書ける内に出しておくスタイル!
『やぁ、ツェズゲラ君、この度はすまない事をしたね。でも、飲んでくれてありがとう』
『……全く、君には煮え湯を飲まされたよ。まさかバッテラ氏の真の目的を達成してしまうとはな。まぁ、我々も違約金をたっぷり貰えたからそれに付いては文句は言わないがな。貰った分の仕事はしよう』
『ありがたい。引き続き、
『承った。ところで、Mr.アンダーソン』
『カームでいいさ。なんだい?』
『いや……君なら大丈夫だろうが、少し前にプレイヤーが20人近く大量死することがあった。以前から噂があった『
『ほう……。分かった。脳裏に留めておくよ。情報ありがとう』
『それだけだ。ではまた』
ツェズゲラ氏が通話を終了した。彼等にはワリをくわせてしまったな。だが、納得してくれて良かった。そう、これはプレイ環境の改善。特にハメ組に対処する為の方針だ。あまりにも魔法カードが少なすぎた。よって、盤外から
バッテラ氏との打ち合わせの一つだ。彼はもうクリアは必要ない。その為、雇った人間の後始末をお願いしたのだ。
クリアの契約はそのままに、しかし、諦めた者達を帰還させる。資金をバラ撒きながら。バッテラ氏には負担が大きいが、それでもオークションで使う予定だった金額よりは大分下がる。これによって、ハメ組含む多くのプレイヤーが帰還を選択した。現時点で雇われの8割近くが帰還している。
また、クリアに近かったツェズゲラ氏にも、バッテラ氏から契約変更をお願いしている。彼にはクリア報酬に近い違約金を支払う代わりに、情報の通達及び、プレイヤーの送迎をお願いした。最初は渋っていたが、そこはプロ。違約金に納得して協力してくれる事となった。
仕込みは済んだ。
後は、『
奴等は凶悪だ。クリア報酬を無しにしたら彼等はバッテラ氏に危害を加えかねない為、そのままにしたのだ。また、ツェズゲラ氏も同様だ。彼がゲームを引退していなければ、真っ先に狙われるのは彼だろう。まぁ、真っ先にクリアしてしまいそうだったからという理由も無いわけではないが。
ともかく、『
これが、私からの最終試験だ。
◇
「ツェズゲラ、良かったのか?」
「何がだ?」
「G•Iをクリアしたかったんじゃないか?」
「……まぁその感情は否定出来んな。私もこのゲームによっぽどのめり込んでいた様だ。だがな、その感情論抜きにすれば、このバッテラ氏の提案は渡りに船だったからな」
「まぁな……。クリア報酬とほぼ変わらない違約金だからな。普通は減額する所だ」
「そう。だからこそ私に文句は無い。この提案はバッテラ氏というよりはアンダーソンだろう。金の使い方をよく分かっている。我々が文句を言わないで引く額を1発目で持ってきたからな。それに、クズ集めもだ。奴等には勿体無いが、出せるのであれば間違いなく釣られるだろう額だ。ま、とりあえず我々は言われたミッションをこなすだけだな」
「ツェズゲラがいいならいいんだが……」
「それに、しばらくはクリア者は出ないだろう」
「? どういう事だ?」
「No.1『一坪の密林』は
「あぁ、アレか。全く何がフラグか分からなかった奴だな? 確かにアレは手に入れたのは偶然だったからな。他のプレイヤーなら尚更正規ルートじゃ無理だろうな」
「そう。それにNo.2『一坪の海岸線』も似た様な物だ。これらをゲット出来る者が出て来れば或いは…といった所だろう。だが、そうなってくると例の『
「うーむ……そう考えるとそうだな」
「ま、折角だからクリアしたかったのは事実だがね。プロとしては楽に賞金がとれるならその方がいい。とりあえず『
「了解。確かに楽な仕事だ。ただ、オレ達を疑って中々頑固な奴もいるからそこが大変だけどな──」
◇
ゴン達のカード集めは大変はかどっていた。
「よっしゃー! No.53『キングホワイトオオクワガタ』ゲットー!!」
「現在で25枚。だいぶ指定カードも集まってきたな」
「そろそろAランク以上も積極的に狙っていきたい所だよね」
「しっかし、『真実の剣』があんな風に役立つとはなー。アレで取れる指定カードがあったとはビックリだぜ。あんなの普通わかんねぇって」
「『リスキーダイス』もそうだよね。結構コンボ多いみたいだし、よく出来てる」
「あーあ、後ちょっと粘れば億万長者だったのによ! 邪魔すんなっての。今だに頭のコブいてーんだからな!」
「兄さんはギャンブルにハマって破滅するタイプだって分かったから、妥当な判断。むしろ止めてもらった事に感謝してほしい」
「ふざけんな! あんなかてー扇子で殴りやがって! アレ絶対ミルキの特注品だろ!」
「まぁまぁ。オレもキルアはギャンブルは向いてないと思うよ。あのままだとそろそろ大凶当たりそうだったし」
「後何回かは大丈夫だったって! 絶対行けたし!」
「それは沼にハマる奴の常套句じゃねーか。ま、大人しく従っとけ。……んな事よりも、もっかい恋愛都市アイアイに行かね?」
「レオリオ……不潔」
「いや! オレはただ純粋にカード探しをだな!」
「ハイハイ、分かった分かった。とりあえずいっぺんマサドラに戻ろーね」
再びゲームを始めて1か月。かなりの速度でカード集めをして、4分の1近くのカードが集まっていた。
これは驚異的な伸び方であると同時に、プレイヤーの減った現在では目立つ存在でもあった。それ故に、【
彼らは最大限に警戒しながらもトレードを進め、更に枚数を増やした。
その数、実に36枚。
かなりのハイペースだと言える。現在の環境下では、割と目立つ存在であった。よって、徐々に周囲からも目を付けられる存在へとなっていった。
◇
「コレが……『死者への往復葉書』か……」
「よかったですわね。カーム。貴方の目的が早くも実現して」
「あぁ……これが有れば死に別れた者とコンタクトが取れる……」
「……まぁ詳しくは聞かないわ。早速使うのかしら?」
「いや、楽しみは最後にとっておこう。万が一持って帰れるならばクラピカにも使わせてあげたいしな」
「なるほど。じゃ、次は私ね! No.65『魔女の若返り薬』! そしてNo.81『ブループラネット』!あと、No.4『美肌温泉』とか、No.6『酒生みの泉』もいいわね〜」
「……結構欲しい物があるなぁ」
「そりゃそうよ! 魅力溢れるアイテムがわんさか眠ってるのよ! ハンター冥利に尽きるわね。ジンもいいゲーム作ったモンだわ。兎に角! 今言ったのは欲しいから協力して!」
「分かった、分かったよ。それじゃあ引き続き攻略といこう。あと、会長がG•Iやってるって言ってたから探してもいい気はするな。なんかレアアイテム集めてそうだし」
「あのジジイ、仕事は大丈夫なのかしらね? まぁいいわ。ひとまず街を巡りながら情報収集といきましょうか」
「じゃあそういう事で」
我々はカード収集しつつ、会長探しを行う。会長も今どこで何をしているだろうか。恐らくきっと、楽しみながらカード収集をしている事だろう。
人が減った今、遭遇率は悪くないかもしれない。我々も折角のジンのゲームを楽しまなければな。
◆
G•Iに来てから2か月が経った。
この間、様々な事があった。まずは会長だ。彼は我々が魔法カードの補給の為にマサドラに寄った時に、普通に遭遇した。
変な被り物を被っている。なんだかロボットの様な意匠だが、変装のつもりだろうか?
あと、彼はシャツの大男と、メガネのスーツの男を連れていた。2人とも最上位近くの実力があった。
「久しぶりですね。会長」
「ん? 会長とは誰の事じゃ? ワシゃアシモフじゃ」
「あぁ…しばらく前に流行ったロボットの名称ですか。で、仕事はいいんですか? 会長」
「だから会長じゃないってゆーとるじゃろうに……。まぁワシほどになると仕事などはとっくに終えておるからの。余裕じゃ」
「またそんな事言って……。下の者に丸投げした案件もかなりあったじゃないですか」
そう苦言を呈したのはメガネスーツだ。若いのによく鍛えているな。と言っても脂の乗った30代とみたが。会長も語るに落ちてる。隠す気ないだろ?
「貴方は……」
「これは失礼。私はノヴと申します。右の彼はモラウと申します。2人してこのジイさんのお目付け役、と言った所です」
あぁ、そういえば、キメラアントで会長に駆り出された人材か。いわゆる会長派でしがらみなく自由に動ける人達だろう。会長派なら守秘義務は守るかな? そういえば後半ノヴさんは悲惨な事になってた様な。主に頭が…。
「コレはご丁寧にありがとう。私はカームといいます。彼女はビスケットです」
「はじめまして」
「何かと話題な貴方に会えて良かったですよ」
「オレも興味が尽きないからなぁ。お会いできて光栄だぜ」
「おや? お2人とも私の事はご存知で?」
「あぁ。会長から聞いたぜ? 超待望のルーキーって聞いたが、会ってみて確かに間違っちゃいないな。手合わせ願いたいぐらいだぜ。何故かお前さんには会長がいない時は接触禁止ってなってるからな。このジイさんの縁者か何かか?」
ヒソヒソ
「会長、結構漏れてます?」
「コイツらにはワシから当たり障りない説明しといた。守秘義務もな。対外的には極秘ミッションじゃ。よって他の奴等は殆どは知らん筈じゃが、知った場合でもワシから厳命しとる。ま、お主には行かせんから安心せぃ。とりあえず、ワシの縁者故そうしたって事にしとく。話合わせい」
「なるほど、了解」
「お2人で悪巧みですか? まぁ、会長から貴方には個人的には接触出来ないと言われてるので安心してください。で、そろそろどこかに入りませんか? 会長」
「だから! 会長じゃないってゆーとるじゃろがい!」
「ジジイ隠す気ないでしょ? もーいいから行きましょ」
そうして、ギャーギャー騒いでいる会長を宥めて近くの店に入る。割とゆったりめのソファーがある喫茶店に入った。
聞く所によると、彼らは月3、4回、3日程ログインしてプレイするスタイルらしい。仕事の調整を頑張ったとのこと。2人のお目付け役は、毎回呼ばれるらしい。可哀想に、と思ったら、会長から正式に依頼したとの事。まぁそれならいいのかな?
ただ、そのスタイルだとカードは集まりづらいだろう、と思っていたら、指定カードを2割は集めていた。しかもA以上が多い。
流石はハンター協会のトップだ。そして、1番驚いたのが、No.65『魔女の若返り薬』をゲットしていた事だ。
そして、実際に飲んでみたらしい。
道理でオーラがまた少し力強くなっていたわけだ。見た目は全然変わらないが。会長何歳なんだ? ビスケが根掘り葉掘り聞きたがっていたが、のらりくらりとかわしていた。今後どうするかを聞いたが、とりあえずはいきなり若返るわけにもいかない為、少しずつ服用しながら他のカード探しを楽しんでいるらしい。あと、気になる事を言っていた。
「そういや、このアイテム取った時にワシんとこに狙って来た奴がおったぞ?」
「へぇー。何処の命知らずかしらね」
「メガネでヒョロ長い奴じゃったが、友好的にトレードするフリしてなんか仕掛けようとしとったからの。ワシにはバレバレじゃったから、諦めたらしい。結構使えそうな奴じゃったからちと惜しい事したのぅ」
「いや、会長他プレイヤー見たら襲い掛かる気満々な気配出してるからだろ? そりゃ諦めるわ」
……それ『
極悪人だからこそ、弟子達の糧になって相応しい末路を辿ってもらう事にしよう。
その後、我々の現状と、弟子達の様子を伝えた。我々も実はこの頃には4割ぐらいはカードが集まっている為、順調といえば順調だ。後2ヶ月もすれば、もっと集まるだろう。今後も我々の、というか、ビスケのお目当てカードを探しつつ、攻略をしていこう。
また、会長はこれからも同じスパンで来るらしい。何かあったら連絡しよう。
他には、他プレイヤーとのトレードや、魔法カードの襲撃などあった。しかし、我々にとっては大した事も無かった為、割愛する。
『
ともかく、弟子達の様子を見つつ、彼らのクリアまでを見届けよう。手紙も、私の事情を話すのも、全てはそこからだな。
あまり進んでいませんが、そろそろ加速していきます。