なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
次の日。
完全に酔い潰れた二人を、家に連れ帰った翌日のこと。
『ほほーぅ?これはこれは、良い趣味をしていらっしゃる』
「そっちこそ。いやー、まさかここに来て君みたいな同士が増えるとは思わなかったよ。……おっと、ここでのことは内密に……」
『わかっているさCP君。私達の利益のため、ここは密約といこうじゃないか……!』
……これは、止めた方がいいのだろうか?
二階の空き部屋の一つで、
正直厄介事の匂いしかしないのだけれど、起きてきたばかりの私の頭では、なんとも判別が付かない。
……んー。
「めんどくさいからいいや……」
起きがけに頭を使わせようとするんじゃないわよ、知らん知らん面倒事になったらその時の私がどうにかする、はい解散!
……と、かなり意味不明な思考の果てに部屋に戻り、ベッドにダイブして。
「───いやよくねぇ!?」
思考が幾分かまともに動き始めたため、慌ててベッドから起き上がり、奴らのたむろしていた部屋に戻って。
「くっ、もういないだとっ!!?」
奴らの悪事を止めるタイミングを逃した*1ことが判明して、思わず頭を掻きむしる私なのでしたとさ。
なりきり郷にある一般的な家屋が、空間拡張技術をふんだんに使ったものである……ということは、皆さんご存じのことだと思う。
実はこの技術、言葉の雰囲気から感じとれるモノよりも、遥かに凄い技術だったりする。
なんと、部屋の模様替えやら配置替えやら、あらゆる内装に関する手間暇を、全てワンタッチで解決できてしまうほどの利便性・拡張性があるのである。
この部屋を借りた時には寝室が石造りの宿屋みたいな感じだったのが、現在はごく普通のオーソドックスな洋風の寝室になっているのが良い例だろう。
一応上限というか許容量というか、そういう限度というものが定められてはいるわけなのだけれど。
逆に言うと、その
「まぁ、これは魔法学院の寮と同じ間取りなのですね?」
「アルトリアにはこっちの方が良いかなってね。一応、ルイズの部屋と同じ間取りになってると思うけど」
彼女に貸し与える予定の部屋の前に立ち、手元の端末で部屋の模様替えを敢行し。
作業が終わったことを確認して扉を開けば、中に広がるのはトリステイン魔法学院の生徒寮と、同じ間取りの一つの部屋。
使用できるキャパ的に、王都の彼女の部屋を再現……とはいかなかったので、代わりに彼女の親友である、ルイズの部屋の間取りとでき得る限り同じものを、こうして用意してみたのだった。
結果はご覧の通りの好評。
お姫様のお墨付きも頂き、密かに胸を撫で下ろす私である。
……それにしてもこの改装システム、ホントオーバーテクノロジーだな……。
見た目的に一番近いのは『PSYCHO-PASS』のホログラム技術*2だと思うのだけど、あっちと違って四次元ないし虚数方向に実体を実際に保存し、それを組み換える方式を取っている……らしく。
なので、見た目だけ変わっているわけではなく、例えば内装にソファーを加える時に、材質やら何やらを指定すれば、ちゃんとその素材によって作られたソファーそのものが、構築されて配置されるのだそうだ。……質量保存の法則とかは、全て四次元やら虚数空間やらが解決してくれているらしい。
かがくの ちからって すげー!*3
……まぁ、実際に使っている側からすれば、ソシャゲのルーム機能*4の組み替え……みたいなものにしか見えないわけなのだけれども。
実際、部屋のセッティングに使われるUI*5は、あれらを参考にしたもののようだし。
そういうところは、オーバーテクノロジーなんだかローテクノロジーなんだか、ちょっと疑問が湧かないこともない……かな?
と、そんな感じで。
とりあえず、部屋の中を物色しているアルトリアに「終わったらリビングまで来てね、朝御飯用意しとくから」とだけ告げて、そのまま部屋の外に出る。
あの様子だと、暫くは部屋の中を探索して、内装に一喜一憂していることだろう。
その間に、こっちはこっちであれこれと準備をしなければ。
部屋を離れたその足でリビングに向かえば、併設されたキッチンから漂ってくる、香ばしいいい匂い。……肉の焼ける匂いのようなので、ベーコンでも焼いているのだろうか?
カウンターからひょいとキッチンを覗き込めば、マシュがフライパンで大きなベーコンを、カリカリに焼き上げている最中だった。
人の気配を感じたマシュが、視線を上にあげてこちらを見る。……花のような微笑みが返ってきたので、こっちも笑みを返しておく。
「あ、せんぱい。おはようございます」
「おはよーマシュ。今日のメニューは
「はい、その予定です。……ゴルドルフ所長*6のように、美味しくできているかは、あまり自信がないのですが」
「……いや、流石にあの人を目指すのは、ハードルがちょっと高くない?普通に料理上手だよ、あの人」
申し訳無さそうに声を出すマシュに、私は小さくツッコミをいれる。……ここにフォウ君はいないけれど、仮にいたのなら「なに言ってんのこの子」とばかりに一鳴きしていただろう。
ゴッフことゴルドルフ新所長のカリカリベーコンといえば、FGOプレイヤーが一度は食べてみたい、と思う料理の一つである。
……目標は高く持てとは言うものの、高過ぎるのも困り者と言うやつだろう、この場合は。
「そう、でしょうか?」
「そうそう。ほら、あんまり余所見してると焦げるよ」
「わ、わわわっ。ま、マシュ・キリエライト、せめて失敗しないようにがんばりますっ」
こちらとの会話に夢中になっていたため、うっすらと白い煙が立ち始めたベーコンを、慌ててひっくり返すマシュ。
……料理技能なども元のマシュに準拠するというのなら、作中バレンタインでの菓子作りの腕前を見るに、このマシュだって結構な料理上手なのだろうと思うのだけれど。
料理上手の基準が、キッチン組やらゴッフやらだと言うのなら、自分はまだまだだと卑下するのも仕方ない……ということなのだろうか?
料理はさほど得意ではない私からしてみれば、結構贅沢な悩みに思えてくるが。……まぁ、彼女が向上心を持つのは、別に悪いことではない。
仮にも彼女の先輩を名乗る身としては、彼女が楽しければそれが一番である……としか言いようがないのであった。
「おや、これは香ばしいベーコンの香り。朝からご機嫌な食卓……ということですね?」
「あ、アルトリア。部屋の方はもういいの?」
そんな風にマシュと会話をしていたら、背後から聞こえてくる楽しげな声。
振り返れば、部屋の入り口に立ったアルトリアが、中に充満しているベーコンの匂いを嗅いで、小さく笑みを浮かべていた。
……そういえば、一応彼女は区分的にアンリエッタになっているはずだけれど、食の嗜好はやっぱりアルトリア側……なのだろうか?
大食いキャラと思われがちなアルトリアだが、それは正確には違う。
契約パートナーからの魔力供給が乏しいため、それを食事で補っているために食事を必要としている……というのが正解である。そもそも
というか、元を正せば彼女が食に拘るようになったのは、彼女のパートナー・衛宮士郎の料理に理由がある。
生前食の喜びとは出会わなかった彼女が、現世でそれに出会ったからこそ、それに感銘を受けた、というのがキモなのだし。
故に、彼と出会っていないアルトリアに、食に拘る理由はない……はずなのだが。
そこは型月の
……原作描写からすれば、大食い扱いされるべきなのはオルタの方であって、青い方はどちらかと言えば質を好み、そこを抑えつつも『衛宮家で皆と一緒に食べる食事』を一番の優先事項としている……というのが描写としては正解だろう。
アルトリア好きの中で『衛宮さんちの今日のごはん』が好評なのは、二次創作からのアルトリアへの影響である、腹ペコ描写などがマイルドになっているからだ、というのは有名な話……かもしれない。*7
まぁ、結局なにが言いたいのかというと。
……リリィって健啖家ではないよね、ということである。
少なくとも、どこかの戦闘民族やらウマ娘やらと並び立てられるようなモノではない、ということだ。
「……?よくわかりませんが、とりあえずお手伝いすればよろしいですか?」
「あ、はい。お皿をお願いしますね、アルトリアさん」
「はい♪」
……うん、お姫様力マシマシになっているとはいえ、リリィみも強い彼女。
普通に手伝いを申し出るその姿に、なんとも和んでしまう私である。
『いやー、なんと可憐、なんと健気!──私のプリンセスメーカーっぷりを褒め称えてくれてもいいんだよ、キーア?』
「ええい、癪だがこう返そう!……だが絶対に許す!」
『古代王!?』
……そんな風に首を縦にうんうんと振っていたら、すいっと滑るように飛んでくる、妖精マーリン。
小さくともマーリン、小さかろうがマーリン……という感じで、非常に鬱陶しいことこの上ないが、彼の仕事が見事だと言うのは間違いない。
……まぁ、見事過ぎて時々女傑の雰囲気まで醸し出すリリィになっているのは、正直どうかと思うのだが。
でもまぁ、原作『ゼロの使い魔』のアンリエッタからしてみれば、かなり上向きに成長しているのも間違いではない。……わりとヘイト集めやすい人だったからなぁ、アンリエッタ王女。
『まぁ、友達を戦禍渦巻く国に忍び込むように
「まぁ、あれらを王女一人の責任と言い張るのも、ちょっと問題があるとは思うけどねぇ」
王族教育もろくに出来ていないような感じだったし、あれらを全て彼女の責任として押し付けるのは、正直『神の視点』でしかないよなぁ、とか思ったり。
「?二人仲良くなにを話していらっしゃったのですか?」
「貴族制の功罪について」
「まぁ」
なお、別に隠すことでもないのだけれど、一応アルトリアにはごまかしておいた。一応、並行世界の彼女の話、みたいなものだしね。