1、プロローグ 〜ある転生者の独白〜
突然だが、【地獄】と聞いて、どんなイメージをするだろうか。
おそらく、怖い、恐ろしい、苦しいところだという印象だろう。
現代日本人にとって一般的なイメージは、死後の世界の一つであり、悪い事をして死んだやつが行くところである。
日本人は宗教観が割とおおらかなので、漠然としかイメージ出来ない人が大抵だろう。ただ、不思議な事に、差異はあれど、どんな宗教でも似たような概念がある。
そのため、怖い、恐ろしい、苦しいというイメージが成立するのだ。
「悪いことすると地獄に落ちるよ」は、子供に対するある意味常套句でもある。悪行を重ねすぎるとひどい目に遭うという警告である。それに従わなかった罪人は地獄に落ちるのだ。落ちた先では大抵、生前の罪を浄化するための刑罰を受ける。
そして、その刑罰のバリエーションは多岐に亘る。
灼かれ、凍え、飢え、喰われ、煮られ、刺され、千切られ、削がれ、擦り潰され…ありとあらゆる拷問を受け、苦痛を受けさせられ、しかし死ぬ事は許さない。
仮に死んだとしても再び蘇り、永劫の年月を過ごすのだ。
おお、神よ!
信心深い奴は地獄に落ちない様に現世の生き様を清く、正しく過ごす事を心に誓うわけだ。
何故そんな話をするかって?
それは、今、
灼かれ、凍え、飢え、喰われ、煮られ、刺され、千切られ、削がれ、擦り潰され、更には病魔に苦しみ、内臓は溶け、寄生され苗床になり…ありとあらゆる苦痛を経験した。
致死性の病原菌、感染性と殺意の高いウィルス、凄まじい程の環境変化、それに対応する為か、凶悪な植生に進化した植物、そして、想像を絶する怪物達…
ここではありとあらゆるものが殺意をもって襲ってくる。
仲間達は同じ様に割と悲惨な目に遭い、早々にあの世へ旅立ってしまった。
…或いはその方が幸せだったかも知れない。たとえこの未開の地に、誰にも弔われず屍を晒す事になったとしても。何故なら死んだらもう苦しみを受けずに済むからだ。
だが、私は
もちろん死なない事にも様々な理由がある。
それを語るには生い立ちまで遡らなければならないため、後々じっくり語るとしよう。
ただ、おかげ様で私にとってここは、正しく地獄と言えるようになってしまった。
おそらく、これは罰なのだ。未知の世界を正しく理解しないまま挑んでしまった私への罰。登場人物が無慈悲に、容赦なく死んでいった世界観を甘く見たツケを今、身をもって払っている所だ。
…何故こんな事になってしまったのだろう。
最初はただただ死にたくなかった。
憧れの世界に来て、必死で鍛え漸く健康な体を手に入れた。そこから私の人生は華開いた。
思えば浮かれて調子に乗っていたんだろう。新しい能力を取得し、ハンター試験にも受かり、修行を続け、最強ではないが生きていく上での一端の強さを身に付けたと思っていた。万能感に酔いしれていた。
それが、大きな間違いだった。
◆
メビウス湖を越えた先に待つ、人類未踏のフロンティア。
ありとあらゆる未知にあふれた世界。
ハイリスクではあるが、底知れぬリターンが確約された地。
さながら古くから伝わる聖地カナンの様に。
されどそこは開けてはならぬ箱。
希望はあれども一番奥にほんの僅か。
箱の中には大量の絶望が詰まっていた。
…だが、私はまだ生きている。
生きてる限り、生き続け、この閉じた箱から脱出してみせる。
それが今の、私の希望だ。
私の名はカーム=アンダーソン。
これは、私の暗黒大陸紀行である。
暗黒大陸の妄想が止まらず、書いてみました。初投稿です。よろしくお願いします。