なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
(´^`)「……なんで私たち呼ばれたんだし?」
「さぁ?」
そんなわけで、迅速に店内に呼び寄せたのは先ほどの二人、ルドルフとオグリ。
彼女達二人が、今回のイベントを勝利に導くキーマンなのである!……と告げたところ、みんなから返ってきたのは困惑の表情であった。
「いやどういうことだよ。この二人を加えるだけで成功とかなに言ってるんだよマジで」
「なるほど、では順を追って説明しましょう。今回のイベントで問題になっているのは大まかに二つ、イベント形式と客だ」
これはちゃんと説明しないと納得しそうにないな、ということで初めから説明することにする私。
まず、耳にタコができるほどに聞き飽きているかも知れないが……今回のホワイトデーは、色々な事情から聖杯戦争みたいなものになってしまったもの、という風に解釈することができる。
一応、厳密には聖杯が降臨したりするわけではないのだが……
「ここでいう『聖杯に相当するもの』ってのは、極論優勝トロフィーとか優勝者への景品とか、他にも形を持たない『勝ったという栄誉』とかでもいい。とにかく、
「形がなくてもいいのか?」
「ここでいう『聖杯に相当するもの』はあくまで着火材みたいなもので、明確に問題になるのはそのあとの話だからね」
言い換えると、この『聖杯に相当するもの』自体に危険性はない、ということになる。
どちらかといえば、そうして『誰かが勝って頂点に立った』という事実自体が問題視されている、みたいな感じというか。
「そうなる理由が、客──もとい、ビワが作り出したモブ少女達ってわけだね」
「悪いエネルギーを害のないモノに変化させた、という感じだったか」
聖杯の泥を落として単に願いを叶えるものに変化させた、みたいな感じになるのだろうか?
……まぁともかく、そうしてなりきり郷の外から転がり落ちてきた悪心達を浄化することで生み出されたエネルギーは、しかしてそのまま外に放出するのは躊躇われるものでもあった。
指向性がないエネルギーというのは、周囲
無重力空間に浮いているボールのようなもの、とでもいうか。
なにも力を加えなければそのボールは同じ場所に浮いたままだが、外から力を加えてやれば特に他のなにかが起こらない限り、与えられた力に従ってずっと進んでいってしまう。
色のないエネルギーというのは、それと似たようなもの。
特にここでいうそれは【兆し】──周囲の願いを受けて稼働するものであるため、その危険性は語るべくもない。
ゆえに、ビワはそれをそのまま放出するわけではなく、人型の存在としてある程度加工する形で外に放出した、と。
「とはいえ、それだけだと足りてなかったというか、それが足りるようになる時間が足りなかったというか……」
「本来ならそうして放出された人型達は、ある程度他の人から離した状態で慣らす必要があった、ということだね?」
「まぁ、そうなりますね……」
冷蔵庫で冷えて固まる前に外に出してしまったチョコみたいなもの、というか。
本来なら冷蔵して形を固定する、という手順が必要なのに、それをする暇がなかったというか。
……まぁともかく、作られた人型達は本来であれば周囲の願いに過剰に反応する、なんて性質を失った状態で放出されるはずが、なんらかのトラブル……もしくは
「……ん?わざと?」
「かもしれないってだけの話。ビワって仮にもケルヌンノス……神様からの派生だから、実際のところ私たちに対する試練として彼女達を出力した、って可能性もなくはないんだよね」
「それははた迷惑すぎる……」
「本来神様ってそういうもんだけどね」
もしくは、迷惑な現象を『神』であるとすることで、人々の怒りを抑えようとしたのかも。
……その辺りの神様論はともかく、結果としてモブ少女達が中途半端に【兆し】としての性質を残したまま現世に現れた、というのは確かな話。
ここで、ホワイトデーイベントが話に関わってくる。
さっき触れた『聖杯に相当するもの』が、ある種の願望器となってしまうのである。
「ある意味では小さなイベントだからこそ、って部分もあるのかもしれないね」
「と、いうと?」
「商店街規模なのに滅茶苦茶参加者が増えたせいで、結果として景品が規模に見合わなくなった……みたいな?」
「あー……」
イベント形式の問題として『競うものである』ことを問題視してきたが、その実一番の問題は『色々見合ってない』ことなのかも、というか。
運営が明確な勝利条件を提示できてなかったり、仮に優勝したとしてなにを貰えるのかもわからなかったり。
そんな細々とした問題点が、寧ろ今回の場合はことを大きくする要因になってしまっている……とも言えるかも。
要するに、運営側の『申し訳なく思う気持ち』が一番の問題なのかも、というわけだ。
「有名どころに企業や上役。本来なら目にすることすらないような相手達が、こぞって自分達の企画したイベントに参加してくる……プレッシャーも凄いでしょうけど、彼らが参加したことを間違いだったと思わないようなモノを用意しないと、なんて方向に思い詰めてる可能性もあるわよね?」
「その結果他の進行も遅れてる……と?」
「基本的に運営側がしなきゃいけないことが審査と表彰くらいしかないからこそ、問題なくイベントが動いているとも言えるわね」
一言で纏めてしまうと、あらゆる意味で分不相応、というか。
結果、この辺りで一番強い願いが『ちゃんとした景品を用意したい』になってしまっている、と。
「で、この状況下で『聖杯らしきもの』が成立してしまうと、まず真っ先にその願いに反応してしまうってわけ」
「【兆し】の考え方からすると、それらの願いが集まる
「そだねー」
ゆえに、この状況下で聖杯戦争()が決着してしまうと、まず優勝者への景品に対して『相応しいものを』と願う気質が集まっていく、という形になる。
それに強く反応してしまうのがモブ少女達だ。
彼女達は【兆し】としての性質を宿したままだが、特にその方向性を持たない存在。
ゆえにその願いに対して反応し、結果として元のエネルギーに戻ってしまう。
それだけならまだいいのだが、その『エネルギーに戻る』という現象が数えられないほどに起こることで、本来明確に形を持つモノであるはずの【顕象】達にも影響が出てしまうのだ。
「『都喰らい』に準えて『兆し喰らい』と名付けていたみたいだけど……実際、そんなことが起こりうるのかい?」
「可能性としては半々かなぁ……無いと強弁もできないけど、かといって絶対に起こるとも言い辛いというか」
「ふむ?」
で、この『影響が出る』という部分。
今まで確定事項のように話していたが、その実絶対に起こるとは言い辛い部分もあったり。
何故かと言うと、『都喰らい』と違って【顕象】となった【兆し】の結束力はかなり高いから、というところが大きい。
「安定しなきゃ【鏡像】になるってことからわかる通り、【顕象】達は今の状態でとても安定してるんだよね。だから、その安定を崩すほどの現象になるか否か、ってところが問題の焦点になるというか」
「なるほど。安定した分子を原子に剥がそうとする際、とても強い力が必要となる……というのと似たようなものか」
「まぁ、そうなりますね」
類例である『都喰らい』が寧ろ影響力が高過ぎるというか。
……ともあれ、仮に数百単位でモブ少女達を集め、それらをエネルギーに還元したとしても、恐らく周囲の【顕象】にはなんの影響もないだろう。
──だからこそ、もし仮に彼らに影響が出るようなレベルだった場合、『逆憑依』達は一溜まりもないだろう、という話になるわけだが。
「……『逆憑依』の方が危ないのか?」
「危ないって言うより抵抗ができないだろう、ってことの方が問題というか。【顕象】は徹頭徹尾【兆し】で構成されてるけど、『逆憑依』は中身の核に【兆し】を纏ってるようなもんだから、仮にそういう『影響を剥がす』ような現象が起こったら、中身の保護のために寧ろ積極的に剥がれていく可能性大というか」
「なるほど……」
一応、【顕象】に影響が出るようなレベルでなければ問題はないだろうが。
逆に言うと彼らに影響が出るレベルなら、『逆憑依』達は既に『逆憑依』じゃなくなってる可能性が高い。
ゆえに、危険性が低い話であれ、警戒しておかないと問題になるわけである。
──実際にそれが起こった時には、もう私たちに対処は不可能になっているだろうから。
……事前に対処を練る正当性についてはこれくらいにして。
とりあえず、今の状況でなにもせずにいると、誰かが優勝したそのタイミングで郷が滅ぶ……みたいな可能性が高いことは事実。
じゃあどうするのか、ということで対策の一つに挙げられたのが、しのちゃんによる臨界状態のモブ少女達の固定、というわけなのだけれど。
「これをしようとすると、モブ少女達を一ヶ所に纏めないといけないんだよね、効果範囲的に」
「最終的に一つに纏まるとはいえ、纏まった最後の部分を狙うのは無理があるということか……」
当初聖杯降臨のタイミングで封印、という予定でいたが。
先の問題点──聖杯が成立した時点で他の『逆憑依』は行動不能の可能性大、という部分をよく精査したところ。
そのタイミングでの封印は不可能、もしくはできてもなりきり郷に被害甚大ということで却下となった。
なので、どうにかするためには『表彰会場≒聖杯の降臨先から離れた場所にモブ少女達を集めておき、離れた位置で一つのエネルギーに変化するところを押さえる』という風にするしかない、ということになったのだけれど。
これにはこれで問題があって、その離れた位置にモブ少女達が全員揃ってないと、結局意味がないのだ。
「しのちゃんのそれは相手を一つの存在として固定するものだけど、固定したあとに起きた異変にまでは対応しきれないというか……」
「固定したタイミングで存在の強度を決定するから、その強度を越えられるとどうしようもないのよね……」
本人に対してならともかく、他人に対して使う『揺れない天秤』は成立時点でその存在を固定するもの。
……言い換えるとその強度は『その存在が保たれる』程度に収まるため、その強度を上回るような影響が発生すると固定がほどかれてしまうのである。
つまり、複数箇所でモブ少女達が終結してしまうと、それぞれの地点で一纏めにしたあと、聖杯の元に集い直す……という形になり、ゆえにしのちゃんによる固定もまた破壊されてしまう……と。
なので、モブ少女達は
……のだが、宗教めいた影響力のものでない限り彼女達を一ヶ所に留めることは不可能に近く。
またそのレベルの施策は、ほぼ確実に他所の店を必要以上に妨害するようなものになってしまう……と。
「これらの理由から、まともな
「ん?」
「──ここで、この二人が問題解決の決め手になるってわけ」
(´^`)「……どういうことだし?」
その絡み合った問題を解決する策──それが二人に、特にルドルフにあると告げる私。
それを聞いたルドルフは、自身に集まってきた視線にたじろぐようにじたばたし始めたのだった。