なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、私たちが真っ先に蹴った案──モブ少女達が聖杯として再構築されるそのタイミングをこそ待つ、みたいなのが現状における最善手、みたいな話が飛び出したわけだが。
当然、そんなことになれば反発する人だって出てくる。
具体的にはこの作戦における中核となっていた人物……そう、しのちゃんである。
「……後からやって来たわりに、随分と虫のいい話*1ばかりするのね?」
「ちょ、ちょっとしのちゃん……」
語気の強いしのちゃんを思わず制止する私だが、しかし彼女がそんな風に怒るのも無理はない、ということがわかるため微妙に躊躇してしまう私。
……いやだって、ねぇ?
ここ数ヵ月のしのちゃんを取り巻く環境というのは、まさにジェットコースターの如く目まぐるしく変化していた。
その中でも最たる変化が、今の彼女のその姿──シノンとカタリナの混じったそれ、だろう。
かつての面影は未だ残るものの、とはいえそれも風前の灯。
そして彼女がそうなってしまった一番の理由は、こうしてホワイトデーによって発生することとなったモブ少女達による被害を抑えるため。
……言うなればその身を犠牲に事態を解決しようとしていた、という風にも取れてしまうわけである。
にもかかわらず、それを横から唐突に現れてかっ浚って行こうとするささらさん達の存在と言うのは、確かに見方によれば敵のようなもの……という扱いになってもおかしくはないだろう。
ゆえに、争うのはよくないと思うものの、強くは咎められずにいる私である。
「……なるほどぉ~よぉ~くわかりましたぁ~」
「……?なに、諦めるとでも言う……?!」
「わぉ」
そうしておろおろしていると、得心したように頷いたささらさんが(少年を脇に退けた後に)おもむろに席を立ち、こっちに近付いてきた。
そしてなにをするのか、と彼女を見守る私の前で──彼女は、しのちゃんを自身の胸元に抱き寄せたのであった。
突然の抱擁に目を白黒させるしのちゃんと、そんな彼女を胸の内に抱き寄せながら、柔らかい笑みを浮かべて見せるささらさん。
「……大変だったんですねぇ~。だけどぉ~そんなに気を張ってたらぁ~疲れてしまいますよぉ~。お姉さんの胸の中でぇ~ゆっくり休んでくださいねぇ~」
「……ま、ママ……っ!!?」
「はい~?……ママがいいならママでもいいですよぉ~」
「ママーッ!!」
「しのちゃんが壊れた!?」
「あらあらぁ~」
そのまま、しのちゃんは彼女の放つママオーラの前に轟沈したのであった。
……いや、なんだこれ???
「短い期間に色々あって、こっちの思ってた以上にストレスが嵩んでた……ってことなんじゃない?」
「うーん、メンタルヘルスが足りてなかったか……」
「オ話ヲ聞ク限リ、ドウ見テモ足リテルトハ言エナイト思ウノデスガ……」
あらやだ、オーク君にまでダメ出しされちゃったわ。
……ってなわけで、喧嘩腰だったしのちゃんがささらさんの胸の中で眠りについてから暫く。
奥のベッドに搬送され、清々しい寝顔で休養を取り始めたしのちゃん。
そんな彼女を見届けてさっきの応接間に戻ってきた私たちは、改めて今後の話に舵を切り直していたのであった。
……うん、なんかもう考えるの疲れたから、行き当たりばったりでいいんじゃないかな?(てきとー)
「しっかりしてキーア、君まで潰れると私に負担がのし掛かってくるんだよ!流石にこの状況は束さんにも荷が重いよ!!」
「だよねーでもねー今までの作戦パーだからねー」
「IQが露骨に下がってる!?」
いやまぁねー?
モブ少女達を一ヶ所に誘導する、いわゆるルドルフ洗脳計画の方は、一応まったくの無意味ってわけじゃないんだよ。
最終的に一つになるタイミングを狙うって言っても、その際に合流してくる先が無数にあったら、どれが最後のタイミングなのか?……って迷いかねないし。
「下手に残りがある状態でことを進めちゃうと、遅延式で聖杯が降臨するとかいう嫌がらせ以外の何物でもない状況が生まれかねないからねー」
「そういう意味でもモブ達の意思っていうか行動の統一は必要、ってことだよね?」
「そういうことー」
この場合の『残り』というのは、それが封印した方と比べて小さくても無害とはならない。
そもそも彼女達が聖杯のような状態になってしまう理由は、火種となる優勝賞品から連鎖するエネルギーへの変異・およびそれに伴う周囲の同期波及による無関係の存在をも巻き込むエネルギー化によるもの。
……言い換えると、火種を完全に消し去らないと無意味なのである。
そういう意味で、仮に封印漏らしがあった場合。
それは封印の中身と概念的な繋がりのある
可燃性の物体は火がなくとも熱が高まると自然発火する、みたいな話があるがそれに近い。
「ガスを纏めて冷却層の中に突っ込めれば問題ないけど、そうじゃなかった場合外には冷却のための熱が散乱している。……そこで自然発火してしまえばガスを封入してる容器も破損して、そこから連鎖してガス爆発が起こる……みたいな状況ってわけ」
「そもそもそんな熱まみれの環境でガスをとり扱うなってツッコミは野暮かな?」
「野暮ってことはないけど……言っても仕方ない、みたいなところはあるかな」
そこら辺調整できるなら、そもそもこんなことであれこれ言ってない、みたいな?
まぁともかくそんな感じなので、封印漏らしは可能な限りというか絶対に避けたいところ。
一人や二人分なら辛うじてなんとかなるかもしれないけれど、その場合そっちの対処に私が駆り出される結果になるため結果として大して安心できない、みたいな話にしかならないだろう。
「だから、属性的に親戚感あるルドルフの洗脳、およびそれを前提としたオグリによる誘引は絶対必要ってわけ」
「ないと周囲に迷惑をかけまくるしかない、みたいな話になるんだっけ」
「そだね」
そもそもこれ、ホワイトデーイベントだからね!
なんか今、ホワイトデー感まったく感じられないんだけども!
……首を捻りたくなること請け合いだが、事実なのだから仕方ない。
ともかく、イベント自体を邪魔するのはよくない。
というか、イベントを邪魔すると火種が発生せず、永遠に着火前のガスみたいな存在になったモブ少女達と同道し続けなければならなくなる。
……その状態のモブ少女達をここに放り込み、そのあとのことは全部ささらさん達に任せる、というのも一つの手ではあるというか、こっちの安全面では恐らくそれが一番最適、みたいな話ですらあるだろう。
無論、そのやり方は多方面に迷惑掛けまくりなので選べないというか選んじゃいけない類いのものなわけだが。
そもそもこの世界の人達の安全面まったく無視してる形になるから、一瞬はよくてものちのち大問題になる可能性大だし。
「マァ、我々モ別ニ被害ヲ被リタイトイウワケデハアリマセンカラネ」
「ですよねー」
はい、そんなわけなのでそのやり方も却下。
結果、最後の最後──周囲のエネルギー化が起きるギリギリのタイミングでこの世界と繋ぎ、そのままささらさんによってモブ少女達を
……うん、やりたくねー(真顔)
「それしか方法はないんでしょ?」
「まぁそうなんだけどさー。でもこう、爆弾解体を諦めて危険のない場所で爆発させるのを選ぶ、みたいなものだから心理的にも対面的にも良くなさすぎて笑うしかねぇというか……」
「気にしなくてもぉ~構いませんのにぃ~」
確かに、ささらさんのエネルギー消費……もとい、少年への【星の欠片】の継承を作戦に組み込むなら、こういうやり方しかないというのは本当の話。
……それが本当だからこそ、微妙な忌避感を拭いきれないのもまた本当の話なのである。
いやまぁ、実際に爆発させないとダメなんだから、駄々を捏ねても仕方ないってのはわかるんだけどさぁ?
ただその場合、少しでもタイミングをミスるとこっちに影響が出てしまううえ、それを解消する手段も失われてる可能性大なのがねー。リスクヘッジ*2の面でねー。
「いっそ考え方を変えたら?」
「考え方?」
「ほら、最初の予定だと一塊になったモブ達を固定、ってやる予定だったんでしょ?……今回のパターンはその逆、影響を受けかねないこっち側にあの子の能力を……ってわぁ!?なにその顔!?」
「……束さんって天才?」
「そうだがぁ!?束さんは最初から天才だがぁ!?」
目から鱗、というのはこういうことを言うのだろうか?
今までは消費先がなかったので爆弾を固定するしかなかったが、今回は爆破解体できるようになったので、いっそ固定用の資材を周囲への防御に転用すべきでは?
……という意味合いとなる束さんの提案は、まさに福音の如く私の脳に響き渡ったのであった。
束さん、貴方は天使だ……。*3