なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
朝食は恙無く進んだ。
(fateの方の)本編の彼女のように、料理を口に運んではコクコクと頷きながら、柔らかい笑みを浮かべているアルトリアの姿に、ちょっと癒されたりしつつ。
基本的に食事の必要性がないマーリンに、敢えて小鳥のようにご飯をあげてみたりしつつ。
そんな感じに朝食を終えれば、時刻は大体九時頃。
……ふむ、建物の中の案内とかも必要だろうし、そろそろ外に出るべきだろうか?
服装は……うーむ、今の彼女は第二再臨のドレス姿に、第三再臨の胸元のリボンが付いたような服装である。つまりは、だ。
「うん、目立つし着替えた方がいい、かな?」
「そうですか?私としては、普通のつもりなのですが……」
『八雲の彼女なんか、普通にドレスじゃないか?あっちの方が目立つんじゃないのかい?』
「いやー、あれはもうああいう服着てない方が逆に目立つというか、そもそもゆかりん自体外に滅多に出ないというか……」
うん、わりと好き勝手な服装をしている人達が多いなりきり郷と言えど、こんなに裾の広がったドレスは流石に目立つ。
なので着替えを提案したのだが、当のアルトリアはピンと来ていない様子。
更にはマーリンからの『もっと派手なやついるじゃん』の発言。…いやまぁ、香霖堂版のゴスロリゆかりん*1が一番近い感じの服装だし、目立つのは確かなのだけれども(おっきい時は紫のドレスが基本で、たまに道士服っぽいのも着てたりする)。
とはいえ、彼女は基本的に最上階の社長室ならぬゆかりんルームに引きこもっている身、部屋の中で着ている服装が派手だとしても、別に問題はないわけで。
まぁ、目立つ云々の話をするなら、そもそも昨日のご飯の前に言え……というのも確かなのだけれども。
……日の明るいうちにこうして改めて確認したところ、結構目立つなーと思った次第というか。……私らの私服はどうなのかって?目次の挿し絵を見て、どうぞ(姑息な誘導)。
ともあれ、お姫様お姫様していても面倒事の火種になるだろうし、ある程度カジュアルなものに着替えるべき、というのは確かなので、そこら辺を踏まえてコーディネートをしていきたいところ、なのだけれども。
「……うん、申し訳ないんだけどCP君頼んだ」
「おや?僕かい?別にいいけど、なんでまた?」
「……最近ほとんど女の子みたいなことやってるけど、一応中の人的には私もマシュも男性なので、明確に女性なアルトリアの服選びを手伝うのはどうなんだろ、というか……」
『おや、僕はてっきり、あれだけ仲睦まじくしているからそこら辺はもう割り切ったのかと思っていたんだが。
「やめいっ、薔薇で造った百合の造花*2とか言われかねないからやめいっ」
最近ほとんど女性として振る舞っているから忘れそうになるけれど、一応私達中身の性別的には男性になるので……。
TS少女が真性の女の子と絡むのは、ちょっとどうなんやろ感が溢れるというかですね?*3
そもそもアルトリアはなりきりでもないから、微妙に割り切れないところがあるし。……はるかさん?あの人わりと残念だから……。
みたいな感じで、服装を選ぶのをCP君に任せる私達。……途中で余計なことを口走ったマーリンは鉄拳聖裁*4である。
ここに住んでるメンバーでは、唯一中身がちゃんと女性な彼女に頼んで待つこと暫し。
帰ってきたアルトリアは、いわゆる英霊祭装の服装──青いジャンパースカート?と、白いシャツという出で立ち──をしていた。……前から思っていたのだけれど、一時期話題になっていた服装に似てなくもないな、これ。*5
「えっと、似合っているでしょうか?彼女には、お墨付きを貰ったのですが……」
「はい、とても似合っていらっしゃいますよ、アルトリアさん。せんぱいも、そう思われますよね?」
「うん、いいと思うよ。……これ、CP君が作った感じ?」
「そうだね。糸を吐いてちょちょいっと、ね」
不安げにこちらに問い掛けてくるアルトリアに、マシュと一緒になって大丈夫だと声を掛ける。
実際、傍目から見ている分には元気な少女、というような雰囲気しか感じられない。とある国のお姫様だと言われても、すぐには信じられないだろう。
……いやまぁ、お姫様でなくとも『アルトリア』ではあるので、一部が嗅ぎ付けて来そうではあるのだが。そこはまぁ、彼女が
それはそれとして、相変わらずCP君の縫製技術は無茶苦茶である。
【複合憑依】のスペック上昇分を全てそこに注ぎ込んでいるようなものだから、ある意味当たり前ではあるのだが……十分も経たないうちに採寸やら布の裁断やら縫合やら、全部を終わらせて一着仕上げるその手際の良さは、なんというかこんなところで燻っていていいものか、甚だ疑問な腕前だと言えた。
まぁ、あくまで趣味だから良いのであって、これを仕事にしようとまでは思っていないらしいが。……基本的には魔法少女の服しか作りたがらないタイプの人だしなぁ、CP君。
とまぁ、その辺りの話はほどほどにして。
気絶していたマーリンを叩き起こし、玄関に揃って移動し靴を履き替えて。
「……えっと、それで真っ先にうちに来たんですか?」
「どうせ察知されると思ってたので。だったら先にこっちから打って出ようかと」
「はぁ……?」
玄関から外に出て、そのまま隣の銀ちゃん家にイン。
アルトリアを外に出した時に、真っ先に反応して寄ってくるだろう人物……謎のヒロインX1.5ちゃんに話をしに向かった私達。
施錠もされていない扉を開ければ、
室内になだれ込んだ私達は、そのまま彼女の手前のソファーに着席(流石に全員は座れなかったので、代表私と当事者アルトリアが座り、他はソファーの後ろに立っているが)。
目をぱちくりとさせている彼女に対して、事情をざっと解説したわけである。
「ふぅむ。それはまたなんとも難儀な。……いえ、私も前回のハロウィンの時は、滅多に無いくらい思いっきり暴れまわりましたけれども。……あれと同じ原理で、そこのマーリンが手ずから育て上げたアルトリア、ですか。……とりあえず、そこの
「どうぞどうぞ」
『いや軽いな!?あと本気でやろうとしないでくれないかなXくん!私を斬首してもなにもドロップはしないぞぅ!?』
「まるでなにかドロップするなら、やってもいいみたいな台詞なのだ。くしくし」
結果はご覧の通り、アルトリアにではなくマーリンに矛先が向いていた。……それもそのはず、Xちゃんとリリィと言えば師弟の間柄。*6弟子の姿をしているアルトリアには、Xちゃんもなんとなく対応が甘めになってしまうのだっ。
本人じゃない云々は、そもそもなりきりやぞ、の一言で済んでしまうので
「いや確かに、彼女に対して他のセイバー達のように飛び掛かるつもりはありませんけれども。……というかそもそもこの子、クラス的にセイバーではなくないです?」
「んー?元がアンリエッタだから、キャスターだったり?」
「別人格に近いもののような気もしますので、まさかのアルターエゴ……だったりするのではないでしょうか?」
そんな中、Xちゃんからあがる疑問の声。
そのまま、本人そっちのけであれこれと好き勝手にクラスを予想する私達だったのだが。
……よくよく考えたらこのアルトリアさんは【顕象】なので、本当になにかしらのクラスに該当するかも知れない……と思い直し、ちょっと
「……『
「なんと」
『まぁ、複数のアルトリアの属性を纏めたモノを、アンリエッタが纏っている……という風にも見なせるだろうしね。そのクラス分けはさもありなん、というやつだ』
「え、えと。……が、がんばりました?」
「なんで疑問系……」
見えた結果は、先ほど話していたモノのどれでもない、プリテンダー。
世にも珍しいエクストラクラスに該当していることに驚きつつ、マーリンの解説になるほど、とみんなで頷く。……頷いて、その理論なら仮になりきり組がサーヴァントになったら、みんなプリテンダーなのかな、とちょっと疑問に思ったり。
可愛らしくガッツポーズをするアルトリアに、みんなで苦笑して、話をしていたせいで止まっていたXちゃんの食事を、なんとはなしに見る私。
……小さな輪っかのシリアル食品に、牛乳を掛けたもの……という、わりとよく見るタイプの朝食だった。まぁ、ぶっちゃけてしまうとチョコワである。*8
ただ、並々と注がれた牛乳が、
……本来はチョココーディングされてるはずだから、ミルクは茶色になるはずなのだけれど、はて?
「……それ、食べないの?」
「はい?……ああそうでした、朝食の途中でしたね。では、いただきまーす」
こちらの問い掛けに、特に疑問にも思わずに中身をスプーンで掬って、口に運ぶXちゃん。……嫌な予感がしていた私は、横のアルトリアを連れてそっと退避。
もぐもぐと口の中のモノを咀嚼していたXちゃんは、次の瞬間。
「……@☆%♯&*♪
何故かロシア語を発しつつ、口の中のものを全て噴射した(ソファーはエグいことになった)。
その後、ひたすらむせていた彼女に、台所から戻ってきたゴジハム君から、冷たい水の入ったコップが手渡される。
中身を一気飲みし、荒くなっていた息を整え。
どうにか落ち着いた彼女は、皿の中の物体を指差しながら、ゴジハム君に向かって怒鳴り始めたのだった。
「ななななななんですかこれっ!?すっごい鼻に来たんですけど!?」
「あ、ごめんなのだ。間違えてわさび味のチョコワを入れてしまったのだ、へけっ」*10
「なんでそんなものがうちにあるんです!?」
「安売りしてたから、思わずに衝動買いしてしまったのだ。大体一箱百円だったのだ、くしくし」
「やすっ!?いやでもそうでしょうよ、こんなもの誰が食べるんですか誰がっ」
「僕はたまにぽりぽり食べているのだ。食べてると力が湧いてくる気がするのだ。……具体的にはこの服から」
「それ絶対に怨念パワーとかですよねっ!?」
わーぎゃー騒ぐ二人と、それを遠巻きに眺める私達。
朝はコンビニバイトをしているらしい銀ちゃんの居ない万事屋は、それでも騒がしい声が響いているのでした。