なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「全く、朝からとんだハプニングですよもう……」
「いや、まさかあの幻の商品が実在するとはねぇ」
汚れた服を洗濯に出し、着替えを終えて戻ってきたXちゃん。
そうして着替えた姿は、普通のシャツとジーンズというものであった。……びっくりするくらいにラフな服装である。
さっきまでいつもの謎のヒロインXの服装だっただけに、余計にそう感じる。
……あっちはあっちで、わりとラフな姿だろうって?
上に羽織っているジャージは確かにラフに見えるけど、中に着ている近未来スーツはラフな感じではないでしょ、あれ。
とまぁ、彼女の服装の話はそれくらいにしておいて。
着替えた彼女から「心配なので私もついて行きましょう!」と提案された私達は、「お仕事がんばるのだー」と玄関で手を振るゴジハム君を背に、『アンリエッタ姫様ご一行なりきり郷観光ツアー』に出発したのである。
なので早速、イカれたパーティメンバーを紹介するぜ!*1
中二病のキーア!
管理願望のマシュ!
お花畑なマーリン!
お嬢様アルトリア!
セイバー
以上だ!
……以上だ?
まぁそんな感じの集団が、ぞろぞろと道を歩いているわけである。……栄枯浪漫ではない。
道行く先で出会う人々は、アルトリアを見た後にXちゃんを見て「同じ顔が二人……?」と首を捻ったり、「なんだいつものことか」*3と読んでいた雑誌に視線を戻したり、はたまた「また同じ顔増やしたのか!おのれ創造神!」したりと、わりと色んな反応を返してくる。……最後の人、
でもまぁ、私達のこういう探索……行脚?もわりと定番みたいになってきているため、周囲の反応は困惑よりも納得の方が強いみたいなのだけれど。
だったら別に、アルトリアを着替えさせる必要なかったんじゃないか、だって?……それは彼女が【顕象】じゃなかったら、の話ですよ奥さん。
「おや、これは珍しい。今日は異界からの稀人の案内ですか、キーア」
「げ。……そうだけど。別に悪いモノではないから、貴方の心配するようなことにはなってないわよ」
「ほう、それはそれは。残念ですね、と言えば宜しいですか?……それはそれとして、私の台詞を使ったそうですね?」
「……あとでなんか奢るから」
「ふむ、仕方ありませんね」
……うん、早速絡まれた。いや、これに関しては私にも責任があるだろうけど。
こっちに近寄ってきたのは、白衣のような外套と、紫色のタートルネックを着こなした美男子。
必殺技を放つ時に、重力に関するあれこれを解説してくれる系男子……シュウ・シラカワさんその人である。*4
色々把握して動く系男子でもある彼は、明確に話をすることができる相手としては初となる【顕象】の検証……失礼、確認のためにここに来たのだろう。
そこに、いつぞやか彼の台詞を引用した私が居たため、ついでに声を掛けてきた……といったところか。
……一応あの会話、外に漏れることのないはずの、防聴完備のゆかりんルームでしていたもの、なんだけど。
なんでこの人、会話の内容知ってるんだろう……?
グランゾンは持って無い、みたいなことを言っていたはずだけれど。
あくまで
いやまぁ、あんなラ・ギアス七大超兵器、軽々しく持ち込まれても困るわけなのだが。*5
ともあれ、ここに居るうちは胡散臭いお兄さん……くらいのポジションをキープするつもりらしい、そんな彼のことである。要するに、
「そして───貴方が、かのアーサー王伝説に名高いキングメーカー、花の魔術師マーリン……その人ですね?お逢いできて光栄です。私はシュウ・シラカワ、以後お見知りおきを」
『おや、これはご丁寧に。ご存じの通り、私はマーリンという。そちらの噂もかねがね……といったところかな?シュウ・シラカワ博士?』
「おや、すでにご存じでしたか。ふふふふ……」
『はははは、いやなにはははは……』
「……その、これは一体?」
「裏方組が、互いの縄張りを掛けて争ってる図」
「は、はぁ……?」
自身のポジションと被る人物の出現を察知して、喧嘩を売りに来たシラカワさん……という構図とも見ることができるわけで。
……いや、こんな往来のド真ん中で、ポケモンバトルレベルの気軽さで、想像を絶するような舌戦を繰り広げようとするの止めない?
周囲からしてみたら、傍迷惑以外のなにものでもないでしょこんなの。……いやまぁ、火事と喧嘩は江戸の花、とでも言わんばかりに野次馬寄ってくるんだけどね、ここだと。
とまぁ、こんな感じに。
新入りが見えたのならとりあえず絡みに行く……というところがあるのが、なりきり郷の住民達である。
必ず絡まれるという意味での初手の壱、キャラクター性によって絡まれる次段の弍、そしてその人自身の特異性によって起こる参……と言った感じに、同じ絡まれると言っても、回数に差が出るわけで。
そりゃまぁ、面倒事を抑えられるのなら抑えておきたい……というのはわかって貰える話だと思う。
……わからん?このアルトリアは『
ある意味『アルトリア属性で絡まれる弍』を先に済ませたからどうにかなってる、みたいなところはあるけれどさ!
「どうしたんです、なんだかお疲れのようですが?」
「うん……まぁ、うん……」
「?」
呑気な表情で、いつの間にやら買ってきていたらしいアイスを、ぺろぺろと舐めているXちゃん。
……郷の内部は、基本的に春頃の気温で固定されているため、年末も近付いた冬真っ盛りな今であったとしても、普通にアイスを食べていられるような気温ではある。あるのだけれども……。
なんというか、この状況でアイスを食べる余裕があるというのが、なんとも羨ましいというか、図太いというか……。
静かに視線をぶつけ、言葉の応酬を続ける二人をうんざりしたような目で見つつ、小さくため息を吐く私なのでありましたとさ。
ふふふ、と笑うシラカワ博士から離れ、再び郷の内部を歩く私達。
暫く進んでいると、アルトリアが周囲を見渡しながら、疑問の声をあげた。
「とてもきらびやかな装飾ですが、ここではいつもこのような状態なのですか?」
「んー?いやいつもってわけじゃ……あ、そうか。向こうってクリスマスないんだっけ」
「くりすます?」
彼女が気になったのは、周囲の店が装飾などで鮮やかに飾ってあることについて、だったようだ。
言われて周囲を確かめれば、確かに周りの店はどこもかしこもリースと電飾に溢れている。
年末年始付近はその内容こそ違えど、基本的にはずっと装飾がされている。なので、あまりに気にしたことはなかったのだけれど。
よくよく考えてみると、クリスマスの大元の由来である、基督教が存在しない場所からやって来た彼女にしてみれば、こういった過剰な飾りつけ、というものは馴染みのないものになるようだった。
『向こうにも、年末の祭りは存在しただろう?これらもあれらと同じようなものさ。あっちで言うのなら──始祖ブリミルの降臨祭に近いもの、になるのかな?』
「なるほど、ブリミル様の。……では、あの赤い衣の方は、私達にとってのブリミル様のようなもの……ということになるのでしょうか?」
「……んー、近いような、遠いような……?」
アルトリアに簡単な説明をするマーリンと、それを受けて更なる疑問を呈するアルトリア。
……クリスマスは、その元となったものこそ降臨祭ではあるものの、そこらへんを真面目に祝っているようなイメージは、少なくとも日本では無い。
大体、好き勝手に騒いで飲んで、遊んでいるようなイメージしかないだろう。……クリスマスよりも前に行われている飾り付けの元となるハロウィンも、その大元の祭りからは掛け離れてしまっているだろうし。
まぁ、元を正せば祭り好きな日本人が、あれもこれもと貪欲に取り込んでいったから、ということになるのだろうが。
……こっちの外国の人ですら戸惑うような日本人の性質が、異世界からの来訪者である彼女にピンとくるはずもなく。
「……よくわかりませんが、楽しそうだということは伝わってきます」
「そうだね、クリスマスは楽しいもの、というのは確かだよ」
道の中央にあった、大きなもみの木を眺めながら、ほうと吐き出された言葉に頷き、皆で上に視線をあげる。
暗くなったら、巻き付けられた電飾が輝き、より華やかになるのだろうそのもみの木。
その下で楽しげに走り回る少女達を見て、思わずに笑みが浮かんで。
「ま、待ちなさっ……ちょっ、ホントに待ってココア……」
「わー!?お姉ちゃんがー!お姉ちゃんがー!すっごいバテてるー!?」
「oh……」
ほんわかムードが一瞬でぶち壊しになり、思わず目が点になった。
……いや、誰かと思えばココアちゃんとはるかさんじゃないですか。……なんでもみの木の下で追いかけっこしてたのこの人達?
「いや、大丈夫ですかはるかさん?」
「あ、ああキーアさん、この間ぶりです……ふ、ふふ。ちょっと昔に返った気分で、妹と追いかけっこなど嗜んでみたのですが……妹があまりにも元気に走り回るのと、自分の体力の衰えを加味していなかったことが重なって、想像以上に重労働になったというかですね……」
「ええ……」
倒れてしまったはるかさんに近付いて、その身を立ち上がらせながら問い掛けてみれば、返ってきたのはまさかの体力不足の申告。
……長年の労働力の源となっていた、所在不明の妹との再会。
それは彼女の精神に安寧をもたらしたが、同時に燃え尽き症候群をも誘発していたらしい。
いやまぁ、だからって早々にへばりすぎのような気もするのだが。
「いやー、えへへ。追いかけっことか初めてだったから、つい調子にのっちゃって……」
「朝からずっとやってたら、足に来ちゃいまして……」
……訂正。どんだけ元気に走り回ってるんだこの二人。
今はお昼前、実に四時間近く走り回っていたらしい。……そりゃ、疲れ果てて倒れもしよう……というか、寧ろ平気そうなココアちゃんがなんなんだよ、という話である。
「なるほど。こちらの方は随分とお元気なのですね?」
『いやー、多分彼女達を基準にするのは間違っていると思うよ?』
のんきに会話をするマーリンとアルトリアの声をBGMにしながら、私とマシュとXちゃんも、彼女達の追いかけっこに混ぜられてしまうのでした。