アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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オリジナルの技が出てきます。ご注意ください。


100、覚醒

 

 

 

 

 ここは、ジャングルだ。

 

 

 

 

 

 今は失われた故郷を思い出す。見た目は豪華なコンクリート仕立ての迷路で、ジャングルとは程遠い場所だが、重要なのは見た目ではない。

 少しでも油断を見せれば襲ってくる猛獣、害獣、魔獣、あるいはそれに類する様な気配が息づき、弱肉強食がそこかしこで繰り広げられる。そういった意味でのジャングルだ。しかも奥地。まるで強力な魔獣の巣に迷い込んでしまった時のようだ。久しく忘れていた。このような感覚は。五感が刺激される。神経が張り詰める。そして……気分が高揚する。戦士として、最高の闘いが待っている。そんな予感がする。

 恐らく、この先に待ち受けるのはどう足掻いても絶望だろう。入る前に「ヤツ」を見た時そう思った。アレは人間ではない。人の皮を被ったバケモノだ。そのバケモノに目をつけられた時点で我々は終わったのだ。虫が鳥に勝てない様に。鳥が獣に勝てない様に。そして、我々蜘蛛は、奴の巣に投げ込まれた。奴の子達に与えるエサとして。

 

 

 

 だが、それでいい。故郷は開発によって失われた。脈々と続いてきた誇り高き戦士の系譜も、生き残っている者はもう僅かだ。元から闘いや狩りで命を落とす者も少なからずいた。時代は流れ、舞闘士(バプ)の滅びは決定的となった。ならば、最期まで戦士らしくあろう。幻影旅団に入ったのも良質な狩りに困らないからだ。いかなるバケモノであろうが立ち向かい、狩る。それこそがギュドンドンド族最高の戦士、舞闘士(バプ)であるボノレノフ=ンドンゴの矜持なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い廊下を歩く。獣型の椅子や机が襲ってくる。時には破壊し、時にはやり過ごして凌ぐ。この程度は児戯だ。能力を出すまでもない。草原に住まう野生動物が戯れてきた、その程度のこと。問題はすぐ近くにある。強者の気配を感じる。野生の獣並みに気配を隠しているが、ジャングルの戦士であったボノレノフには理解る。自分を狙う微かな気配を。

 ここにきて、彼は往年の感覚を取り戻していた。即ち、野生に近い超感覚というべきものだ。《円》を使わなくとも、地形が把握できる。相手を察知できる。ジャングルを離れ、旅団で過ごし、知らない内にかなり鈍っていたらしい。だが、取り戻せた。この先にいるのは強力な敵。戦士として、舞闘士(バプ)として恥じない闘いをしよう。

 

 

 

 

 開けたホールの入り口でボノレノフは立ち止まり、静かに闘志を高め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソっ! 何故立ち止まる? 完璧だった筈だ。気配は消している。当然殺意もだ。仕事(暗殺)でいくらでも成功してきた隠形だ。今は《絶》すらもある。だが、現実問題として相手は間違いなくこちらに気付いている。不意打ちが成功する相手じゃない。逆に返り討ちにされる。これがA級賞金首の実力か。

 やるしかない。カームに頼み込んで、タイマンを希望した。全ては自分の弱さを克服するため。「逃げ癖」と呼ばれる悪癖に向き合って、アイツらと共にあるため。

 だからこそ、逃げる訳にはいかない。

 

 

 

 だが……頭の中では既に自身の声がうるさい程に響く。

 

 

 

 

『格上だ』

『逃げた方がいい』

『勝てるわけない』

『ここで逃げても死ぬわけじゃない』

『カームに任せておけばいい』

『手遅れになるぞ』

『逃げろ』

『早く』

 

 

 

 

 

 ──五月蝿いっ!! オレは! 自由になる! もう殺し屋じゃない、オレは……ハンターだ!!!──

 

 

 

 

 

 心の中の忠告に自分で活を入れながら、キルアはエアダクトから出て、ボノレノフの前に降り立った。

 

 

 

 

 

「お前か。オレの相手は。子供だな。オレの前に立ったのであればお前は敵だ。遠慮なくやらせてもらう」

 

 

 

 シュルシュルシュル……

 

 

 

 ボノレノフの全身を覆っていた包帯がまるで生き物の様に解け出す。中から現れたのは、全身に大小の穴を持った身体だ。

 

 

 ゆらり

 

 

 ゆっくりとボノレノフが動き出す。管弦楽器の重奏の様な音色がゆっくりと流れ始める。

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 キルアは本能的にこのままではマズいと察知し、瞬時に帯電を始める。同時に頭部、腕部、胸当てまでの発電鎧を具現化する。相手は構わず踊りを続けている。隙だらけに見える。

 あの音楽を続けさせるのはマズい。狙うは速攻。

 

 

 

 ──神速(カンムル)──

 

 

 

 【電光石火】!!

 

 

 

 

 

 バチィッ!!

 

 

 

 

 

 ──首を狙った斬撃は僅か紙一重で触れず、ボノレノフの反対側に着地する。外された! スピードに関しては超一流と比較しても上回る筈だ。何故避けられた。相手は未だに舞を続けている。演奏はドンドン加速する。もう一度だ。今度は肢曲からの…電光石火! 

 

 

 

 バカな!! 何故当たらない…!

 

 

 

「雷使いか。確かに速く、強力だが、お前の呼吸が見える。狙いがわかりやすい。直線の動きしかない。それではオレは止められない。次はオレの番だ」

 

 

 

 ──戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)──

 

 

 

 【序曲(プロローグ)】!

 

 

 

 

 全身をオーラの鎧が覆い、具現化した槍で突撃してくるボノレノフ。キルアは何とか躱しながら、だが、反撃は出来ず、突き出される槍を捌き、後方へと跳ぶ。

 

 

 

「ほう……動きは流石だ。だが貴様、()()()()()()? 命を狙う癖に貴様には覚悟が見えん」

 

「……!」

 

 

 

 バレている。

 

 

 

 この数瞬の攻防からもうバレた。自分の戦闘のスタイル、そして逃げ腰を。だが、それでも、キルアは逃げない。今までの自分なら、ここで失敗したと判断して即座に逃げ出すだろう。頭の中には自分自身の警告がうるさく響く。しかし、同時に逃げたくないという想いも渦巻き、もうグチャグチャだ。

 

 

 

『自分では敵わない。桁違いの戦闘経験だ』

『それでもやるんだ!』

『動きが見切られてる。勝ち目がない』

『だから何だ! やってみないと分からないだろ!?』

『それはリスクだ。クレバーになれ』

 

 

 ──五月蝿い! 五月蝿い!!

 

 

『オレは殻を破るんだ!』

『命が懸かる場面でそれは必要か?』

『強く、強くなるんだ』

『修行で十分だろ? 今じゃない』

『今じゃなきゃダメだ!』

『ならば時間を稼げ。まともにやり合うな』

『それじゃ今と変わらない!』

『このまま続けたら死ぬ。せめて質問して時間を伸ばせ』

『……だけど……』

『布石を打て、隙を見出せ』

『……』

 

 

 ──やめろ! 聞くな!!

 

 

 

 心の奥底で声が響く。合理的なのは分かっている。だが、それは逃げの思考。それでも、拒否する為の一歩が前に進めない。ついに、忠告に従ってしまう。

 

 

 

 

 

 

「どうして……分かったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は戦士ではない。その事実がボノレノフを失望させる。なるほど実力はある。特に雷の能力は脅威だ。だが、肝心の使い手の動きが精彩さに欠ける。躊躇いの予備動作によって攻撃がくる地点を察知できる。相討ちを恐れるあまり攻撃自体も浅い。よって、いくら目に止まらぬ程速かろうが見切れる。

 恐らく、この少年の本来のスタイルは、野生の獣の狩りと同じだ。息を潜め、リスクを排除し、一方的に息の根を止める。同格以下の相手には無類の強さを発揮するだろう。だが、勝敗の行方が分からない程の拮抗した闘いや格上相手は苦手と見た。と、言うよりこれまで避けてきたのだろう。今、何故その得意スタイルを放棄して、苦手な戦闘に挑もうとしているのか。この闘いを試金石にするつもりか。

 今、彼は自身の怯懦を振り切ろうと踠いている真っ最中だ。その証拠に、明らかな時間稼ぎの質問をしている。いずれにせよ、向かってくるなら倒すのみ。その為に心を折っておくのもいい。まだ少年だ。あまり手は掛けたく無いが、敵として出て来た以上は容赦はしない。

 

 

 

「命を奪う自体に躊躇いは無いようだ。だが、その代わり命を賭けた闘いをした事が無いな? リスクを嫌い、確実に獲りに来る。野生の獣と同じだ。いや、獣ですら存在を懸けた闘いをする事がある。お前は獣以下だ。故に、これから始まるのは()()だ。雷を操る者よ、覚悟するがいい」

 

「違う! オレは……ハンターだ!!」

 

「ならば証明してみせろ。ハンターだろうが何だろうが、闘う者としての気概を。このまま獣として朽ち果てるか、戦士として死ぬか、選ぶがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボノレノフが再び演奏を開始する。キルアはどうしていいか分からず、その場に立ち尽くす。キルアは逃げない。逃げられない。こんな事は初めてだ。この様な状況に陥って初めて……自分が闘ってすらいなかった事に気付く。舞が終わる。

 

 

 

 ──戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)──

 

 

 

 【剣の舞(ソードダンス)

 

 

 

 

 いつの間にか再び部族鎧を纏っているが、先程と違い、背面から新たな腕が複数生え、阿修羅の様相を呈している。そして、それぞれの手には曲剣が握られていた。計10本。初めにその半分を腕ごと後ろに逸らす。

 

 

 ギチギチギチギチ…

 

 

 

 存分に引き絞られた腕から、曲剣が放たれる。回転しながらキルアに向かう剣を何とか躱すも、今度は本体が凄まじい速度で接近してくる。5本の曲剣が複雑な軌道を以てキルアに迫る。躱す事に精一杯で、反撃など出来そうもない。更に、飛んでいったかと思われた剣が曲線を描いて戻ってくる。10本の剣による包囲戦法。360度逃げ場は無い。次第に被弾が増えてくる。それも掠り傷から浅い傷へとドンドン変わる。このままではジリ貧だ。何とか、何とか活路を見出さなければ。

 焦りは視野の狭窄を呼ぶ。必死に躱しながら、一点のみの隙間を発見した。迷わずそこを目掛けて足からオーラを放ち脱出する。即ち、上空だ。天井近くまで飛び上がり、即座に電撃を溜め、相手に向かって落とす!

 

 

 

 

 【落雷(ナルカミ)

 

 

 

 

 ズドン!

 

 

 

 

 ──技を放った時に決まったと思った。前回もこの技で活路を見出したから。相手によってその様に誘導されていたとも知らず。

 

 

 雷を放った瞬間、相手と自分の間でインパクトが起きた。ボノレノフが技が来る直前に剣を3本投げていたのだ。狙い通り中間地点で剣に落雷の直撃が起こり、キルアはそのまま落下する。

 

 

 

「その様な攻撃も持つだろうと想定していた。故に、貴様の負けだ」

 

 

 

 落下するキルア。万全の体制で構えるボノレノフ。キルアは必死に再び発電しようとするが、間に合わない。数秒の攻防だが、キルアにはこの瞬間がスローに見えていた。後僅かで膾の様に切り刻まれるだろう。せめて、せめて生き残らなければ……!

 

 

 

 左右から剣が迫る。躱せない。腕でガード。手甲及び腕部の鎧が砕け散り、深いダメージを負う。下から迫る2本の斬撃は脚を狙ったもの。躱せない。だが、致命傷は避ける為に動かす! しかし、それでも両脚の腱を含む半分以上を斬られる。時間差で来る突き3本。頭部は頭を逸らすも発電鎧が砕け散る。だが、即死は免れた。首と心臓への突きは無理矢理身体を捻って逸らすが、鎧が砕け、鎖骨部分と胸部に浅くない傷を付けた。キルアは最後の突きの反動を利用して後方に飛ばされる。全身の切り傷。凡そ致命傷に近い。

 だが、生き残った。しかし、脚の傷が深刻だ。腱まで斬られて立てない。逃ゲロ。失血も酷い。仮に動けても数分だろう。逃ゲロ。逃げる事もままならない状態だ。キルアの脳内で深刻な警鐘が繰り返される。逃ゲロ。幸か不幸か、繰り返された忠告によって逃げる算段は何とか見つかった。逃ゲロ。キルア自身、これ以上戦闘は不可能として、その忠告に従いたい気持ちがより強くなる。逃ゲロ。ほら、次の攻撃が来る。次は避けるのが難しい攻撃が来る。逃ゲロ。

 

 

 逃ゲロ。

 

 

 逃ゲロ

 

 

 逃ゲロ

 

 

 

 ──だが、これでいいのか? 獣以下と罵られ、また暗殺者として生きていく? 冗談じゃない! オレは……オレはアイツらと共に生きると決めたんだ!! アイツらは……ゴンは……オレの…

 

 

 

 逃ゲロ!!

 

 

 

 友達だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ボノレノフは鎧を解き、相手を観察する。仕留め損なった。相手の驚異的な動きによって。この状態の獣はタチが悪い。瀕死に見えて、逃げる算段を立てているようでもあり、何か狙っているようでもある。仕方ない。確実に、息の根を止める。

 

 

 

 

「最後だ。貴様はやはり、獣のまま死ね」

 

 

 

 ──戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)──

 

 

 【木星(ジュピター)

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ…!

 

 

 

 天井を突き破り、巨大な惑星が姿を現す。ボノレノフの切り札とも言える技の一つ。今の動けないキルアに避ける術は無く。

 

 

 

 ──その瞬間、時が凍りついた様な感覚を覚えた。

 

 

 

 そして、ボノレノフは、インパクトの寸前に頭に手をやる相手の姿を見た。

 

 

 

 

 

 ズドォン!!!

 

 

 

 

 凄まじい衝撃と共に、煙が辺りに舞い散る。ボノレノフは警戒を解かない。確実に死体を見るまでは。気配は消えている。だが……どうしても警戒が解けない。

 

 

 予感がする。奴は生きている。

 

 

 

 そう考えていた時、背後から声がした。

 

 

 

 

「あ”〜スッキリした。はは…してやられたな」

 

「!!」

 

 

 背後を振り向けば、血塗れな上に頭部からも怪我を負った相手が悠然と()()()()()

 

 

 

「イルミの野郎……こんな(もん)差し込んでやがった。オレの(アタマ)ん中にさ」

 

 

 

 涙を流しながら頭を指差し、呟く相手。何を言っているか分からないが、瀕死の癖に先程よりオーラが増大している。……厄介だな。覚醒させてしまったか。だが、それでいい。それもいい。

 

 

 

「ようやく戦士の顔になったか。前言は撤回しよう。オレの心を震わせてみろ」

 

 

 

 

 予感がする。お互いこれで最後。次かその次で決着(きま)る。奴は待っている。初めての戦闘を楽しむか。それとも決めに来る瞬間を狙うか。それも良かろう。だが、その壁は超えさせぬ。変わらずここで朽ち果てて死ね。

 ボノレノフは最後の演奏を終える。木星(ジュピター)では倒せない。ならばこれだ。

 

 

 ──変容(メタモルフォーゼン)──

 

 

 

 【動物の謝肉祭(カルナバルオブビースト)

 

 

 

 

 ボノレノフの姿が変容する。その姿は、パッと見れば半馬人の様でもあるが、翼が生え、胴体には肉食獣の顔が付いている。本体(?)部分には鎧を着込み、槍を持つが、先程の阿修羅の様な腕も存在している。当然剣も持っている。人と獣の融合。その姿は、ギュドンドンド族の神話に伝わる獣の神の様相を呈していた。

 

 

 

 

 

「へぇ、なるほど。じゃ、来なよ」

 

 

 

 

 相手が構える。鎧は無い。しかし、脚と腕に甲を付けている。オーラも静かだ。だが、達人の様な雰囲気を発している。お互い、一筋縄ではいかない事は分かりきっていた。勝負は数瞬でつく。奴は長くは動かない筈だ。先程も距離の問題で来なかったのだろう。今立っている事も信じがたい程の深手を追わせているからだ。しかし、今の奴は完全に先程とは別物だ。迂闊な攻撃をしたら跳ね返されるだろう。だからといってここで引く手は無い。寧ろ心が高揚する。戦士としての自分が、強大な敵を倒せと鼓舞している。

 

 

 

「行くぞ」

 

 

 

 剣を複数飛ばし、駿馬の脚力を以て迫る。序曲(プロローグ)とはスピードが段違いだ。槍の一閃。最小限の動きで躱される。そしてほぼ同時に反撃を喰らう。精密な動きだ。一瞬痺れによって反撃が遅れる。だが、飛ばした剣が返って来て、更に、他の腕の斬撃や胴体の噛み付き、槍の突きなど様々な攻撃が展開される。背の翼も活用して、先程よりも更に逃げ場の無い攻撃が行われる。しかし、その一撃一撃にカウンターを喰らう。電撃付きでだ。少なくないダメージを貰い、堪らず距離を取る。

 

 

 

 

「貴様……人間か? そこまでの精密な動き、人間には不可能に近いぞ」

 

「自動で動いてるだけさ。疾風迅雷って名付けた。でもダメだな。決定力に欠ける。やっぱ自力で動かないとね」

 

「ふん。貴様には時間が無い。オレが逃げ回れば、それだけで貴様は死ぬ。そう長くも動けんだろう」

 

「そうだね。これが最後の攻撃だ。これで死ななかったらアンタの勝ちだ。逃げてもいいんだぜ?」

 

「ふ……愚問だな。戦士として、貴様を必ず屠る。最後に名を聞いておこう。オレが屠る貴様の名を」

 

「キルア、だ。アンタは?」

 

「ボノレノフだ。行くぞ」

 

 

 再び構える両者。今度は迂闊には飛び込まない。ボノレノフは肉を斬らせるつもりでいた。その代わりに骨を断つと。電撃は脅威だが、同時に当てれば問題無い。オーラの鎧による防御力では先程の攻撃を考えると僅かに上回っているという計算もある。

 よって、初手決着だ。一撃で決める。相手も同じだろう。互いに動かず先を取り合う。キルアは集中を続けながらも、電力を高めている。だが、キルアには時間がない。圧倒的に不利な状況。更に今も続く大量出血がドンドン勝機を遠ざける。読み合いによる消耗も激しい。

 

 

 

 ブーーーン……

 

 

 電力は過去最高の威力まで高まっている。しかし、キルアの身体には限界が訪れようとしていた。電気の力で無理やり脚を立たせ、鈍くなる身体に電気で活を入れる。それだけでもかなりの神経を使う。更に強敵との初めての読み合い。

 遂にキルアは出血により、一瞬立ち眩みが起きる。

 

 

 

 そこを逃すボノレノフでは無い。

 

 

 

 最高の瞬発力を以って槍を前面に出して突撃する

 

 

 

 

 

 ()った!!

 

 

 

 

 

 スローモーションで景色が流れる中、ボノレノフは確かに見た。自身の動きに反応して、超高速で向かって来る敵の姿を。だが、一手自分が速い。槍を心臓に合わせて突撃する。相手は直線の動きだ。今だ。槍を突き出す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極限の凄まじいスピードの中、突き出される槍に対して、キルアは確かに反応していた。左手の甲で槍を下から軽く弾き、その勢いのまま地面を蹴って右手を前に、相手に全身で突撃する。

 

 

 

【紫電一閃】

 

 

 

 側から見れば、一瞬の交差であった。両者、互いの位置が入れ替わる。ボノレノフの能力が解ける。見れば、胸部に大穴が空いていた。僅かに痺れの残る身体で呟く。

 

 

 

「見事……」

 

 

 

 ドサッ

 

 

 

 ボノレノフは一言告げると、その場に崩れ落ちた。強い敵との極限の闘いに満足したかの様に、その顔は晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 

 キルアもそれを見届けて同時に倒れ伏す。既に意識は無かった。しかし、それを受け止める者がいた。その者はキルアを抱えて呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくぞ、よくぞ克服した。お前の勝ちだ。今はゆっくり休め」




途中からこっそり心配して見てた奴がいたらしい。






バトルはやっぱり難しいですね
オリ技について解説を入れます。

ボノレノフ=ンドンゴ
剣の舞(ソードダンス)
・序曲とほぼ同じだが、こちらは新たに腕が生え、10本の曲剣を自在に操り闘うスタイルとなる。剣もオーラで具現化されており、変幻自在。対人ではかなりの脅威となる。

変容(メタモルフォーゼン)
戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)の一つ。特定の条件下で、姿形を文字通り変容させる。主に動物などの姿に変わる事が可能。戦闘中に○曲以上踊る。観客がいる場所で○分以上踊るなど、条件は様々であるが、条件が厳しいほど複雑、又は強力な変身ができる。


動物の謝肉祭(カルナバルオブビースト)
・ボノレノフの切り札の一つ。戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)で、戦闘中に3曲以上踊る事によって発動可能となる。上記の変容(メタモルフォーゼン)の一種。人と獣の融合した様な姿に変わるが、これはボノレノフの部族の神の姿の写し絵でもある。様々な踊りの奉納を経て、神の力を借りるという事である為、戦闘力は随一。


キルア=ゾルディック
【電光石火】
・キルアの神速(カンムル)の一つ。自分の肉体に電気の負荷をかけることで、限界を超えた反射速度を強制する技。自分の意思によって体を動かす。超高速で攻撃・疾走が可能になる。技の性質上、直線的な動きしかできない。

【疾風迅雷】
・キルアの神速(カンムル)の一つ。相手の動きとオーラに反応して、予めプログラミングされた動作を行う。つまり、超高速でカウンターがとれる。これまで完成されてはいなかったが、ギリギリの闘いの中で遂に完成した。

【紫電一閃】
・上記の二つの神速(カンムル)のハイブリッド技とも呼べるもの。相手の動きを察知し、反応。超高速での疾走、攻撃を繰り出し、確実に相手に強烈なカウンターを与える。技中に攻撃しても、瞬時に反応されて対処されるため、強烈な突撃を避けられない。電光石火、疾風迅雷の弱点をカバーした技でもある。

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