なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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君は無邪気な星の愛娘

 ──次の日。

 

 再び突撃するつもりのマシュに「今日はダメ」と念入りに注意した私は、彼女が朝の仕事に出掛けていくのを見送ったのだった。

 ……突撃せずとも待ってりゃいいんじゃないかって?

 今日の私は深夜帯しか働かないからいいんだよ!

 

 

「それはそれで深夜皆の目を盗んで出掛けていく……という結果に繋がらぬか?」

「あーあー聞こえない聞こえなーい!」

 

 

 たまたま降りてきてたハクさんから容赦ないツッコミが飛んできたけど、私は負けない!()

 

 ……それはともかく。

 ホワイトデーまで残り三日、今のところ『どこどこが特に盛況』……みたいな話は聞かないため、恐らくどこも客の入りは似たようなもの、なのだと思われる。

 まぁ、モブ少女達による客の嵩増しを考慮した上でそれ……ということになると、予想以上にホワイトデーイベントの参加者が多いのだな、という話にもなるのだが。

 

 

「……ああ、振り分けても特に変化を感じられぬほどに参加者が多い、ということであっておるか?」

「まぁ、そうなるね。……数百そこらで収まるような話じゃないだろうから、それがプラスになってないとなると……」

「うむ、単純に百以上の店舗や企業が一商店街規模のイベントに乗っかっている、ということになるな」

 

 

 モブ少女達に好みの差(とくちょう)がないのは散々言及した通り。

 ゆえに、彼女達はそれぞれ近くでやっているイベントに──その規模が大きかろうが小さかろうが誘引されていく。

 無論、大きなイベントである方が誘引される人数は多くなるだろうが……現状、そういった大掛かりなイベントの話は聞こえてこない。

 

 その上で、どこそこが盛況……みたいな話もないとすれば、盛り上がりとして横一列に並んだ店舗が軒を連ねている……という風に受けとるのが筋だろう。

 まぁ裏を返すと、当初の案にあった『他の店舗の追随を許さないようななにかをする』というのが、絶対にやっちゃいけないものだったと証明しているわけでもあるのだが。

 影響範囲広すぎて怒られるどころの話じゃなくなるわっ。

 

 

「大変だのぅ、としか我は言えぬがな。下手に藪をつついて蛇を出すわけにも行かぬし」

「相手が相手だけに、ハクさんの干渉は逆効果の可能性大だからね……」

 

 

 そんな私の話を、我無関係とばかりに聞き流すハクさんである。

 

 ……いやまぁ、無関係でいて貰わないと困る可能性大だから、それはそれでいいんだけどね?

 なにせハクさんはビワの対に当たる存在。

 直系に当たるルドルフならともかく、同系統別区分に当たる彼女の干渉は、モブ少女達にどんな変化をもたらすか未知数過ぎるし。

 

 

「最悪我の気に当てられて全て妖魔と化す……などということもあり得るかもしれんしなぁ」

「元が元だからね……」

 

 

 まぁ、厄災の化身(ケルヌンノス)悪意の化身(白面の者)、どっちがマシなのかって話になるわけだが。

 ……でもこう、無垢な力の結晶として出力されたモブ少女達が、()()()()()()()()()悪玉に触れて無事でいられるか?……みたいな話になると、ハクさんの方が悪影響大なのも確かなのだが。

 なにせ彼女、属性的には悪のまんまだし。

 

 

「気の持ちようで善のように振る舞っている、というのが正解だからな、我の場合。となれば、我の気質に関わらず、無垢なモノが触れれば悪に染まるは道理というものよ」

「うーんこの。……まぁ職業的に魔王な私が言えた義理じゃないんだけど」

「はははこやつめ」

 

 

 こちらを小突いてくるハクさんに応戦し、無駄にヒートアップした私達が我に返るのは、これから数分後。

 ──彼女と同じように下に降りてきて、小競り合いをしている私達へ不思議そうな顔で「なにをしてるんですか?」と問い掛けてきた、アルトリアの顔を見るまで掛かるのであった……。

 

 

 

 

 

 

「……うーん、やっぱり無理だわ。コツ?みたいなものが全く見えてこないというか」

「そっかー、やっぱ無理かー」

 

 

 本日に関しては深夜まで暇……。

 ということで、午前中はしのちゃんのレベルアップに勤しむことにした私なのだけれど。

 御覧の通り、成果を得られる気配は微塵も感じられない事態に陥っているわけで。

 

 ……うん、『揺れない天秤』の経験値の貯め方……ってのが意外と思い付かないというか?

 一応現状で一番効果があるのは、時間停止──タンマウォッチを利用したパワーレベリングなのだが、これに関しては前も言った通り、経験値は積めても応用法などが全く伸びないため非推奨。

 あれだ、初代ポケモンの『レベル100時に稼いだ努力値』みたいなものというか。*1

 扱うためのレベルは十分に足りてるので、他のステータスを伸ばしたいのだが、時間停止を応用した訓練だとその辺りが全く伸びないというか。

 

 かといって彼女のレベルアップのために誰かを実験台にする、というのも気が咎める。

 自然に覚えていくのならともかく、今求められているのは迅速な経験の積み上げ。

 

 言い換えると実験台(モルモット)となる相手の酷使がだいぜんていとなるため、余計に選べない手段と化しているというか。

 ……時間的な余裕があるんなら、実験台を用意した方が遥かに楽なんだけどねぇ。

 

 

「そうなの?」

「一般的な【星の欠片】は、ね。……【星の欠片】は弱いって話をしたと思うけど、それだけじゃあなんにもならないってのはわかるでしょ?」

「まぁ、単に弱いってだけじゃ、それこそなにも出来ずに終わるだけよね」

 

 

 確かに【星の欠片】は弱い能力である。

 あるのだが、今まで【星の欠片】が起こしてきた事態を思えばその『弱い』という評価に疑問符が付くのも確かな話。

 

 ここで理解しておくべきなのは、()()()()だけならば周囲に蹂躙されて終わるだけなのだ、ということ。

 私達【星の欠片】がここまで多大な影響を与えられるのは、偏に()()()()からなのだ。*2

 

 ここに認識の差がある。

 私を見て【星の欠片】はヤバイ能力だ、と思うのは間違いじゃない。

 ないのだが、()()()【星の欠片】がヤバイわけではない、というのも事実なのだ。

 

 

「『星の死海』でやることに、本人の持ちうるあらゆる全てを削ぎ落とすってのがあるんだけど……これ、真面目に考えるとなんの意味もないと思わない?」

「いたずらに自分の身を削ってるだけ……って解釈であってる?」

「そうそう。そうして身を削る中でなにかを見出だす、ってのがこの修行の目的なわけだけど……()()()()()()()()()()()【星の欠片】は【星の欠片】なのよ」

「?」

 

 

 分かりやすく言えば、人が認知できないほど小さな世界にあるものなら、それらは全て【星の欠片】なのだ、というか。

 

 ……一応わかりやすい区分として【星屑】というのがあるので、それを説明に使うと。

 要するに、私が普段【星の欠片】と呼んでいるのは、その【星屑】が変化したもの──言い換えると原石から加工された宝石、みたいなものなのである。

 

 

「無論、原石の時点で価値のあるモノだって存在するけど……大抵の宝石って加工して姿を綺麗にしたからこそ価値があるもの、って感じでしょ?つまり、【星屑】の状態で転がっている子達は単に弱い(価値がない)ままなのよ」

 

 

 まぁ、流石に価値がないというのは言い過ぎだけど。

 とはいえ、【星屑】のまま転がっていても単に弱いだけ、というのは確かな話。

 そこから自身の弱さを武器にできるようになってこそ、【星屑】は【星の欠片】として輝き始めるというか。

 

 

「なるほど。努力や鍛練の方向性が違うだけで、【星の欠片】だって自分磨きは必須なのね」

「そういうことになるね。で、話は戻るんだけど。【星屑】状態っていうのは、いわば自分の中だけで完結している状態。言い換えると、()()()()()()()を持ってない状態でもあるんだよね」

「……ふむ?」

 

 

 で、話は実験台云々の所に戻ってくるんだけど。

 

 一般的に【星の欠片】の持つ能力の中でもっとも驚異的なのは、その小ささゆえに()()()()()()()()()()()というその性質だろう。

 ある程度のラインに達した【星の欠片】は、それを利用して他者に自身の性質を発現させる……みたいな反則染みたこともできるようになるのだが、これをするためにはまず自分という世界から、その外の世界へと干渉する手段が必要となる。

 

 ところが、【星屑】状態の【星の欠片】は先ほど説明した通り、他者への干渉手段を持たない。

 あくまで自分という世界に埋没し、外を認知すらしていない状態なのである。

 

 

「究極の引きこもり、なんて風にも呼べるかも。……まぁ、基本的に【星屑】状態の【星の欠片】にまともな意識なんて欠片も残ってないんだけど」

 

 

 原石云々の話を再度持ち出すと、【星屑】状態は『星女神』様によって雑に切り出された状態、みたいな感じというか。

 同時に『星の死海』を通っていることも確定するため、その状態であればまともな意識が残っている方が稀、とも。

 

 そこから再起動できれば晴れて【星の欠片】入りだが、その再起動の際に必要となるのが外の世界を再認識することなのだ。

 

 

「正確には、あらゆるものに含まれる自分自身、というものの自覚だけどね。ともあれ、【星の欠片】はその性質上、あらゆるものに含まれる自分自身を感知する能力を求められて続ける。翻って、【星の欠片】を成長させたいなら自分以外の自分──万物に宿る己自身を探すのが一番手っ取り早いってわけ」

「……それで、実験台があった方がいい、ってことになるの?」

「明確に自分以外の誰かだからね。そこから自分に連なる要素を見出だして弄ってみたり、更に進んで自分を見出ださずとも弄れるように努力したり……って方向に進むってわけ」

「ふーん……」

 

 

 なので、相手としては【星の欠片】以外が望ましい。

 性質上手応えがまったくなく、『難しいことをした経験』として処理されないためである。

 

 ……みたいなことを説明しつつ、これ以上のレベルアップの手段を模索する私なのでありましたとさ。

 

 

*1
第四世代までのポケモンにおいて、努力値によるステータスの変動は(努力値獲得時以外の)特定のタイミングでのものだった。代表的なのが『タウリン』などの努力値に干渉するアイテムを使った時、およびレベルアップ・進化した時。この内前者のアイテムに関しては、第七世代まで上昇させられる上限が定められており、それ以上は使えなかった。つまり、『レベル100かつアイテムによる努力値の上昇上限に達したポケモン』は、例え努力値を積んでもステータスが変化しないのである。……というのは勘違いで、正確には『ボックスや育て屋に預け、それを引き取った時』にもステータスの再計算が行われる。旅パしか育てないようなプレイヤーだと気付かないこともあるとか(原則アイテムまで使うようなポケモンはずっと連れ歩いていることがほとんどである為、預けたことがない(=ステータスの変動に気付かない)なんて事態に陥る)

*2
強さ(上方向)にしろ弱さ(下方向)にしろ、極端に振り切れたからこそおかしなことができる、ということ。上方向がオーバーフローならこっちはアンダフロー、みたいな感じ。普通に弱いものとは数値的に1とか2とかそのレベル、という話でもある


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