なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「うーん、『都喰らい』ならぬ『兆し喰らい』ですか……」
「起こらない、とは正直断言できないわね。【兆し】回りは解明できてないことが多すぎるもの」
「んー、そこら辺詳しくない束さんですら、これを問題なしと通すのはあり得ないって言えちゃうくらいの問題まみれだねぇ。……これ、上の方で止まったりしなかったの?」
「今の私たちは情報を俯瞰して見れるからあれこれ言えるけど、少なくとも企画段階ではこんなモブ大量発生なんて知らなかったからねぇ」
「あー、それじゃあ無理かぁ……」
はてさて、研究者組を交えての作戦会議だけど、現状はみんなで唸ってる最中。
なぜかといえば、さっき私が出した懸念がわりと発生する確立大だと改めて証明されたからである。
仮に名付けた『兆し喰らい』──モブのような状態になっているそこらの女性客が、その性質を変じることなくイベントの終わりまでその場にあり続けた場合。
彼女達は今ある自身の姿という個性を失い、聖杯の顕現時にリソースとして纏められてしまうだろう……というそれは、それが引き起こすであろう破滅的な結末まで含め、明確に発生しうる問題だと証明されてしまったわけだ。
「まぁ、あくまで思考実験の上での話ですけどねー。確かめようと準備すること自体がリスクの塊ですから、実証は不可能に近いのも確かな話ですけど」
「普通なら『
「マッドサイエンティストとしての直感が、ってちゃんと前に付けときなさい。じゃないと意味わかんなくなるから」
「おおっと、それは失敬失敬」
……まぁご覧の通り、その結論を出した面々はコントでもやってるのか、くらいの軽さだったわけだが。
特に束さんよ、アンタ幾ら原作ではラスボス役濃厚だからって、自分の直感が世界を悪くすること前提で考えるの止めなさいよ。
いやまぁ、千冬さんも箒ちゃんもいない世界に未練なんてない、って言いたいのはわからんでもないけど。
「いやそこまで言ってないからね私?いやまぁ本来の私なら言いそうだけど。私の中にもちょっと……いや三割、いや五割、いや八割?……くらいはそういう気分がないとは言わないけど」
「ねぇ琥珀さん、この人本当に連れてきてよかったの?ヤバくない?」
「うーん、そう言われるとそうですねぇー……」
「小粋なジョークを本気に受けとるのよくないと思うな束さんはっ!!」
冗談だよ、はははこやつめ。
……という定番のやり取りを行いつつ、改めて姿勢を正す私。
追証に関しては、事態が進めば勝手に取り終わると思うのでそれは脇に置いて。
問題は対策の方。大筋はしのちゃんを利用する、ということに反対の声は上がらなかったのだが、具体的にどうするのかの部分で議論が紛糾したのだ。
いや、大筋では合意が取れてるんだけどね?
「『揺れない天秤』の検証はやりません!やりませんったらやりません!!」
「なんでさっ?!普段ならデータ取り完璧にして万が一にも例外なんて起こさないように、って石橋を叩いて砕く勢いじゃん?!」
「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて……」
その、しのちゃんを運用するに辺り、より効率的な方法を模索しようと言い出したのが束さんで、それに異を唱えあるがままに任せようと言ったのが琥珀さんなのだ。
……研究者としては束さんの言い分が正しいのはわかりやすい。
科学とは偶然を謳うものではなく、必然を積み重ねるもの。
ゆえに、必要なデータや結果・過程などの全ての要素は余さず記録し理解するのが普通であり、それによって再度
それによって後から検証を再度行ったり、その事象を起こさないようにする対策だって練ることができる。
そういった科学者にとっての必然を、今の琥珀さんは全て投げ捨てようとしている……そういう風に束さんは感じ取ったのだろう。
そしてそれは困ったことに、見方によっては間違いとも言いきれない。
「──貴方は【星の欠片】案件に関わるのは初めてでしたね。では改めて確認しますが、【星の欠片】とはどういうものでしたか?」
「はぁ?そんなのいっつも耳にタコができるくらい聞いてますけどぉ?!その正体は極小──世界最高峰のレーザー顕微鏡ですら影も形も掴ませないほどの微少な世界を所以とする、極限の科学現象!もし仮に人の世の科学が進みに進み、その頂点に降り立つことがあれば
「ええまぁ、大体間違ってないですね、はい」
興奮したように束さんが語ったが、正しくその通り。
起こす現象こそ非科学的に見えるが、その実その現象の成立過程はどこまでも科学的。
ゆえに空想・幻想を否定する存在に引っ掛からず、それゆえに非科学的なあらゆるものに負けてしまう
ともすれば科学者の夢の先にあるものですらあり、それゆえに研究者達はこれを見れば歓喜せずにはいられない、とまで言われるもの。
……それは確かなのだが、見落としている部分が一つある。
「はい?見落としてる部分?」
「今束ちゃんも言ってましたけど、【星の欠片】は突き詰めると
「……はい?」
それは、【星の欠片】が何処にでもあるということ。
翻って火種は何処にでもあるという風にも解釈できるわけで。
……うん、言い方は悪いけど『火災を消すのに別の火災を起こす』とか、『大波を消し去るのに波長が対になる大波を起こす』とか、そういう一種の『目には目を、歯には歯を』、ないし『毒を以て毒を制す』みたいな類いの話なのである。
もっとわかりやすく言うと、
「迂闊に『揺れない天秤』について知りすぎると、私たちもそうなる可能性大なんですよ」
「あ、あー……」
「普通ならやり方を知るだけなら問題ないんだけど、これが【星の欠片】相手だとやり方を知ってるってのは
直近だと、【俯視】の解説の時とかく迂遠な物言いをしていたのがわかりやすいか。
あれは他者の『心の見方』を理解してしまうのがよくない、という話だったが、それは【星の欠片】の成立過程などについても同じ。
どれほど
無論、知りすぎれば自動的に【星の欠片】は起動し、晴れて貴女も私の仲間入りである。
「それだけで済まない可能性、ってのは既によく知ってるでしょ?まぁ、流石にここら一体リソースに分解するような事態に比べればマシだけど、方向性としてはゲッター線に触れて全てを理解した武蔵みたいになるのがわかりきってるんだから、できればやりたくないってのはわからないでもないんじゃない?」
「あーはい、束さんが間違っておりましたです、はい」
わかればよろしいとばかりに頷く琥珀さんの姿に、思わず苦笑してしまう私なのでありましたとさ。
「適当(※正しい意味)に運用すべき、って話はわかりましたけど……でもそれだと問題ありません?期限はホワイトデーイベント終了までなんでしょ?ってことは……彼女の成長、間に合うんです?」
「そこに関しては間に合わせるしかない、と返すしかないんですけど……」
「ちらちら私を見るの良くないと思う」
とはいえ、それだけだと話が振り出しに戻るのも確かな話。
イベントの先に起きることの確証が取れたのだから、今度はそれを起こさないようにするだけなのだが……その手段がしのちゃんに掛かっている以上、彼女の成長は急務である。
がしかし、それの手伝いを科学者組がするのは不可能に近い。何故なら彼女達は【星の欠片】ではないから。
そうでない彼女達が【星の欠片】に近付きすぎるのは、本来良くないのだ。
「…………」
「大方『星の死海』の時の話を思い出してるんでしょうけど、あれ寧ろ『星の死海』だからこそ問題にならなかったんだよ?」
「わ、わかってるわよ!」
主に元締めが見てくれてるから安心、的な意味で。……本当に安心か?
ま、まぁともかく。
あの一件については【星の欠片】そのものとも言える『星女神』様や『月の君』様が見てくださっていたからこそ、余計な話をある程度省けていたことは間違いない。
今回はそういう補助がないので、扱いを間違えると私たちの後輩が三人増えるとか、そういう愉快な話になってしまうわけで。
「愉快な話で済めばいいけど、最悪の場合上手いこと【星の欠片】が馴染まずに……なんてパターンもありうるからねぇ」
「影響が個人で収まるだけマシ、みたいな違いでしかないわよねそれ」
個人で収まるかどうかも若干微妙だけど、とは言わない約束。
……まぁともかく、回避できるなら回避したいという琥珀さんの気持ちはわからんでもない。
多分彼女の場合、深く関わりすぎてまた『星女神』様に会うのが嫌、みたいなところもあるんだろうけど。
「ななななななそんなことないですよぉ!?」
「はいはい。……とりあえずそれはそれとして、琥珀さん達を呼んだもう一つの理由をここで明かそうかねぇ」
「もう一つの理由?」
とはいえ、これ以上彼女を弄ってても仕方ないので、本来の理由を明かすことに。
その理由と言うのが、
「タンマウォッチ、出して?」
「ぶふっ!!?」
琥珀さんが密かに作っているはずの、とあるひみつ道具についての話なのであった。