すみません! ちょっと仕事上の試験とかあって遅くなりました…。
◇
「「「…………」」」
「さて、あなた達。見たわね? この子は1段階上に至った。念とは想いの力! その想いこそが、人を一段階上の領域へと導くのよ!!」
興奮してまくし立てるディアナの腕の中には、力尽きてぐったりしているカルトがいる。どこから取り出したか分からない布をかぶせられてまるで寝ているかのようだ。
「もうこの子はあなた達とは別次元の領域に至ったかもしれない。この年齢でそれは驚異的な事よ。さて、あなた達はどうする?」
ディアナがゴン達に曖昧な質問を投げる。しかし、それは無茶な注文だ。カルトは自分の可能性を探り、試行錯誤をしながら伸び悩んでいた。つまり土台はあったのだ。その土台は一朝一夕で出来るものではない。ひたすら地道な積み重ねの上に存在するのだ。その上での激しい想いが彼女を高めさせるに至った。
で、あるからして、彼らに答える術は
「まぁ、今すぐには答えが出なくてもいいわ。今起きた出来事をしっかりと覚えておいてね」
そうディアナが締めくくる。しかし、レオリオがそれを遮る。
「…話を終える前に、カルトの容態は大丈夫か?」
「あっ…そうね……。う~ん…。やっべ、ちょっとまずいかも」
レオリオが声を掛けたのは、カルトの顔色がどんどん悪くなっていったからだ。医者としては見過ごせない。やけどなどは身代わりで移せたかもしれないが、最後の攻撃で内臓系がやられていたかもしれない。
「おいっ!! マジかよ!! 早く渡してくれ! すぐ治療するからよ!!」
「あ~大丈夫。今回は頑張ったこのコへのご褒美に、特別に私が治してあげるわ。ちょっと待っててね」
そう告げたディアナは、オーラを練り上げ、カルトにその練り上げたオーラを吹きかける。すると、みるみるうちにカルトの顔色が元の状態に戻っていった。
「「!!?」」
「おいおいおい! んなことまでできんのかよ! つーかそれって…」
「ご明察。【大天使の息吹】よ。ま、カードよりは効果は落ちるけど、アレのオリジナルは私。ちなみに、カードの方はシステムが補助してるからもっとすっごいわ」
「…どんだけやればそれだけの能力になるんだよ……」
「あぁ、貴方はヒーラーだからね。気になるのは分かるわ。でもね、貴方のも人間基準だと相当なモノになってきてるんだけどね」
「それはありがとよ。だがよ…オメーとかカーム見てると自信なくすぜ……」
「比べる基準がおかしいからね? ま、高みを目指すのは悪いことじゃないわ。そうね…これから貴方にはより地獄のような回復の経験を課しましょうか。回復に関しては熟練あるのみ! そうすることで、貴方もより高みに至れるかもね。後は貴方の想い次第」
「オレの…想いか……」
「ヒーラーになるからには、それ相応の想いがあるんでしょ? ならば、それを高めなさい。この子ほどとは言わないけど、初心忘るるべからずよ。想いを高める方法は任せるわ。それが出来れば貴方も合格ね」
「……いいだろ。オレはやってみせる。もう誰も死なせねェ」
「その意気よ」
「なぁ…『地獄のような回復の経験』って、まさか……」
「あっ、それ聞いちゃう? 聞いちゃう~?」
「ウゼぇ……でもなるほど、レオリオ含む『オレ達』か」
「正解~! とりあえず明日から瀕死一歩手前まで追い詰めるからよろしく! 大丈夫! 彼が覚醒したら後遺症も残んないから! いざというときは私もやるから心配しないでね」
「何が心配しないで、だよ! 不安しかねーだろ!! …でも、まぁカルトがあそこまでやれたんだ。オレ達も負けてらんねーな。なぁ、ゴン」
「……うん。オレは…強くなるよ」
「…オメーも思うところがあったんだな。ま、頑張ろうぜ!」
「…最後にディアナ、聞いていい?」
「何かしら?」
「前に教えてくれた、オレの母親と古い馴染みだっていってたよね?」
「えぇ、そうね」
「さっきの自己紹介? で、魔の従者、とか王の守人、とかいってたね。アレって…どういう意味?」
「あぁ、アレね。私の故郷では真剣な決闘するときは二つ名を並べるのが暗黙の習わしなのよ。その二つは私の古い二つ名ね」
「もしかして…だけど…イヤなら答えなくていいけど。もしかして、オレの母親って…魔、とか王とかつく人?」
「……それには
「なるほど。わかった。じゃあこれからオレが勝手な推測を話すね? 答えられないなら、答えなくていいから。もしかして、オレの母親って…
その問いに対して、ディアナはニッコリと笑うのみだった。
◆
それからの日々は、凄惨を極めるモノだった。ディアナの攻撃は苛烈さを一層増した。使うモノは爆発系と打撃のみだが、一歩間違えば即死の威力での爆発を起こすようになっていた。打撃も、だ。そして、回数を重ねれば重ねるほど当然ながら重大な負傷をしてしまう事も増えた。具体的には皮膚が広範囲でⅢ度以上のやけど状態になるなど可愛い方で、筋肉組織まで吹っ飛ばされる。また、手足の先端が吹き飛ぶ、顔面の半分以上が焼け付く、など、トラウマになる程の負傷である。誰かがそうなってしまっても、ディアナも攻撃を一時止めてくれることなどない。今のところディアナの攻撃を押しとどめてくれるカルトが何とか食らいつき、爆風の影響もそれほど受けないので何とかなっているようなものだ。レオリオは必死に回復しているが、すぐに回復できる程度の怪我ではない。そのうちカルトが強烈な一撃を食らって倒れ、その後すぐに回復できないダメージを次々と喰らって倒れてしまい、全滅となる。
以前は全体が反撃不能で全滅判定だったが、今回は文字通り、全滅、である。
誰かが死ぬ前にディアナが全体に息吹をかけて、再び拷問のような闘いが始まる。いや、もはやそれは闘いなどではなく、拷問そのもの、となっていた。
また、ディアナの力加減は絶妙で、即死、とまではいかない程度の瀕死に留めるのが上手かった。後一歩間違えば死ぬという手前で止める為には相当な見極めと実力差が必要になる。それは彼らも嫌という程理解していた。
圧倒的な実力を前にしても、再び立ち上がる。何回折られても、次こそはと死力を尽くす。試せることは全て試し、何とか食らいつけるよう、圧倒的な暴力に抗う。
カルトは自分の力を更に高めるべく、死地へと突っ込んでいく。それは偏に〝彼〟についていく為。キルアはそんな妹に負けたくないという一心で。レオリオはヒーラーの技術を更に高める為。そして、ゴンはまだ見ぬ父親と母親に恥じないように。
彼らは自分では気付かなかったが、歴戦の能力者以上の実戦経験を短時間で経験していた。
自らの出来る事、それを最大限に、効果的に発揮させるための方法を超苛烈な実戦によって経験していった。夜になってからも、ゴン、キルア、カルトはオーラの最大値を伸ばすべく《練》の長時間維持の訓練を欠かさず行い、レオリオは医学知識をくまなく頭の中に叩き込むべく勉強し、時には自分の身体も使いながらより効果的な回復、再生を試していった。
そして、カルトの覚醒から更に10日間が経った。
ゴンは、彼の最大の長所である肉体の強度を活かし、超人的な身体能力を更に底上げすることに成功した。これは彼の能力、【
そこにきて、この地獄のような戦闘である。やられればやられるほどに彼の細胞は強化を促し、より力強くなっていった。念を支える大きな一つである肉体の性能。それが大きくなれば当然オーラも増える。具体的に言えば、もう潜在オーラ量はゲンスルーを超え、7~8万程度の量に達している。これは、この4人の中ではカルトに次ぐ2番目の大きさとなっている。オーラが増えれば増える程、【
彼の弱点として顕在オーラ量が少ないと言う部分があるが、それでも最早上位ハンターレベルと堂々と言えるぐらいの数値になっているし、もう一つの発、【ジャン拳】も含めて考えると、その弱点すらも埋める程の威力となっている。大体ビッグバンインパクトと同じ程度と言えばそのヤバさが伝わるだろうか。その代償として、夜中になると全身に激しい筋肉痛が発生し、眠れないほどになっていた。しかし、彼はその持ち前の精神力でその苦痛を耐え抜いた。
キルアは伸び悩んでいた。彼は以前針を抜いた影響からか、非常に大きくオーラ量も伸ばしていた。具体的には以前の1.5倍ほどだ。つまり、彼の潜在オーラは既に7万5千ほどある。しかし、彼の悩みとして、発電量の少なさがあった。いくら目にも止まらぬ速さが実現しても、発による攻撃力が少ない。《流》もそのスピードについていけない、というのもある。よって、彼はディアナに頼み込んで、自分にだけ
ただ、流石に彼女も雷変化は苦手らしい。しかし、それは威力が弱いという意味ではない。
そんな雷を浴び続け、喰らい続ける事により、彼は遂に全身に鎧を発現させる事ができた。鎧といってもカルトの日本式甲冑とは違い、戦隊ヒーローモノのアーマーという見た目である。そのアーマーの効果で、電気を発電する力が格段に上昇した。また、このアーマーには
これによって、そもそもの防御力も格段に向上し、かつディアナの雷を大幅に威力を減じる事が出来るようになった。無論、爆発ダメージもかなり防げる様になった。攻撃力というよりは、防御力の大幅な向上をキルアは実現した。
カルトはあれからひたすらに自らの新技の発展性を模索していた。彼女の力はもう4人の中では1番強い。それはその能力の特性にある。例の鎧と武器が攻防一体の役割を果たし、ほぼ万能と言える汎用性を誇るためだ。彼女には爆発によるダメージはほぼ無くなった。ただ衝撃は伝わるので万能ではないが。ディアナの手加減も彼女に対してはかなり緩めている。
それでもディアナを攻略できないジレンマから、カルトは更なる進化を目指す。即ち、一つ一つの紙吹雪の制御力、込める威力の向上である。こればかりはすぐに結果が出るわけでは無い。よって、基礎能力の向上を目指し、地道な訓練を夜に行なっていた。
最後にレオリオだが、彼は正に地獄のような回復体験をこの10日間で強いられた。殆ど死ぬ手前の仲間達を必死に回復する。その症状は様々で、凄惨を極めるものであった。そんな死屍累々の仲間達を少しでも早く、より早く治療を施さねばならない。それは自分も含めてだ。心が折れそうになった事は一度や二度では無い。それでも、立ち上がる。誰も死なせない為に。彼は寝る間も惜しんで能力を高める事に腐心した。
その成果あってか、医学知識を深め、人体に精通することによって、徐々に彼の回復力は再生医療の域まで達する様になった。これは一般の能力者からすれば驚異的であり、凄まじい進歩である。彼は自らのオーラを他者と同調し、分け与えながら治療を促す。それはディアナの回復を参考にしながら圧倒的な危機感の元で育ったものであり、単純な損傷で有れば時間をかければほぼ後遺症なく回復できる域まで達していた。
そして…
ボカァン!!
「ぐうっ!」
「レオリオ、いけるか!?」
「40…いや、30秒稼げ!」
「了解、押し留める!」
「喰らえ! 【韋駄天】!!」
「【千本桜・咬】!!」
「甘い!」
ドッガァン!!
「くうっ!!」
「…ッ! まだまだぁッ!!」
彼らが不屈の闘志で立ち上がる。しかし、そこでディアナの動きが止まる。
「……ふぅん。これも耐え抜く、か。
「!? まだ終わってない!」
「いえ、今回はここまででいいわ。いえ、
ディアナが終了を宣言する。彼らにとっては唐突な事であるが、本人は既にオーラを引っ込めていた。
「何故…! まだ貴方の半分の力すら引き出せて無い!!」
「当初の目的を思い出しなさい。貴方達は何の為にここまで頑張ったのか」
「それは当然! ディアナに勝つため!!」
「ブッブ〜。ハズレー。全く…私も力入れ過ぎたわね。そもそも貴方達は何でここに逃げて来たのよ」
「あっ…! そうだった…」
「やべ…全然忘れてた」
「そーゆー事。んで、そのレベル迄全員無事に到達したわ。よって終了」
「え〜…一泡吹かせたかったな……」
「…あのねェ。ハッキリ言っとくケド、もう貴方達は既に
「いや、全く実感無いんだが。主にお前のせいで」
「私はその枠から抜きなさい。存在そのもののレベルが違うんだから。誇っていいわよ? 第一、弱点だったオーラの攻防力移動もかなり改善が見えるし、戦闘における思考の瞬発力も桁違いに上がってるわ。やっぱ命がかかると人って成長が早いわね〜」
「よく言うわ。フツーならトラウマレベルの事しやがって」
「まぁまぁ。とりあえずよっぽど油断しなければ瞬殺されないぐらいの力は身についたって事よ。私が言うんだから間違いないわ。さ、今日はここまで。そして身体を休めて明日には行きなさい。送別会はしてあげるわ」
そう一方的に告げられ、解散される。イマイチ納得いかずモヤモヤしていた一行だったが、食事をしたら4人とも疲れ果ててすぐに眠ってしまった。この1ヶ月近く、体力、精神力を極限まですり減らして闘ってきたのだ。それも当然と言える。彼らは束の間の休息を楽しむ。
いよいよ彼らは、自由に飛び立つ為の準備ができたという事だ。
後は飛び立つのみ。
ディアナはそんな彼らに毛布を掛けながら呟く。
「ジンもイヴリスも良かったわね。貴方達の息子は順調に成長しているわ。願わくば、貴方達に彼が出逢えますように」
◇
「なぁ…ガキどもはいつ出てくるんだ?」
「さてな。あれだけオレ達をコケにしやがったんだ。出てきたらタダじゃ済ませないがな」
「今は足りない頭で作戦でも練ってるんだろ。1ヶ月で何が変わるか分からんがな」
「いくら長期間引きこもれるとはいえ限度がある。奴等は必ず出てくる筈だ。補給も必要だしな…。オレ達はそれを待ち構えればいい。どこのショップに行くかは分からんが、奴等に移動系スペルはほぼ無い。【
ゲンスルー達は、あれから何事もなかったかの様に振る舞っていた。勿論それはカームの〝後処理〟のおかげである。彼らは気付いていない。既に自分達が再起不能レベルまで徹底的に
そして、触れてしまったらもう元には戻れない。彼等は生殺与奪を握られてしまった。或いは今の忘れている状態の方が幸せなのかもしれない。これまでの事を見直して、非道な事に手を染めなければ。彼等の取るべき最適解は、
さながら、雛鳥に与えられる餌の様に彼等は
「それにしてもよ…オレ達いつ髪の毛切ったっけ?」
「そりゃ、ゲンが切ろうって言ったからだろ? 覚えてねェのか?」
「あ、あぁ…そうだったかな…」
「
「そう…だな」
「今はやるべき事に集中するぞ。覚悟しておけよ…ガキども」
【韋駄天】
・キルアの新技。【紫電一閃】の簡易版連撃バージョン。電力を複雑に操作し、凄まじい速さで接近し、対象に対して一方的に縦横無尽に攻撃を加える必殺技。デンプシーロール遠距離バージョンというか、超究武神覇斬ver.5地上版みたいな技。速さに対応できない敵は完全にやられるがままとなる。
【千本桜・咬】
・カルトの新技。鎧の一部と槍をパージして紙吹雪を相手の周囲に展開し、切り刻む技。【千本桜】より攻撃力は落ちるが、本体が弱くなる弱点が解消されており、格上相手だと目眩しに丁度よい。もちろん、対策できない敵はこれだけで切り刻まれる。カルトの操作力や制御力が格段に向上した為可能になった。