ラスト・ナンバー 101人目のアタシ『最高に美味しいイチゴのケーキのプレゼント!』(2022年式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念LAS短編)   作:朝陽晴空

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式波アスカと惣流アスカとシンジの南国バカンス。
 同居生活に限界が来たシンジ達は、ネルフから惣流アスカを逃がすため加持リョウジを頼る。
 リョウジはアスカを元の世界に戻す方法があると話し、シンジ達は南国の島へと行く事になった。

LASの日短編 同棲同名 She saw編(式波リメイク版)の続編です。
https://syosetu.org/novel/264806/10.html




LAASの日短編 常夏アスカサンド

 初号機のパイロットとして、葛城家の主夫として、ミサトと式波・アスカ・ラングレーと同居生活を送っていたシンジ。

 そんな葛城家のアスカの部屋に惣流・アスカ・ラングレーと言うアスカそっくりな少女…と言うかアスカそのものが出現した。

 式波アスカは惣流アスカを激しく警戒していたが、誤解が解けて自分に危害を加える存在ではないと知ると、お互いにシー(式波)・ソー(惣流)と呼ぶまでの仲になった。

 惣流アスカをずっと家の中に閉じ込めておくわけにはいかないと、式波アスカは交代で外に出る一時しのぎの案を受け入れた。

 ネルフに異世界から来た惣流アスカの存在を知られては、危険が及ぶ事はミサトにも分かっている。

 表沙汰にはされていないが、この世界にも元々惣流・アスカ・ラングレーは存在しているのだからややこしい。

 何よりもエヴァを知らない純真無垢(?)な惣流アスカを巻き込みたくなかったのだ。

 

「碇君、今日はお家にお客さんでも来るの?」

 

 惣流アスカを案内しながら街を歩いているついでにスーパーで買い物をしていると、ヒカリとバッタリと会ってしまった。

 

「いや、ちょっと買いだめをしようと思ってね。最近、エヴァに乗るようになってたくさんお腹が空くようになったんだよ」

 

 とっさにしては良い言い訳が出来たとシンジは思った。

 

「あれ、アスカはいつもと違って頭に可愛いリボンを着けちゃって、碇君とデート?」

 

 インターフェイス・ヘッドセットを付け替えるのを忘れた事に気が付いたが、もう遅かった。

 シンジもアスカも、誰とも会わないと思って油断していた。

 

「そ、そんな、アタシがコイツとデートなんてするわけ無いじゃない! たまたま家が隣の腐れ縁だから一緒に居るだけ!」

「あれ? 碇君と一緒の家に住んでいるんじゃないの?」

 

 失言をしてしまったアスカは、不思議そうな顔をしたヒカリに尋ねられてさらにウソを重ねてしまった。

 

「シンジの部屋が狭かったからね、可愛そうだから隣の家を借りてやったのよ。ほらアタシ達のマンションは空き部屋ばかりになったから。それに、これで夜中にシンジに襲われる心配も無くなったし、毎朝学校に遅刻しないようにシンジを起こしてあげるのも世話が焼けるのよね」

 

 後ろめたさが後押しして、アスカはシンジが止める間もなくペラペラと多弁になっていた。

 

「えっ、アスカが碇君を起こしてあげているの? ちょっと意外……」

「じゃあ僕達急ぐから!」

 

 シンジがアスカの手を掴むと、アスカは顔を赤くした。

 やっと最近名前で呼び合うほどの仲になったアスカが話し掛けてくる様子に、ヒカリは違和感を覚えていた。

 

「何か変なアスカだったけど、私は今のアスカの方が好きかな」

 

 今度学校にアスカが来たらもっと色々話してみようと、ヒカリは楽しそうに鼻歌を歌いながら買い物を続けるのだった。

 

「アスカのせいで、僕が部屋を移る事になったじゃないか」

「ごめんシンジ、許してこの通り、ねっ!」

 

 手を重ねて拝むような上目遣いで謝る惣流アスカの仕草に、シンジは胸がキュンとなった。

 クールな式波アスカでは見た事の無い表情だ。

 どうせ式波アスカ相手でも押し切られてしまうだろうと、家に帰ったシンジはさっそく引っ越し作業をする事になった。

 

「まったく、ソーのうっかりのせいで、シンジに迷惑を掛けたんだからね」

「隣に行くだけなんだから、大して変わらないよ」

 

 シンジはそう話すが、式波アスカにとってはシンジとの距離を引き離されたようで面白くなかった。

 シンジやミサトが惣流アスカに優しくする事も、今日は外に出れなかった事も、式波アスカにストレスを与えていた。

 

「この調子じゃ、明日直ぐに学校には行けないわね。ソーは反省しなさい」

 

 2日連続で家に缶詰は真っ平だと式波アスカはそう宣言した。

 惣流アスカは仕方が無いと大人しく従った。

 

「おはよう、アスカ♪」

「お、おはよう、ヒカリ」

 

 次の日登校した式波アスカは、ヒカリの高いテンションに戸惑ってしまった。

 式波アスカは人と話すのが嫌いではなくなったが、まだ苦手意識がある。

 しかし昨日のアスカと別人だとヒカリに見抜かれては困るので、テンションを無理やり合わせて笑顔で明るく話すしかなかった。

 

「何や式波のやつ、えらう機嫌が良いやないか」

「この式波の表情の写真は売れるぞ!」

 

 トウジとケンスケを初めとして、今までムッツリとした顔で携帯ゲーム機をいじっていたアスカの変化に驚いていた。

 

「なんで式波はあんな明るうなったんや?」

「きっと碇君との恋に目覚めたからよ!」

 

 トウジの疑問にヒカリがそう断言した。

 確かにアスカの頭にはエヴァ用の頭飾りでは無く、リボンが巻かれている。

 

「それなら今度、碇の家に行って確かめてみようぜ」

「部屋も広くなったし、雨宿りもしやすくなるなぁ」

 

 ケンスケとトウジはミサトと顔を合わせる事も出来るかもしれないとほくそ笑んだ。

 前に葛城家に行った時は、雨が上がったら直ぐに式波アスカに追い出されてしまったのだ。

 そしてトウジとケンスケがヒカリと一緒にシンジの家に遊びに来ると、2人のアスカは落ち着かない気分になった。

 惣流アスカは物置だったシンジの部屋だった物置(ややこしいな)に閉じこもる事になってしまった。

 

「シンジの匂いがする……」

 

 シンジが住んでいたのでシンジの生活臭が染みついた窓が無いその部屋は、シンジが出て行ったばかりなのでシンジの匂いが残っていた。

 

「シンジ、アタシが居なくなったから今頃どう思っているのかな……」

 

 今まで14年間、離れる事を疑いもしなかった幼馴染のシンジとの突然の別れに、アスカはシンジがとても恋しくなっている事を自覚した。

 シンジも自分が消えてから数日しか経っていないが、アタシの事を思って泣いてくれているのかと考えると、アスカも泣けて来た。

 

「ほら、ヒカリ達は帰ったわよ」

 

 式波アスカが部屋のドアを開けると、泣いている惣流アスカを見てため息を付いた。

 式波アスカはウジウジしているシンジの尻を叩くのには慣れているが、慰めるのは超苦手だった。

 ミサトが居ない今、シンジに頼むしかない。

 

「ちょっと来なさい、ガキシンジ!」

 

 呼び方で式波アスカだととっさに理解して駆け付けたシンジは、泣いている惣流アスカに気が付いて声を掛けた。

 混乱しているアスカはシンジを錯覚して泣きついた。

 

「シンジに手を出さないって約束はどうなるのよ」

 

 式波アスカは話し込んでいる惣流アスカとシンジを見てため息を付いた。

 

「シンジ君、昨日は2人のアスカは仲が良かったと思うんだけど、どうしてケンカしているの?」

 

 家に帰ったミサトはキッチンで言い争いをする式波アスカと惣流アスカを見て、シンジに尋ねた。

 2人のアスカは夕食を作ろうとして、自分の方がシンジの口に合う料理が作れると意地の張り合いを始めたのだと話した。

 

「幼馴染のアタシの味付けに従って作っていれば間違いないの!」

「こっちの世界じゃアンタの世界と食材が違うの、合成肉とか知らないクセに!」

「こうなったらミサトお姉さんが料理を作ってあげようか?」

「「それはダメ」」

 

 式波と惣流の意見が一致した。

 ミサトの悪食は両方の世界で有名のようである。

 結局式波アスカと惣流アスカがそれぞれ別々に手料理を作る事になった。

 

「「それで、どっちの料理がおいしかった?」」

 

 2人のアスカに詰問されたシンジは、返事に困った。

 こういう時はとりあえず両方とも美味しかったと答えればいいのだが、シンジは口が下手すぎた。

 

「これ、本当にアスカが作ったの?」

 

 シンジの言葉を聞いて、アスカ2人だけではなくミサトまでため息を付いた。

 普通の女性ならシンジに愛想をつかしても仕方が無い。

 

「ねえ、こんな時に使徒がやって来たらどうするの? アタシのシンクロ率にも悪影響よ」

「そうね、惣流ちゃんとシンジ君の事が気になって、使徒との戦いどころでは無くなるわね」

「アタシはエースパイロットなんだから、そこまで行くわけ無いじゃない……」

 

 ミサトの言葉に、式波アスカは口をモゴモゴさせて答えた。

 

「こうなれば、いけ好かないけどアイツの力を借りるしかないか……」

 

 ミサトはリョウジの顔を思い浮かべてそう呟いた。

 リツコは確かに一番頼りになりそうな人間だが、「碇司令の命令は全てにおいて優先する」と言う考えの持ち主だ。

 自分だって、いつかネルフの上層部の命令に屈してしまうかもしれない。

 ミサトはリョウジをさりげない口実で自宅へと誘った。

 リツコには隠しておきたい内緒の話なのだと伝えると、リョウジは「俺への愛の告白か?」とふざけた答えが返って来た。

 事情を察しているのかつかみどころのない男だとミサトは思った。

 

 

 

「あの島が、遺跡がある『パンダコアラ島』ね!」

 

 惣流アスカが感激したように赤道近くの海に浮かぶ南国の島を指差した。

 5人乗りのヘリコプター『AL-2』に乗り込んで第三新東京市を出発したリョウジと葛城家の4人。

 この島には異世界へと通じる門のある古代遺跡が存在しているのだとリョウジは説明した。

 いかにも嘘くさい話だったが、惣流アスカは気兼ねなく南国バカンスが出来ると喜んでいた。

 

「何でアタシまでも付き合わないといけないのよ……」

 

 式波アスカはそう言って渋ったが、惣流アスカとシンジの仲が深まって付き合ってしまう事になったらたまったものではない。

 シンジはアタシのものだといつの間にか式波アスカは思っていたのだった。

 

「せっかくの南国リゾートなんだから、少しバカンスしてから帰りたいわね」

「バカンスだなんてバカな事言わないのバカアスカ」

 

 惣流アスカに向かって式波アスカはそう言った。

 この世界のオリジナルは憎むべき存在だが、この惣流アスカを見ていると、心の底から憎めない気分が芽生えてしまう。

 だから早く惣流アスカとサヨナラしたかった。

 

「さて、異世界への門へと着いたぞ」

 

 島へと上陸すると、リョウジは小高い丘の上にある、変わった色の石のような物で作られた門の前にシンジ達を案内した。

 確かに見た目は古代遺跡感はある。

 しかし門の扉は固く閉じられていた。

 

「それで、この門はどうやって開けるの? 鍵穴は無さそうだけど、呪文でも唱えるわけ?」

 

 ミサトに尋ねられたリョウジは、この島に伝わる6つの伝説の秘宝を揃えて扉の前の台座に置いて念じれば、異世界への門を開けられるのだと話した。

 

「無人島で宝探しをしろって言うの!?」

「ネルフの諜報部から逃げ回るより、楽な冒険だと思うぜ」

 

 あきれた顔のミサトの言葉に、リョウジはミサトの肩を叩いてそう答えた。

 ヘリにサバイバルグッズを積んでいたのはそのためか。

 

「さて、手始めに生活の拠点となるメインキャンプを作るぞ」

「まさか『クラマイ』みたいに木を伐るところから始めるんじゃないでしょうね」

「さすがヘビーゲーマーの式波大尉は想像力が豊かだな。だが俺達素人が1日でログハウスを組み立てられるわけがない」

 

 式波アスカの言葉に、リョウジはそう答えた。

 

「それなら、テントですか?」

「いや、テントなんてちゃっちいものじゃない。今、魔法をお見せしよう」

 

 リョウジはシンジにそう微笑みかけると、ビニールプールのような物を取り出した。

 機械で空気を吹き込んで行くと、ビニールのような物はどんどんと膨れて行き、小屋のような形になった。

 

「何よコレ、おもちゃのような家で暮らすわけ?」

 

 式波アスカが呆れた顔でリョウジの事を責めるように見ると、リョウジは海水を吸い込むためのホースをビニールに空気を吹き込んでいた機械につなげた。

 

「よし、これで空気の代わりに海水が中に詰まれば、コンクリートの様に固くなるぞ。しばらく家が出来上がるのを待つだけだ」

「それじゃあ、天気もいいし、アタシこの海で泳ぎたい!」

 

 リョウジがそう言うと、惣流アスカはそんな事を言い出した。

 

「惣流、そんな事を言っている場合じゃ……」

「良いぞ、こんな良い天気なのにバカンスをしないのはもったいないからな!」

 

 心配性のシンジの言葉を遮ったのリョウジだった。

 しかしシンジがバカンスに反対したのは他にも訳があった。

 

「シーってば、スクール水着しか持っていなかったの? プププ、可哀想だからアタシの水着を貸してあげるわ」

「ソーってばあきれた。何着も持って来ているだなんて」

 

 惣流アスカは赤と白のストラップの入ったビキニ、式波アスカは真っ赤な水着に黒いフリルの着いた少し色っぽいビキニだった。

 しかしいつの間に水着を買っていたのか。

 式波アスカは、惣流アスカがシンジとスーパー以外の場所で買い物をしていたのだと勘づいた。

 

「シンジ~、この水着似合う?」だなんて迫っている惣流アスカの姿が目に浮かぶ。

 葛城家の家計は余裕が無いとか言っておきながら、惣流アスカを甘やかしているシンジに腹が立った。

 もっとも式波アスカは自分のクレジットカードでゲームをダウンロード購入しているので、シンジにおねだりをした事は無かった。

 式波アスカが買った新しいゲームにシンジがボコボコにやられる姿が定番だった。

 

「ミサトはセパレートタイプの水着か……」

 

 両方の世界でも、ミサトは最近ビールの飲み過ぎを自覚しているようだった。

 

「葛城、腹周りなんて気にするなって!」

「あんたには……見せたくなかったのよ。それにアレもね」

 

 こちらの世界のミサトが腰回りが露出する水着を避けたのはセカンドインパクトの時に負った傷痕をシンジ達に見せたくないと思ったからだ。

 ミサトの傷痕の事を知っている男と言えば、大学時代に同棲合体生活を送っていたリョウジだけだった。

 

「アンタ、何で砂浜で城なんか作っているのよ、本当にガキシンジね」

「別にバカンスの過ごし方は人それぞれだろ」

 

 式波アスカに声を掛けられたシンジはそう答えた。

 

「シンジはね、泳げないのよ」

 

 惣流アスカに見抜かれてしまっていたシンジは動揺してしまった。

 

「まったく情けないったらありゃしないわね、アタシが鍛えてやるわ」

 

 式波アスカはほんのりと顔を赤くしながらシンジの手を引っ張ったが、反対側から惣流アスカがシンジの手を引っ張った。

 

「アンタのスパルタ式じゃ上手く行かないわよ」

 

 騒ぎを聞きつけたミサトが駆け付けて、4人で浜辺でビーチバレーをして遊ぶ事になった。

 ここはプールでは無いし、遊泳禁止区域が整備された海水浴場で無い場所でシンジが泳ぐのは危険だと判断したのだ。

 シンジはリョウジはどうしてビーチバレーに参加しないで遠くから眺めているのか不思議に思ったが、ミサトの方を見て合点が行った。

 ミサトが躍動する姿に見とれてしまったシンジに、式波アスカの容赦ないスパイクが炸裂した。

 そしてメインキャンプが完成すると、明日の朝早くから島で秘宝を探すために、持って来た携帯食料で夕食を食べて寝る事にした。

 シンジは式波と惣流の両方のアスカの間で寝る事になってしまった。

 

「メインキャンプが狭いんだから、仕方ないわね」

 

 ミサトはニヤリと笑いながらサラリとそう言った。

 

「俺と葛城はしばらくの間、夕涼みをしてくるが、夜の無人島は危険だから、変な声が聞こえて来ても絶対に外に出て俺達を探そうとするんじゃないぞ」

 

 リョウジの言う事は何か変だとは思いながらも、シンジはリョウジの言葉に従った。

 体力が比較的低い惣流アスカは直ぐに寝入ってしまった。

 シンジはホッとした様子でその寝顔を見る。

 これ以上ちょっかいを出される事は無さそうだ。

 

「シンジ……シンジ……会いたいよ……どこに居るの……?」

 

 しかし惣流アスカが泣きながら寝言を漏らすと、シンジは放っては置けなくなった。

 

「アスカ、僕はここに居るよ……だから大丈夫……」

 

 シンジは惣流アスカを抱き締めて安心させようとした。

 するとシンジの背中に式波アスカが思い切り背中で体当たりをする。

 

「アタシはやっぱり1人で生きて、1人で死んでいくんだわ」

「アスカ、そんなに寂しい事言わないでよ」

「嘘付き。アンタはそっちのアスカの方が良いんでしょ?」

「惣流は僕に似たシンジが好きなだけなんだよ。だからほら、機嫌を直して……」

 

 シンジが式波アスカの背中を抱き締めると、式波アスカはシンジの方に身体を向けて、強引にシンジの唇を奪った。

 

「これでシンジはアタシのもの」

 

 そう呟く式波アスカの姿を、目を覚ました惣流アスカは目撃してしまった。

 しかし惣流アスカは目の前のシンジに、会えないシンジの影を追い求める気持ちを完全に抑えきれない自分が居るのを感じていた。

 もし元の世界に戻れなかったら……?

 二度と幼馴染のシンジと会えなくなったら……?

 しかし自らの命を捨ててしまうまでの決意には至らなかった。

 南国の島でバカンスだと浮かれていた自分が馬鹿みたいに情けなくなった。

 今度は寝言でシンジを呼ばないようにと、惣流アスカは自分で自分の身体をギュッと抱き締めた。

 式波アスカが1人で生きて1人で死んでいくと言った悲しさが分った気がした。

 式波アスカはこの世界のシンジと幸せになるべきだと惣流アスカは思った。

 

 

 

「よし、伝説の秘宝探しに出発だ!」

 

 リョウジが気合を入れてトレジャーハントの開始を宣言する。

 

「惣流ちゃん、なんか元気が無いわね?」

「ちょっと寝不足なだけよ」

 

 ミサトが少し暗い表情のアスカを心配して声を掛けた。

 島に隠された伝説の秘宝とは、『悪魔のフォーク』『偽りの鏡』『消えない蝋燭』『黄金の砂時計』『無限の書』『パパラチアサファイヤの首飾り』だった。

 初めは絵空事だとリョウジの話を信じていなかったミサト達も、『悪魔のフォーク』を発見すると、真剣な表情で探し始めた。

 特に惣流アスカの表情には鬼気迫るものがあり、体力があまり無いのに張り切っている事を周りが心配するほどだった。

 伝説の秘宝を半分探し終えたところで、シンジ達はメインキャンプに戻る事にした。

 夜の無人島を探検するのは危険だからである。

 惣流アスカは焦っている様子だったが、皆で押し留めた。

 

「加持君ってば、激しい……」

「済まんな葛城、もう少し優しくするか」

 

 メインキャンプの外に居たミサトとリョウジだが、惣流アスカがメインキャンプを飛び出すのを見て、慌てて追いかけた。

 

「アタシ1人でも、秘宝を探さないと……」

 

 入水自殺をするつもりでは無くてとりあえず安心したが、明日には残りの秘宝を集めてやると、リョウジはアスカを説得した。

 

「あの子、落ち着いているように見えていたけど、相当焦っているのね」

 

 すっかり沈んだ気持ちになってしまった2人は服を着て、明日の探検のために備えるのだった。

 

 

 

 そして次の日の夕方。

 ついに『悪魔のフォーク』『偽りの鏡』『消えない蝋燭』『黄金の砂時計』『無限の書』『パパラチアサファイヤの首飾り』を集めたシンジ達は、異世界への門がある小高い丘へと向かった。

 

「ソー、アンタの願いを強く念じるのよ」

 

 式波アスカに言われた惣流アスカは、強く頷いた。

 祭壇に6つの秘宝を捧げて惣流アスカが祈ると、門が大きな音を立てて開き出す。

 そして眩い白い光が門から溢れ出し……治まった時にはキョトンとした顔のシンジが立っていた。

 惣流アスカの知っている襟の曲がっている第壱中学校の制服を着た、幼馴染のシンジだ。

 

「あれ、ここはどこ?」

「シンジっ!!」

 

 惣流アスカは幼馴染のシンジに涙を流して飛び付いた。

 幼馴染のシンジが出て来た異世界への門は閉じてしまっていた。

 

「ちょっと加持君、これは一体どうなってるのよ!?」

 

 ミサトが怒った顔でリョウジに詰め寄った。

 

「ソー、アンタは何を願ったのよ?」

「アタシはただ、シンジに会いたいって……」

 

 式波アスカに尋ねられた惣流アスカは自分の失敗に気が付いたのか、誤魔化すような笑いを浮かべて答えた。

 

「どうやら、アスカの心の中で『元の世界に帰りたい』と言う気持ちよりも、『シンジ君に会いたい』って気持ちの方が強くなって、幼馴染のシンジ君をこちらの世界に呼び寄せてしまったようだな」

 

 リョウジがそう結論を話すと、惣流アスカは怒った顔でリョウジに詰め寄った。

 

「これからアタシ達、どうすれば良いのよ!?」

「うーん、これからは2人にはネルフの目が届かないこの島で暮らしてもらうしかないな」

「電気も、ガスも、レーザー・ディスクも無いこの島で生活しろっての!?」

 

 惣流アスカは肩で息をハァハァとしながら、リョウジに向かって怒りをぶつけた。

 

「でもアスカ、この島には法律も無い。愛しいシンジ君といつでも合体できるぞ」

「アンタバカァ!?」

 

 耳元でそう囁いたリョウジを、惣流アスカは思い切り殴った。

 娯楽が全くないこの島では、そうなってしまうのかもしれないが。

 

「何かもうどっと疲れたわ」

「アタシもうこんな島イヤだわ、第三新東京市に帰る」

 

 ミサトと式波アスカは「お幸せに」と投げやりに言って、リョウジの運転手するヘリコプターに乗り込む。

 

「ちょっと待ちなさい! 本当にアタシ達をここに置いて行くつもり!?」

「君達なら人類補完計画が発動されても、生きて行けるはずさ」

 

 リョウジは謎の言葉を言い残して、ヘリコプターで飛び去って行ってしまった。

 

「アスカ……」

 

 幼馴染のシンジに声を掛けられた惣流アスカは、振り返った。

 

「ほら、また制服の襟が曲がってる。本当にアンタはアタシが居ないとダメなんだから」

 

 アスカはそう言ってシンジの制服の襟の乱れを直した。

 

「……って、こんな事している場合じゃないわ。こんな島で一生過ごすなんて真っ平よ!」

「それじゃあ、船を作ってこの島を脱出しようよ」

「シンジにしてはグッドアイディアじゃない!」

 

 アスカとシンジの無人島脱出計画は結局失敗に終わるが、アスカがせめて衛星放送の受信はしたいとアンテナを完成させた時、パンダコアラ島の周囲を囲むように強い電波を発信する物体が何個もある事が判明した。

 

「何よコレ、受信機の故障!?」

「アスカ、衛星放送を見るのは諦めようよ」

 

 生まれて来る子供達に、この島の外の世界を見せてあげたい。

 そんなアスカの願いから始まった衛星放送の受信計画。

 それはこの島の秘密の一端に触れてしまった。

 しばらくした後、地球全体のL結界濃度が上がる事件が起きた時も、不思議な障壁に守られた南海のこの孤島は、アスカとシンジの家族の楽園であり続けたのだった。

 

 

 

『次のニュースです。パラパラ共和国のパンダコアラ島を不法占拠していた日本人と思われる家族が、パラパラ共和国軍に一時的に拘束されました』

 

 クレイディトのオフィスの休憩室で、昼食を共にしていた式波アスカと碇シンジ、葛城ミサトと加持リョウジの4人はテレビで放送されたニュースを聞いて、一斉に飯噴した。

 可笑しくて笑ったわけではない、文字通り驚いて食べていたご飯を噴き出したのだ。

 

「そう言えば、あの2人をちょっち放置していたのをすっかり忘れていたわ」

「ミサトさん、14年は『ちょっと』とは言いませんよ」

 

 シンジは引きつった笑いを浮かべるミサトにそうツッコミを入れた。

 

『1組の夫婦が27人も子供を無人島で産んで育てた事が、現地でも話題となっており、感銘を受けた共和国の首相は恩赦としてその家族を釈放し、パラパラ共和国の国籍を与えて、島の管理人とする事にしたそうです』

 

 テレビには無人島生活ですっかり日焼けしてたくましくなったが、面影のある惣流アスカ(28歳)とすっかり髭を生やした幼馴染シンジ(28歳)とその子供達が映し出されている。

 一番年上の子は別れた時のシンジとアスカと同年齢に見えた。

 惣流アスカは3つ子の赤ん坊を抱いて映っていた。

 

「もしかして、アタシ達が島から去って直ぐに……?」

「あの島にはレーザー・ディスクも娯楽も無かったからな」

 

 リョウジ夫妻とシンジ夫妻はそれぞれ2人の男の子と女の子の兄妹を大切に育てている。

 

『このまま誰にも発見されず、無人島生活を続けていたらロシア人の女性が持つギネス記録を超えるところだったとソーリュー・アスカさんは話しているそうです。今はパンダコアラ島は子宝に恵まれる神秘の島として観光地となり始めているようです』

 

 リョウジはミサトやアスカ、シンジの顔を見回すと真剣な表情で尋ねる。

 

「今度、休みを取ってパンダコアラ島へ行ってあの2人に会ってみるか?」

 

 すると3人とも激しく首を横に振って否定した。

 

「あの2人は子供達に囲まれて幸せに暮らしているから、あたし達の事を忘れているんじゃないの?」

「ミサトの言う通り、君子危うきに近寄らずよ」

「僕達の事を覚えて居たら、たっぷりと仕返しされそうだよね……」

 

 クレイディトの仕事でパンダコアラ島に行く事にならなければ良いけどな、とリョウジは心の中で呟いた。

 

 

 




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