む場面に出会せられれば、そこからボスの情報を得ることもできなくはないだろう……みたいな打算もなくはなく。
無論、そのまま他のパーティがボスを倒してしまう可能性もあるが、その時はその時である。
「まぁ、別にボスドロップがどうしても欲しいってわけでもねぇしなぁ」
「高階層ならともかく、現在地まだ六層だからね。それも百層あるうちの」
「ボス泥を粘るんならもっと上でやるべき、ってことか」
そんな感じのことを話しつつ、浮島をひょいひょいと渡っていく私たち。
足を滑らせて落ちたらデスペナであることは変わってないが、今ならキリトちゃんなりサンジ君なりに助けて貰えるのである程度余裕ができている、とも言えるか。
その辺りがない他のパーティは、現状私たちより遥か後方を、おっかなびっくり飛び進んでいる。
……この分だと、私たちより先にボス部屋にたどり着く人、ってのはいなさそうだなぁ。
「こっちは早々にキーアが試したからあれじゃけど、他のプレイヤーはまだ慣れておらんじゃろうからのぅ」
「あー、SAO系なのに即死フィールドなんて持ち出されたら思わず足も竦むってことか」
「向こうもそんなことにはならん、とはわかっておるじゃろうがの」
やっぱデスゲームって匂わせただけで問題だよなぁ、とミラちゃん達の会話に小さく頷く私である。
で、そんな感じで会話してるうちに足場がしっかりしたモノに変化していく。
どうやら浮島ゾーンを通過し終わり、中心部分に到着したらしい。
街などは見えないが、ちらほらとさっきまで居なかったはずのモンスター達の姿が見えるようになってきた、というか?
「……そういえば、ああいう浮島に付き物の飛行系のモンスターとか見なかったね?」
「言われてみれば確かに……飛び移る最中に邪魔してくる鳥とか、ああいうフィールドではお約束のようなものだと思っていたのですが」
「そこまで意地悪じゃなかったってことか、もしくは──」
「オイラは空の王者!」
「……実はビィ君討伐の報酬だったり?」
「あー、無くもなさそう?」
ちゃんとした地面を踏んでその感触を確かめていたさーちゃんが、私の言葉にそういえば……という感じに声をあげる。
それを受けて隣のすーちゃんが相槌を打っているが……確かに、言われてみれば鳥とかワイバーンとか、ああいう空中フロアで襲ってきそうな雑魚モンスターに出会わなかったな、と今更ながらに思う私。
一応、突発的に現れたボスであるビィ君が関係している、という可能性はなくもない。
ボス戦中小型の敵はポップしなくなる、みたいなあれがここにたどり着くまで継続していた、とか?
まぁ、仮にそうだとすると後続の他のパーティ達が酷い目に合うことになるわけだが。
……やっぱり私たちより先にボス部屋行きそうなとこないな?
ってことは、さっさとボス部屋まで行ってチェックポイントを発生させ、次回はそこへのワープを使って戻ってくる……という形にするのが無難かなぁ?
なんてことを考えがら、襲いかかってきたゴブリンの処理をクラインさんに任せる私なのであったとさ。