なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なんというか……あたふたしてるわね、どこもかしこも」
「一応、こちらの時間経過的にはまだ余裕があるんですけどね」
ごまかし目的であったとはいえ、しのさんの確認が必要であることは事実。
ゆえにその辺りを上手く隠しつつ()、私はしのさんを目的地へと先導していたわけなのです。
そうして歩く街の中は騒がしく、どこか浮き足立っているようにも思えたのでした。
「単にあたふたしているってだけじゃない……って言ってる?」
「雰囲気から内容を読み取るのであれば、ですが。……生憎ここにいらっしゃる方はそのほとんどが通常の人間種とは言い難く、それに伴って使用していらっしゃる言語も独特なモノになっているようですし」
いえまぁ、普段の状況であればこちらに通じる言葉で会話しているのだろうとは思うのですけれどね?
客人の前で通じない言語を使うことほど、相手に対して失礼なこともないでしょうし。
ただ、今は緊急事態であるため、各々使い慣れた言語が飛び出している……と。
それでもまぁ、
生憎私はギリギリの余裕を絞り出して生まれた存在ですので、その辺りはあてにならないのです。
「必要最低限の機能しかない……ってことね」
「端的に言うとそうなりますね。……それでも良いと束さんが仰ったのですから、それはそれで良いのだと思いますが」
「うーん他人任せ……」
その辺りはほら、そもそも
……ともあれ、周囲の方々が現状特殊な言語を話しているというのは事実。
ゆえに空気感だけを読むことになりますが、その状態でも先のように『浮き足立っている』という感想が浮かぶ程度には、彼らの様子はどこか興奮──それも悪い方にではなく、良い方に傾いているように思える、という話になるのでした。
「……まぁ、その感想に関して特に異論はないわね。私の目から見ても、彼らがどこか嬉しそうに思えるのは間違いないし」
「ですよね。……ということは、彼らも代替わりを歓迎しているということなのでしょうか?」
「この状況で喜びそうなこと・浮き足立ちそうなことっていうと、やっぱりそれになるわよね」
で、そこから彼らが浮き足立っている理由を推測すると、やはりささらさんからあの少年へ、【星の欠片】が代替わりすることを喜んでいる……という風に捉えるのが正解なのかな、ということになってくるのですが。
それは確かに状況の上では正しく思えるものの、感覚的に正しいと言えるのか少々疑問が思い浮かばなくもない……みたいな気分にもなってくるのです。
「まぁ、確かに。新しい領主が歓迎される、みたいな状況となると前の領主が良くない人物だった、みたいな話が一般的だけど……」
「少なくとも、私たちの目から見る限り悪い領主には思えませんでしたからね、彼女」
その理由は幾つかありますが……まず一つは『一般的に代替わりが喜ばれるパターン』。
こういうのは以前の領主が悪徳領主だった、というのがお約束。
ですが皆様ご存じの通り、前領主であるささらさんは──少なくとも悪人には見えない。
無論裏ではなにをやってるかわかったものではない、という反論を投げることもできるでしょうが、それを踏まえたとしてもやはり彼らの反応がおかしい、という事実は残る。
──悪徳領主が引き摺り下ろされた時の反応でもないんですよね、彼らのそれは。
「かといって、前領主が変わることを惜しむような空気でもない。……なんというか不思議な空気なのよね、今のここ」
「いまいちいい例え方が思い浮かばないんですよねぇ……」
喜びすぎてもいないし、逆に惜しむ空気でもない。
敢えて言うのであれば、それこそ『浮き足立っている』と言うしかないような空気感。
それが、現在この街を包む空気ということになるわけなのですが……ふむ。
「もしくは、彼らは見ているものが違うか、ですかね」
「見ているものが違う?」
「彼らは【星の欠片】ではありませんが、だからといって【星の欠片】を認知できないわけでもないのかもといいましょうか?」
「……代替わりだと思ってない?」
「それが一番近いのかもしれませんね」
眉唾な説ではありますが、しかし現状信憑性がもっとも高いのはこれかもしれません。
彼らは【星の欠片】を認知できており、それによって相手を見ているため代替わりを
これならば、彼らが必要以上に変化を惜しまず、されど喜ばしさを隠さない……なんて状況にも説明が付くのかもしれません。
「まぁ、だからどうしたと言われると痛いのですが」
「まぁ、それはそうね。別に彼らがどう動いていようと、私たちにはあまり関係のない話だし」
嫌がっている、止めて欲しがっているのであるならば、こちらへの妨害の可能性を気にする必要もあり意味はあるのでしょうけど。
そうではなく、私たちの行動を後押ししてくれそうな現在の空気は寧ろありがたいもの。
……そういう意味では、理由を明らかにする必要はなかったのかも、などという言葉も浮かんでくるというもの。
では何故、あえて時間をとってそんなことをしていたのかというと。
「……現実逃避、よねぇ」
「ですよねぇ」
──あら、仲が良いのね二人とも──
目の前に唐突に現れた人物を、可能な限りスルーしたかったから……なんて。
無論いつまでもスルーするわけにも行かず、結局は反応する羽目になったのですが。
……いや、なんで居るんですか『星女神』様?
──誕生を
悪戯っぽく微笑みながら口許に人差し指を当てる『星女神』様に、思わず天を仰ぐ私。
隣のしのさんは初めて出会う彼女の空気に若干圧倒されており、少なくともこの場においてあてにするのは不可能であることを実感させてくるのでした。
……はい、端的に言いますと詰み、ですね(白目)
──あら酷い言い種。それじゃあまるで私が貴方達を邪魔するみたいじゃない?──
「なにもしなくても実質試練みたいなものじゃないですか貴方様……」
ほんのり拗ねたような表情を向けてくる『星女神』様ですが、隣のしのさんが良い例。
例え彼女がなにをせずとも、その存在がそこにあるだけで試練になるようなものですので、あまり良い状況でないのは事実なのです。
……というか、
この分ですと、準備をしていたささらさんやかの少年君にまで影響が波及しているのではないでしょうか?
──ああ、今回の主役二人ね。挨拶をしておきたいのだけれど、案内して貰えるかしら?──
「……よろこんでー」
──あまり嬉しそうじゃないみたいね?──
「ハイヨロコンデー!」*1
──ふふふ、宜しくお願いね?──
ほんと人使うの上手いなぁ!!()
……というわけで、現場で待ってるはずの束さんには悪いのですが、そのまま待ちぼうけてて頂きたいと思います。
本当ならしのさんを連絡役にするのが良いのでしょうが、『星女神』様が笑顔で私たちの手を握って来られたためその選択肢は消えました()
「こ、子供じゃありませんよ?!」
──私が握りたいの。ダメかしら?──
「ダメじゃないです……」
あ、しのさんが陥落しました。
あの笑みで見つめられたら反論とかできませんよねぇ、とってもずるいです。
……私?私が逆らえるわけないじゃないですか、キーアがどうとかの前に私絞りかすですよ?
──そう自分を卑下するモノでもないと思うのだけれど。だって貴方は──
「さぁて行きましょうか『星女神』様!とりあえずささらさんの屋敷はあちらですよ!」
──まぁ──
余計なこと言わないで欲しいんですけど???
……油断も隙もあったもんじゃないですね、幸い誰も聞いてないので問題はないですが。
とはいえどこから話が漏れるかわかったものではない、というのも事実。
これ以上彼女が余計なことを口にしないように、早急に彼女をささらさんの元へと送り届けなければなりません。
まぁ、懸念点があるとすれば送り届けたとしても解放されるとは限らない、ということですが……。
ここでこうしてうだうだしているうちに、踏まなくてもいい地雷を踏むことになるよりは遥かにマシ、でしょう。
そういうわけで、私としのさんの手を握る『星女神』様を連れ、ささらさんの居住地である大きな屋敷へと取って返す私たち。
数分後、目的のその屋敷の入り口まで戻ってきたわけなのですけれど……。
「……気のせいかと思ったら本当にいる!?なんで追い返さなかったの私!?」
「私にどうにかできると思っているのなら目測違いですよ、私。とりあえず引き取って下さい、束さん呼んできますので」
「……え、束さん放置してるの?なんで?」
「色々あったんですよ……」
そこには、現在キリアと交信中で動けないはずの
……どうやら、数少ないリソースをさらに分配してまで外の状況を確認しにきた様子。
我ことながら無茶をしてるなぁと思いつつ、でもまぁ状況が状況ゆえ仕方ないところもありますよね、と納得する私です。
そんなことより、現場に残してきた束さんがそろそろしびれを切らしそうなので、いい加減に迎えに行かなければ。
それを
ちょっと?!……とこちらをひき止める