アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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124、黒幕

 

 

 

 

 

 

 ()()は恐れていた。自らを取り巻く環境に。どうしてこうなってしまったのか。今現在、彼女を支配するのは強い危機感、そして恐怖であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──事の始まりは、凡そ7ヶ月前。限界境界線付近の小島付近で莫大なエネルギーの衝突が発生した。その凄まじい力の奔流は、周辺の諸島を吹っ飛ばし、そこに棲む生態系を悉く破壊した。

 そして、その中の一つの小島を支配していたキメラアントの女王は、島の崩壊と共に海へと投げ出された。彼女は前世代の王が産み出した次世代の新しい女王だ。

 

 少し前に偶々、そう、それこそ万分の一の確率とも言えるが、その小島に漂流してきた人間がいた。彼らは純粋に漁船の乗組員で、無茶な出航により、嵐に巻き込まれて遭難してしまった。何週間も漂流して、生命からがらたどり着いた小島。そこは限界境界線付近の諸島だった。

 そして、幸運にも(人間側からしたら不幸にも)若い女性クルーが生き残っていた。

 そこに棲んでいた前世代のキメラアントの王は、護衛蟻に人間達を早速捕獲させて喰らった。そして、絶望や恐怖に怯える人間の女性によりによって子を産ませた。限界境界線付近のキメラアントは、暗黒大陸産ほどではないが通常種よりも強く、大きい。既に人間の子供サイズであった前王は容易くそれを成した。

 

 

 

 それによって、人間の遺伝子を持つ、次世代の女王が誕生した。

 

 

 

 彼女は母親を知らない。女王が産まれてすぐに、母は王に喰われたからだ。そして、そんな王を成長した彼女は喰らった。体高が人間サイズとなり、人間の思考力を取り入れてより賢く、狡猾に、そして貪欲になった彼女にとって、前王やその護衛蟻は餌にしか見えなかったのだ。彼女が本格的に活動を開始すれば、周辺一帯はキメラアントの天下になる…筈だった。

 

 

 

 

 そこに例の天変地異が起きた。

 

 

 

 

 彼女は海へ投げ出され、漂流するハメになった。兵隊蟻を産む事もできず、ひたすら生存を賭けて漂流する日々。時には巨大な魚に喰われそうになったり、潮の流れに巻き込まれて溺れそうになったりした。彼女は蟲である。基本的には浮きやすい。それを最大限利用し、無限とも思える漂流期間を何とか生き延びた。その間、約七ヶ月! そして、海にいる魚を喰らい、何とか生命維持に費やし、絶望とも思える漂流を生き延びてきた。これはひとえにキメラアントの驚異的な生命力のなせる業であった。

 

 

 

 

 

 そして…ついに彼女は到達した。メビウス湖の南西バルサ諸島に。身体は既にボロボロ。海の敵対生物によって千切られかけた左手に当たる節は、完全にそこで千切れた。しかし彼女は生きていた。ボロボロの身体を引きずり、何とか海岸の洞窟にたどり着いた。そこで身体を休めることしばし。生き延びる。それだけを胸にここまで生き延びてきた。

 

 

 

 漸く動けるほどに回復した彼女は餌を求めて活動を開始した。少しでも体力を回復させ、王を生む準備に入る為に。全ては最強の王を産む為に。しかし、そんな彼女に更なる試練が襲い来る。

 

 

 

 

 明らかに自分より強い生物が自分を探しに来たのだ。見た目は自分よりもひ弱で矮小な生物に見えた。しかし、ソレの存在感は絶対的な捕食者のものであった。その力に中てられて、彼女はあえなく夢の世界へと旅だった。自らの死を覚悟しながら……。

 

 

 

 

 

 

 ──目が覚める。()()()()()()()()()()。何という僥倖か。先ほどの敵は、自分を取るに足りない生物であると気まぐれを起こしたか。幸運であった。幸運であった。この幸運を逃してはならぬ。自分は最強の王を産む。あんな奴等に負けないほどの、最強の王を。

 今は雌伏の時だ。隠れながら、逃げながら、力を蓄え、必ずや世界を手中に収めるほどの王を産む。それは、自分の遺伝子に刻まれた使命である。恐怖と危機感に震えながらも、彼女は自らにそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヨークシンに到着した我々は、早速ジンの手合わせに付き合わされた。以前使用した修行場に向かう。ゴン、キルアはともかく、ジンもビスケもカルトも私もあまり知られたく無い事ばかりだから、こういうのは極力見えない場所でやるに限る。ジョンに再び場所を借りて宿泊施設を自分達で管理しながら手合わせの準備を行う。

 

 

 クラピカも誘ったが、彼は緋の眼集めをほぼ終え、最後の所持者の目処がついたからそちらに向かうということで断られた。何でも往復葉書がかなり役に立ったらしい。そして、これからその緋の眼最後の所持者、カキンの王子の元へ向かうとの事。そんな権力者相手に大丈夫か? と尋ねたが、相手は第4王子であるからまだ何とかなりそうらしい。交渉でケリをつけるつもりか。まぁクラピカなら何とかするだろう。

 どうやら王位継承の儀式が始まっているようなので、これがギリギリのチャンスらしい。万が一王位を継承したら交渉どころか会うのも難しくなるし、失脚して失踪されても困るからな。その場合、コレクションも散逸してしまうだろうし。ウチからはアルバートも別件でカキンについていくそうだ。多少は心強いだろう。念の為にクラピカにはコッソリとリンゴと私が加工した銀のネックレスを渡しておいた。あくまで念の為だ。万が一がない事を祈ろう。

 

 

 さて、ようやく準備が整い、周囲に人影一つ無い場所へと移動した。旧道路跡地で廃棄された場所だ。ここなら誰も来ない。まずはビスケとやるらしい。

 初めに行われたジンとビスケの手合わせは圧巻だった。2人とも既に人類最高峰を更に凌駕している。具体的に言えば、顕在オーラは7000を超える。そこから推察される潜在オーラは約40万! ……これ、下手すりゃ蟻のトップクラスといい勝負するのでは? 

 ジンもビスケにはやや劣る程度とみたが、彼の恐ろしい所は戦闘中に尻上がりに調子を上げていく所だ。2人は純粋な殴り合いしかしていないが、劣勢であったのがやってる最中に対応し始め、互角に打ち合える程になっていた。

 恐ろしい事に、やってく間、彼のオーラ総量も増えていった。いや、どこにそんなに隠してた? やはり規格外の才能の持ち主という事だろう。

 だが、そう簡単に抜かせる程ビスケも甘くない。互角以上には決して行かせなかった。彼らは結局3時間もやり合って、精魂尽き果てて両者ノックダウンした。1日目の手合わせはそこで終了。

 動ける程に回復した彼らは酒をどこからか用意して盛大に飲み会を始めた。……自由すぎない? まぁいいか。結局全員で飲めや騒げの大盛り上がりとなった。後半は私の暗黒大陸紀行だ。部屋を暗くして、蝋燭を立てて…いや、これ怪談話じゃないからね? 似た様なもんだけど。ジンは「そっち方面じゃねェか……」とつぶやいていたのが印象的だった。

 

 

 

 

 2日目は私とジンだ。久々に身体を動かすな。ジンは私とひたすら闘った。今回は〝聖光気〟無しだ。圧倒的な差をものともせずに突っ込んでくる彼は、やはり人類トップクラスであると言えよう。彼は既に内浸透勁を使いこなし、更には外浸透勁を使いこなしていた。危うく喰らう所だったが、そこはやらせなかった。

 やはりジンは闘いの中成長するタイプである。ゴンもそうだが、ジンはそれに輪をかけて凄い。闘い続けると、自らの技がどんどん吸収されていく気がする。いや、気がするどころではない。実際に吸収されている。体術についてはそう差が無い。特に彼は当て感が凄い。例の『気合』も相まって、普通ならボコられておしまいだな。

 5時間にも及ぶ対戦中、ビスケとカルトが激突していた。ビスケはやややりづらそうだったが、オーラ差でカルトを追い詰めていた。カルトも負けじと変幻自在な紙吹雪の武装で対抗していた。

 しかし、カルトのは本当に戦闘特化な能力ではある。近距離、中距離、遠距離をカバーでき、一瞬の隙に全てを持って行く程の爆発力もある。同レベルでの純粋な強化系でも打ち負けない強靱さがある…と言うことは、同格、格下相手ならばよっぽどの凶悪な能力に嵌まらない限りは負けないだろう。そもそも凶悪な能力は条件が厳しい。戦闘中にその条件をそろえることは至難であるため、やはり隙が無い。今回はビスケにオーラと肉体性能及び体術差で押し切られたが、まだまだ成長が望める彼女はこれから人類トップを狙える器であると言える。

 また、暇してたゴンとキルアも手合わせしていた。最初は流々舞だったが、次第に能力有りのガチバトルへと発展した。ゴンは一発が大きい。特にジャン拳の一撃などは9千を優に超えるオーラが集中している。彼の絶え間ない研鑽が見て取れるようだ。というか、「男子3日会わざれば刮目してみよ」の言葉通り、ゴンはますます激しく成長している。体格も最初会ったときとは別物だ。もう12歳とは思えないほどだ。言われなければ15歳程度には見える。その体格から繰り出されるスピードとパワーは最早幻影旅団のウボォーギンに近いレベルだろう。つまり、彼はやろうと思えば一般人を紙くずのように千切ることが可能であり、下手すればバズーカの一撃も耐えきると言うことだ。話に聞くディアナとの戦闘により恐らくソレも可能であろう。これでまだまだ成長途中というのだから恐ろしい。強化系最強の道を着実に歩んでいる。

 だが、キルアも負けてはいない。キルアの真価はなんと言ってもそのスピードにある。彼は多数の暗殺術を極め、肉体性能もゴンほどではないが常人を遙かに超える。そして、雷に近いスピードで動ける彼は、相手に触れさせずに一方的に攻撃できる。よって、この勝負、一発を狙うゴンと、捉えさせないスピードで削るキルアという図になる。

 これまでにも勝負はしてきたらしいが、現在キルアの勝ち越しとのこと。キルアのオーラは電気へと変質するため、喰らえば一瞬隙を晒すことになり、一発当てたキルアが畳みかけて勝ちを拾っていたらしい。しかし、ゴンもただ無為にやられるような人物ではない。負けの中から敗因を分析し、成長を続けている。

 今回はどうだったかというと、ゴンが必殺技を溜め始めた瞬間にキルアの電撃による突撃を行った。以前にフェイントに引っかかったため、フェイントもろとも潰す作戦だ。しかし、ゴンは溜めながらも()()()()()()()。そして、本来であれば一撃を当てたキルアの必勝パターンだったが、ソレまでとは違い、筋肉が電気で縮小するのを利用してキルアの腕を片手で掴んだ。そして、もう片方の手であらかじめ溜めていたジャン拳をぶちかました。喰らいながら攻撃するとはあきれた精神力だ。掴まれて動けないキルアに避ける選択肢はなく、攻撃をアーマーと《硬》で何とか防ぐもダメージは甚大。アーマーは破壊されたが、何とか残った電力をゴンに流し続けたが、ゴンも溜め無しの殴打をキルアに浴びせ、結局両者ノックダウンとなった。

 

 

 

 

 3日目は私対全員という素敵なメニューだった。さすがに私もちょっと本気を出さざるを得ず、結果だけ言えば全員ボコる形になったが、結構な技を引き出された。さすがは超一流の集まりである。これほどの豪華なメンバーはいまい。それが集団で来るとなると、たいていは何も出来ずに終わるのではないだろうか。

 しかし、私も250年前には既に人類最強だった男だ。そう簡単に攻略はさせない。キルアのカウンター付き電撃を更に電撃カウンターで撃退し、ゴンのジャン拳のブレードをオーラブレードで切り落とし、ビスケの体術をいなし、カルトの紙吹雪を全てオーラ操作で打ち落とし、ジンさんの極大連続念弾を少量の念弾ではじき飛ばした。

 念入りに闘い続け、気付けば5時間は闘っていた。後半に至っては、跳ね返せば跳ね返す程にアップデートされていく彼らと闘うのが楽しくなっていた。闘うのがこんなに楽しいと思えるのは本当に久しぶりかもしれない。どこまでもやりたい。そう思えた。

 しかし、楽しい時間もあっという間に過ぎる。最初にジュニア組が力尽き、粘っていたビスケ、ジンもオーラ切れで力尽きた。もう終わりか、と言う表情を私はしていたのかもしれない。それに燃え上がったジンとゴンが再び立ち上がった。その後、それに釣られて全員がまだまだやれるという意志を燃やして立ち上がった。…嬉しいことだ。口角が上がる。まだ楽しませてくれるらしい。ではそれに応えねば。

 〝奇跡〟で全員を回復させた。今の彼らには必要ないかもしれないが、私が楽しみたいのだ。やってる事がまさに大魔王みたいだな。そして、再び戦闘が始まった。

 

 

 

 結局その日はその繰り返しで50時間以上ぶっ通しで闘っていた。冷静に考えると頭がおかしい。なぜそんな事になったのか。やはりジンとゴンの気合が全員に伝播したのが一番の原因ではないだろうか。やはり親子だけあってその辺は似ている気がする。主人公力、というものだろう。その熱は全員の力を跳ね上げ、逆境に反逆する。最後の方は全員が更に1段階レベルアップを遂げていたように思う。

 とにかくその日は皆精根尽き果て、宿泊所にて泥のように眠ってしまった。恐らく起きたら大量の栄養を所望するだろうと予測した私は、全員が寝ている間に急いで大量の料理を準備することにした。

 案の定爆睡して起き出した彼らは、凄まじい勢いで料理を食べ始めた。うん。予想通り…というか予想以上だ。ビスケもカルトも上品でありながらもりもり喰ってる。どんだけ腹減ってたんだ。そして、ジンさん。アンタ遠慮無く一番喰ってるよね? というか息子と食事量で張り合わないでもらえます? 負けたら罰ゲームって子供かよ! 当初予想した量を大幅にオーバーしそうだったので、慌てて次の仕込みに入る私。ビスケとカルトが手伝おうと声を掛けてきたが、むしろ食べてて欲しいと席に戻した。

 よし。私も本気出す。〝奇跡〟をふんだんに使いながら大量の食事を量産する。私の本気だ。味も超一流だ。何せ、〝奇跡〟で有名店の料理を再現しているからな! 

 結局予想の3倍は食べ、彼らは漸く落ち着いた。親子対決はジンの勝利で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~参ったわ。マジで楽しすぎだろオイ! どんだけ引き出しあんだよ」

 

 

 罰ゲームである逆立ち指立て伏せをしている息子とその友達を横目にジンが話しかけてくる。

 

 

「伊達に暗黒大陸で生き延びちゃいませんからね。逆にこれぐらい出来ないとマジでヤバい環境でしたし。というか、貴方ならそれこそディアナさん辺りも参考になったのでは?」

 

「あーアイツね。アイツは滅多にヤル気出さねーしつまんねーんだよ。だからゴン達から話聞いた時は逆に驚いたぜ? まさかアイツがガチで修行に付き合うなんてな」

 

「え? じゃあオレ達ってラッキーだった?」

 

 

 逆立ちの格好で高速で上下しながらゴンが言う。その状態で話されると不気味なんだが。

 

 

「あぁ。アイツがそんなヤル気出すなんざオレが見る限り無かったからな。ま、アイツはそんな力を出す必要も無いし、自堕落な奴だから別に期待しちゃいなかったがな。ただ、その代わりアイツのツレは過激だったぜ。オレはいつもボコられて死にかけてたからな」

 

「それって…」

 

 

 ゴンが逆立ち腕立てをやめてコチラに向き直る。ジンは若干しまったという顔をしながら答える。

 

 

「……あぁ。オメーの母親、イヴリスだ。アイツはオレが出会った当初はかなり尖ってたからな。オレもアイツもお互いケンカ吹っかけてはボコられるの繰り返しだった。アイツからしたらオレは羽虫みたいなモンだっただろうからな。オレが死なずに済んだのはアイツらに人間を殺さないっつー誓約が掛かってたからだな」

 

「……よくそんなんでくっつきましたね」

 

「まぁな……色々あったんだよ。とにかくオレが強くなったのは奴のおかげでもある。ただ、ゴンには前も言ったがアイツ、急に暗黒大陸に帰りやがってな。オレもゴンが一人前になったら向こうに行こうと思ってはいたんだ。向こうで会ったら一回ブン殴ろうと思ってな。ま、それとは関係なく、暗黒大陸はこっちとはレベルが違うお宝や魔境、秘境の宝庫だ。ハンターならばワクワクすんだろ!」

 

 

 相変わらず訳が分からない価値観だ。流石フリークスの名に恥じない。しかも、私からの話を聞いても意見が変わらない所を見ると、筋金入りのハンター気質である。ゴンの母親の件に関しては濁したが、こんな大勢の前で語るのは恥ずかしかったのだろう。ビスケがそこで会話に割り込む。

 

 

「そういやジン! アンタ、グリードアイランド閉まっちゃったじゃないのよ! どーしてくれんのさ!」

 

「ん? あぁアレな。一回クリアされたのを延々やるのもつまらんだろ? だからクリア者出たらアプデする様に伝えといたのさ。新装開店グリードアイランドver.2.0ってな! 大体10年経ったからもういいだろ。なんだ? なんか残してきたのがあったか? ま、諦めな。アプデ終わったらまたやるといいさ。変わるのはイベント関係で、お宝は大して変化してねーからな。お前さんにはヌルゲーだろうよ」

 

「むー…しょうがないわね。じゃあカーム! 1年後にまたやるわよ! 今度はアタシの望むお宝をゲットするからね!!」

 

「…もちろん僕も行くからね?」

 

「分かった分かった…。ジンさん、それはともかく、今後の予定はどうなってるんです?」

 

「ケケケ、早速尻に敷かれてやんの。…分かったからオーラ出すのやめろや。またヤリたくなっちまうだろ? 今後の予定な、とりあえず今の方針を続けていくが…最近ちょっとキナ臭え」

 

「貴方もそれを言いますか…具体的には?」

 

「ジジイが言ってたか? それと比べりゃ恐らく視点は違うが、最近世界の危機に繋がりそうな案件が激増してやがる。今回のだってそうだ。オレの勘だが、()()()()()()()()()。証拠も根拠も何もねーがな。だが、間違いないとオレは思ってる。つまり、黒幕がいやがるって事だ。近い内に何かが起きるぞ。それも世界規模でな」

 

「……それは」

 

「オレはそれらの共通点を今探っている所だ。恐らくだが、コレは暗黒大陸関連だからな」

 

 

 

 なるほど。話を聞くと無茶ばかりしていたようだが、ジンは彼なりに世界の危機について探っていたか。…彼ならばあるいは何か分かるかもしれない。意を決して聞いてみよう。

 

 

 

「……ジンさん。一つ相談したい事があるのですが」

 

「ん? 何だ、言ってみ」

 

「実は──」

 

 

 私はキメラアントの件を彼に話した。未来予測してる部分は〝奇跡〟でごまかしながら。これは会長以外に伝えるのは初だ。誰もが驚いていた。ビスケやカルトは「もっと早く相談して欲しかった」と言わんばかりのジト目で見てきた。後でフォロー入れねば。ともかく、それを聞いたジンさんは少し考え込んで、口を開いた。

 

 

「まずな、こういう時は視点を変えて考えろ。オメーからは全然見えねェモンでも、それをやるだけで結構見えてくる」

 

「どの視点です?」

 

「そりゃもちろん、敵視点だ。例えばキメラアント視点。そんだけの奴等なら危険生物B級の災害だ。つまり国家規模。直ちにV5をはじめとする国家やハンター協会が動くレベルだ。だがそれがねェ。つまり、仮に奴等がいるとしても①活動できてないか、②隠れてるか、だ」

 

「ふむ…ですが」

 

「よく考えろ。オメーが来るって確信してんなら確実に来るだろ。しかもそろそろな筈なんだろ? じゃあ何故出てこねェかだ。さっきの2つはちと根拠が弱い。だが…ここで視点を更に変えるぞ? ()()()()()()()()()()()()って仮説を加えると、アラ不思議。途端に①か②に説得力が出てくる。ここでその黒幕の思考を辿ってみよう。もしかしなくてもオレの追ってる奴と同一人物だろうな。どうやらソイツは世界規模の災害をワザと起こそうとしてやがる様に見える。で、その黒幕って奴はどうやら()()()()()()()()()()()

 

「!? …それはどういう」

 

「ここからは推察に推察を重ねるしかねーがな、まず、オメーが予測しているキメラアントが見つからない件は、今の予想をあてはめるとすっきりするんだ。どう考えても派手な災害にしかならねー奴だが、それが秘匿されてるってことは、黒幕がオメーを警戒して情報を制限してんだ。それで①か②だ。①だったらまだマシだ。しかし、②は考えづらい。蟻のくせにそんなに自分から情報を秘匿できるような奴ならホントにお手上げだ。ま、それはねーだろうけどな。それで考えられんのが、③だ」

 

「③?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。例えば…そうだな、情報を制限している独裁国家、または未開の地域、そして()()()()()()()()。その辺にキメラアントを放出する。すると、情報は世界にはギリギリまで上がってこない。あまり考えたくねーが、③の場合はやべーぞ。既に始まってて、気付いたら手遅れになるぐらいまで広がってるかもしれん」

 

「……」

 

「だが、ここにキメラアントは絶対に処分するっつー心強い奴がいる。恐らくオメーが動けば即解決だろう。逆に言えば、敵はだからギリギリまで隠してるんだろ。問題は何のためにそうするかってことだな。愉快犯か、それともオメー単体を狙っているか。いずれにせよ、世界規模での大騒動を起こすだろうな。傍迷惑極まりねーがな」

 

「……ありがとうございます。その視点は欠けてました。そして今、私の中で全てが繋がりました」

 

「それで? オメーの予想は?」

 

「…③ですね。()()()()()()()。そしてソレは恐らく……NGLだ」

 

「ほう…NGLな。たしかにそこじゃ始まっててもしばらくはわかんねーな。オメーも調べてマークしてはいたか」

 

「ねェ…NGLって?」

 

 

 ゴンが尋ねると、ジンが答える。

 

 

「ネオグリーンライフという環境保護団体が建国した国家だ。自治体扱いだが、国家としての体を成している。元は機械文明に頼らない自給自足の生活を送るという信念を持つ者同士が集まって出来たらしい。そこは機械を()()()()使ってないからな。中で何が行われているかは向こうから発信しない限り全くと言って良いほど無い。隠れ蓑には最適だな」

 

 

 

 そう。思い出した。NGLだ。ここが起点になっていた。だから情報が上がってこないのだ。しかし、カイトは辿り着いたし、ハンターも数人は気付いて調査に入ったはずだ。それがなぜ無いのか…恐らく、ジンの言うとおりに秘匿されている。彼は黒幕、と言う表現をした。ヒソカか…? いや、彼はそんなタイプじゃないだろう。やるなら自分から起こすはずだ。と言うことは、()()()()。暗躍する人物が。

 私も後手後手になってしまった。しかし、少なくとも速攻で潰せばまだ被害はマシだ。すぐにでも発つか。

 

 

「ジンさん…ありがとう。私はそこにこれから向かう。手遅れになる前に」

 

「ん。オメーが行くなら安心だな。じゃあオレはオレで別のトコ探すか」

 

 

 

 prprprpr……

 

 

 

「ん? なんだ? 電話か?」

 

「あ、私か…滅多に鳴らないから気付かなかった…はいもしもし?」

 

『よ、カーム。久しぶりじゃのう。あ、婚約おめでとよ』

 

「あぁ、ありがとうございます。それで、どうしました?」

 

『あーそれなんじゃが…ちと深刻な事態がおこってのぅ…』

 

「まさかキメラアントですか? 私もある程度目処が付いたのですぐに向かおうと思ってたんですよ」

 

『お、そっちは見つかったか。なら良かった…いや、良くないか。ソレとは別件でな。事態はもっと深刻じゃ』

 

「キメラアントより…深刻…?」

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ。厳重に封印されておったはずの五大厄災が、()()()()()()()()()()()


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