なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「さて、今までの説明で彼女達をホワイトデーから隔離する、というのが如何に無謀な提案か理解して貰えたと思うのだけれど……その流れで、君達がうちでのバイトを止めるべきではない理由についても触れようか」
「もうお腹いっぱいなんだけど」
「そう言うもんじゃない、デザートもたんまり平らげて行きたまえ」
露骨に嫌な顔をするキリト達に、ライネスはとてもいい笑顔でそう返す。
彼ら二人がラットハウスでのバイトを止めるべきでない最たる理由。
それは、
「……ゑ?」
「分かりやすく言い換えようか。君達が途中で止めてしまうと、その時点でホワイトデーイベントとしての前提が崩れてしまうのさ」
「んなバカな!?」
唐突な暴論に、思わず驚愕するキリト。
しかしてこれは、荒唐無稽な話とも言い辛いところがあった。
──そう、彼女達の持つ属性である。
「いや、特徴らしき特徴は持ってないって……」
「おや、先ほどの話をもう忘れたのかい?──言っていただろう、彼女達には
「作り方の……」
「癖……?」
ライネスが述べたのは、彼女達の作り方の部分。
作った相手がラベルとして残っているのなら、同じく作り方も判断基準になるだろう……というもの。
例えば同じくビワから生み出された存在であるルドルフは、元となったビワと同じ『ウマ娘(たぬき)』の要素によって構成されている。
そしてモブ少女達に関しては、ビワの持つ要素のうち『娘』を元にする形で製造が行われている。
いわば鋳型のようなもの、ということになるか。
特に彼女達は【兆し】の大量消費を目的に生まれたもの、ゆえに多少の差異はあれ、元となった鋳型は完全に同じである。
そして、この『同じ』というのは、ある意味でビワと似たような設計をしている、ということを示すものでもある。
「創作家は原則として、己の経験からしかモノを生み出せないという。それはビワについても同じことで、彼女の場合は自身の持つ『娘』という要素から彼女達を
「!?」
つまり、彼女達はビワの元となったケルヌンノスに近しい面も持つ、ということ。
それが意味することは、彼女達の世界の感じ方は精霊のそれに近い、ということである。
「先の『イベントを通じて聖杯の顕現を知る』というのも、その精霊としての感覚の賜物というわけだね。──ゆえに、彼女達は私達が思っている以上に、世界を知覚してしまっている」
「……つ、つまり……?」
「君達が今この場でバイトを止めると、ホワイトデーというイベントと関わるのを止めた、という扱いになるわけだ。……その結果、この店はイベントを放棄したと見なされる」
「なんで!?」
それゆえに彼女達のモノの見方は、時に人の想像の範疇を簡単にはみ出てしまう……と。
この場合は、イベントに臨んでいた者が途中で脱落した、という扱いになる。
言い換えると失格、イベントの参加資格を失った扱いになるというか。
……ゆえに、彼らが途中で抜けるのは非推奨になる、と。
「そんなバカな……」
「参加宣言してなければよかったんだろうけどね。生憎と既に君達は参戦切符を受け取ったあと。途中下車は許されてないってわけさ。……ま、それが無くとも君達が抜けられない理由はあるんだけどね」
「そ、それは一体……」
「なに、単純な話さ。──キーアが許すはずないだろう、途中で抜けるなんて」
「…………」
そのライネスの言葉で『地獄まで一緒よー』とでも言いたげな顔で手招きするキーアの姿を幻視した二人は、諦めたように大きく肩を落としたのだった。
「……なんか謂れのない風評被害に晒されてた気がするんだけど」
「気のせい気のせい。ホワイトデー本番までまだ日にちがあるし、当日に向けて張り切ってお仕事していこうじゃないか」
「なんでそんな張り切ってるのか知らないけど……まぁ、そうだね」
必ずしも売り上げで一番になる必要はなくなったとはいえ、それでホワイトデーを祝う必要が消えたかと言われれば別の話。
というか変に祝わずにいると、ルドルフ達の誘導があってなおモブ少女達が集まらない……なんて事態になりかねないため、そこそこに頑張ろうと決心する私である。
……何故かしょぼしょぼしているハセヲ君とキリトちゃんが気にならないかと言えば嘘だが、とはいえ仕事そのものは真面目にやっているみたいなので追求するのもあれかなー、とスルーしておく優しい私であった。
厄介ごとの匂いがしたから回避しただけ?なんのことやら。
……ともかく、祝わなさすぎでイベントをやってない、なんて誤認されない程度にホワイトデーを遂行する私たち。
やってくるお客達はどこからか店員達の様子を聞き付けたようで、きゃいきゃい言いながらメニューを眺め、限定品を頼んで行く。
「はい特製コーヒーセットお待ち。ちゃんと渡す時サービスを忘れないように」
「へいへい。……あー、お客様?」
「あ、はい!」
「……
「きゃー!!知りませんけど知ってる体でお話ししたいですぅー!!」
(なんだこれ)
……ハセヲ君がすんっ、ってなってる……。まぁでも気持ちはわからないでもない。
女性向けイベントによくあるものとして、男性キャラが囁いてくれるというものがある。
内容は作中の名言だったり、はたまた愛を囁く言葉だったりと様々だが……どちらにせよ、耳元で彼らが話してくれる、というのを売りにしているパターンが多いことは間違いあるまい。
うちの施策も似たようなもので、料理を頼む際に運んできてくれる相手を指名することができるのだ。
で、その際に名言か甘言かを耳元で囁いて貰える……と。
まぁ、これ自体は言うほど特別なモノとは言えまい。
男性向けにも『囁きボイス』的なモノとして、女性から耳元で囁いて貰える作品があったりするし。
最近のモノとして言うならASMR*1というやつだろうか?
まぁともかく、明確な名前が付いたのが最近のことと言うだけで、その概念そのものは昔からあったわけである。
で、今回の場合はなりきり郷での営業ということで、キャラクター達が実際に名言などを喋ってくれる、という方向性で売り出している店が多い、と。
何故多いのかと言えば、そもそもに需要があることも確かながら、なにより
今『どこの店でもやってるなら、需要は滅茶苦茶被ってない?』って思った人もいるかもしれないけれど、冷静に考えて欲しい。
声が同じだからって、セフィロスに『○○、どん兵衛を食べるんだ』と囁かれるのと道満に『ンンンン○○殿、このどん兵衛を食すると宜しいでしょう』と囁かれるのは違うだろう。*2
それらは明確に需要が──キャラが違うのだ。
「まぁ、実際に道満が狐耳になってどん兵衛を勧めてきたら、私は正気を疑うけど」
そのどん兵衛呪われてないだろうな、的な意味で。
……まぁともかく、『逆憑依』の大原則として
これほど上手い商材も中々ないだろうってことで、みんな挙って囁きボイス商売に手を出している、というわけなのだった。
ただまぁ、その辺りの商売をちゃんとやれる人は意外と少ないわけで……。
「えーと……俺がビーターだ」
「きゃー!!私も貴方にチートされたーい!!」
(どういう意味……???)
結果、女性客のツボがわからん、みたいな感じになってしまい、結果として店員側に虚無顔を量産する結果となっていたのだった。*3
……そこら辺まったく気にせず「なに、気にすることはない」と囁き続けているウッドロウさんは凄いなー、というか。
でも微妙にイケボにした
……え?そういうお前はどうしてるんだって?それがねー。
「……ぬぐぐぐズルい、でもこの光景を邪魔する勇気はない……!」
「これが壁になるという気持ちか……」
「私が、私達が天井だ!!」
「せんぱーい、お願いしまーす」
「へいへい……マシュの凄いところ、見せて欲しいな?」
「…………」<ツヤツヤテカテカ
「はいはーい!こっちにもお願いしまーす!」
「はいはい。……BBちゃんは最高の後輩だよ」
「──我が生涯に一片の悔いなしッ!!」
(いや悔いろよ)*5
……ご覧の通り、後輩二人専用店員と化してるんですよねこれが。
いやまぁ、ちゃんとお金払ってるから文句も言えないというか、幾らなんでも占有しすぎというか。
ともあれ、ある意味いつもと変わんねーんじゃねーかな、なんてことを思いながら、せっせとコーヒーを運ぶ私なのでありましたとさ。
……そんなにコーヒー飲んでて大丈夫なのかねこの子達。