アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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この顛末も結構悩みました……。

しかし!これにて旅団編は完結です!
メッチャ長かった…。暗黒大陸に次ぐ長さになってしまうとは…!


104、偽りの希望を求めて

 

 

 

 

 

 

「無事に事が済んだ様だな」

 

「あぁ。助かった。カーム。ありがとう」

 

「どういたしまして。これぐらいなら何てことはないさ。寧ろ、手を貸して欲しいと言ってくれて嬉しかった」

 

「意地をはるのをやめただけだ。死んだ仲間達の為にも、私は生きていかなければならないのだから」

 

「そうだ。それでいい。そういう気持ちになってくれたなら良かった。で、彼らはどうする? 殺すか?」

 

「……それだが、奴等とも会って話した上で、私なりに考えてみた。やはり奴等は許せない。今すぐにでも殺してやりたい、というのが正直な所だ。だが、殺したらそれまでだ。奴等は反省などしない。悔いる気など、まるでないだろう。それならば、生きて地獄を見せる方がいい。だから奴等の最も大切なものを奪う事にした」

 

「ふむ。それは?」

 

「アイデンティティ、だ」

 

「なるほどね。盗賊の盗賊たる所以を全て奪う、というわけか。いいんじゃないか?」

 

「もう既にその掟は奴等に課して来た。……最後にカーム、手を借りたい」

 

「いいぞ。()()()()だな?」

 

「その通り。私だけでは解除される可能性が0ではない。念を外す能力者がいてもおかしくないからな」

 

「そうだな。一般的に除念師、と言われる存在は確かにいる。承った」

 

「ありがとう。これで奴等は奴等である限り、地獄を見るだろう。感謝する」

 

「後は私に任せて少し休め。緋の眼の反動がきてるだろう?」

 

「あぁ。頼む。私は少し休ませてもらおう。今日はゆっくり眠れそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分はどうだ? 盗賊団」

 

 

 奴等が入れられている小部屋へ入る。途端に生き残った者達からの視線が襲い掛かる。見るだけで殺せるならばそうしたいと言わんばかりだ。

 代表して、()()()()()クロロが答える。

 

「それはどういう意味だ? 最悪だ、とでも言って欲しいのか?」

 

「まぁ、そうだな。君達はただひたすら運が悪かった。私は自分のテリトリーを侵された場合は容赦しないからな。彼の助太刀という面もあったがね」

 

「やはりお前はアンダーソンか。アンダーソン家三男、カーム=アンダーソン、だな?」

 

「正解。戸籍上はな。まぁ、君達はこれまで欲望のままに生きてきたんだ。それなりの罰が今下ったという事だ。私からも君達にプレゼントがある」

 

「フッ……。神気取りか? 〝救世主〟」

 

「そんな大層なものではないがね。だが、君達にはまだ希望があるだろう。除念という希望がな。それを奪おうか」

 

 

 カームの手から全員に向けて金色の鎖が発射される。クラピカのモノを模したものだ。ソレは全員の身体に侵入し、クラピカの能力と融合する。

 

 

 彼らに融合させて掟の内容が分かった。まずは、クラピカの命令は絶対、と念能力の使用禁止という事に加えて、

 

 

 1、奪うなかれ

 2、犯すなかれ

 3、殺すなかれ

 4、嘘をつくなかれ

 5、酒を呑むなかれ

 6、資産を持つなかれ

 7、観賞・観劇をするなかれ

 8、装飾をつけるなかれ

 9、ベッドで眠るなかれ

 10、昼以降、食べるなかれ

 

 

 ……何というか、修行僧の様な掟である。特に後半は嫌がらせに等しい。クラピカは宗教の戒律を参考にしたと言っていたが。だが、彼らにとっては正にアイデンティティを奪われたと同然だろう。そして、出来なければ死ぬ。

 

 

 

「君達はこれからしばらくここに留まってもらう。その後、然るべき機関に引き渡すからそのつもりで」

 

 

 そして私は退室する。彼らの粘着く様な視線を一身に受けて。恨まれたものだ。だが、君達はそれに値する悪行を重ねて来た。これは当然の報いだ。精々、不自由を謳歌するといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッたれ!!!」

 

「ウボォー、うるさい。怪我に響く」

 

「これが黙ってられっか!? どうしろっつんだよ!!」

 

「マチの言う通りね。黙てろ」

 

 マチは腹部の応急処置で生存に問題ない程度には回復はされているが、まだまだ全治には数ヶ月かかる状況だ。フェイタンに至っては、全身火傷、両手足欠損という何で生きているか分からない状況だ。それ以外にも、フランクリンやノブナガ、シズク、シャルナーク、そして団長など、負傷している団員は多い。

 

「だがよぉ、団員の半数近くは居なくなったか死んじまった! そして、このクソッタレな枷だ! 冗談じゃねェ!! マジでお先真っ暗じゃねェか!!!」

 

 

「イテテ…それについては同意だね。八方塞がりだ。生きてるだけまだマシかもしんないけど、お先真っ暗な事には変わんないよ。どーすんのさ、団長」

 

「そうだぜ。仇討ちをしねェとおさまんねえ。パクと、ボノ、コル、フィンクスの無念を晴らしてやんねーとよ」

 

 

「ノブナガ、今オレが質問してんだけど。大体、ぶっちゃけそれどころじゃないじゃん。ハッキリ言って完敗だよ。生きてるのが不思議なくらいだ。ま、この掟じゃ死んだ方がマシな部分はあるけどね。で、このプランの発案者である団長に聞いてるんだ。死ぬのはごめんだけど、ずっとこのままも勘弁だよ? どうなの? 団長」

 

 

 キツめの口調で嫌味を込めてシャルナークがクロロに問い掛ける。他のメンバーも口を挟みはしないが、同じ様な心境だろう。

 部屋全体に重い空気が漂う。

 

 

 しばらくの沈黙の後、クロロが静かに口を開く。

 

 

 

「まずはお前たちに謝ろう。すまなかった。オレの想定が不足していた」

 

 

 

 クロロが謝罪する。そんな事は初めてだ。全員、驚きで二の句が継げない。

 

 

 

「謝んないで! そんなんじゃ、私達も死んだメンバーも浮かばれないよ!」

 

 

 黙っていたシズクが叫ぶ。クロロを頭として、手足として動いてきた。団長の命令は絶対。それは勿論死ぬ事も含めてだ。それだけに、謝罪など必要ない。むしろ、忠実に働いてきた者に対する侮辱である。

 

 

「最後まで聞け。これはオレの反省でもある。お前達の頭としてな。だが、同時に朗報でもある。この状況はここに突入した後で想定した顛末の中では最良のものだ」

 

 

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

 

 

「イヤイヤイヤ、これ以上無いって状況じゃん! マジで言ってる?」

 

「冷静に考えろ。我々にとって最悪な状況とは何だ?」

 

「……なるほど。我々の全滅、か」

 

 

 ダメージで寝ているフランクリンが答える。

 

 

「その通り。加えて、生存者も居て、拷問も無い。普通ならば全員嬲り殺しだな。ましてやマフィアの巣穴だ。最終的には殺されるにしても、ありとあらゆる残虐行為を働かれても文句は言えないな。オレ達がクルタ族にやった様に」

 

「まぁ…そりゃそうだけど……。でも、それが奴らの狙いだとしたら? 中途半端に希望を持とうとして、どう足掻いても無理、みたいな」

 

「そうだな。確かに方向性の違うタチの悪さがある。結局は殆ど変わらない。だが、足掻ける。その違いだ」

 

「なるほどね……でも、()()()()に対抗策あんの?」

 

 

 実際に直接闘ったシャルナークとフェイタンはその恐ろしさが分かる。正確には、シャルナークは記憶が無いため、直接闘ったのはフェイタンのみであるが、自動モードと勘を取り戻したフェイタン2人がかりで歯牙にも掛けられなかったのだ。間接的には団長も闘っているが。

 ともかく、尋常な相手ではない。あのクルタ族ですら厄介な奴だが、まだ常識的だ。それぐらい〝アイツは〟イカれている。

 

 

 

「それを考える為にはまず、奴のあの力が何なのか、知っておく必要がある。オレの憶測も混じるが、まず間違ってないだろう。どこから話そうか──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はえ〜……。伝説の闘気かー……」

 

「にわかに信じがたいのは理解出来る。オレも奴に会うまでは夢物語の一つだと思っていた。だが、アレだけの力を見せられたら信じざるを得まい」

 

「なんだそりゃ……ますます対抗策ねーじゃねーか!」

 

「そうだ。だから、我々は奴に目を付けられた時点で対抗策など無かったのだ。その部分も先程の謝罪に繋がる。だからこそ、生き残っただけでも僥倖なのだ。だが、今回の件を最初から最後までもう一度振り返って考えると……」

 

「考えると……?」

 

「いや、ここから先はまだ言えない。ここの会話も恐らく聞かれているだろう。だからここまでだ。まずは目先の事だ。我々は恐らく犯罪者の収容所に送られる。このハンデを背負ってだ。だが、一つだけ言える事は、オレは諦める気はサラサラないと言う事だ。さて、ここからはお前達に問う。オレは今回、最初から失敗した。それでも、お前達はこの期に及んで、オレを信じるか?」

 

 

 その台詞に、団員は全員目配せし、その後、全員が団長に頷く。

 

 

「では、始めよう。これは宣戦布告だ。我々は、如何なる苦難があれど、あの〝救世主〟に反逆する。さながらキリストを結果的に裏切ったユダの様に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、そうだろうとは思った」

 

「ねぇ、カーム。可能なの?」

 

「可能か不可能かで言えば、限りなく不可能に近い。彼らにはあのクラピカの掟と、私の補強がある。普通に考えればムリだ。通常は呪いをかけられたら、それを外す能力者がいる。除念師という。雪男より遭遇が困難らしいがな。だが、更に私の能力の場合、そんじょそこらの除念師に解除は不可能だ。可能性があるとしたら、私と同等の能力を持つ者に頼るかしかない」

 

「それは……かなり厳しいね」

 

「かなりどころじゃない。それこそ、小数点以下10桁以上の低確率だな」

 

「でも、あの人達はやるって決めてるよ?」

 

「それが唯一の希望だからだ。()()()()()()()()。それがなければ彼等はアイデンティティを失い、そのうち自我が崩壊するだろう。最早その方が楽かもしれないけどな」

 

「うへぇ。えげつねェな」

 

「それこそがクラピカの課した罰だからな。行くも地獄、引くも地獄。彼等にはふさわしいだろう。偽りの希望を求めて、亡者の様に彷徨う。だが、掟の所為で犯罪行為や贅沢などは出来ん。まぁ、実は唯一隠された、成功率が他よりも高い正解があるっちゃあるけどな」

 

「!? どんな!?」

 

 

 

 

「それは──」

 

 

 

 

 

 

 

 悔い改め、反省し、精神的に修行を重ね──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()




結局無理っていう。



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