なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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それはさながら湯水のように

「この客が【顕象】かも、ねぇ……」

「さっきは驚いたけど、それがどういう問題に繋がるんだ?」

 

 

 いまいち想像できないんだけど、と告げるキリトちゃんに、私は一つ頷いて。

 

 

「最終的にみんなリソースになるかも?」

なに言ってんの???

モブとか雑に消費されるものでは?

「いきなり魔王みたいなこと言い出したんだけどこの人」

 

 

 いや魔王ですが?一向に魔王ですが?

 せかいせいふく?を目指してるとっても悪い人なんですが?

 

 ……冗談はともかくとして、わかりやすく説明しただけで他意はない。

 わかりやすい特徴を持たない──背景に設置されるモブのような個性しかない存在とか、それは動くエネルギーリソースのようなものでは?……みたいな忠告である。

 

 

「エネルギーリソース?」

「そうそう。言い換えると気質と実体としての境界があやふや、ってことになるのかな?」

 

 

 例えば明確な意思を持つ相手と、ふわふわとした自意識しかない存在。

 どっちが誘導しやすいだろう、みたいな話というか。

 前者は【顕象】や『逆憑依』で、後者は単なる【兆し】みたいな?

 いやまぁ、一応後者も今回に関してはなにかしらの形になったもの、ということにはなるのだけれども。

 

 

「こう、それを誇示できるほど要素が固まってない……みたいな?些細なきっかけで今の形を失って、そのまま気質として誰かに使われるだけの存在になりかねない……みたいな?」

「あー、幽霊みたいな?」

「んー、近いといえば近いのかなー」

 

 

 個性がないというか、自意識が薄いというか。

 

 例えば、【顕象】として成立した存在が再び【兆し】に戻る、ということはあり得ない。

 何故ならば、彼らには集められた気質を一つの形に固める明確な()があるから。

 いわゆる『核』というやつだが、これは同時に明確な個性を示すものでもある。

 

 それを念頭に置くと、モブみたいなキャラ達に芯や核が見えない、というのもなんとなく把握できてくると思う。

 言うなれば、自身を他者に認識させるための特徴が欠けている、というか。

 ゆえに彼らは一目見ただけでは印象に残らず、次の瞬間には脳内の記憶から消えてしまっている。

 

 

「仮にも【顕象】がそんな状態だと、最悪なけなしの個性さえ消されて【兆し】に逆戻りする可能性が大ってわけ。……あ、わかりやすい説明の仕方があった」

「それは?」

「『トーチ』みたいなもんってこと」*1

「……滅茶苦茶危険性がわかりやすくなったわね。言うなれば『都喰らい』みたいなことが起きかねない、ってことじゃない」

「そーそー」

 

 

 私の説明がようやく届いたのか、アウラがとても嫌そうに言葉を返してくる。

 

 ──『都喰らい』。この単語は『灼眼のシャナ』に登場するある現象の名前だ。

 とある存在が作り上げた自在式『鍵の糸』の結果として発生するこの現象は、()()()()()()()()()()という事実を突然消失させないように、緩衝材の役割を持たされ生み出された『トーチ』を、一種の爆弾に変える技術によって作り出されるものである。*2

 

 わかりやすく言うと、これが起きるとその場一帯は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 本来物に宿るエネルギーは利用し辛いのだが、それすら活用できるように変化させる形で。

 

 その姿が、都市というものを一つの命と見なし、そのまま喰らうかのように見えるからこそ『都喰らい』。

 そして、今ここにいる自意識の薄い【顕象(モブ)】というのは、ある種それと同じ事態を引き起こしかねない存在と化しているのである。

 

 

「まぁ、流石に建物ごと分解される……みたいなことにはならないと思うけど、それでも最悪の場合は【兆し】関連のなにもかもがひっぺがされる、みたいなことになるかも?」

「……いまいち想像できないんだが、そうなったら俺達にどういう被害が発生するんだ?」

「わかりやすいところだと【顕象】の実質的な死亡、それから『逆憑依』によって起きているキャラの憑依の剥奪かな。被害としては【顕象】が大きいように見えるけど、『逆憑依』側もそれがあることで進行が止まっている病気とかが再発するみたいな可能性大だね」

「うわぁ」

 

 

 被害が目に見えてわかりやすいのはかようちゃんだろうか?

 彼女は本来その命を終えていたところを、様々な奇跡の結果ああして姿を保っている。

 ……仮に『都喰らい』──いや『兆し喰らい(聖杯化)』が発生した場合、彼女に与えられた奇跡は全てなかったことになるだろう。

 そして奇跡という寄り代を失った彼女は、本来定められた宿命通りにその命を終える……と。

 

 被害として大きいのは彼女だが、他の面々も無事では済むまい。

 下手なことを言えばいわゆる『異界技術』ごと消える、なんて可能性も否定できないため、それによって支えられている今の日本も同時に壊滅的事態に陥るかも……?

 

 

「そうなのか?」

「少なくとも電力関連は確実に。うちの主産業の一つだからね、電力輸出」

 

 

 なりきり郷内の電力を生み出しているのは【兆し】に端を発するもの。

 ゆえに、その影響が消えた場合その膨大な電力も同時に消えることになるだろう。

 流石に過去を遡って影響を全て消す、みたいなことにはならないだろうが……どちらにせよ大打撃が経済に直撃することは避けられまい。

 

 

「そして、問題はそれだけじゃすまないんだ」

「まだあるの!?」

「あるよー、一番大きいのが。──そうして周囲を剥ぎ取りながら集められた【兆し】は、誰か一人に注ぎ込まれることになる」

「あっ」

 

 

 そして、それらの問題を些事に貶めるような大問題。

 それこそが、あらゆる影響を無に帰しながら集められた【兆し】による問題。

 ……純粋なエネルギーに近いものとして集められたそれは、なるほど味方によっては聖杯──あらゆる願いを叶えるためのリソースになりうるものだろう。

 

 そんなものが、ただ一人のためのモノとなるのである。

 ……悪人が持っても問題だが、善人が持っても大問題。

 何故かと言えば、どう考えても使()()()()()()()()()()()ため。

 

 ハロウィンの時のエリちゃんに与えられた選択を、さらに上回るような大問題を放り投げられて。

 それを適切に処理できるものがどれだけいるのか、という話である。

 ただでさえそうなった場合、その時生まれたUーエリザマリーすらもリソースとして変換されているというのに。

 

 

「ええと、つまり……?」

「あの時はハロウィンオルトを作ることでなんとか消費したけど、今回の場合それより遥かに多いリソースが爆発寸前の状態で一人の手に委ねられるってわけ。……そのまま地球ごと吹き飛ぶならまだマシで、最悪の場合世界が魔獣戦線ルートまっしぐらよ?」

「想像もしたくないじゃない……」

 

 

 ついでに言うと、そうなった際にほとんどの『逆憑依』達はその力を剥ぎ取られているため、目の前で起こる惨劇にそのまま呑み込まれるしかなかったり。

 ……うん、どこぞの財団がリセットボタン押しそうな事態である。

 一応はまぁ、最悪の場合そうなるよ、という想定でしかないけども。

 

 

「でもまぁ、このモブ達が『特徴を持たない誰か』の集合であるのが間違いないなら、火種があれば()()なる可能性は否定しきれないね」

「問題しかないじゃない。どうすればいいじゃない?」

「簡単な話、火種を発生させなければいいんだよ」

 

 

 アウラの疑問に答える私。

 一応、今いる彼女達をどうにかする、という手段もなくはないが……対応をミスるとこっちが火種になりかねないし、そもそも自意識が薄いとはいえ()()みたいなことはしたくないだろう、みたいな話もある。

 

 となれば、できる限り穏便に済ませるしかないのだが……そうなると取れる対応は限られてくる。

 わかりやすいのは、火種を発生させないこと。……今回の場合は擬似的な聖杯戦争を起こさせないこととなる。

 

 雑にいうとホワイトデーイベントで出来上がるものが小聖杯、それを火種にしてリソースに変化した彼女達が大聖杯ということになるか。

 なので、小聖杯相当の物体の降臨を防げば自動的にのちの問題も発生しない、ということになる。……なるのだが、それはそれで問題が残る。

 

 

「火種なんて幾らでも生まれうるってこと。具体的には女性が集まるようなイベントが発生すると、それが戦争扱いされる可能性が残り続けるってわけ」

「あー……夏祭りとか?」

「そうそう、祭系全部ダメ、みたいなことになりかねないね」

 

 

 また、祭じゃなくても火種──勝者を決める必要のある行事は全部引っ掛かるかもしれない。

 それだと最早なにもできないのも同じなので、火種を発生させないという対処は場当たり的すぎておすすめできない、という話になる。

 

 

「なので、私たちがとるべき選択は一つってわけ」

「……え?なんでここで私を見るの……?」

 

 

 ゆえに、この問題を解決する策は──一人の少女に掛かってくる、という話になるのであった。

 

 

*1
『灼眼のシャナ』に登場する存在。『存在の力』を食われた存在は文字通り消えるのだが、それが頻発すると世界を歪めかねない(『存在』自体が消えてしまう為、その矛盾を解消するために世界が歪む。少数ならまだなんとかなるが、それが多発すると理ごと歪みかねない)。その歪みを可能な限り穏便に解消するモノが、『やがて蝋燭の火のように消える』ことを前提とした代替物である『トーチ』。本人の『存在の力』の欠片から作られたそれは、一定期間本人のように暮らし、徐々に存在感を失って消えていく。『突然消えるのがヤバイのだから、いつの間にか居なくなっていたという形にすればよい』という、ある種人外らしい解決案

*2
『鍵の糸』はトーチに仕掛けられるモノであり、それを引くことでトーチの偽装を解き元の『存在の力』に戻す。これを連鎖的に引き起こすことにより局所的に世界を歪ませ、その矛盾の解消の為に『その都市は存在しなかった』と世界に判定させる。結果、その都市はまるごと『存在の力』に分解される……というもの。本来物の『存在の力』は純度が低く、仮に取り込んでも自身の力を増すどころか寧ろ薄めてしまうのだが、この方法で生み出された都市の『存在の力』は高純度のものとなり、取り込めば莫大な力を得ることができる(制御できるかは別)

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