なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
この場所がとんだバグまみれ遺跡であることがわかったわけだが、それによって思い浮かんだことが一つ。
「……もしかして、やっぱりこの遺跡の中って空を飛んでどうこう、って本来できないんじゃ?」
「ま、まさか……」
「バグでその辺りの判定もおかしくなってる……?」
いやそんなバカな、でもそれにしては云々。
……うん、仮にもこのゲームは『tri-qualia』。
そんな初歩も初歩っぽいミスなんてするのか、という気分になってくるのだけれど。
こう、その予想をひっくり返しかねない空気感が漂っている、というのも確かな話。
なんといえばいいのか、色々見逃してる感じがする……みたいな?
本来は空を飛べないんじゃないか、というのもそう。
ファイソ床がファイソ床してるのは恐らくバグのせいだが、それが正解であるならばこの床はちゃんと上に乗った存在を慣性に従って向こう岸に運ぶはず。
……逆に言うと、もし仮にこの遺跡内でも飛行技能が使えるのなら、これらの足場は不要ということでもある。
これ見よがしに設置されているがら扱いとしては単なるインテリアみたいなもの、という判定になってしまうと言えばよいか。
──それこそ『tri-qualia』がそんな適当な運営をするのか?
という疑念を引き寄せてしまうわけだ、それならそもそも空中を移動する床など設置せず、全域空中移動で済ませる方がコンセプト的にもあっているだろう……みたいな感じで。
「コンセプト云々についてはなんとも言えないけど……でも確かに、道中のあれこれを思うと飛行技能必須、みたいな感じの方が
「その場合遺跡に来る前になにか拾ってないとダメ、ってなりそうな点も含めてね」
落ちれば死ぬ、という浮島を道中に設置し、それを嫌がるようにプレイヤーに仕向け、その不安を解消できるようなアイテムが無いかと探しに行かせる……。
ゲームの動線としてはそう仕込む方がわかりやすいだろう。
無論、ダクソみたいな死に覚えゲーとして作ってあるならば、不安を解消できるアイテム──飛行関連のアイテムなんてなくて、自力で頑張って越えてね?
……みたいなことを言い出す可能性もゼロではないけど。
でももし仮にである、こっちの予想が正しくて、この遺跡内では本来
「……バグってて良かった、ってことになるのか?」
「正確には一部だけバグらなくて良かった、だね。全部バグってるなら相対的にはなんでもあり、ってだけの話だから」
一部だけバグってて進行不可、みたいなことになってなくて良かったと、なんとも言えない安堵の言葉が飛び出すことになるのでありましたとさ。
さて、バグまみれフィールドであることがほぼ確定となったこの遺跡。
……となると、問題になってくるのは一つ。
「……床の当たり判定が唐突になくなってる場所とかあるかも?」
「あー、バグゲーにありがちなやつ……」
「で、落ちたら即死と。……なんなら壁の方もやべー可能性あるな……」
この空間、本当に真っ当に進めるものなのか、ということ。
本来発揮されるはずの法則までバグっているとすると、一番恐ろしいのは床や壁が抜けることだろう。
単純に足を踏み外して落下死はもちろん、場合によってはハセヲ君が想像したこと──抜けて落ちたり進んだりする途中で、壁の当たり判定が復活するパターンも恐ろしい。
「判定が復活、とな?」
「そう。『かべのなかにいる』が容易に発生する状態、とも言えるかな」
「ヒェッ」
あれだ、壁や床の当たり判定が根刮ぎ消えているのではなく、たまたまその計算をする式がバグによって機能していないだけのパターン、というべきか。
この場合、進んでいる最中で唐突にバグが効力を失い、結果として正常な床や壁の状態を取り戻す……という可能性がある。
そうなるとどうなるか?……原則破壊不可能のはずである壁や床に囲まれ、進むことも戻ることも、なんなら遺跡の内部なので安全地帯に戻ることもままならない愉快なオブジェの完成……である。
これなら寧ろ、落下死して再ポップする方が遥かにマシだろう。
自由空間に近い場所で固まったのならともかく、もし仮に範囲攻撃も届かないような位置で固まってしまった場合、他者からの介錯すら受けられなくなり、実質的に『詰み』になってしまうのだから。
「まぁ、中の人は最悪ログアウトすればいいんだけど……」
「その言いぐさだと、なんか問題があるみてぇに聞こえるんだが……」
「大有りだよ。このゲームウインドウ呼び出しはジェスチャー起動でしょ?」
「……あっ」
この『詰み』というのは、色んな意味で詰みである。
……まだ一般層ならどうにかなるだろう。手元のコンソールでコマンドを入力し、ログアウトボタンを押せば良い。
ログアウトしたあとキャラをどうするのか?……という問題はあるが、当座の問題はとりあえず解消できてはいる。
どっこい、私たち『逆憑依』の場合は事情が違う。
強制フルダイブになるせいで、ウインドウの呼び出しがジェスチャー……本来のSAOのように『中空に向かって腕を上から下に振り下ろす』という形になってしまっているため、仮に『かべのなかにいる』状態になってしまうと自発的にログアウトできなくなってしまうのである。
一応、感覚が同期しているだけなので無理矢理頭からHMDを外す、みたいなかなり乱暴な解決手段もなくはないが……。
「その場合、こっちの世界の私たちは壁の中のまんま*1。ついでに言うと『逆憑依』はアバターの感覚がうっすら本体にもフィードバックされるから……」
「……あー、なるほど。ゲームの中ゆえに死ぬことはないが、逆に言うと現実でもずっと
「怖っ!?なにそれ滅茶苦茶怖ぇんだけど!?」
クラインさんが滅茶苦茶叫んでいるが……それも無理のない話。
もし仮に『かべのなかにいる』状態になってしまったなら最後、場所によっては永遠に息苦しい世界の中で生き続ける羽目になるというのだから、そりゃまぁ恐怖以外のなにものでもあるまい。
それでも、仮に現実で『かべのなかにいる』状態になるより遥かにマシだというのだから、なんというかアレだなーと思わざるを得ないキーアさんである。
「……今の段階でも既にげんなりしてるんだが、現実に起こったらもっとやべーのか?」
「皮膚呼吸が阻害されるから苦しいどころじゃないし、全身圧迫されて骨が砕けるどころの話じゃない、みたいな話もあるけど……一番の問題は『いきなり壁の中に放り込まれる』ってところかな」
「?」
「コンクリート詰めとかって結局のところ、後からモノを入れて固めてるわけじゃん?……テレポートとか透化技能とかで壁や床を進む場合、それがなんらかの理由で無効化された際に起こることって、雑に言ってしまうと
「ヒィッ!?」
うん、実際に『かべのなかにいる』状態に陥った際、普通は死ぬというのはそういうこと。
掘り進めるのではなくいきなりそこに割り込ませる形になるため、体内の空間は全て移動先の物質が実体化するための『空き』として扱われるわけである。
……無論、体の形に壁をくり貫いてそこに突っ込む、という形でもその内息ができなくなって死ぬのは変わらないが。
そうじゃないパターンの場合は肺や胃袋・脳や腸などの至る空間に、壁や床が容赦なく割り込む形となる。
結果、息とかなんとか言ってる場合じゃなく、即座に死亡すると。
いやまぁ、実際にはそんな状況は自然界において絶対に起こらないものであり、本当に即死するのかはわからんのだけれども。
「でもまぁ、どっちにしろ恐ろしいって点では変わらないよね。……で、それが現実だったら起きていた、ってことを悟らせるような感覚がずっと残り続けるってなったら、正気でいられるかは怪しいところがあると思わない?」
「怪しいっていうか今の話のせいで絶対になりたくねぇって感想しか出てこねぇよ!!」
「だよねー。そういうわけで、はい」
「……んあ?なんだこれ」
ともあれ、そんな危険を自身に思い知らせてくるような感覚と、これから永遠に付き合い続ける可能性が万に一つもある……となれば、ここから先に進む勇気が減じてしまうのも事実。
そんなわけで、それらの恐怖を解消するアイテムを一つ用意していた私は、それを彼らに配り歩いたというわけである。
キョトン、とするクラインさんの手のひらの上に置かれたのは、飲み薬くらいの大きさの黒くて丸い粒。
外見からではなにに使うものなのか全く判別できないそれを、クラインさんを筆頭とした受け取った面々は繁々と眺めている。
みんなが受け取ったのを確認した私は、咳払いをしてこう告げたのだった。
「噛み砕いて使う自爆薬だ。耐えられなくなった時に使うがいい」
「まさかの自決薬!?」*2
どうしようもないなら自分から死にに行くしかないからね、仕方ないね。
……なお、最初はびびってた面々も、さっきまでの話を聞いて『自爆した方がマシだな……』となったらしく、最後には素直に受け取っていたのでしたとさ。