なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「まぁ、とりあえずホワイトデーそのものをどうにかするが難しい、ってのはわかった。じゃあ俺たちはこれからどうするんだ?」
「そうだねぇ、できれば聖杯が顕現する時に近くにいたいから、できうる限りイベント優勝を狙うスタイルになるかなー」
「結局最初の話に戻ってくんのか……」
「ずるはよくない、って話なのかもねー」
一先ず話を終え、再度話題はこれからやるべきことの考察に。
最終的な対処は聖杯顕現からの、そのタイミングでのモブ達の合一化。
およびそれに連鎖するはずの周囲の【兆し】への回帰を見計らい、ギリギリで事態が成立しないように固定ないし対処する……という形になる。
それ以外に安全な方法はないのか、ってツッコミが飛んできそうな手段だが……実質的にこれが一番安全な方法です、と返す他あるまい。
一人一人に保護を掛ける余裕も時間もない以上、彼女達には数多のモブの集合体として頑張って貰うしかないわけだ。
「まぁ、それはそれとして別の問題を引き起こしそうなのが問題なんだけどね……」
「あー……」
……ただ、そこから起きるだろう問題を思うと頭が痛い、というのも事実である。
なにせその時出来上がるのはスーパーモブ。いわゆるビッグビワのモブ版みたいなもの。
となれば、当然想定される問題というのもなんとなく見えてくるわけで。
「……というか、そもそもこの客ビッグビワが作ったもの、みたいなこと言ってなかったじゃない?」
「こういうの元の木阿弥って言うのかな」*1
「えー……」
そこまで聞いて、アウラから疑問の声が上がった。
それはここにいるモブ達が、そもそもビッグビワによってなりきり郷に集まってきた【兆し】を変化させたものじゃなかったか?……というもの。
確かに、彼女達は有害?な『外から転がり落ちてきた』負の感情によって形作られた【兆し】が、ビッグビワというフィルターを通すことで無害なモノに変化させられたものである。
……あるのだが、だからといって彼女達が問題の引き金にならないのかと言えば、それは別の話。
「力そのものに善悪はない、ってよく言うでしょ?今回の場合もそれと似たようなもの。ビッグビワ的には無害なモブにした時点で大丈夫だと思ったんでしょうけど、逆に無害なモブだからこそ民衆──特別な主義主張を持たない集団として扱えるようになっちゃったわけだから」
「それはもしかして、一つの集団を一個の生物として見立てることができる……みたいな話?」
「雑に言うとそういうことになるね」
あれだ、特に誰も指示していないという集団がある時、それをうまく取り込むことができれば選挙に勝つことも難しくない……みたいな?
特別な主義主張がないのだから、そこになにかしらの主張を染み込ませることができれば、それをそっくりそのまま自身の陣営に引き込むことができる……そしてその分、自身の集団の力は上がると。
世の中において、多数決の暴力というのはまだまだ強いもの。
最近はマイノリティに配慮しよう、みたいな感じで少数の意見が通ることも増えてきたが……選挙などに行けばまだまだ多数派が強いのは見ればわかるはず。*2
今回の話も、それに似たようなもの。
モブには特徴がない。特徴がないということは、なにかしらの主張もない。
その中から
そして集団であるからこそ、一つの生き物としてそれらを纏めることもできてしまう、と。
結果、彼女達は多数の票という名前の力として見なされてしまったというわけだ。
……個人個人にもう少し色を付けていれば、避けられた問題であるとも言える。
「だからって、このことでビワを責めるのもあれなんだけどね。見りゃわかるけど、この人数に個性って色を付けてくのは、骨が折れるどころの話じゃないし」
「あー確かに。何人いるんだ、って規模だもんなぁ」
とはいえ、今の状況を全てビッグビワのせいとするのは無理がある。
確かに、無数のモブとして纏められるようになってしまったのは、ビッグビワの加工()のせいだが。
とはいえこうして大量に存在するモブ達を見るに、真面目に加工してたらその時点でパンクしていただろう……というのも容易に想像できてしまう。
あれだ、バレンタインのタイミングで特になにも起きなかったのが、こうして後を引いてしまっているというか。
「バレンタインにトラブルが起きないと、後を引くの?」
「結果論だけどね。言ってしまえばこのモブ達は、爆発寸前の【兆し】を溜め込んだ結果ってことになるから」
「バレンタインにガス抜きできなかったせい、ってことか?」
「わかりやすく言うと、ね。第四次に対する第五次聖杯戦争……って風に考えることもできるかも?」*3
トラブルは確かに多発して欲しくないモノだが、だからといってその種を溜め込んで一気に爆発させて処理する、というのは推奨できまい。
聖杯戦争以外だと、スプレー缶の処理とかがわかりやすいか。*4
今回はその、推奨されないやり方が意図せず起きてしまった、という話になる。
例年通りならバレンタインになにかしらのイベントが発生し、それに合わせて騒動の種となる【兆し】も消化されていたはず、というか。
それがなんの因果か、今年に関してはガス抜きとなるバレンタインイベントが発生しなかった。
そしてその結果、消費されずに溜め込まれていた【兆し】が飽和状態になってしまった……と。
ある意味ではビッグビワやハクさん達が発生することになった、あの時と同じ。
即刻なにかしらの形にして消費しないと、意図せぬ形で爆発することが(少なくともビワ達には)目に見えていたわけである。
ゆえに、彼女はそれらをモブにすることで消費した。
迂闊に個性という色を与えると、自分達のように厄災として顕現しかねないとうっすら理解していたがゆえに。
「想定外だったのは、そうして消費したタイミングで
「そうして馴染む前に、彼女達を燃料として消費できてしまうイベントが始まってしまった、と?」
「うむ、そういうことになるね」
バレンタインが特に問題にならなかったのに、ホワイトデーが問題になるはずないでしょ、と高を括っていたのかもしれない。
それゆえ、次のイベントの発生までにモブ達はなりきり郷に馴染み、トラブルの火種になることはないと想定していたが……結果はご覧の通り。
彼女達は本当に無害になる前に、別の火種に吸い寄せられて自らもまた火種と化してしまった……と。
とはいえ、なにも悪いことばかりではない。
ビッグビワによる浄化を間に挟んでいるため、仮に纏めて一個の存在にした際にも悪性を発揮することはほぼない、というのがそれだ。
「……ああそうか。基本的になりきり郷に転がり落ちてくる【兆し】って、小さいものから大きなものまで、ほぼ例外なく妬みとか嫉みとかそういう悪い感情ばっかりなんだっけ」
「そうそう。だからそれをそのまま放置して生まれるものは、原則世界に悪影響しかもたらさないヤバイやつにしかならないんだよね」
そういう意味では、ビッグビワやハクさんがこうしてまともな存在として出力されてるのは、中々に驚きの結果でもある。
あの時彼らの方向性に口を出せる者は居なかったので、普通に悪意ある存在として成立する可能性の方が遥かに高かっただろうし。
なので、今回の場合任務を完遂した際にうまれるのはほぼ善人で決まっているため、余計な心労がないのはとても良いことだと言えるはずだ。
無論、善人とはいえビッグビワに並び称されるような、あからさまにオーバースペックの存在が生まれることも、同時に決定しているわけだが。
「……どうにかなんねぇのか?」
「時間がどう足掻いても足りないでーす、これが四月頃とかまでずれ込むんならワンチャンなくもないけど」
「それでもワンチャンなのか……」
上げては落とす、みたいな私の物言いに辟易したようにハセヲ君が問い掛けてくるが……なにも私も、好きでそういう言い方をしているわけじゃないので、この件に関しては被害者みたいなもんである。
……というわけで、無理なものは無理と宣言しつつ、改めてこの情報をライネスの元に持ち帰る決心をした私なのであったとさ。
なお、実際にこの話を伝えたら怒られました。
私がトラブル作ったわけじゃないのに理不尽じゃね?