なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
(´v`)「いい汗掻いたんだし……」
「ええと……お疲れ様……?」
ふぅ、と額の汗を拭いながらピアノの横を離れたルドルフ(たぬき形態)に、納得のいかない気分のままタオルを渡す私である。
どこのオペラ歌手だよ……とツッコんだはいいものの、よく考えたらたぬき動画って名作クラシック紹介とかもしてたなぁ、ってことはなりきり郷内のたぬきの特性*1的に、ルドルフが滅茶苦茶美声なのも当たり前の話なんだよなぁ……みたいな納得を得たわけだけど。
納得したあとで「いや待てよ?」という気分になり、結局納得感はどこかへ行ってしまったのだった。
「まぁ、そこはたぬきゆえ仕方なし、としておきませんか?」
「なんか負けた気がする……」
(´´^`)「私に言われても困るんだし……」
で、先ほどまでピアノを弾いていたはるかさんがこっちに戻ってきたため、彼女にもタオルを渡す私である。
……こちらの様子を見かねて助け船を出してきた感があるが、正直それでどうにかなるならたぬきはいらないというか。
ともあれ、いつまでも納得いかね~!……みたいな顔をしているのもあれなので、眉間を軽く揉んでリフレッシュ。
心機一転、夜のお仕事を頑張ろうと気合いを入れ直したのだった。
「……とはいえ、私たちの仕事なんて昼間と変わらず出てきたメニューをお客に運ぶことくらいなんだけどね」
「まぁ、カクテルの配合なんてできませんからね……」
技量的にも見た目的にも、と溢すはるかさんに確かにと頷く私。
バーと言えばカクテル、というのは中々に短絡的な気もするが、かといって他にめぼしいメニューがあるかと言われれば微妙なところ。
静かな雰囲気の中頼んだカクテルを傾けながら、傍らの相手と語り合う……というのが一般的なバーの楽しみ方、みたいな?
一応食事も何点か準備されているが、昼間以上に頼まれることがないので基本賄いにしかならないとかなんとか。
「居酒屋ならばともかく、こういう場において食事を摂る……ということはほとんどないからね」
「あんまりバーとかに入ったことねぇからよく知らねぇけど、そういうもんなのか?」
「なくはないみたいだけど、基本的にお酒の方が主役って感じだからね」
グラスを磨きながらウッドロウさんが発した言葉に、丁度頼まれた商品を取りに来たハセヲ君が反応し、こちらに問いを投げ掛けてくる。
……別に私もあんまりそういうところに詳しいわけじゃないけど、今しがた話題に上がったように『居酒屋ならともかく』というのが一番近いんじゃないだろうか?
よく言われるのは、お酒を楽しみながら時々摘まむように料理を食べることもある……というのがバーで。
その反対──食事を楽しみつつちょいちょいとお酒も飲む、みたいな感じになるのが居酒屋であると。
まぁ、厳密な違いというよりは大まかにそうである、というだけの話であって、近年では食事を売りにしたバーとか、はたまたお酒主体の居酒屋みたいなものもあるみたいだけども。
「……あるあるだな、それ」
「一応他に見分け方としてバーは
「それも場所によるから絶対の区分ではない、と」
似通った業態の店は大抵区分があやふやになっていく、というか。
まぁそんなわけなので、とりあえず店側が主張してる業態でいいんじゃないかな?……と投げやりな返答を返しておく私であった。
それはともかくとして、昼間喫茶店であるラットハウスは、夜のバーになってもその特徴を活かした感じの店になっている。
具体的には、コーヒーを使ったカクテルなんかが売れ筋というか。
「売れ筋といえばやはりアイリッシュ・コーヒーだね。ウイスキーの香り、コーヒーの苦味、ホイップの甘み……それぞれが絶妙に調和し、まるでデザートのように楽しめる……女性にも人気の商品だよ」*2
「コーヒーと焼酎で作るコーヒー焼酎、コーヒーとビールで作るカフェ・コン・セルベッサなんかも、物珍しさから頼まれたりしているみたいですね」*3
「私カルーアミルク好きー」*4
「甘くて飲みやすいからね。とはいえアルコール度数は意外と高いから注意が必要だ」
「そんなに高いのか?……ビールより高ぇのかこいつ」
「そう考えると言うほど、って気もするけど……ジュース感覚で飲めるのがよくないんだろうな、多分」
たまたま暇なタイミングだったため、コーヒー系カクテルの話題で盛り上がる私たち。
意外と種類が多いことに驚きつつ、その種類の多さこそバーが繁盛するこつ、と改めて理解したのであった。
無論、売れ筋がコーヒー系カクテルというだけで、普通の?カクテルも販売してるのでそっちもおすすめだ。(誰への宣伝?)
「……と、言ってる内にお客さんが来たね、こちらへどうぞー」
「昼間は元気な挨拶が好ましいが、夜は静かな挨拶を求められる……というのも、バーの特徴かもしれないね」
「確かに」
そうこうしているうちに次の客がやって来たため、急がず焦らず対応に向かう私なのであったとさ。
「お疲れ様でーす」
「ああ、お疲れ様」
ラットハウスは深夜帯まで営業しているが、昼間から働いている組は最後まで残ることはない。
具体的には十時前を目安に退勤である。
……まぁ私は残るんだけど!
「見た目だけなら真っ先に帰ってそうなんだけどな」
「一応最後まで客の内訳見てないといけないからね。本格的にあの子達を誘引し始めるのは明日からの予定だけど、その前にふらっと寄りにくる可能性はなくもないし」
帰り支度を終えたキリトちゃんが、私の姿を眺めながらそう呟く。
……まぁうん、見た目的に小学生にしか見えないのは承知の上。
そもそもなりきり郷の住民なら私のことを知ってる人ばかり、さっさとおうちに帰りなさいなんて野暮なことを言う人はいないだろう。多分。
それに、現状モブ少女達を一目で見分けられるのは私だけ。
となれば、こうして確認できないタイミングを作るような真似はしておけないというか。
……別に分身でも置いとけばいいんじゃないのか、ってのは禁句。
「別に賄いが気になってたりはしないし……単に今家に帰るとマシュが駄々捏ねて来そうってだけだし……」
「駄々?」
「我慢したんですからやってくれますよね、みたいな?」
「それは最早駄々どころかわがままでは……?」
ホワイトデーって銘打ってるせいで、いつもより「私を構って」感が強くなっているというか。
……そんなわけなので、じみーに家に帰りたくない気分の私なのであった。
具体的にはホワイトデーのあれこれが終わるまで?
「それずるずるとずっと帰れなくなるやつじゃねぇか?」
「仮にそうなった場合、マシュさんがどうなるかわからないのが恐ろしいですね」
「止めろよぅ!なんか最近公式のマシュも強火になってきてるから、うちのマシュも歯止めが効かなくなってるんだよぅ!!」
そのうち軟禁でもされそうな空気感があるというか……。
いやまぁ、仮にそうされても私は普通に逃げられるけどさ?
そもそもの話として、そういうことをする精神状態にマシュが陥っている……って部分を気にしないといけないというか。
そんなことを言えば、周囲から返ってきたのは「いや、悪いのお前では?」みたいな空気なのであった。
……私が悪いのかねぇ、本当に?
「その辺りを論じるつもりはないぞ、っとだけ。……まぁとりあえず、夜も頑張れー」
「……へい、頑張ります」
やだ、味方がいない……。
アウェーすぎる状況に涙目になりつつ、帰っていく面々を見送ったのち仕事に戻る私である。
「さて、それではどうしますか?確かに閉店まで時間はありますが、お客様は多くはありませんし、忙しいこともないと思いますけど」
「……んじゃあ、ちょっと場を借りていい?」
「?はい、どうぞ?」
とはいえはるかさんの語る通り、深夜帯かつそこまで繁盛しているわけでもないラットハウスとなると、客の入りが多いとしてもそこまで忙しくはなり辛い。
言い換えると基本暇、というわけだが……ならば、と私が断りを入れて向かったのは、先ほどはるかさんが使っていた大きなピアノの前。
「あら」
「おや」
(´´^`)「意外な特技だし……」
ふと思い立ち、鍵盤を前にしてみれば。
なんとまぁ、先ほどのはるかさんに負けず劣らずの演奏が、私の指から紡ぎ出されるではないか。
……他人事なのは、私の意思で弾いているというよりは体に任せて弾いている、というだけだからなのだが。
ともあれ、店内を湧かせるくらいの演奏は出来そうだ、ということでそのまま勝手に動く体に任せてピアノを弾き続ける私である。
「……ところで、なんで天国と地獄なんでしょうね?」*5
「彼女の気分を現したもの、ということかな。流石にゆっくりな曲調にアレンジはされているが」
(´^`)「マイスタージンガー並に奇怪なチョイスだし……」*6
……衝動に任せてるせいで結構あれなことになってる?ほっとけ!