アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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107、穏やかなG•I生活

 

 

 

 

 

「大分集まってきたな。指定カード85種、独占したカードも幾つかある」

 

「悪くない数字だ。()()()も順調に進んでるしな」

 

「だが、あのジジイは予想外だった。流石に肝が冷えたぞ。ゲン」

 

「あぁ。ホント何しに来やがったんだあのクソジジイ。あのレベルだと【命の音(カウントダウン)】も付けられなかったからな。だが、『魔女の若返り薬』をその後ゲインして独占する気配も無かったから助かった。大方寿命でも伸ばしに来たんだろう」

 

「後は脅威になる奴等はそんなに多くは無いな。ゴンとかいうガキ4人組と、女連れのカーム組が50種以上集めているが、我々には及ばないだろ」

 

「遠目から見たがいい女だったな。ちょっとトウが立ってるけどよ」

 

「奴等もかなりの実力者だ。覗いてる事にも気づいていたからな。あまりクリアにはこだわってなさそうだが、警戒はすべきだろう。後は有象無象だ」

 

「まず、狙うとしたらチビガキ集団の方だな。アイツらやたら警戒してて、これまた【命の音(カウントダウン)】付けられなかったからな。だが、所詮ガキだ。弱っちいからピリピリしてるだけだろ。アイツらがレアカード取ったら狙いに行くぞ」

 

「まぁ、どっちにしろもう少し煮詰まってからだな。確実にクリア出来る状態が整ってから仕掛けよう」

 

「その通り。バトルは最終手段。焦ってもいい事は無い。あわよくば、奴等がNo.1とNo.2をゲット出来たら最高だがな」

 

「ま、気長に待とうぜ。最後に笑うのはオレ達だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから更に1ヶ月は経った。指定カード55種。我々の成果だ。そろそろカードも取得がまるで情報がないものなどになった。また、最近はレアカードゲットしても限度枚数MAXな事が増えた。なので、とりあえず現物のまま使ったり、拠点に置きっぱなしにしたりしてる。

 いよいよ、状況が加速してきたという事だろう。ただ、我々はあまりクリアを目指していない為、のんびりゲームを楽しんでいる。偶に弟子達に連絡をとってみれば、指定カード数が7割を突破したとの事。今はAからSランクのカード集めに四苦八苦しているらしい。ただ、そろそろ彼等も思い出さねばならない。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 それとなく会話の流れで今日の日付を伝えたら、思い出したらしい。今日は12月20日。もうそろそろ帰還して受付をした方がよい。そこでは、キルア以外にもカルトが受験しようという事になった。それは良い事だと私から話したが、キルアは嫌がっていた。兄妹なんだから仲良くやればいいのに。しかし、カルトもハンターになる気になってくれて良かった。暗殺だけじゃない世界を知ってもいいだろう。試験? ハンター試験で彼らに勝てる奴いるの?

 早速彼等は出発したようだ。早ければ1カ月ぐらいで帰ってくるだろう。その間、ゴンは修行して過ごし、レオリオはNo.90『記憶の兜』を被って勉強するらしい。忘れてなかったか。感心、感心。

 

 

 

 さて、我々だが、比較的のんびりと過ごしていた。最近は余りカード集めも積極的には行っていない。どちらかと言うと、ビスケと私の修行に重点を置いている。その為、誰も来ない様な岩石地帯に拠点を作り、そこで物資を運び込み、生活していた。

 拠点とは言え、簡易的なテントではなく、私の存在変質の能力をフル発揮して、快適な一軒家を創造した。豪華三階建ての豪華な西洋風の家だ。当然ながら下水道や上水道も完備した。暗黒大陸では野宿オンリーの気の休まらない生活ばっかりだった為、こちらでは出来るだけ快適に過ごしたいのだ。住む所には妥協したくない。家具もキッチリ創造し、シャワートイレ付きだ。私には必要無いが、ビスケも住むからには必要だろう。水に関してはNo.3『湧き水の壺』を設置し、全体に行き渡るようにした。

 また、No.4『美肌温泉』を屋上に設置して、屋上露天風呂を楽しめるようにし、No.6『酒生みの泉』も庭に設置した。

 

 

 

 やり出したらトコトンやりたくなる。

 

 

 

 庭に当たる場所が岩石ばかりなのが気に食わないため、そこに植物を錬成し、風光明媚な庭園を作成した。

 お陰で、何という事でしょう。何もない岩石地帯は見事な庭園に囲まれた、瀟洒な邸宅へと変身した。ビスケなどは感動して、

 

「ここが私達の愛の巣ね!」

 

 などという発言をして興奮していた。最近は彼女も例の形態でいる事がより長くなった為、逆にどう接していいか分からない。分からないからとりあえずスルーしといた。

 

 

 広い家だと管理が中々面倒だ。だが、この拠点はその問題を解決している。そう、No.99『メイドパンダ』だ。ビスケが「ペットが欲しい」とか言うから動物シリーズを探してゲットしたのだ。これが存外役に立った。

 個体によって得意分野が違うらしいが、今の所はなんでもこなしてくれる。非常に有能なパンダだ。

 他にもNo.98『シルバードッグ』やNo.22『トラエモン』、No.35『カメレオンキャット』など、カード集めのついでにゲットした動物を放し飼いにしている。これらはレア度が高くて、限度枚数MAXなためカード化出来ない面々だったという事情もあるが(トラエモンは大丈夫だったが、ついでにゲインした)、おかげさまでビスケはご満悦だ。庭付きの家でペットに囲まれながらの優雅な生活が気に入っているらしい。最近はペットも良く懐いている。

 

 

 私としては、こんな生活も悪くはないと思うようになってきた。そうなると、後は私の問題だ。私にはまだ躊躇いがある。それを解決しなければ前には進めない。やはり、このゲームのクリアが鍵になるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達の朝は早い。夜が明ける前に私は起き上がり、庭の一角の修練場で型の確認を行う。特に私は寝なくてもいいのだが、睡眠は取る様にしている。だが、長々と横になると時間を持て余す為、こうして夜明け前に活動している。しばらくすると、ビスケも起き出して準備を整えてから鍛錬に参加する。彼女も型の確認だ。流石に寝ている時はゴツい姿になっているらしいが、起きた時には第3形態になっている。

 2人して夜明けまでそうして過ごしていると、そのうちメイドパンダが我々を呼びに来る。そろそろ朝食の時間だ。

 

 

 ビスケは朝の露天風呂を満喫し、私もその後入る。ビスケは「一緒に入ってもいいのに……」と言っていたが、ケジメは大事だ。

 ゆったりと露天風呂を満喫しながら、今日のメニューや食事について思いを馳せる。風呂から上がったら朝食だ。バターたっぷりのパンにカリカリベーコンエッグ、トマトの入ったサラダと日替わりスープ。これがいつものメニューだ。日によって微妙に変わるが大体同じ。ペット達にもドッグフードやキャットフードを与える。シルバードッグには私が錬成した金を少し混ぜている。これで1キロの銀糞を排出するから、汚れなくて済む。おかげさまで、銀はかなりの貯蓄が出来た。延べ棒に変えて空き部屋に突っ込んでいる。部屋が満杯になったら次元収納にでも放り込もう。

 

 朝食後は、本格的な修行だ。ビスケには重力&低酸素を。そろそろ80倍を克服しつつある。……マジで人間やめてきてない? あの暗黒大陸の巨人の攻撃にも若干耐えられるレベルになってきてるぞ? 流石に長時間は耐えられないが、しばらく休憩したらまたかけ直している。根性が違う。

 朝の修行は基礎的なものだ。走ったり、筋トレしたり、だ。そしてビスケは念修行の基礎、私は聖光気で同じような基礎修行だ。午前中は大体コレに費やしている。基礎力が全ての力の土台となるのだ。

 

 

 

 メイドパンダが正午を告げる。昼休憩の時間だ。

 

 

 

 私は軽くシャワーを浴び、ビスケは露天風呂へ。よっぽど気に入っているらしい。最近は一日3回入るのがデフォだ。昼食は日によって変わるが、大体サンドイッチとかの軽いモノだ。あまり食べすぎるとリバースするからな。ビスケが。あと、脂肪がどうのこうの言ってたが、脂肪じゃなくて全部筋肉か骨に変わってると思う。

 

 

 昼休憩の後はペット達と腹ごなしの運動がてら戯れて、再び修行に入る。午後の時間はカード探しか修行かを交互に行う感じだ。今回は修行の方を紹介しよう。

 朝とは一変して、今度は実戦的な訓練だ。流々舞を軽く始めて、徐々にスピードを上げていく。私もビスケも慣れている為、ビスケなどはほぼ全力に近い速さで行っている。当たり前だが、重力などは掛けっぱなしだ。

 大体2時間もすれば、ビスケは息も絶え絶えになり、力尽きる。そしてクッキィちゃんの出番だ。

 

 30分後、復活したビスケとガチ戦闘に近い手合わせをする。重力は抜きで。そろそろ彼女のオーラがヤバい。20万近い潜在オーラがある。これは大体私が見てきた人類最高峰の平均の2倍だ。次いで前闘った会長、ジョンと続く。

 ……もしこれが若返ったらどうなるだろうか? ビスケもそれを感じているらしく、楽しみにしている。現物の『魔女の若返り薬』は持っているが、すぐ飲むかと思っていたら、私と同じく楽しみは最後にとっておくらしい。

 

 念の系統技を応用して襲い掛かったり、様々な能力を繰り出し、対処する訓練をしたりと、さながら実戦的な修行だ。ビスケもやはり実力は高く、非常に対応が早い。いわば戦闘勘というものが研ぎ澄まされている。私にとってもこれは様々な引き出しを増やす事に繋がる為、結構いい訓練になる。

 そうして、夕暮れまで全力でガチバトルに近い事をやっていると、夕食の時間がやってくる。ホントにメイドパンダ様様である。現実にもいてほしいぐらいだ。

 

 

 今日の夕食はハンバーグ。味も良い。ペット含むみんなでワイワイと食べる。ペット連中は喋れないが。穏やかな夕食の後は酒生みの泉から採れた美酒が出てきて2人で乾杯をする。ここでは次の日の予定や今後の事を話し合う。ビスケが「新婚生活みたいだわね」と茶化すが、私だってそんな気がしている。どうしてこうなった。

 だが、ビスケもそれ以上突っ込んでくる事はない。ありがたいが、申し訳ない。本当は白黒付けなくてはいけないだろうが、そのためにも私の中で整理が必要だ。

 まぁ、それはともかく、そんな風な日々を過ごしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も更けて、ビスケは一頻りペットをモフった後、露天風呂に入り、月見酒を楽しんでいる。私はというと、いつもの様に瞑想の時間だ。ここ最近できていなかったから、落ち着いて瞑想できる今がありがたい。だが、イマイチ集中に欠ける。原因は、これからの事。いや、正直に言おう。ビスケの事だ。その気持ちには気づいてはいる。私も最近は……好ましくは想っている。

 それはカルトに対してもそうだが、彼女はまだ子供で、娘とか、妹みたいな感情が近い。

 

 

 

 だが……私は()()()()している。いずれ別れが来る。

 

 

 

 ……正直に言うと、それが怖い。

 

 

 

 私はもう、何一つ失いたく無いのだ。これ以上親密になってしまうと、失った時に自分が耐えられなくなる。

 そして、万が一、自分の妄想でなければの話だが、私と共に歩んでくれるとして。向こうとしてもどうなのだろうか? 自分だけ老いたり、もしくは()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 だからこそ、踏み出せない。踏み出してはいけない、とさえ思ってしまう。

 

 

 

 それもあって、私は迷っている。どうするべきか。本当は、()()()()()のが1番だ。それは分かっている。しかし、心が揺り動かされる。

 

 

 

 私は……一体()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アホか。さっさとくっ付け」

 

「いや、聞いてました? 私の話」

 

「聞いてからの結論なんじゃが?」

 

 

 夜の露天風呂での会話である。何故こうなったかと言うと、会長が我々の所にお忍びで遊びに来たからだ。ノヴさんとモラウさんには別の街で待機してもらっているらしい。

 

 

「だから! 普通の人と私とは何もかも違うんですよ?」

 

「お主も分からんやっちゃの〜。前も言ったが、()()()()()()()? 欲しくなったんじゃろ? したら素直に貰わんかい。先の事はその後考えい。ついでにあのゾルディックも貰ってやったらどうじゃ?」

 

 

 そう言って、徳利の酒をグイッと呷る。

 

 

「いや、そんな極端な」

 

「欲しい物は貰う。人間として普通の事じゃ。ましてやワシら、ハンターじゃぞ?」

 

「…………」

 

「怖がっとるんじゃよ。お主がな。誰しも前に進む事は大小あれど怖いものじゃ。だが、前に進む事こそが、人間として生きる事ではないか?」

 

「……前に、進む、か。私の師匠にも言われましたよ」

 

「偉大な方と考えが同じならそりゃ光栄じゃわい。しかし、時代や場所が変われど、普遍的な事だとも言えるじゃろ」

 

「…………」

 

 

「まぁ、人間か怪物かで迷っていた時よりかは遥かにマシな悩みじゃな。むしろ誰でも悩みそうな事になってきとる。喜べ。お主、人間じゃぞ」

 

「茶化さないでくださいよ……。でもまぁ確かにそう言われるとそうかもしれませんね。しかし、やっぱり私は臆病なんですよ。会長。私は前に進むためにも()()()()()()がどうしても必要だ」

 

「……それがお主が持ってるアイテム、と言うわけか」

 

「そうですね。そこでようやく私の時が動き出せそうな気がするんです。どういう選択をするにせよ」

 

「お主も大概めんどくさいの。んなもんフィーリングで充分だと思うんじゃがな〜。しかし、そんなお主が心動かされるとはな、まぁ()()ビスケなら分からんでもないがの。チチでけーしな」

 

「いや、そこ!?」

 

「大事じゃろ! いかんせんあのゾルディックじゃ太刀打ち出来ん所じゃ。それが勝敗を分けたか? じゃが、アヤツも後10年もすれば立派なモノになるかもしれんからな。最近は重婚も珍しくないぞ?」

 

「聞かれたらぶん殴られますね」

 

「野郎の話なんざこんなもんじゃろ。女には聞かせられんよ」

 

「確かに。ありがとうございます。聞いていただいて。もう少しシンプルに考えられそうです」

 

「ま、ワシとしてもおもしれー話が聞けたからよかったわい。あのビスケがの〜。感慨深いもんじゃ」

 

「弟子……なんでしたっけ? どんな感じでしたか?」

 

「そーじゃな……ありゃ50年近く前の話じゃが──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分長かったわね。ゆっくりできた?」

 

「おう。野郎同士で積もる話ができたわい。ま、偶にはいいもんじゃな」

 

「ふ〜ん。良かったわね。で? どうだったの?」

 

「そりゃ秘密じゃ。野郎の話なんざ女には聞かせられんからの。ただ、ワシから言えるのはアイツ、揺れ始めとるぞ。もう一押しじゃな」

 

「……ふふ。それはよかった。頑張った甲斐があったわね」

 

「お主も相当変わったのぅ。見た目からして」

 

「あたしは変わらないわよ。欲しい物には全力で。それがハンターってモンでしょ?」

 

「違いない。あの薬はまだ飲まんのか?」

 

「アレは最後の一押し用ね。最適なタイミングで飲む事にしたの」

 

「そうか。ま、ワシからも応援しとるぞ。ゾルディックも狙っとるようじゃがな」

 

「あの小娘も油断できないからね。でもガキンチョで助かったわ。今んとこあたしがリードしてるからね」

 

「ワシとしては()()でも面白いんじゃがな〜」

 

「……ま、どうなろうと最終的にはカームはあたしの物よ。ジジイ、ナイスフォローだわ。ありがとね」

 

「可愛い弟子の為じゃ。それに、アヤツもようやく吹っ切れそうでよかったわい」

 

「そうね。彼の為にも、ジジイがいて良かったわ」

 

「アヤツの為だけじゃないんだがの。まぁええわい。明日も午前中よろしく頼むぞ。お主には負けられんからな」

 

「ふふ、そろそろ師匠超えを成し遂げてみせるわさ。楽しみにしときなさいよ」

 

「ようやく産毛が抜けた程度の奴が吠えよるな。ワシも楽しみじゃ」

 

「じゃ、また明日ね。おやすみ」

 

「おう。また明日」

 

 

 

 

 そうして、穏やかな夜はふけてゆく──




いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
作者も迷う部分ではありますが、思い付いた事をドンドン書いていって前に進めていこうと思います。

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