なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ご馳走さまでしたー」
「ああ、またのお越しを。お客様?」
会計を済ませ、ラットハウスの外に出た私達。
……いやまぁ会計って言っても、基本的にお金を払ってるのは、この中で言うとはるかさんだけ……なのだが。
なりきり組ではないものの、最近はここに生活の拠点を移しているはるかさんもまた、なりきり郷内では金銭を使う必要性は無い身分、なのだけれど……。
「……その言葉に甘えてしまうと、人としてダメなところに転がり落ちてしまいそうで」
などと深刻そうな表情で言われてしまえば、こちらに止める理由もなく。
まぁ、あくまで支払うのは気持ちばかりのモノ……という形式に近いため、別に
ともあれ、外に出て周囲を見渡してみれば、辺りはほどよく賑わっている様子。
……昼食自体も一時間ほどで終えてしまったので、日が暮れるまではまだまだ余裕がある時刻だけに、さもありなん……といったところか。
となると……。
「ふむ。アルトリアは、どこか行きたいところとかある?」
「えっと、そうですね……」
途中で合流したココアちゃんとはるかさんは、マシュと一緒にそのままラットハウスに残留。……昼食を終えた流れで、そのままバイトのシフトに入った感じである。
はるかさんも、前職に関しては閑散期……というか、そもそもこちらに抱き込んだ時点で名義だけ向こうの人、みたいな感じになってしまったため、最近は夜のラットハウスでマスターをやっている、ウッドロウさんの手伝いをしているのだとか。
そのため、昼間はすることがなくてぶっちゃけ暇……といった感じに、ずっとココアちゃんの仕事姿を見ながらぐでっ、とテーブルに頬をつけてだらけているらしい。
……それもそれでどうなんだろう、って感じがしなくないのだが、彼女の職を半ば奪った形になった私から、彼女になにかを言う……というのも憚られたため、こうして放置する形になっているのだった。
それはさておき、現在のメンバーは最初に居たマシュを抜いて、
……なんだかアルトリウムを集めなきゃいけない気になって来た*2が、生憎と……生憎か?
えっと、幸運にも?この世界ではアルトリウムは確認されていないので、そういうイベントは起こらない……はず……?
いやまぁ、ついこの間赤城さんに誘われて秋刀魚漁*3したから、本当に起きないのかはわりと謎なんだけども。……定番系のイベントなら、こっちでも起こり得る……ということなのだろうか?
そうなってくるとクリスマス→正月→バレンタインの連打が、今から恐ろしくなってくるわけなのだけれど。……こいつら定番中の定番やんけ?*4
話を戻して。
単に郷の中で生きるというだけなら、現時点で紹介した場所さえ知っていれば、なにかしらに困ったりすることもないはずである。
彼女とマーリンが、一体どれくらいこっちに居るつもりなのか、はたまた向こうに戻るつもりはないのか。
……そこらへんは敢えて聞かないけれども、そうなると敢えて説明する必要のある場所、というのはもう無いとも言えるわけで。
よもや、彼女が郷から出ていくことを、端から想定するわけにもいかないし。……あ、この場合の『出ていく』はハルケギニアに帰ることではなく、
アルトリアの要素を強く持つアンリエッタである彼女は、向こうのアルビオンに相当する
いやまぁね?向こうに着いたあとは、ゆかりんのスキマでパーッと帰れるとは思うけどね?……そこにたどり着くまでに問題が起きるのが目に見えてるので、できれば止めて欲しい選択だというか。
そんなわけで、できれば郷の中で満足して欲しいなー、なんて打算と共に吐き出された私の言葉は、
「では──キーアさん。貴方のお友だちを、紹介しては頂けないでしょうか?」
「……はい?友だち?」
なんだか予想外の方向へと、事態を転がしていくのでした。
「ふぅん?それで私に……ねぇ?」
このアルトリアにVRヘッドセットを被せるのは(諸々の事情から)推奨しかねたため、全員でゆかりんルームへ直行。
中のソファーで惰眠を貪っていたゆかりんを、すっと抱えてポイっとトス。
すかさず(予想通り)受け止めてくれたジェレミアさんと、その腕の中*6で頬をほんのり染めて「?、……!?」*7と困惑しているゆかりんを放置し、ゲームのセッティングをして大画面モニターのスイッチオン。
そうして、なんだか久しぶりのような気がする『tri-qualia』の大地に再び舞い戻った私は、そのまま私の友人の一人──侑子の元に向かった、というわけである。
モニターの画像は、現在私の視界とリンクするように設定してある。
そのため、アルトリア達にはさっきのゆかりんのように、ソファーの上でぐでーっと溶けている侑子の姿が、大きく表示されているはずだ。
……その事は侑子も知っているはずなのだが、彼女が居住まいを正すような素振りはない。相変わらずのずぼらさであった。
「おーっ、キーアお久しぶりー!お土産あるー?」
「はいこれ、外で買ってきたケーキ」
「けーきぃ!?やったー!食べてもいい?」
とててて、っとこちらに駆け寄ってくるアグモンに、外のケーキショップで買ったショートケーキを箱ごと渡せば、彼はそれを掲げるように持ち上げて、嬉しそうにぴょんぴょん跳び跳ねていた。
食べていいか、と聞いてきた彼に「どうぞどうぞ」と返し、キッチンの方に掛けていく彼の背中を見送る。……リアルの方の耳に、感嘆するような吐息が聞こえてきたが、これは
声自体は同じだから、喋っている時のテンションまで聞かないと、判別が難しいんだよなぁ。……なんてことをぼんやり考えつつ、改めて侑子に視線をあわせる。
「……それで?そちらのお姫様は、私になにをご所望なのかしら?」
「……え、あ、私ですかっ!?ええええと、初めまして!アンリエッタ・ド・トリステインと申します!不束ものですが、どうぞ宜しくおねがいします!」
「大袈裟ねぇ」
こちらの様子を確認した侑子が、『
声を掛けられた側のアルトリアは……風切り音がしたので、思いっきり頭を下げた感じだろうか。
なんというか、生真面目な彼女らしい行動である。
「むむむ、次元の魔女……私的にはいつかのパートナー・聖杯乙女リリカル☆アイリスフィールを思い出すので、どうにも複雑な心境です」*8
「ぶふっ!?」
……あとXちゃん。声優繋がりでわけのわかんないもの思い出すの止めない?
貴方だけ
「……紫には、あとでしっかりと話をするとして。ご丁寧な挨拶、どうもありがとう。私は壱原侑子。次元の魔女、なんて風にも呼ばれているわね」
「次元の、魔女……。あの、キーアさんとは、やっぱり魔女繋がりで?」
「ぶっ!?」
……今度は侑子が思いっきり吹き出したんだけど。
あまりにも珍しすぎる状況に、本来なら私もビックリしてなきゃいけないんだけども。……原因が私だから、なんとも言えない。
耳をすませば*10、リアルの耳に届いてくる笑い声。……ゆかりんまで笑ってやがる。貴様ら、あとで覚えとけよ……っ。
数分経って、ようやく笑いの波が収まったらしい侑子が、顔をあげてこちらに視線を向けてくる。……目が真っ赤なんだけど、どんだけ笑ってんのよこの子。
「いやだって、魔女繋がり……魔女繋がり?ふふっ……」
「え、えと。私、なにかおかしなことを言ってしまったのでしょうか?」
「いいえ、そういうんじゃないのよ、お姫様。……意外な繋がりを提示されて、ちょっと驚いただけ」
……まぁ、侑子の言う通りである。
キーアことキルフィッシュ・アーティレイヤーの肩書きは『魔王』であり、『魔女』と呼ばれることはほとんどない。
冷静に考えてみれば、確かに『魔女』とも呼べなくもないのだろうけれども。
自分の板での私は主に『親しみやすい感じの上位者』みたいなキャラ付けであったため、そっちはそっちで『キーアん』なんてあだ名で呼ばれていたし。
祭の時は祭の時で、三人プラスミサトでずっと酒飲んでたしで、あんまり尊敬とかはされてなさそうだし。
ってな感じに、ある意味基本情報である『
……そのため、思考の中から弾き出されていた『魔女』という認識が、今一度アルトリアの言葉によって当てはめられ、なんだかツボに入ってしまった……ということなのだろうと思う、多分。
いやまぁ、実際どうなのかは、二人に確かめないとわからないだろうけど。……絶対素直に話さないので、私からは確認のしようがないのである。
なので、とりあえずこの話は流して、次に進める必要があるわけだ。……と、言うようなことをアルトリアに説明し、彼女に次の話を促す。
彼女は私の友人に会いたい、と言ったが。
そこにはどんな理由があって、どんな意味があるのか。それを確認するのが、今の私たちの使命なのである。……なんもごまかしてなんかないぞ?
『うーん、欺瞞だねぶっ!?』
「マーリンは少し黙ってて」
それからしばらくして。
しばらくの沈黙ののち、アルトリアが小さく声をあげた。
「彼女は、私の知るキーア・ビジューではありませんが。……そこに宿る志と、その高潔さは変わりなく。彼女のことを知りたいと、そう思ったのです」
「……貴方とキーア……ビジューちゃんは、原作のルイズとアンリエッタのような関係ではなかった、と聞いたのだけれど?」
「ええ。ですが……記憶の彼方の幼少期。彼女が光るような姿を見せた姿は、私の一番の思い出なのです」
侑子からの問い掛けに、静かに声を重ねるアルトリア。
……なんか、知らない記憶が飛んできたんだけど?
あの時の私、記憶の検索の仕方がわりと大雑把だったから、思い出せていないものがあっても、おかしくはないけれどもさ?
うーむ。今の私には、ビジューちゃんの記憶を確かめる術はない。
なので、アルトリアがこちらを信用する理由が、どうにも理解ができない。
……私の友達を知りたい、というのが。遠回しな『私とお友だちになりたい』という態度なのは、なんとなくわかるけれども。
無論、私にわかったことが、他の二人にわからないはずもなく。
……ゆかりんに関しては、顔が見えないけれども。
おそらく、目の前の侑子みたいな、にやにやとした笑みを浮かべているのだろう。
「……あー、うん。宜しくね、アルトリア」
「?はい、宜しくおねがいします、キーアさん」
改めて、声を掛ける私と、よくわかっていないような声をあげるアルトリア。
……横でくすくす笑っている二人はあとでしばく、と決心しながら、小さく苦笑を浮かべる私なのであった。