なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
後輩二人の奇行はともかくとして、改めてホワイトデーに勝つための会議である。
「とはいうものの、ホワイトデーにおける勝者ってなんだ?」
「……言われてみるとよくわからん概念だね」
「おい」
いやほら、バレンタインならこう……チョコをいっぱい貰った人の勝ち、みたいな感じでわかりやすいけども。
それがホワイトデーとなると、微妙に勝ち負けの判定をし辛いというか。
あれか?お返しに貰ったものの金額を競えとでも?
「……普通に性格悪くねぇかそれ」
「というか、その方面だと店舗側の勝ち負けとは微妙に違う話にならないかい?」
「だよねぇ……」
……とまぁ、そんな感じで微妙に纏まらない会議である。
いやまぁ、個人でのあれそれと店としてのあれそれを混同してるからそうなる、ってだけの話ではあるんだけどね?
純粋に考えるのならば、客の動員数が多い店の勝ち……って感じになるんだろうし。
「まぁ、そうじゃないかもしれない、って懸念があるからこそ唸ってるんだけどな、俺達」
「チラシの方には売り上げで競う、とか書いてないからねぇ……」
で、そんな単純な考えをストップさせるのが、ホワイトデーイベントのお知らせと題されたチラシ。
ライネス達はこれを見てイベントに参加してみるか、と発起したらしいのだが……生憎このチラシ、競うことを推奨はすれど『なにを以て優劣を決めるのか』についてはあやふやなことしか書いてないのである。
なんなら、暫定優勝者になにか商品的なモノを渡すのかどうかも不明、みたいな?
「イベントを盛り上げたい、という意思だけが先行したのだろう。それでも参加者が多く集ったのは、偏に去年のホワイトデーとバレンタインを話題に出したから……ということになるのだろうね」
「どこまで行っても去年の私たちのせい、って言葉が付きまとってくるんじゃが???」
まぁ、ウッドロウさんの言うとおり、その理由はチラシそのものからも察せられるわけなのだが。
うん、ホワイトデーをなんとかして盛り上げよう、って気持ちだけが先行していたんだろうな。
……と容易に想像させてしまう
本来ならここまで大事になるはずもないのに、迂闊に口にした参考元が思ったより客寄せとして効力を発揮した、みたいな?
……この分だと、そもそもイベント本部の方ではまだ評価の基準とかも決まってなさそうな感じがありそうだ。
なんにせよ、競うことを願われているわりには、一体なにを競わせようとしているのかわからない、というのは確かな話。
これのなにが一番問題かと言うと、結果としてモブ達がなにに惹かれるのかわからない、というところにある。
「彼女達は『特に個性のないモブ』としてそこにあるわけだけど、その結果個人をターゲットにして狙い打ち……みたいなことができきなくなってるんだよね」
「……それだけだと問題ってほどにはならないんじゃないか?結局その子達全員を引っ張ってこないといけないんだろ?」
「そりゃそうなんだけど、そもそもの話として個人向けのサービスと大衆向けのサービスは違うんだよ」
「……?」
……この天然たらしは……。
私がなにを問題にしているのか、よくわからないとばかりに首を傾げる上条さんにほんの少しイラッとしてしまったが、そもそもこやつ一万人規模の少女(※クローン)のほぼ全てに好かれている、とかいうわけのわからない経歴持ちだった。そりゃわからんわ。*1
……というわけで、代わりに大人の男性であるウッドロウさんに解説して貰うことに。
「彼女はこう言いたいんだよ。──恋人になりたい人と国の首長に据えたい人は違う、とね」
「……なんで国の話に?」
「先ほどから何度も触れている通り、今回の目的となる客──特徴のない少女達というのは、見方を変えると
「なんのフックもない……?」
モブというのは特徴のない人……と再三繰り返しているが、本来それはあり得ない。
相手が人間であるならば、それらの人々は細かく描写されていないだけであって、確かに個人個人が別個のパーソナリティーを持つ存在であるはずなのだ。
だが今回の目的となる相手達は、ビッグビワが余計な色を加えないように生み出したモノ達。
……言い換えると、本来あるべき個性が
そうなるとどうなるのか?
答えとしては単純で、大抵の施策が無意味と化すのである。
その理由が、フックがない──相手に引っかかるモノがなにもない、というもの。
「例えば甘いものが好き、という個性を持っているとしよう。そういう個性を持つ相手の気を引くのであれば、一番簡単なのは甘いものを用意することだ。同じように美形の男性が好きならば美形の男性を、金品が好きであるならば金品を……というように、相手の気を引くために相手の好きなもの──フックに縄を掛けるのはごく自然なことだと言える」
「……いや、だったら今回も同じようにやればいいんじゃ?」
「それが難しい相手が、今回のお客様達だということさ。彼女達には個人個人のパーソナリティーがない。ということは彼女達にはフックが──
「……いや、そんなバカな?」
「それが成立するから問題なんだよ」
彼女達はモブとして生み出された。
それは見方を変えると、『モブであること』以外の個性がない、ということでもある。
物の好みというのはまさに個性であり、ゆえに彼女達は好みを持たない。
銀ちゃん達を見てキャーキャー言ってたのは、端的に言うと『ホワイトデーに』『イケメンを見てキャーキャー言う』『モブの少女達』という
悪い言い方をすると、彼女達自身が好んで銀ちゃん達にキャーキャー言ってたわけじゃないのだ。
単に、そういう絵面が成立するだろう空気だから集まっていた、というだけの話であって。
これが、上条さんにほの字となった一万人の少女達──ミサカクローン達との大きな違い。
多少なりとも個性のあった彼女達と違い、ここのモブにはその少ない個性すらない。
それゆえに、まっとうな手段での訴えかけはなに一つ届かないのである。
一応、そういうモブ達が集まっていそうな場所・空気感を揃えられればやっては来るだろうが、それは他の場所でも同じこと。
結果、勝ち負けの方向性ではどこの店も突出しない・できないということになってしまうのだ。
「じ、じゃあ国の首長云々ってのは?」
「そちらはもっと単純だ。──個を持たないというのは
「な、なるほど……」
そうなると手法の一つとして思い付くのが、国の首長として号令を出す、というもの。
個々の考えを持たない個人の集団というのは、見方を変えると誰かに統率された集団に似ている、とも言える。
個人としてではなく、群として人を率いるつもりであるならば、彼女達を纏めて誘導するのは恐らく難しくはない。
……ないのだが、そのやり方だとホワイトデーらしいかは微妙になると思う。
一種のアイドル化として扱うならギリギリ行けそうな気もするが、それだと一人でやらないと効果が落ちるだろうし、仮に一人でやったとしてもホワイトデーとしての興行扱いされずに聖杯相当のものが発生しない、なんてことになりかねないというか。*2
「……ああなるほど、聖杯相当のモノが現れないとモブである彼女達が一つに混ざる、という過程が発生しないのか」
「そういうこと。彼女達を誘導する、って意味では多分一人で纏めるのが一番早いけど、そのパターンだと彼女達は多分『一人を持ち上げるファン』みたいな感じになってずっと集団のままだと思う」
「問題が解決するどころか、ずっと火種を抱え続ける羽目になるってわけか……」
今回の最終的な目的は、聖杯的なものの顕現に合わせ一つの力に混ざろうとしたモブ達を、その固まったエネルギーの状態で固定し別の存在に定義し直すこと。
それを成すためには、彼女達が一個の存在に──概念的にそう見えるという話ではなく、物理的にそうなった状態でなくてはならない。
つまり、一人のカリスマに付き従うファン達、という形になりかねないやり方は非推奨だし、そもそもそのやり方だとホワイトデーの形式から外れかねないのでそっちの意味でも非推奨。
……ついでにいうと、そういうことができる人間は漏れなく彼女達以外の普通の住民も引き寄せてしまう可能性が高く、結果としてその住民達も混ざる危険大……みたいな懸念もある。
現状そういうことができそうな人の第一人者はウッドロウさんだろうが、彼もまた普通に強いカリスマ持ちなのでその辺りの懸念は消えないだろう。
……つまり、大衆を動かすような手段は『やり過ぎ』に当たるため選べず。
かといっていわゆるガチ恋*3みたいなものを誘発しようにも、相手となる少女達は個性がない・つまり恋愛のフックがないので靡くもなにもない。
この状況下で、きちんとホワイトデーをやりつつなにかしらの勝利条件を満たさない限り、聖杯相当のなにかも降りてこない……と。
「ね、どうしたらいいんだかわかんないでしょ?」
「そんな軽い口調で言うことじゃねぇよなこれ」
いやー、本当にどうしたものかね、これ?