125、大規模テロ
「……は?」
『聞きたくもないとは思うがの。事実じゃ。気付いたら国際環境許可庁から忽然と姿が消えておったらしい』
「……それで、どこに?」
『全く分からん。今クライムハンターに調査させとるトコじゃ。じゃが、直ぐにでも出てくるじゃろな。大被害という形でな』
「……色々言いたい事はありますが…分かりました。私も悠長にしてる場合じゃなかった。で、ハンター協会はどう動きます?」
『いずれにせよ早急に対処するしかないのぅ。そんで、緊急で対策会議を開く為に十二支んを招集しておる。もしよかったらお主も来てくれ。会議に参加する必要は無いが、ワシと打ち合わせぐらいはしておきたい。ヨークシンなら半日で来れるじゃろ? あと、側にはジンがおるな? 息潜めてても分かるからな。其奴もメンバーじゃから来いって言っといてくれ』
そう告げられてから一方的に電話は切られた。しかし…五大厄災か……まずいな。全て同時に放出されたらそれこそ世界の危機だぞ。しかも危険度的に私が行かねば無為に犠牲者を増やしてしまう。黒幕か…どんな奴がそれを企んでいるんだろうか。
「おい、カーム。ちょっと聞こえたけどよ、五大厄災って何だ?」
キルアが尋ねてくる。そうか、改めて説明が必要だなと思っていたら、ジンが先に解説を始めた。
「暗黒大陸から齎された、人類を滅ぼし得る厄災だ。全部で5つある。元々新大陸紀行っつー本に載ってたんだがな? 凄まじいリターンのあるお宝の場所にセットで存在してた奴等だ。ブリオンはカームから聞いたろ? あと4つのヤベー奴と思っとけ。詳しく言えば謎の古代遺跡を守る正体不明の球体、植物兵器ブリオン。欲望の共依存、ガス生命体アイ、快楽と命の等価交換、人飼いの獣パプ、殺意を伝染させる魔物、双尾の蛇ヘルベル、希望を騙る底なしの絶望、不死の病ゾバエ病、以上だ」
「……聞いただけでヤベー奴等ってのが何となく分かるな。ってか、カームの奴だけでもヤバいじゃんか。キメラアントもいるしよ。どうすんだよ!」
「だから今さっきジジイが言った様に緊急対策会議だ。流石にオレも今回はすっぽかすわけにゃいかねーか。ジジイに居場所バレてたしな」
「アタシも聞いちゃいたけど、本気でヤバいわね…。アタシ達だけで何とかなりそうなのがキメラアントってのが終わってるわ」
「あぁそうだ。だから集まった所でダラダラ会議はできねー。すぐに動く必要がある。ジジイの中ではもう方針は決まってるだろうからな」
「方針って…?」
ゴンの質問に、ジンは真面目な顔で答える。
「ハンター協会全力での
◆
「我々は全力で
「「「「は?」」」」
「いや、簡潔すぎです→会長。もっとちゃんと説明が必要です→全員」
「そうは言ってものぅ…これ以上言いようが無いんじゃが」
皆の疑問を代表して戌の姿を模しているチードルが会長に迫る。確かにその結論は簡潔すぎた。しかし、それがネテロでもある。そこに補足を入れる者がいた。
「皆さん、会長はこう言ってるんです。『我々に対抗する術がない以上、被害を最小限にして厄災発生の地域を封鎖せよ』とね。そういう事でしょう? 会長」
「加えて言えば、『出来るだけ被害が拡散しないように犯人を早急に発見、拘束する事』ってトコか。ジジイはいつも言葉が足りねーんだよ。ただお前等もちゃんと頭使えや。首の上に付いてんのは飾りか?」
「…ま、そういうこっちゃな」
スーツ姿の副会長、パリストン=ヒルが最初にネテロの意図を説明し、ジンが補足する。両者共に違う方向で他のメンバーに喧嘩を売っている為、会議場は俄に殺気立つ。
「…会長の意図は分かりました→全員。ただ、それは対症療法みたいなもので根本的な解決にならないのでは→厄災」
「そうですねェ、会長。チードルさんのおっしゃる通りです。ほっとくには余りにも危険! 正に人類の危機ですよ! その辺はどうお考えで?」
「…………」
テンション高く、チードルに賛同するパリストン。そんな彼を他のメンバーは鬱陶しそうに見ているが、ジンだけはパリストンを観察している。
「まぁ、待て。それについてじゃが、コレは最早国家規模の事件じゃ。国は国際的な大規模テロと判断しとる。よって、V5を中心に各国首脳が動いておる。我々は国と連動しつつ動かねばならん。一般人は即避難、ハンター協会はサポートとして拡散を防ぎつつ避難誘導。コレが限界じゃな。ハンター協会でもこの封じ込めだけですらカテゴリーは文句無しのA級じゃ。だが、お主の言う通り、これでは被害が少なくなるだけで何にも解決しとらん。我々としては出来れば被害が起きる前に首謀者をハントしたいがな。国はその緊急性を把握しておるから、最悪戦術核が被害地域に打ち込まれる可能性すらある」
「戦術核! そんなにヤバい状況ですか…」
「むしろそれで抑え込めるなら万々歳、というぐらいじゃ。そう思っとけ。んで、十二支んじゃが、半数は犯人捜索、半数は待機して被害が発生したら急行して指揮を取る、としよう。割り振りは任せる。ただ、パリストンとジンはここにおれ。ワシはとりあえず全体指揮にまわる」
「待ってください! まだ肝心な事が聞けてません。厄災の対処に戦術核が使用される可能性はわかりました。
ニヤニヤ顔を抑えながらパリストンが聞く。いかにも胡散臭いが、彼はいつもこうなのだ。特に会長に絡む時などは。
「……その時は協会の力を結集して命懸けで封じる。ワシとお主らが中心になってじゃ。幸い、ワシのツテで何とかなるかもしれん。よってそれは最後の手段じゃ」
「ほう! 厄災すら何とか出来る方がいると! それは初耳ですねェ!」
パリストンとネテロの会話に一同が騒ぎ出す。
「はっ? ソイツ? はその厄災とやらに対処する事が出来るのか?」
「馬鹿言え。人間個人じゃどうしようも出来ねーから厄災なんだろ? そんな奴がいるわけねーじゃん。なんかの新兵器だろ?」
「今の発言はどういう事ですか→会長?」
「ほら、皆さんも気になったようですよ? 会長、何か秘策かお有りなら我々には開示して頂きたい! それとも、我々はそんなに信用なりませんか!?」
パリストンはいかにもな表情で、十二支んのメンバーの気持ちを代弁しているかの様な言い方で会長に迫る。十二支んもそこは聞きたい部分なので反対はしない。いつの間にか会長を糾弾する空気が出来てしまった。彼はその様にその場の空気を支配する事に長けている。気づけば周りが彼のいいなりになる事が多く、そうでなくても引っ掻きまわされてしまう。強さ云々ではなくとも、かなり厄介な人物であると言えるだろう。だが、ネテロ会長もそれに屈する程弱くはない。
「お主も大概めんどくさいやっちゃの〜。
ここでツテを強調しながら堂々と拒否するのが会長たる所以である。有無を言わせない迫力がある。しかし、そこで屈しないのもパリストンである。
「しかし会長、人類存亡の危機ですよ? この後に及んで秘匿するのもどうかと思いますよ! ねェ、皆さん!」
メンバーに振られ、ほぼ全員が同意する。中々ない事だ。それ程気になるとも言える。しかし、そこに異を唱える人物がいた。
「オレをその『皆さん』に加えるんじゃねーよパリストン。ジジイがそう言ってんだ。それでいいじゃねーか。オレはぶっちゃけどうでもいいから早く対処したいぜ? 大体ジジイの怪しげなツテとやらに頼る気持ちがある時点で、テメーら終わってんだよ。これはオレらが対処しなきゃならねー案件で、その為の会議だ。違うか?」
「「「「「…………」」」」」
「あとな、オレも世界各地周ってて思ったが、ヤベー案件が増えすぎだ。厄災じゃなくてもな。オレが幾つかは潰したが、このテロの予兆は確実にあった。黒幕は1人じゃねェし、今この瞬間にも厄災が放出されたり、別のやべー奴が出てくるかもしれねェ。もしかしたら
ズズズ…
ジンからじわじわとオーラが滲み出す。彼は言外にもサッサとしろという雰囲気を醸し出す。パリストンが対抗して口を開こうとする前にネテロが話し出した。
「まぁ待て。どうしても知りたいなら、ワシが教えてやろう。じゃが、条件がある。これは超極秘事項じゃ。よって、知りたい者には契約書が必要となる。みだりに言いふらさない事、個人や集団で接触しない事、などじゃ」
「……守れなかった場合は? →契約」
「無論、協会追放、ライセンス永久剥奪。そして時が来るまで拘束させてもらう。これは会長権限での命令じゃ」
「……マジ?」
「おおマジじゃ。…これは言いたくないが、ジンの言った事にも関係がある。
ネテロが迫り、会議室が静まり返る。パリストンはと言えばニコニコしている。そして、彼が発言しようと口を開きかけた所でジンが勢いよく立ち上がる。
「おし、話はそれだけだな! じゃあオレは興味ねーからやる事やるぜ。じゃあな」
と、一足先に部屋を出ていった。その空気に触発され、次々と席を立つ者が出る。
「オレは会長を信頼している。何であれ指示には従うさ」
「面倒な契約なんざ結ばないに限るぜ。オレもいいや」
「我は会長の信頼に応えるのみ…!」
「アタシもパス〜〜〜早く対応策考えなきゃね〜」
…………
そうして、会議室にはパリストンと会長だけが残された。
「……お主は聞くのか?」
「嫌だなァ、会長。分かってるくせに。私は副会長ですよ? 会長の意図に従いますって!」
「ふん…相変わらず性格悪いの〜。とりあえずお主はワシと残っとけ。待機組と捜索組の対応策と全体への指示を詰めねばならんからな」
「えぇ、分かってますよ。会長。では」
颯爽と部屋を出て行くパリストン。その背中を見つめながら、ネテロは溜め息をつく。彼には確信があった。今の会議の中で、その種を蒔きながら全員をじっくり観察していたのだ。証拠は無い。だが、分かってしまった。長い時を生きてきた会長故に。
「残念じゃ……お主がこうも裏切るとはな。ワシもヤキがまわったのぅ…なぁ、パリストンよ」
会長の呟きは、誰もいない会議室に静かに響き、そして消えていった。
◇
「よぉ。待てや、パリストン」
「おや? ジンさん、どうしました?」
会議室からパリストンが笑顔で歩いていると、それを止める人物がいた。ジンだ。彼は腕組みしながら廊下の壁に背を預けている。
「お前に聞きたい事がある」
「ふむ。何でしょう?」
「お前は会長のツテを
「……質問の意図が分かりませんね。私が知っているとでも?」
「あぁ、間違いなくな。あの時、ジジイは自分のツテとしか言ってなかった。だがお前は個人と断定した。その時点で知ってるのは確定だ」
「ふふ…ただの想像ですよ。何かおかしかったですか?」
「いや、聞きてーのはお前が何故
「それを聞いてどうします? そもそもそれを言うなら貴方も知ってると自白している様なものでは?」
「あぁ。
「嫌だなぁ。私も皆さんと同じですよ。
「ケッ。お前の愛とやらは方向性が間違ってんだよ。第一、お前は直近でミテネ連邦に足を運んでいたな? どうだ? 準備は整ったか?」
「それこそ何を言ってるか分かりませんね。純粋にハントですよ。それが我々の仕事でしょう?」
「ふん、舐めんなよ。人類は一方的にやられる程弱かねーぞ。後、お前の後ろにいる奴にも言っとけ。
「さて…話が噛み合いませんね。これ以上は水掛け論でしょう。お互い証拠も無しに話すのは時間の無駄ですよ? 貴方もそう言って会議を終わらせたでしょう?」
「証拠ね。ま、直ぐにでも出るだろ。それが出るまでは自由にはさせねェ。覚悟しとけよ。話はそれだけだ。じゃあな」
そう言ってジンはパリストンとすれ違い、廊下の奥へと消えていった。残されたパリストンは1人呟く。
「やはり侮れませんね…貴方は。でも
◇
「ほぼ確定じゃな。状況証拠が揃いすぎておる」
ここは会長室。その場にゴン、キルア、カルト、ビスケ、そして私がいる。とりあえず全員ジンと共についてきた。
「会長…やはり?」
「あぁ。間違いないじゃろ。黒幕の1人は副会長パリストン。恥ずべき事じゃがな。しかしアヤツは尻尾を中々出さん。更に奴のシンパが大勢おる状況ではカンタンには拘束出来ん。今は精々監視するのが限度じゃな」
「……暗殺は?」
「ゾルディックらしい発想じゃの。お嬢ちゃん。だが、無駄じゃ。恐らく準備はもう終わっとるじゃろ。だからアヤツもここに堂々と顔を出せる訳じゃ。それに黒幕は1人じゃない。我々には起きる事象をそれぞれ対処していくしか出来ん。…悔しい事にな」
「それじゃあ、どうしようも無いって事!?」
「平たく言えばな。じゃが、ここにイレギュラーがおる。まさしく人類の切り札がな。なるべく我々で何とかしたいところじゃが、もうなりふり構ってはおれん。これから世界各地で地獄絵図が発生するじゃろう。それを防ぐ為にはワシらは伏してお主の力を借りねばならん…。すまんが、カーム。どうかワシら人類を救ってくれ」
ネテロはその場で頭を下げる。しかし、彼が頭を下げる必要はない。
「頭を上げてください、会長。私はこの世界が好きだ。滅びてほしくない。それに、もしかしたらコレは
「無論じゃ。そこは任せい。それにもうワシも布石を打っておる。残りの黒幕を炙り出す布石をな」
会長は私にそう断言した。心強い。さて、ではまず先にキメラアントを潰しに行くか。そう決意を固めていたら、会長室の扉が開く。
「よぉ、ジジイ! 遂に出たぜ!! ベゲロセ連合国の都市プールリバーで原因不明の大規模な生物災害発生だ! その被害状況から恐らくブリオンだ」
「早速来たか…。現地ハンターに通達じゃ。直ちに周辺地域を封鎖せよと! ワシもV5への連絡と全体への通達を行う!」
「それがな…それだけじゃねェんだ。オチマ連邦の都市ババロフで大規模な殺人事件が多発してやがる。もう被害は千超えて万に届きそうだ。コレは多分ヘルベルだ。事態は一刻を争う。すぐ来てくれ」
「分かった。急ぐ…カーム、頼めるか?」
「分かりました。お任せください」
「ちょっと待てよ! キメラアントはどうすんだ!?」
「私が行く…と言いたい所だが…」
「アタシが行くわ。ジジイ、いいわね? カルト、アンタも来なさい」
「……しかし…」
「心配しないで。無理はしない。少なくとも戦力の削りに努めるわ」
「僕も大丈夫。少しは役に立ちたい」
「ゴン、キルア。お前達も行け。今のお前等なら充分役に立つ」
「……直ぐに片付けてから向かう。決して王直属護衛軍以上には接触するな。約束してくれ」
「「「「分かった(わ)(ぜ)」」」」
「モラウとノヴもそこに付ける…済まんが踏ん張ってくれ」
「カイトも向かわせる…ちったあ足しになんだろ」
「ありがとうございます。では向かいます。ご武運を」
「あぁ。お主もな」
そうして、それぞれがやるべき事をなす為に動き出す。しかし、既に賽は投げられてしまった。こうなった以上は、如何に被害を最小限に抑えるかの勝負となる。人類への試練の第一歩は、そうして幕を開けた。