作者の頭が追いつかないので……(汗)
そして、この回は非常に難産でした…。
クロロ=ルシルフルは、歩きながら様々な思考を巡らせていた。彼は一旦思索に入るとトコトンのめり込む性質がある。内容は主に、敵について。そして自分達について。
この状況下で、クロロは敵に勝つ道筋を探っていた。余りにも絶望的な状況。クロロはそれを正確に理解していた。だからこそ、彼は思索を続ける。先ずは何故、そうなったのかを。全ての始まりと原因を。
◆
そう。余りにも鮮やかに、簡単に我々は潰滅の危機に陥った。そして、その中心となった人物は
ここまで危機的な状況はかつて無かった。現時点で、旅団全員が生殺与奪を握られているに等しい。これまで慎重に、綿密に事を運んで来た。失敗はほぼ無かった。
だが、それもここで破綻しようとしている。分断された団員は、全て各個撃破されているだろう。自分も普段ならこんな選択肢は取らない。最初から自分が自分らしくない選択をし続けた結果のコレだ。
そして、その全ての原因は〝奴〟だ。
奴がいたからこそ、狂いだしたのだ。旅団全員すらいいように手玉に取る能力。いや、最早能力等という生易しいものではない。その力は凄まじいモノだ。あそこ迄の力は最早人智を超えている。それは
「神」の力だ。
あの白いオーラ。アレは別格だ。我々の念能力とは次元が違う。奴はどのような手段でその力を手に入れたのだろうか。
古の稀覯本に記載があった。外の世界から人類を導いた存在。文献によっては天使や救世主と呼ばれる者達。我々の知っている歴史上の人物で言えば、キリストがソレに当たる。
その力は神にも匹敵し、天を裂き、海を割り、悪魔を退け、災いを遠ざけ、様々な奇跡を起こす。
文献に拠れば、その力は、特別な人間の持つモノとして、こう呼ばれる。
〝聖光気〟と。
眉唾な話だと笑っていた。実在したとしても、大方、強力な念能力者だとタカを括っていた。だが、確かに実在したのだ。〝救世主〟は。決して大袈裟な記述では無かった。その事実に多少胸が躍る。キリストも、ユダも、伝説通りの姿で実在していたのだから。
それは世界の特異点となる存在。真に特別な存在である。では、それが
マフィアと救世主。余りに噛み合わない。で、あれば、奴はアンダーソンの縁者である可能性が高い。もしくは、それに匹敵するほどの近しい縁を持っている。そう考えた方が辻褄が合う。
普通、盗賊団とマフィアの抗争に何の縁も無い者が突っ込んでくるとは考えづらい。本当に救世主や天使であれば、全く関わらないか、仮に手を出すならば両者共に壊滅させるのがその役目であろう。
にも関わらず、あたかも自分がアンダーソンであるかの様に振る舞う。よってこの線は間違ってはいないだろう。
奴はアンダーソンだ。
つまり、元は普通の人間だ。で、あるならば、あの〝力〟を身に付ける事は不可能ではない。
あの特別な力。アレが欲しい。あの時、確かに奴はオレに能力の一部をくれようとしていた。奴自身が何故それを手放したかったのか。やろうと思えば世界すら支配できる力だ。そこに奴の
何故、手放すか。
それは、
そこから推察するに、奴は自らの怪物性を忌避している。
感性までは怪物化していない。恐らく奴自身が人間として生きていたいという事の表れではないだろうか。
前回盗めなかったのは自分の器が小さすぎたからだ。まだその資格は自分には無かった。それだけの事。
ならば、その資格を身に付ければ良い。その為には、行かねばならない。
外の世界へ。
まずは、この状況を解決しなければならない。よりにもよって、最悪の標的を選んでしまった。だが、物事には良い面と悪い面が必ずある。
これはチャンスだ。蜘蛛を存続させ、更なる飛躍を齎す可能性がある。
だからこそ、生き延びなければならない。奴は〝救世主〟だ。そして人間性を求めている。そこが狙い目だ。薄氷を踏むかのような淡い希望だが、そこに勝機がある。今回の我々の勝利条件は、生き残る事。出来れば複数人で。その確率が那由多の彼方にあろうとも達成しなければならない。
例え、どれ程の犠牲を払ってでも。
〝救世主〟は、その在り方によって大抵悲劇や苦難の道を辿る。それは歴史が証明している。
同じ〝救世主〟キリストは、人間の裏切りによって処刑された。
お前は、どうかな?
今代の〝救世主〟よ
◇
大きく、荘厳な扉を開く。そこは聖堂だった。そこに、1人の人物が待っていた。
「来たか。待っていた。この時を」
「お前が、オレの相手か。……復讐、か?」
「……クルタ族」
「なるほど。ルクソ地方の小数民族。感情が昂ると眼が緋色に変化し、死後もその色は定着する。その美しさから世界7大美色に数えられる。生き残りか。それは勿体無い事をしたな」
「貴様が……貴様が命じて、罪の無い同胞が苦悶の中死んでいった。よって、同胞への鎮魂歌は貴様の断末魔とさせてもらおう。幻影旅団団長、クロロ=ルシルフル!」
「…………ふふ」
「何がおかしい!!」
「いや何、こちらの話だ。全く過去というものは往々にして未来へと牙を剥く。それで線が繋がった。あの男だけなら動機が少し弱かった所だったからな。お前はあの男の弟子か。だとしたら、とんだ運命の交錯だ。良かったな。後少しで悲願達成だ……気分はどうだ? 復讐者」
「挑発か? 今の私はその様な戯言に耳を貸す程優しくない。貴様の仲間は全て始末した。精々惨めに足掻いてみせろ」
「さて、困ったな。お前は仲間を始末したと言ったな? これでオレにもお前に復讐する権利が生まれた。ただでは死なさん。今度こそお前の全てを奪ってやろう。絶望の中、跪き、赦しを乞う姿を見せてくれ」
ズズッ
クロロから凶悪なオーラが漏れ出てくる。同時に彼の右手には一冊の本が発現する。【
ジャラッ
相対するクラピカも右手から鎖を垂らす。
それを見たクロロは、瞬時に操作、又は具現化系かを想定し、更に具現化系だとアタリをつける。操作系ならば、もっと何本か用意してもいい筈だ。一方、具現化系であれば、《隠》で不意をつきやすい。《凝》。やはり。左中指から出た鎖が大回りしながら接近している。
なるほど、厄介だ。流石は奴の弟子だな。わざわざ付き合う必要は無い。このタイプには近接が有効だ。【
ドギャッ!
右脚で蹴りを当てる。相手はガードしながら器用に鎖を動かしてこちらに向かわせる。しかし、【
そしてあの鎖。アレには強烈な念を感じる。受けると不味い。緋の眼を持つクルタ族は、緋の眼になれば強さが段違いで上がった。念能力を持たない一般人でもだ。それが、訓練された念能力者ならどうなるか。ましてやあの男の弟子だ。特級の強さになっていてもおかしくはない。だが、分析がもう少しでできそうだ。もう一当てしてみよう。
【
【
念で作られた魚が複数浮遊する。その姿は古代魚のようだが、性質は凶暴。ピラニア並みの貪欲さで襲いかかる。
解き放たれた魚達が相手に向かう。だが、複数の波状攻撃も、ものともせずに鎖で薙ぎ払う。その僅かな攻撃の後隙に突撃して波状攻撃をかけるが、ガード、又は躱される。鎖を片方手元に戻して捕縛する動きを取る。
一旦離れ、そこから考察するに、奴は身体能力は超一級品といって差し支え無い。オーラ量もだ。体術とオーラ操作に若干の未熟さが窺えるが、それは余りある前者によって問題なく機能している。
そして、その能力の鎖。
アレは、具現化した鎖で確定だ。両手それぞれに装着されたソレはタダの鎖ではあるまい。攻撃は殺傷力がメインではなく、基本的に捕縛を主体としている。これは、この復讐者の性格を如実に物語っている。殺傷力に特化せず、捕縛するという戦略は、確実に標的を捉えて、尋問、始末するという、複数のグループを相手にするには非常に理に適ったモノである。
即ち、この相手は、慎重且つ理性的、そして意志が強いという事が伺える。
では、どうするか?
コイツを殺そうとしても、その直前で奴が出てくるだろう。その逆でも結局同じ。よって、こちらがウッカリ死なないかぎり、結果は変わらない。何という理不尽なゲームだろうか。
そこで問題になってくるのが、この復讐者が
最終目標であろう自分と団員を捕らえた後、奴は我々を殺すだろうか。
否。
いや、最終的にはそうかもしれない。だが、直ぐに殺すかと言えば、自分ならそうはしない。そこまで情熱を復讐に傾けて生きてきて、いざ、完璧に捕まえたとしたら。
アッサリと殺して終わるのは勿体無さすぎる。延々と拷問にかけ続けるか、厳しい呪いを課してくるか。少なくとも、
我々は悔い改めない。メンバーは誰も。反省し、赦しを乞いながら死ぬなど絶対にしない。
そんな相手ならば、より苦痛を味わわせたくなるというのが人間というものだろう。理知的で冷静でいる奴なら尚更だ。
加えて、拷問には全員耐性があり、簡単には折れない。折れるぐらいなら自死するだろう。奴ならどうする? オレならどうしたい?
そして、〝救世主〟はどう出てくるか。
方針が固まった。
奴は煽り耐性は低いと見た。ここは、上手く理想の形に誘導してやれば良い。ハッキリ言って、一か八かどころの騒ぎではない。上手く行く確率など、それこそ那由多の彼方かもしれない。
性格の分析には自信があるが、だからといって先程考えた様な都合の良い展開が来るかなど、全く分からない。
だからこそ、良い。
死ぬならばそれまで。オレは、オレの運命に従う。それが叶うのであれば、いずれ〝救世主〟にすらも抗ってみせよう。では始めようか。
◆
激しい攻防が続く。少なくとも、本人達にとっては、だが。お互いが当たればそれだけで終わる能力を有している以上、激しいぶつかり合いは少ない。少ないが、それは表面上の事。無数の選択肢を取捨選択し、先の手を読み、それらを上回る手を用意する。
さながら、動きながら詰軍棋を行なっている様なものだ。そして2人共にその能力が飛び抜けて高い。現在は様々な念能力を有するクロロが優位に進めている様にも見えるが、クラピカも柔軟に対応し、決して遅れをとらない。一進一退の、息が詰まる様な駆け引きの応酬がしばらく続いた。
しかし、その均衡も長くは続かない。
クラピカは現在、
接触する寸前、クロロは相手の右手がこちらを向いている事を視認した。
瞬間、凄まじい速さで飛んでくる人差し指から注射器の様な先端の鎖が、目にも止まらぬ速さで射出された。
しかし、それを読んでいたクロロは紙一重で躱す。余りにも速い速度で放たれたソレは彼方に飛び去った。そして、彼は同時に動き出す。彼の左手は懐に入れられており、カウンターで同じく凄まじい速度でナイフを投げ放った。が、それも読んでいたクラピカは薬指の鎖を発現しており、投擲されたナイフを弾く。
ドスッ
しかし、超至近距離で起きた攻防による死角。そこを突いて、クラピカの
敵が最後に用意したコレは、やはり速殺系ではない。
最後の能力を発動する。
同時に、クラピカが離れて叫ぶ。
「私への攻撃と、念能力の使用を禁じ
サクッ
言い切るか、言い切らないかの瀬戸際で弾かれたナイフが
ドサッ
無事、相手は倒れる。そう。これは【
そして、このナイフは特製のベンズナイフ。0.1mgでクジラを昏倒させる毒が仕込まれている。
「切り札は最後まで見せるな。見せるとしたら更に奥の手を持て、だ。もう聞こえていないだろうがな」
「全く同感だ」
!!
いつの間にか、今倒した男が背後に立っている。反射的に【
「無駄だ」
「いくら足掻こうが」
「勝負とは始まる前に決着はついているものだ」
「つまり、お前は詰んでいたのだ」
「初めから」
複数の奴が現れ、周囲を取り囲みながら話しかけてくる。皆一様に瞳が紅く輝く。
あぁ、なるほど。
霧が、出ている。
クラピカは決着を自分でつける事を優先するか、人の手を借りて徹底的にやるか、どちらのタイプか最後まで迷いました。
原作ではトラウマもあり、前者タイプっぽかったのですが、本小説では、修行や交流を経て成長したという事で後者を選びました。