アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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110、スプリガン

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、キルアも()()持ってよ」

 

「ぜってーヤだ! それ、どう見ても形はウンコじゃんか!!」

 

「じゃあカルト、頼むよ」

 

「僕も遠慮しとこうかな。紙吹雪でとりあえず何とかなってるし」

 

「……レオリオ!」

 

「いや、オレはアレだ。動物どもの世話とか、治療とかあるからな!」

 

「……もうっ! みんなクリアする気無いの!? 流石に怒るよ!?」

 

 

 

 ゴンはプンプンしている。しかし、確かに見た形は完全にウンコだからなぁ……。気持ちは分からなくもない。私なら使うが、現代社会の生活が長い彼らは抵抗が強いだろう。ジンも、このシナリオウキウキで書いたんだろうなぁ。彼の笑い声が聞こえてくる気がするし。

 それはそれでシャクだな。ちょっと手助けしてやるか。

 

 

「ゴン、ちょっとソレを貸してくれないか?」

 

「あ、うん……」

 

 

 そうして借り受けた銀のウンコの形を()()()()()()()変える。すると、あっという間に、1キロの銀のウンコは銀のガントレットへと早変わりした。

 

 

「! ありがとう!! カーム!」

 

「いいよ。ただ見た目を変えただけだしな。何よりビジュアルがちょっとアレだったから私も変えたかったし」

 

「よーし、これでバシバシ助けて行くよ!」

 

 

 ゴンが気合を入れている。さっきとほぼ状況は変わっていないが、本人はウキウキでやる気が出てるからいいだろう。他のメンバーはこれ幸いとふいっと目を逸らし、離れていった。……そんなに嫌かなぁ。普通に銀なんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、一行はガンガン進み、闇の獣を蹴散らしていった。蹴散らすというか元に戻す、だが。その分数も増え、今や50匹以上の大群となってしまった。ある程度はカード化するが、入り切らずに仕方なくゲインし、この数になってしまっている。

 ここに来て流石にゴン1人では回らず、動物達を奪還されるような事態が多々あるようになったため、他のメンバーも嫌々ながらシルが新たに出したウンコを持つ様になった。彼らもすぐさま私に形を変えてもらう様にお願いしてきたため、仕方なく変えてあげたが。

 その努力の結果、とりあえずは、何とかなっている。ただ、心なしか、襲撃が強まってきているし、周囲もただの闇ではなく、グジュグジュに腐った様なビジュアルになりつつある。ホラーの世界だ。しかし、逆に考えれば、中心地に近づいている証でもある。

 

 

 

 

 あと少しだ。

 

 

 

 

 だが、普通に考えればこのまま終わる筈がない。闇の精霊をぶっ飛ばさなきゃならないし。メタ的に言えば、多分強烈なボスとか用意してるんだろうなぁ。こっちもある意味ゲームプレイを見ている様なものだから、観客の立場で楽しめる。現在、全てのリソースの4割は消費したってトコか。ボス戦までは多少は残しておきなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハアッ……。結構しんどいね……」

 

「ふうっ……確かにな……」

 

「……早く見つけねーとやべーぞ?」

 

「ハァ……ハァ…そろそろな筈。動物達も指す方向がバラバラになってきた…。つまりはこの辺が中心部だと思う」

 

「ん〜…それじゃ、どこがゴールなんだろ。見れば分かるのかなぁ?」

 

 

 回復力の高いゴンがもう息を整えている。アレだけ動き回っているのに元気だな。しばらく息継ぎなしの奮闘だったからな。おかげで今は動物園の様なバリエーションの豊富さで、100匹以上の動物達がいる。だからこそ早めに見つけなければならない。ボス戦のステージを。そして、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「シッ……何が聞こえない?」

 

「は? 何が? 動物達の鳴き声しか聞こえねーぞ?」

 

「それもそうだけど……それに混じって、()()()()()()()()が聞こえる…」

 

「うわっ。マジかよ。全然聞こえないんだが……」

 

「それがマジなら超ホラーだな。だけどゴンの耳はいいからな。具体的にはどっから聞こえるんだ?」

 

「ちょっと待って……こっち」

 

 

 

 そうして、ゴンは我々を導く。気づいたか。何となく見えて来たな。このクエストの概要が。

 

 

 

「ん? 確かに聞こえてきた! すげーぞ! これがゴールか!?」

 

「こんな場所じゃ確かにホラーだな。で、声の発生源は何処だ?」

 

「いや、おかしいな。確かにこの辺なんだけど、全然見つからないんだよね。1番聞こえるのは()()なんだけど……」

 

「またギミックか? いい加減にして欲しいんだけどな……」

 

「カードリストを見て、それっぽいのを試してみるしかない。でも、余り猶予は無い……また来た」

 

「やべっ! 急がないとマズいぜ! とりあえずカルト、レオリオ頼む!」

 

「しゃーねーな、早くしろよ!」

 

「任された。急いで」

 

 

 

 そうして、ゴンとキルアはカードを調べ始める。ゲーム的には幻といった表現か。だとしたら……。

 

 

「まだか!? 早くしてくれ!」

 

「後1分以内に何とかして欲しい!」

 

 

 レオリオとカルトが奮闘している。もう既に2、3匹は取り込まれた。そうなると雪崩れ式に崩れ始める。崩れるのも時間の問題だ。

 

 

「あっ! そうだ!! コレ試してみようよ!」

 

「うん。そうだな。コレが1番怪しい! さぁ早く試すぞ!」

 

 

 

 ゴンは()()()()()()を取り出し、ゲインする。そして……

 

 

 

 

 バリィン!!!

 

 

 

 何かが割れた音がした。そう。使ったのはNo.83『真実の剣』! 剣が砕け散らない。即ちそれは偽りを斬ったという証! 

 

 

 

 闇が、溢れ出す──

 

 

 

 

 凄まじい闇の奔流が辺りを襲う! 動物達は苦しみだし、次第に少しずつ闇に染まってゆく。それは襲撃してきた闇の獣達もだ。手当たり次第に攻撃を始めている。だが…()()()()()

 

 

 

「レオリオ! カルト! そのまま動物達を頼むよ! キルア! カードの子達を連れて中心まで行くよ!!」

 

「任された!」

 

「行けっ! オレ達も後から追いつくからよ!」

 

「よし! 頼んだぜ! 遅れんなよ!!」

 

「カーム! アタシは残って彼らを見とくわ! 先にその子達と一緒に行って!!」

 

「分かった! 最後まで見届けるよ」

 

 

 

 ビスケが残ってくれるなら、万が一でも安心だ。私は彼らに付いて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、闇のジャングル()()()場所。今は正に闇の世界と化している。植物らしき物から顔や手足のパーツが複数生え、叫びを上げた様な表情をしながら蠢いている。また、地面は土ではなく、蠢く蟲の群れだ。また、中心から溢れる闇によってより捻れ曲がり、様相をより凶々しい物に変えていく。これはビジュアルとしては中々の物だ。

 そして、その溢れる闇の中心には、不自然に空いたスペースがある。そこに()()はいた。

 

 

 

 

 

 

 闇の精霊だ。

 

 

 

 

 

 赤子の姿で宙に浮かび、泣いている。彼(?)が泣くたびに闇の波動が溢れ、周囲が汚染されて行く様に見受けられる。

 

 

「アレだ! ゴン!!」

 

「うん! 行くよ!!」

 

 

 彼らが動物達を担いで近くに寄ろうとした、その時──

 

 

 

「「!!!」」

 

 

ドガアッ!!!

 

 

 

 黒い巨大な手が2人の進路をパンチで塞ぐ。()()は徐々に形を成して行き、最終的には黒い巨大な鬼が姿を現した。

 

 

「コイツがラスボスか…2人で相手してもラチあかねーな。ゴン、コイツはオレが相手するから、お前は動物達と隙を見てあっちに向かえ」

 

「……いいの?」

 

「オレはスピードで時間を稼ぎやすいからな。役割分担だ。その代わり、早くやれよ?」

 

「分かった。まずはコイツを突破しないとね」

 

 

 

 そうして、キルアはゴンに動物を渡して2人とも散開する。仮に黒鬼と呼ぶが、ソイツはゴンの方に向き直り、凄まじいスピードで迫る。流石のゴンもその速さは予想外だったようで、一瞬固まるが、迎撃態勢をとった。だが──

 

 

ドガッ!!

 

 

 

「お前の相手はオレだ! ゴン、何してる! 早く行け!!」

 

 

 キルアが乱入する。だが、黒鬼は、ペットを担いだゴンにヘイトを向けようとする。きっとそうプログラムされているのだろう。ゴンは「サンキュー、キルア!」と言うと同時に走り出す。追いかけようとする黒鬼だが、キルアが妨害する。

 

 

 しかし、この黒鬼、本当に強い。

 

 

 

 キルアのスピードにもついていく速さと、その見た目から繰り出される強烈無比なパワー! 流石にスピードはキルアが上回っているが、それでもかなりの速さだ。キルアも所々【電光石火】を使って対処するが、流石に長時間使える技ではない。そして……

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

 鬼のパンチがキルアを捉える。キルアはガードするが、腕にミシミシと響く音が鳴る。コイツ……()()。スピードとパワーだけじゃない。動きを読んで打撃を当ててくる。流石SSランクのラスボス。多分コイツは()()()()()だ。本来ならば複数人で当たらなければならない程だろうレベル設定! それに対してこちらは今回ソロで当たらなければならない。その為キルアは苦戦を強いられている。何より、コイツには()()()()()()()()()()()。いや、正確には通るは通るが、すぐに復元してしまう。つまり耐久戦だ。どこまで耐久しなければならないか。それはゴン次第と言える。

 

 

「ゴン! まだか!?」

 

 

 キルアが攻撃を躱しながら叫ぶ。一方のゴンは、闇化するペット達をガントレットで戻しながら、闇の赤子まで到達していた。

 そして、すぐそばまで来て、いざぶっ飛ばそうとした時、メイドパンダのメイがそれを制する。なるほど…そういう事か。メイドパンダの説明にもあった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。それがここで生きるか。ゴンもそれに気付いたようだ。メイは闇化で苦しみながらも、赤子に近づき抱き抱える。そして、宥め始めた。

 これが耐久のゴールだ! つまり、闇の精霊が泣き止めばこちらの勝利! だが、こちらも一筋縄ではいかない。闇化がドンドン進むからだ。他のペット達が闇の獣と化すのを治しながら、メイの子守りを中断しない様にしなければならない。今、彼らは1分1秒が何倍にも引き伸ばされている様に感じているだろう。キルアも消耗があり、次第に攻撃を受ける回数が増えてきている。

 このままでは保たない。そう感じていた時、黒鬼が動きを止めた。何故今止まる? まさか…。

 そう思っていたら、奴はブルブル震えだし、()()()()()()()

 

 

 

「マジかよ…」

 

 

 

 キルアも流石に呆然としている。一体でも厄介だったのだ。それが二体になった。どう考えても絶望的だ。流石に危険か。

 

 

「キルア! これ以上は危険だ! 手を貸すか!?」

 

 

 すると、こんな状況にも関わらず、キルアは宣言する。

 

 

「いい! 手を出すな!! ゴンは必ずやってくれる! それに、アイツらも必ず来る!!」

 

 ……仲間を信じる、か。それもいいだろう。

 

「……分かった。だが私が危険だと判断したら介入する! いいな!」

 

 

 それを聞いて、キルアは微かに笑う。そして、黒鬼達は動き出す。そこから一方的な蹂躙が始まった。奴らはコンビネーションを駆使しながらキルアを追い詰める。キルアはボコボコになりながらも、ゴンにヘイトが行かない様に立ち回る。なんとか致命傷は避けてもいるようだ。だが──

 

 

「チッ……!」

 

 

ドガッ!!

 

 

「ガッ……!」

 

 

 キルアも疲労により、些細なミスをする。そこを逃す敵ではない。即座に反応した黒鬼の1体が、キルアの足を捕まえて地面に叩きつける。

 更にそこからもう1体が追撃の構えをとる。……限界か。行こう……いや、間に合ったか!

 

 

 遠方から()()()()()()()()()が飛んできた。

 

 

 黒鬼達は一旦回避して離れる。

 

 

「ゴホッ! おせーぞ!!」

 

「ごめん、兄さん! 少し手間取った」

 

「ヤバそうな奴らだな! 今から行くぜ」

 

 

 後方からカルトとレオリオがやってきた。ギリギリだったが何とか間に合ったか! そして、動物達も引き連れている。

 その殆どが無事だ。何とか乗り越えたか。だが、闇の侵食が激しい。レオリオとカルトで元に戻しながらカルトが紙吹雪でキルアをサポートする。レオリオも要所要所でメスを飛ばしてサポートしている。

 しばらく戦況が一進一退となる。カルトやレオリオの支援も中々的確だ。キルアと敵の動きを読んで、敵の動きのみを妨害している。

 しかし、敵は再びその動きを停止する。おいおい、まさか……

 

 

 

「ちょっと待てよ! まだ増えるのか!?」

 

「ゲッ、分裂した!?」

 

 

 そう。黒鬼達は()()()()()()()()()。そしてキルアに襲いかかる! これはもう無理か……! と思い、飛び出す準備をしていた。しかし

 

 

 

 そこで闇の波動が止まった。

 

 

 赤子の泣き声も。

 

 

 

 黒鬼達は、影のままその形を崩してカードに変化した。

 

 

 

「遅くなってごめん! やったよ!!」

 

「やったな! 完全勝利だ!」

 

「おい、無理すんな。ボロボロだぞ! 治療するから大人しくしてろ!」

 

 

 

 そうして、全ての状況が終わりを告げる。メイは、闇の精霊を優しく抱き、闇の精霊は安らかに眠っている。レオリオはキルアの治療に入り、カルトとゴンは闇に侵食された動物を元に戻している。

 しばらくすると、闇から元に戻った様々な動物達が集まってきて、一斉に声をあげ始めた。

 それは、種類が違えど、息の揃った大合唱となり、周囲に響きわたる。まるで、我々を祝福しているかのようだ。

 

 

 

 そして──

 

 

 

 ()()()()()




闇の精霊イベント

推奨クリア人数:10〜15名
・基本的に、護衛ミッションとなる。キーとなる動物を闇の獣からの侵食を躱しながら進まねばならない。方向については『カメレオンキャット』が助けた動物達に聞いて教えてくれる為、何匹かは連れて歩く必要がある。
 「山神の庭」だが、普段から秘匿されており、侵入できない。しかし、イベント中は闇の精霊の泣き声が大きく響いている場所が入り口となる。そこで『真実の剣』を使用すれば道が開ける(予めゲインしておけば、『トラエモン』がオートで使ってくれる)。
 そうして、汚染された「山神の庭」に侵入すると、侵食は第二フェーズへと移行する。攻撃を受けなくても動物達は侵食され始めるし、闇の獣の攻撃は手当たり次第となる。
 また、泣いている闇の精霊に近づけば、オートで闇の精霊の眷属『スプリガン』が、迎撃を開始する。これを掻い潜り、闇の精霊を『メイドパンダ』であやさなければならない。
 しかし、『スプリガン』は非常に強く、しかも耐久レースであり、時間がかかればかかるほどに数を倍々に増やしていく為、4〜5人での対処が望ましい。
 それらに対処して、闇の精霊が眠りにつけば、プレイヤー側の勝利となる。また、動物達を100匹以上助けていた場合(カード化でも可)、その場にゲインしている事で、神を召喚し、イベントクリアとなる。逆に、揃っていなければ再び入口まで飛ばされて、最初からやり直しとなる。


 ……難易度がどうなんだろうとか、深く考えてはいけない(戒め)

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