なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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束は犠牲になったのだ、展開のための犠牲にな……

 はてさて、案内された領主の家。

 そのまま中に入るように促されたのだけれど、相変わらず束さんが挙動不審である。

 ……まぁ、亜人種がそこらを行き交ってるせいで、異世界転移させられたような錯覚が出ていること。

 およびさっきのしのちゃんのからかいがクリティカルヒットした関係で、いわゆる不定の狂気みたいなことになっているのだろうが。

 

 

「敢えていうなら脳内ピンク状態、とか?」

「なるほど、自分がねちょねちょにされてるところを想像してしまって悶えてる、と」

「オ二方ハコノ方ヲ落チ着カセタイノカ慌テサセタイノカ、一体ドッチナンデス?」

 

 

 いや、こういうテンションの束さんって珍しいんでつい……。

 嗜虐心を煽るというのか、俗に言う『虐めたくなる』空気感があるというのか。

 

 ……あれだ、今だけ『被虐体質』獲得してそう、みたいな?

 虐めてオーラ全開、みたいなものなのでついついちょっかいをかけたくなってしまうのである。

 今だって『被虐体質』の『ひぎゃ』に反応して『ひぎぃ!?ひぎぃなの!?』とか言ってるんだもん、面白くない?

 

 なお、聖人オークさんはこの話を聞いても『ヤメテアゲマショウヨ……』と呆れ顔であった。

 やだ本当に聖人過ぎるわこの人……。

 

 そんなこんなで待つこと数分。

 オークさんの淹れてくれた紅茶(滅茶苦茶美味しかった。束さんだけなにか盛られてないか気にしてた)を楽しみつつ、目的の人物が現れるのを待っていると。

 

 

「お~ま~た~せ~し~ま~し~た~ぁ~」

「……んん?」

「オオット、オ待タセシマシタ皆様。主様ガヨウヤクコチラニ来タヨウデス」

「…………んんんんん?」

 

 

 部屋の外から聞こえてきたのは、随分と間延びした声。

 オークさんの言うところによれば、これがここの主の声ということになるのだが……え、マジで?

 

 

「どうしたの?」

「いや……あれ?」

 

 

 思わず困惑する私を見て、どうしたのかとしのちゃんが問い掛けてくる。

 それに私はどう答えようかと考え、暫し言葉が詰まることに。

 

 だって、ねぇ?

 さっきの間延びした声、気のせいじゃなければおっとり系の女性の声だったけど……。

 

 

「私が思ってた相手は男性だったから、もしかして相手を間違えたかなと思って」

「実際そうなんじゃないの?」

「いや、ここから感じられる【星の欠片】としての空気は、生憎予想と間違ってないんだよ」

「なる、ほど?」

 

 

 私は【星の欠片】は条件さえ満たせば誰にでも使えるもの、と述べたことがある。

 それは確かに間違いではない。ないのだが……その場合、原理は同じでも()()()()になるのである。

 

 

「命名?」

「動物で言うところの個別の名前って言うのが近いのかな?いわゆるニックネームってやつ。で、普段私とかが他の【星の欠片】達を呼ぶ時に使っている名前はそれで、それとは別にイエネコとか柴犬とかみたいな種族名に当たるものがあるんだよ」

「ふぅん?」

 

 

 わかりやすく例を挙げると……例えばしのちゃんの『揺れない天秤』。

 これは先の説明におけるニックネーム……【星の欠片】的には【星式名】に当たる。

 で、これには実のところその【星の欠片】の性質に加え、『誰がその【星の欠片】を使えるようになったのか?』みたいな情報まで含まれているのだ。

 

 

「……そうなの?」

「そうなんです。だから、例えば今のしのちゃんみたいに『二つの要素を釣り合わせ、支柱となるものの不変性を担保する』【星の欠片】が新しく現れた場合、そっちは『揺れない天秤』って名前じゃなくなるってわけ」

「へー……」

 

 

 まぁ、これまた前も言ったように、既に現れている【星の欠片】と同種の【星の欠片】は、同じ世界に同時に現れることはないのが普通なのだが。

 どっちかと言えば、複数に跨がる世界を見通す目を持つものにこそ意味のある区分け、ということになるのかもしれない。

 

 

「その言い方だと、もしかして……」

「お察しの通り、これは『星女神』様のためのネーミングってわけ」

 

 

 そこまで語れば、勘のいいしのちゃんなら気付きもする……というわけで。

 この【星式名】というのは、類似する【星の欠片】を幾つも目にする機会のある『星女神』様のためのものなのだ。

 なので、通常の機会においてその違いを──類似する【星の欠片】であることを示す【星名】と比べる機会はほとんどない。

 

 

「ないんだけど、【星式名】の方は個人の特定までできる、って言ったでしょ?」

「なるほど、名前を感じる?って感覚はよくわかんないけど、【星名】じゃなくて【星式名】の方が同じになることなんてないから、個人の判別には持ってこいってわけなのね」

 

 

 納得したように頷くしのちゃんに、こちらも一つ頷きを返す。

 

 先ほど述べた【星の欠片】としての空気感。

 それはこの話に照らし合わせると【星名】……わかりやすく言うと名字が同じ、ということを示している。

 そしてそこに、本来既に現れている【星の欠片】は同じ世界に出現しない──同じ【星名(みょうじ)】の相手は存在しえない、という話を組み合わせると。

 

 

知ってる相手(自分が作ったキャラ)じゃないのはおかしい、ってこと?」

「今までの例からすると、ね」

 

 

 はぁ、と小さくため息を吐く私。

 ……例えばジャンヌ達に付けられている【終末剣劇・潰滅願望(レーヴァティン)】。

 あれは本来【星名】の方であり、彼女達に個別に付けられる【星式名】とはまた別のものとなる。

 単に二人一組なのでややこしい、ってだけの話なのだが……それが例外になるくらいで、他の面々は全て自身の知る情報に沿った存在として、こちらの世界に現れている。

 

 わかりやすいのは『星女神』様と『月の君』様。

 あの二人はそもそも同じ【星の欠片】が生まれる余地が欠片もなく、【星名】も【星式名】もどっちも同じという例外枠ではあるものの……その名前が間違っていた、などということはなかった。

 キリアに関して見ても、当初の私が例外なのであって、彼女の【星式名】が『虚無』であることは変わらない。

 

 それからユゥイに関してだけど……彼女の場合はちょっと変則的で、三つの【星の欠片】が合一し生まれる『散三恋歌』を持っていたのは名前違いのユゥイの方。

 三人のユゥイが一つになって、結果として【星式名】を引き継いだというか、はたまた『散三恋歌』になりうる【星の欠片】が三つ合わさった結果そうなったというか……まぁ、ややこしいけど()()()()()()()()()、みたいなポジションである。

 わかるだけで納得できるかは別問題のような気もするけど。

 

 ともかく、それらを前提として考えてみると、まったく知らないところから湧いて出たしのちゃんを除けば、現状この世界に顔を見せている【星の欠片】達は、全て私の設定通りの【星式名】を持っている、ということになるわけで。

 その前提を踏まえた上で外の相手を感知した時、本来返ってくるハズの名前──【星式名(フルネーム)】が、別人のそれだったことによる驚きは如何ほどのものか?……というのが今回の話のキモ、ということになるのであった。

 

 

「参考までに聞いておきたいんだけど、その本来該当するハズの【星式名】の人って、どういう感じの人なの?」

「そうだね……まず、【星名(みょうじ)】に当たるのが『祝祭(カーニバル)』。政事・祝い事のような祭事と、それに捧げられる供物に関わる【星の欠片】で、性質としては前もって述べていた通り『多数によって犠牲にされる少数』を主体とするもの、ってことになる。言い換えると『少数派の反逆』、多数決の暴力の逆……って感じになるのかな?」

「……お祭りとは関係なくない?それ」

「カーニバルとカニバリズムは同じ語源、みたいな与太話聞いたことない?それは信憑性どころか正当性すらない戯れ言だけれど──謝肉祭、肉に感謝するものであることは間違いではない。カニバリズムの一概念に『倒した相手の力を得る』ための要素がある、ってところと結び付いたんだろうね」*1*2

「……なんで他人事?」

当時の私は若かった(いわゆる黒歴史)ってことだよ言わせんな恥ずかしい」

「えー……」

 

 

 響きが似てるから関連付ける、なんてよくある話でしょとしか。

 特にモノを知らぬ子供の時分ならば、そういう悪趣味めいた設定を考えることもおかしくはない。

 

 ……ともかく、【星の欠片】『祝祭』は多数のために捧げられる弱者をその基本概念とし、『祭りに捧げられた供物は強者の糧となる』すなわち『弱者は強者の力の源である』とすることで、わかりやすく【星の欠片】としての弱者基盤を浸透させたもの、ということになるわけだ。

 原理が普通の【星の欠片】に近いため、理論が間違っていても普通に起動してしまう悪例、とも言えるかもしれない。

 

 

「で、本来それを使えるハズの相手──【星式名(フルネーム)】『道化はただ笑うのみ(クラウン・クラウン)』は、その語感からわかるように道化、すなわち男性だったってわけ」

「それ本当に名前?完全に文章じゃない?」

「気にするな、単なる黒歴史だ」

 

 

 道化の王、というそのネーミングはどこぞのエクソシストを思い浮かべるかもしれないが……別にアレンなウォーカー君とは関係ない。*3

 無論名前を考える際に脳裏のどこかに引っ掛かっていた可能性はなくもないが……どっちかというとキャライメージ的には彼の大切な義父の方に近いというか。

 

 まぁともかく、外から聞こえてきたおっとり系女性のそれとは一欠片も繋がらない相手、ということに間違いはあるまい。

 

 

「そうなると……外の人は一体?」

「さてね。起きないハズの代替わりが起きてる、っていうのが一番あり得る可能性なんだけど……」

 

 

 今のところ、相手の正体は見えてこない。

 まぁ、配下?であるオークさん達の様子を見るに、決して悪い人物ではないと思うのだが。

 

 そんなことを短い間に会話しつつ、入ってくるだろう領主を待ち続ける私達なのであった。

 ……って、ん?

 

 

*1
カーニバルはラテン語、カニバリズムの方はタイノ語と呼ばれる借用語を由来としており、たまたま日本語読みが似ているだけにすぎない

*2
『神絵師の腕を食べたら神絵師になれる』みたいなネットのネタの元ネタかもしれない()

*3
『D.Gray-man』の主人公、アレン・ウォーカーの持つイノセンス、『神ノ道化(クラウン・クラウン)』のこと。名前がとても厄い

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