シュオオオオオ…
あまりにも莫大なオーラが収束し、レイザーに集まってゆく。これは……!
「レイザー!
「いいさ。オレはこの為に生きてきた。
「それでいいのか!?」
レイザーの表情には一点の曇りもない。彼はニヤリと笑う。
「そうか……ゴン、キルア、クラピカ! これがレイザーの『覚悟』!! 心して対処するんだ!!」
ゴン達は驚きながらもその脅威的なオーラに対して立ち向かおうとしていた。レイザーがボールを上空に投げる。これが100%中の100%! いや、恐らく何らかの制約、下手すれば誓約を付けた事により、150から200%以上になっている!! 凄まじい力の奔流を感じる。仮に地面に当たれば大規模なクレーターが出来る程に。
そして、彼らを見れば──
ゴンが構え、キルアが後ろ向きになり、クラピカがその後ろに立っている。
あれはまさしく、合体!!
だが、出来るか? いや、やるしかない。私が言った事だ。彼らもそれを誓っている。「逃げ」はしない。だから彼らを信じるしかない。
見せて貰おう。君達の「覚悟」を。
バゴォン!!!
この日1番の射出音! 大砲以上だ!!
ギュオッ ドンッ!!
インパクト!! だが、その瞬間にゴンが受け止め、そのボールをクラピカが鎖で覆う! そしてキルアがそれを間に入って踏ん張る!!!
ギャギャギャギャギャギャ!!!
スポーツカーがドリフトした時のタイヤのような音が響き渡る。ゴンが受け、その後ろでキルアが支え、クラピカの鎖が手とボール諸共覆う! 後はやるだけだ。さぁ、見せてみろ! 君達の「覚悟」を!!
鎖の中で手の骨が折れる音も混じりだす。鎖にヒビが入り出す。
だが──このままでは保たない! 後少ししたら完全に崩壊するだろう。
「ぐぎぎぎぎ………!!」
ゴンが耐えている。間違いなく折れている。鎖の間から血が噴き出す。ゴンだけではない。クラピカもキルアも必死に耐えている。
「頑張れッ!! 耐えるんだーーッ!!!」
ツェズゲラ組から声援を受ける。彼らも奮闘するゴン達に思う所があったのだろう。
しかし、それでも、レイザーの球の威力が上回る! 全員が死力を振り絞っているが、それも後僅かで無慈悲に崩壊する……!!
その時
ズァッ!
「つれねーなァ、仲間だろ! オレも混ぜろよ!!!」
これは……レオリオの
そして、それを受けて全員の顔色が若干良くなった。特にゴンの負担が格段に減った。レオリオは幾度も幾度も回復を飛ばし続ける。しかし、それでも依然押されている。後僅かでラインを割ってしまう。そうなると耐えても負けだ。
すると今度は
ザアアアッ
「ここまでやって負けなんて認めない。だから僕もやる!」
紙吹雪が大量にゴンの手の周りの鎖を覆う! これは……全員の力でレイザーの球を受け止めている!!! この勝負、果たしてどうなるか──!
◇
ギャギャギャギャギャギャ……
徐々にボールの音が弱まる。やがて
シュウウゥゥ……
完全に停止したボールを持ったゴンと、残りのメンバーがそこにいた。
「ウオォォォ!! 止めたァーーーーー!!!」
「やったッ!! スゲーぜお前ら!!」
髭面の男の仲間やサッカーが得意な男が歓喜の声をあげる。だが、それも当然だろう。彼らは成し遂げた。オレの全力を更に超えた攻撃を見事に、完璧に受け止めたのだ。まさかアレを止められるとは思わなかった。
まず、最初から最後までオレのボールを捕まえ続けたゴン。その精神力、集中力に加えて、最後まで諦めない、たとえ手が破壊されても止まらない執念! その「覚悟」、見事だ。
また、それを鎖で覆っていたクラピカ。強力な拘束力と正確な操作は感服する。囲いに少しでも綻びが有れば、そこからボールは抜けていっただろう。ヒビが入ろうとも壊れずに耐え抜く強度は流石の一言。
また、外野からの回復。まさか飛ばせるとは思わなかった。アレがギリギリ負けに至る戦況を覆したと言っていい。鎖の補助の紙吹雪も、かなりの強度だった。一つ一つを強化しながら操作する能力の精度は如何なる場面でも通用するだろう。
そして、その中核を為したのがあの少年、キルアだ。クッションと踏ん張りの役目を果たす為にオーラの振り分けを背中と足に集中させていたが、足が弱ければ吹っ飛ぶ事になり、背中が弱ければクッションの役目を果たせずダメージを受ける。恐らく誤差1%以下の精度を要求された筈だ。その高い壁をキルアはクリアした。経験不足を補って余りある、天才的なセンスによって!
……脱帽だな。彼らにすら防がれるか。自信なくすぜ。だが、これは勝負だ。
◇
「すまねェ。今のオレだとコレが精一杯だ。
「いや、ありがとう。レオリオ。拳は動く。それに自力でも後はいける!」
「オレは持つだけだからな。問題ないぜ」
「バカ言え! あんな馬鹿オーラを素手に近い状態で受けやがって! 本来ならドクターストップだ!! 後一回だ。後一回なら何とか出来る。ゴン、それで決めるんだ」
「うん。分かってる。必ず、次で決めるよ」
「……ならばオレから言う事はねー。気張っていけよ!」
クラピカとカルトがパスを受け渡しする間、キルアとゴンがレオリオに治療を受けている。2人とも手が酷い状態だ。ゴンはまだ自力で回復も出来る為まだマシだが、キルアは深刻だ。レオリオの言う通り、次で限界だろう。
問題は、次で決められるかどうか、だ。
「あぁ、ゴン。最後に」
「ん? 何?」
「オレからの
「これは……ありがとう! レオリオ! 必ず勝つよ!!」
「その意気だ。頑張れよ」
◇
彼らが準備を終えて、こちらに向き直る。なるほど、いい気迫だ。だが、その壁はカンタンには越えさせんぞ。
「待たせたね」
「待つさ。いくらでもな。見せてみろ、お前の力を」
「うん。じゃあ、行くよ」
《練》
ゴゴゴゴゴ……
!!!
なん…という…。まだこれほど残っていたか! いや、寧ろさっきより大幅に増えている!!
この力は
その分も含めて、敵側ではこの日1番の顕在オーラを感じる。そして、この威力ならば捕れるが、捕っても押されてアウトになってしまう。かといって、レシーブしたら鎖が待ちまえているだろう。では、どうするか。
そう。一つだけある。奴らのハナを明かす方法が。今からそれを実践する。
キイィィィン…!
凄まじいポテンシャル!! これは、今まで受けた中で最上級の顕在オーラ!!!
さぁ、来い!!!
「最初は…」
「グー!!!」
ビリビリビリ
大気の振動を感じる程のエネルギーの集中!! やはり捕る事はできん。
グッ
レシーブの構えを取る。
「バカめ! 鎖の餌食だぜ!!」
野次が飛ぶ。
「そうかな?」
それは、レシーブの
「ジャン、ケン」
「グー!!!」
ドゴォン!!!
よし! ここだ!!!
ガッ!
な!? 動かん!!! まさか!!
ジャラッ
「私の鎖は具現化したもの。つまり、《隠》が使える」
【
「一瞬でいい。その一瞬が全てを決める」
◇
ドガァン!!!
大砲の着弾音の様な音がして、レイザーが弾き飛ばされる!!
ドゴッ!!!
体育館の壁に衝突し、めり込むレイザー。ボールは体育館の天井に弾け飛び、深い穴を開けて空の彼方へ消えていった。
クラピカが鎖で縛ったのは一瞬。正にインパクトの直前! その一瞬が勝負を分けた。レイザーがボールに集中し、オーラが手と足に集まっている、いわば意識の間隙。そこの隙を突いて《隠》で鎖を向かわせ、瞬間的に縛ったのだ。
見事! 天晴れだ。
さて、レイザーは──
ガラッ
壁のガレキをどかしながら、彼が出てきた。全身キズだらけのボロボロだ。だが、どれも軽症だ。流石は最上級能力者。やはり無事だったか。
ここで審判がコールする。
「ピピーッ! レイザー選手、アウトです! よってこの試合、ゴンチームの勝利です!!!」
「ウオオオォ!! 勝ったァ!! アイツらだけで勝ったぞ!!!」
「やってくれたな!!! 流石だぜ!! お前ら!!!」
ツェズゲラ組とリベロが喜びを爆発させる。気持ちは分かる。本当に良くやった。
「……完敗、だな」
レイザーが呟く。そのオーラも最初と同じぐらいに戻っている。ゴンは、全てを搾り尽くして、その場に倒れ、レオリオから気付けをされていた。
勝利に湧くなか、レイザーが我々に語りかける。
「負けたよ。約束通り、オレ達は街を出ていく。その前に、ジンについて質問に答えよう」
「!!」
「ジンについて…!?」
応急処置を受け、目覚めたゴンがハッとする。レイザーはゴンを離れた場所に招き、ジンについて話し出す。
「結論から言うと、ジンはここにはいない。どこにいるかも分からない」
「そっか……ディアナさんにも言われた」
「アレもそう言ったか。ただ…昔話で良ければ少し話そうか?」
「! うん、ぜひ!!」
そうして彼は、自らの由来を語り出す。なるほど。彼はジンに救われたか。だからこそ、彼は腐らずにその強さまで練り上げた、と。
「ジンはお前の力を信じ、オレにお前を任せてくれたように、オレもお前の力を信じた。だからさっきはこれ以上ないぐらい全力で撃ったぜ?」
「うん。みんながいなかったら全然かなわなかったもん」
「ああ。いいチームワークだったな」
彼は背を向け、離れながら最後に告げる。
「ゴン、ジンに会えよ!」
「うん!!」
◆
「レイザー。
「……あぁ、心配いらない。ただの制約だ。
「そう、か……」
「気にするな。何とでもなる。次やるならバレーにでもするさ。オレは満足だ」
「ありがとう、レイザー。君は強かった」
「よせ。だが、お前はともかく、お前の弟子も強かった。これでジンも満足だろう」
「そうだな。私からも伝えておくよ」
「フッ。そうだな……じゃあ頼んだぜ」
彼は最後にそう言って手下達と去っていった。最後まで彼は強者だった。
◆
「灯台もと暗し。入り口はあいつらのすぐ近く……この灯台にあったってわけ」
情報をくれた女性NPCに案内され、我々は灯台に登る。
「ここがそうよ」
案内された場所は、海岸線が見える大きな窓だった。
「確かに海岸線は見えるけど……ここからどうやって『海神の棲み家』に?」
彼女は窓から身を乗り出し、隠されたスイッチを押す。すると、灯台から光の線が射出され、ある場所を指し示す。
「この光が示す海面の真下…そこに海底洞窟はあるわ。でも、本当は財宝なんてないのよ。ダマすようなマネしてごめんなさい」
「そうなのか?」
「神聖な洞窟だから、ごく少数の漁師しか場所を教えてもらえない。そこから1人歩きした勝手な噂だもの。財宝伝説なんて。もちろんそう言ってもレイザー達は信じなかった。場所を教えてたら……そうは思うけど、それでもあいつらは別の場所を教えたと考えるかもしれないわね」
「ってことは誰も言わなかったの? レイザー達に『海神の棲み家』の場所」
「もちろんよ。神聖な場所だもの。海に生かされている者が、海を汚すような真似はできない。みんなそう言って殺されていったわ」
「…………」
ゴンなどは彼女に感情移入しているようだが、これはゲームのシナリオだからな。ただ、非常に良く出来ているから気持ちは分かる。これ程のゲームは前世には無かったからな。当たり前だが、当時流行っていたVRなどよりも高度だ。なんせ現実を舞台にしている。ジンもいいモノを作ったものだ。
「ようやく又ここから海を見ることができるのね。昇る朝日…漁から戻ってくる舟…七色に変わる水面…私にとってはこの景色が何よりの宝…」
ボンッ!
窓辺に手をかけ、語っていた彼女がカードに変化する。
「おぉ!」
「一坪の海岸線、ゲットーー!!!」
……遂にここまで来たか。次が最後の試練だ。いよいよ大詰めだな。
クリアまで、後少しだ。