なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、私が唖然としてしまった理由。
それは、目の前に広がる光景にその理由があるわけなんだけども……。
「……いや、なにこの……なに?」
語彙力の急激な低下が心配される昨今、みたいなフレーズが脳裏をよぎるほどに、現状言葉の出てこない私である。
それもそのはず、私の目の前に広がる光景は、まさに目を疑うようなものだったのだから。
……具体的に言うとですね?
「……『キーア様ご一行大歓迎』とか書いてあるね?」
「おなか痛くなってきた……!!」
壁の向こうに広がっていたのは、明らかになりきり郷とは別の世界。
具体的にはこの辺りは普通の
いわゆる牧歌的*1な風景というわけだが、その空気に似つかわしくない物体が幾つか。
それが、今しがた内容を束ちゃんが読み上げたモノ──すなわちそこらに乱雑に刺し立てられた、まるで観光地気分のような
──結果、私の胃にダメージが入った。
一体誰がここの主なのか、という予想ができてしまったのもその一因だが、なによりその相手が
「その言い方だと……ここにいる相手はキーアの知らない相手ではない、ってこと?」
「まぁうん、私が設定ノートに書いた人物像とほぼ一致してるから、まず間違いなく」
「……この空気感を躊躇わずに繰り出してくる相手、ってこと?」
「うん」
「即答した!?」
驚愕するしのちゃんに、思わず視線を逸らしながら答える私。
……正確には、こういうものを投げ付けてきて
ゆえにこの歓迎も形だけ、あからさまに『さっさと来い』と言っているようなもの……みたいな予想が付くわけである。
まぁ、だからってこの誘いを蹴って戻るわけにも行かないんですけどね!
だって私たちがここに足を踏み入れた理由って、この空間の持ち主にここから退いて貰うことだから!
「まぁ、そうだねぇ。ここに居座られるのが困る、ってのはよくわかるよ。なにせここ、
その中でも特に意味を持つのが、今しがた束さんが話したそれ。
……そう、この空間はなりきり郷の一区画を飲み込む形で展開されているわけなのだが、それが立地している場所というのがホワイトデーイベントを企画した人物の所在地を含んでしまっていたのである。
わかりやすく言うと、
そりゃまぁ、早急に解決しないと大問題ってわけで。
「一応イベントそのものがたち消えるってことはないと思うけど、生憎中を見たらわかる通り相手の所在不明だからね……」
先ほど牧歌的、と目の前の景色を表したことからわかる通り、私たちの目の前に広がるのは畑や草木である。
それは言い換えると、見える範囲に人の気配がまったくない、ということにもなるわけで。
この空間が【星の欠片】の作用でどれほど広がっているのかはわからないが、少なくとも現在地から見渡せる範囲に人里がないのは間違いあるまい。
思わず『ナーロッパじゃねーんだぞ』*2という言葉が口をついて出なかったことを褒めて欲しくなるくらい、と言えば今の私の気持ちもなんとなくわかるんじゃないだろうか?
「……え、てことはもしかして、人里探して歩かないといけなかったり?」
「そりゃそうでしょ。……まさかとは思うけど、歩きたくないとか言い出す気?」
そこまで話して、束さんが嫌そうな声をあげた。
どうにもここからさらに移動する必要がある、ということに抵抗があるみたいなのだが……いや、篠ノ之束と言えば人類最高の頭脳に加え、その頭脳に比類するレベルの身体能力を兼ね備えるスーパーウーマン。
伊達や酔狂で『性格以外最高の女』と呼ばれているわけではないのだ。
……なので、精々歩くとしてもその距離は一キロもないだろう。下手すると彼女の身体スペックなら踏破に一分も掛からないレベルの短い距離、ということにしかならないはずなのだけれど……。
「それ
「えー……?」
思わず子供か、と再度ツッコミたくなるような彼女の様子に、思わず困惑する私である。
どうやら聞くところによると、『逆憑依』としての束さんは再現度が足りてない……というのは再三言われている通りだが、それによって欠けている原作再現というのが『性格』と『肉体スペック』の二つになるらしい。
「……えっと、クリスって言うのは貴方の同僚の、ってことよね?
「あんなゴリラと腕相撲なんてしたら束さん死にますが!?」
「そ、そう……」
まぁ迫真の宣言。しのちゃんどん引いてるじゃん。
……本来の束さんなら勝って当たり前な辺り、確かにスペックダウンしてるなぁ、と頷かざるを得ない話である。
本人は『いいもんねー!束さんはこの頭脳だけあればなんとでもなるもんねー!!』とか小学生みたいなこと言ってたわけだが。
……ご自慢の頭脳も若干疑問符付かないその行為?
ともかく、今の束さんが見た目通りの身体能力しか持たないというのは間違いなく。
そうなると確かに、そのあからさまに歩き辛い格好で一キロの道のりを踏破するのは中々に骨が折れることだろう。
「……そういえばふと思ったんだけど」
「なに?シノノン」
「あ、貴方にそう呼ばれるとは思ってなかったけど……それは置いといて」
仕方ないので物見遊山気分で歩くかー、と移動し始めた私たち。
時間はいいのか、という話に関してはここが【星の欠片】の影響下なら特に問題なかろう、ということで無視である。
で、そうして歩く中でしのちゃんが束さんに話し掛けたのだけれど……ふと考えたら、この二人ってどっちと『シノノン』って呼べそうな相手なんだなぁ、などとどうでもいい気付きを束さんからもたらされたり。
それはともかく、なにか気になったことがあったらしいしのちゃんは、そのまま話を続けていく。
「さっき『性格以外は』みたいなこと言ってたでしょう?」
「うん、よくみんなが言ってるね。それで?」
「確か、本来の貴方ってその身体スペックのお陰で、薬物にも耐性があるのよね?」
「う、うん?そうだけど?」
今の束さんは無理だけど、と答える束さんだが、なんか話の方向性が怪しくなってきたことに警戒心を露にし始める。
私もなにを言い出す気だこの子、と小さく警戒をし出して……。
「つまり今の貴方って媚薬とか使われてぐちゃぐちゃのでろでろになるのが似合う状態ってことよね?」
「いきなりなにいいだすのきみぃ!?」
「ゴブリンとかオークにぬちょぬちょにされるのが似合うってことよね?」
「なんで言い直したのぉ!?怖いよぉこの子怖いよぉ!?」
「あっ、あんなところにオークが」
「ドウモ、主ノ命ニヨリオ迎エニ「ギャーッ!!イヤジャオークノコナゾハラミto night☆!!」*3チョッ、」
……善良そうなオーク君の接近を感知した結果、束さんをからかうために言い出したのだろうしのちゃんの冗談は、見事なまでに束さんにクリティカルヒットし誤解を解くのにしばらく時間が掛かったことをここに記しておきます。
なんちゅうこと思い付くんじゃこの子……。