なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
春になりました、新しい出会いの季節ですね
はてさて、慌ただしかった三月も今は昔。
時間は進んで現在四月、なりきり郷もすっかり春の陽気に包まれていたのであった。
「外は生憎の雨ばかりなんですけどね」
「なんだっけ、菜の花が咲く時期に降る雨だから『
「らしいですね。『
そんなうららかな陽気の中、珍しく我が家にやって来ていたのははるかさん。
どうやら外に出る用事があったらしく、それを終えた帰りにうちに寄ったのだとか。
マシュが出してくれたお茶をちびちび啜りつつ、ぐだぐだと駄弁る午後……うーん、幸せとはこのことか。
トラブルらしいトラブルも無さげだし、このままゆったりとした時間を……、
「ゆかりんインしたわ!」
「貴方が管理者か、スキマでお帰り」
「ほな帰ります~……ってなんでやねん!」
(突然の寸劇に対応しきれてない顔)
……過ごせると思っていたお前の顔はお笑い草だったぜぇ?()
まぁ、知ってた。
なにごともない時間とか、そのあとのトラブルの前触れでしかないってキーアん知ってた。
「もー、そんなに邪険にしないで頂戴な。今回はトラブルはトラブルでも別に嫌なトラブルじゃないんだから」
「ほう、嫌じゃないトラブル?なんだいラッキースケベでも起こすのかい?」
「そりゃ
「ふむ?」
言われてみれば、四月といえば新しい出会いの季節。
ゆかりんの口ぶりだと、新人が入ってきたとかそういう類いの話だろうか?
いやまぁ、そういう意味だとなりきり郷は中途採用の方が多いような気もするのだけど。
別に春先になりきりが増えるってわけでもないし。
「……いや、新しい環境で新しい趣味を増やす、的な意味だと増えてもおかしくないのか……?」
「勝手に疑問を生やして勝手に困惑するの止めなさいな……というか、そもそもこのタイミングを狙ってやって来たんだってわかんないかしら?」
「ん?このタイミング?」
首を傾げる私に対し、なにやらおかしなことを言い始めるゆかりん。
このタイミングっつったって、別に特別なことなんてなんにも起きてないんだが?
強いていうならはるかさんが珍しく遊びに来てるってくらい……って、あ。
「はい、お気付きになられたようなので申し上げますと。ここでの新人というのは私の部下のことなんですよね」
「なるほど、『
言われてみれば確かに。
はるかさんがここにいるのは、妹が『逆憑依』した存在がいるからというのも一因ではあるけども。
大別すれば『仕事』のために滞在している、という方が正解なわけで。
それも都合三年目に入るとなれば、いい加減部下の一人や二人くらいできてもおかしくはないのか……。
うーん、絶賛ニート()みたいなものである身からすると、仕事云々の話が遠い世界の話に聞こえてくるなーははは。
……いやまぁ冗談だけど。寧ろ金銭発生しないボランティア的なノリであって、扱い的には普通に働いてるわけだけども。
「まぁそこら辺はともかく。……部下っていうけど、具体的にはどういう扱いなの?あれかな、向こうのお偉いさんの息が掛かった相手だったり?」
かつてのはるかさんみたいに、とは言わないでおく。
本人的にもあんまり思い出したくない話だろうし。
……とはいえ、部下の出所が気になるというのは本当の話。
最近はあんまり耳にしなくなったが、だからといって上や裏の方で権力闘争が行われていない、というわけでもあるまい。
となると、春という脇が甘くなるタイミングを狙い、自身の息の掛かった存在を送り付けてくる……くらいはあり得なくもないのかなー、というか。
そんな感じの疑問を込めて尋ねて見たところ、ゆかりんから返ってきたのは次のような反応であった。
「まぁ、気になるのはわからなくもないわ。だーかーらー、ちょっと顔合わせしておかない?」
「……はい?」
顔合わせ?なして?
「……聞いとらんのだけど」
「そりゃ言ってないもの。前以て知らせてたら嫌がったり辞退したりするでしょ貴方」
「……ぐうの音もでねぇ」
まさか、はるかさんの部下というのが
目的地へと続く通路を先導するかのように歩くゆかりんの背を追いつつ、微妙に納得のいかない気分で自身の服を見下ろす私である。
……うん、着替えさせられたんだよね、スーツ姿に。
久しぶりの八雲紫付き秘書・
いや実際、この格好はるかさんと初めてあった時以来では?
「言われてみればそうですね……髪型もあの時と同じポニテですし」
「はるかさんの方は違いますけどね。……あとあの時と同じといえば、今回もマシュは同行できてないってことでしょうか」
で、そんな私の少し後ろを歩くのがはるかさん。
……彼女以外に同行者は居ないのだけれど、そのことで一悶着あったり。
具体的にはマシュのことなんだけど、なんとまぁかつて私がはるかさんと出会った時と同じように、彼女は今回もお留守番なのであった。
「どうして……ですか……詳しく……説明してください……今……私は冷静さを欠こうとしています……」
「ぬわぁ!?おおおお落ち着いてマシュちゃん!!?別に意地悪言ってるわけじゃないから!!」
同行の可否を告げた時のマシュの様子だが……うん、即座に武装して盾片手にゆかりんに迫るその姿は、色々とヤベー後輩としか言いようがなかったというか。
ただでさえ部下という、区分的には後輩に当たる存在が増えるという話を聞いて、冷静でいられないのに……みたいな?
まぁ、慌てながらゆかりんが話した内容によって、マシュも渋々納得したんだけど。
「……実際に向こうの息が掛かってる可能性が高いとは……」
「どういう意図なのか、ってのはわかんないけどね。でもまぁ、無為に突っぱねるのはよくないってのもわかるでしょ?」
「うーん、政治的な面倒ごとの予感」
よもやさっきの懸念が本当だったとは……。
そう、さっき冗談めかして言った『向こうのお偉いさん』云々の話。
なんとまぁ、実際にそれであってるらしいのだ。……いや、諦めてなかったんかい。
その上はるかさんの部下として送ってきてる辺り、彼女の復帰も諦めてないってことなんこれ?
……いやまぁ、そんなに単純な話でもなさそうなんだけども。
「なりきり郷内は治外法権のようなものですからね。例え向こうの権力がどれほど高かろうと、それに意味はないわけですから……」
「なにかしら手を出したとしても、普通に握り潰される可能性大だから……」
「どっちかと言うと懐柔策、仲良くなって益を得よう……みたいな方向性ってわけね」
敵対するより同舟した方が楽ですよね、みたいな?
……そんなわけで、送り込まれた相手は特にこちらに反抗の意思はないどころか、こっちの仕事を手伝う気満々なのだとか。
無論、報告の義務やらなにやらはあるようで、その時にこっちの情報を合理的に得よう……みたいなノリらしい。
自覚なきスパイ、みたいなのが理想ってことだろうか?
まぁそんなわけで、機密事項そのものみたいなマシュは、現状接触許可が降りないのだそうな。
……え?お前はいいのかって?
私はほら、前々から微妙に判別し辛いタイプの属性だったのが、こうして髪色変わってからは完全にそっちからは切り離されてるようなもんだから……。
そもそも今の格好だと、劇的美少女なだけのただの秘書ですし?
「……それ、自分で言ってて恥ずかしくならない?」
「別に?美少女なのは本当のことだし。単に周囲もぜーんぶ美男美女ってだけで」
持ってて当たり前の属性みたいなものだから、主張したところで周囲との差にはなりゃせん……みたいな?
まぁともかく、今の私はぎりぎり一般人みたいなものなので、こういう場に顔を突っ込むのは問題ないのである。
そこら辺はゆかりんも了承済み……というか、その辺りを前提にしないとおかしな話になるというか。
そんなわけで、現在私たちは向こうから送られてきた新人──都合二名──との顔合わせのため、彼らが待っている部屋へと向かっていたというわけなのである。
「……っていうか、そうならそうと最初から言っといて下さいよ……変に混乱したじゃないですか」
「それはほら、さっきの八雲さんの説明通り……ということで」
「うーん、私の反応ってわかりやすすぎ……?」
責任取るの嫌いというか、できれば負いたくないと思ってるのがバレてるというか。
……まぁ、現状嫌いだろうが嫌だろうが、気にせず責任の方から突撃して来てるのが現状なんだけども。
ともあれ、そんな感じに談笑しながら歩くこと数分。
基本的に私はあまり寄り付かない、応接室などがある区画へと到着。
そのまま、向こうから送られてきたという新人さん達が通された部屋へと向かい──、
「いやーははは。まさかこんなことになるとは。こちらの上司は予想していたんでしょうかねー」
「(絶句)」
「ふん、さてな。仮に想定していたとしても、こんなことになるとまでは予想していなかっただろうよ。仮にそれができるとすれば、それこそ神かなにか──はっ、ここでこうして慌てるだけの俺達には、まったく関係のない話だな!」
「(絶句)」
部屋の中にいた二人──同じ声がする──の存在に、思わず絶句することになってしまったのだった。
……ええと、なんで二人とも『逆憑依』になっておられるので……?
「知るか、そんなものは俺の知るところではない」
「私としてもなんとも。……つい先ほどまで、普通の一般人……というのは過言ですが、特に問題行動のない人間のはずだったんですがねぇ」
件の二人──アンデルセンとジェイド大佐の物言いに、私は頭痛をこらえるように額に手を当てたのであった。
……ああうん、新しいトラブルの幕開けですね、わかります(白目)