アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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追記
 ちょっと感染力が弱いと言うご指摘があり、確かにこれじゃパンデミック的にも弱いかなと思ったので修正します。後から申し訳ないです。
 具体的には、殺した者に感染する事に加えて、感染者は殺意を持つオーラを纏い、そのオーラに触れても感染する、としました。
更に追記
 GPSは無い事にしました。あったら人工衛星から暗黒大陸見えちゃいますし。


126、ヘルベル

 

 

 

 

 

 

 

 ソレは、着実に被害を増やしていった。ここ、N G Lで。最初は幼い兄妹を喰らった。そして、ソレはその味を気に入ってしまった。別名グルメアントと呼ばれるソレは、気に入った食料が見つかるとその種が絶滅するまで喰らい尽くす習性がある。

 そして、ネズミ算式に兵隊蟻を増やし、更に大量の人間を捕獲し、食らう。ソレ、つまりキメラアントの女王は自らの限界以上に捕食し、急速に体制を整えていった。()()()時折紛れ込む極上の獲物の効果もあり、そのスピードは驚異的であり、既に巨大な巣を形成して、王直属護衛軍の誕生まであと僅か、という所まで来ていた。

 

 

 

 全ては、最強の王を産む為に。

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「あ〜あ♠︎ 蟻のエサやりなんてつまんないなー♣︎ 早く成長してくれるといいのに…♦︎」

 

「ん”〜! む”〜!」

 

「コラ、暴れないの❤︎ キミは貴重なエサなんだから♠︎ さて、そろそろ上位種が出てくるかな? キミはソイツに見つかるとヤバい事になるから必死で隠れてね〜♣︎ ボクもそろそろ()()()の準備したいし…頑張ってね❤︎」

 

 

 完全に気配を消して巨大な蟻塚の内部に潜入しているピエロ。ヒソカだ。そこは食料庫。普段は調理担当のキメラアントがいるが、現在沈黙している。死んではいない。ただ、()()()()()()()だ。

ヒソカの足元には猿履を噛まされて転がされた人物がいる。彼はプロハンターだ。つまり念能力が使える。その彼にヒソカは毒を打ち込み、おとなしくさせた。ポックルという名を持つ人物はそこで意識を失った。その彼をヒソカはあえて食料庫ではなく、廃棄された骨の中に隠す。オーラを持つ者しか見付ける事が出来ないように。

 

 

「さ~て♦︎ これでヨシ♣︎ 後は結果をお楽しみに♠︎ じゃあね〜❤︎」

 

 

 そうして、ピエロはその場から掻き消える。しばらくして、調理担当のキメラアントが目覚める。彼は何事もなかったかの様に再び人間の肉団子を作り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…普通に行ったら間に合わんな」

 

 

 

 

 この世界では飛行船が空からのメインの交通手段だ。これほど発展している文明において、飛行船はナンセンスとも言える。しかし、そうせざるを得ない理由がある。暗黒大陸の存在だ。暗黒大陸はV5の協定で渡航を厳しく制限されている。そして、その協定により飛行機の類いの高速で長距離移動が出来る手段の開発は禁じられている。万が一でも暗黒大陸に不法に侵入することがないように。そのため、世界中で空の交通手段は飛行船が主流になった。

 そして、今。この一刻をも争う様な状況下でその手段を用いるようでは遅すぎる。単体でさえ人類を滅ぼすポテンシャルを持つ厄災だ。しかもそれが2体も出現している。遅れれば遅れる程被害が甚大になる。それはやがて人類の終焉を意味するだろう。

 

 

 

 

 

 ならば、私だけが取れる手段を使う。それは()()()()()()()()事。

 

 

 

 

 

 誰もいないビルの屋上まで隠れて移動し、〝聖光気〟に移行する。そしてその気も目立たないように隠蔽する。本当に練習しておいて良かった。そのまま浮き、高度10000メートル付近まで到達する。ここならば最早飛行船の影も形もないだろう。しかも現在は夜だ。人目にもほぼ付くまい。地図と方位磁石機能のついたケータイを片手に、早速移動を開始する。できる限り早く。限界を超えるほどに。そのスピードは音速を超え、超音速域に突入する。後方にはソニックブームが発生するが、高度が高度なので影響もそれほどあるまい。さぁ、時間との勝負だ。まずはオチマ連邦。どちらに行くかわずかに逡巡したが、ブリオンよりも脅威度が高いと判断した。どうか、間に合いますように。そして、現地ハンターができる限り避難を完了していますように、と祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、端的に言えば地獄と化していた。突然隣人が殺意を持って殺しに掛かってくる。隣人だけではない。親しき友人も家族も恋人も。親子や兄弟ですらも。等しく激しい殺意に駆られ、近くにいる物を殺そうとする。そして、彼らは一様に強靱な身体能力と、不可思議な力を用いて確実に仕留めに掛かる。まるで脳のストッパーが外れたかのように。

 

 

 

 

「やめ……やめて───ッ!!!!」

 

「シネ!!!」

 

「テメェ、ブッコロス!!!」

 

「ぎゃあぁぁっぁぁぁぁ」

 

「一体どうした!? なぜ! なぜ子供を殺した!!! 許せない!! おマエをコろシテヤル!!!!」

 

「フヒヒヒヒ…コロシテやった…ザまぁミロ……マダタリナイ…マダタリナイィィィあqwせdrftgy」

 

 

 

 そこら中に断末魔の叫びが響き、それ以上に狂った様な叫びが響く。戦争でもそこまではやらないというような殺し合いが一地域で多発する。武器が有れば武器で、無ければ己の手や爪などを使って。ありとあらゆる手段で殺していく。そして殺人が殺人を呼び、止めに入った警察官すらも殺人鬼の仲間入りを果たす。人間だけではない。動物も、虫ですらも影響を受け、積極的に殺し合いを始める始末だ。最早これは超特大の生物災害(バイオハザード)である。

 

 

 

 連絡を受けたオチマ連邦の大統領は、直ちに付近一帯に緊急事態宣言を出し、近隣都市への避難とババロフの全面封鎖を決定し、通告した。それと同時にハンター協会会長のアイザック=ネテロから緊急指令が発令され、現地ハンターは直ちに避難誘導の手助けと、都市内で起きている事象を食い止めるように指示が出された。具体的な対処法も最高幹部の十二支んのメンバーから続報で出された。

 

 

 

 しかし、現地にいたプロハンターは困惑した。恐ろしいほどの殺意の感染力! 最初は念能力ではと疑っていた彼らも、その脅威を目の前にして考えを改めざるを得なかった。試しに汚染地域へと調査に潜入したとあるハンターは、オーラでガードしていたにもかかわらず、あっという間に彼らの仲間入りを果たした。厄介なのが、彼らは別に思考力を失ったわけではない。ただ、恐ろしいほどの殺意に支配されているだけだ。つまり、従前の能力も使用できるということである。しかも、そのオーラに触れたら感染してしまう。これは一般人でも同じで、感染者は強制的にオーラを引きずり出されて、近くにいる生物に手当たり次第にその触手を伸ばす事で感染をより広げてしまう。つまり、念能力者の場合は更に不味い事になる。

 この事象により、彼を止めるためにハンター仲間の3人が犠牲になった。問題は、彼が操作系であり、操作系ルールを利用していれば殺意の伝播も起きないと思っていたことだ。結果的に、より被害は拡大した。

 よって、生き延びたハンター達に出来ることは、周辺の感染していない人々の避難と、襲ってくる感染者を()退()()()()()。つまり行動不能にするしかなかった。しかも、オーラには触れない様に遠距離からだ。ここで難しいのは、対象を安易に殺してしまえばそこから殺意が伝染してしまう所にある。

 現に軍が出動して感染者を殺し始めたら、軍の人間が同士討ちを始め、そこからまた被害が広がってしまった。

 対処法が消極策しかなく、どんどん犠牲者は増えていく。もう万単位が犠牲になっているだろう。そして、この脅威は()()。殺意が殺意を呼び、ハンター達もバリケードなどを構築しての遅滞戦闘しか出来ない。どう考えてもジリ貧である。発生源に辿り着くどころか、食い止めることすら怪しいのだ。最初の事件発生から約20時間が経過している。その短期間で、広大な都市ババロフ全域が殺意で汚染されてしまっていた。このままでは、封鎖するどころかオチマ連邦全土に被害が広まってしまう。軍もハンターも頭を抱え、絶望する。大統領はこの被害を受け、戦術核の使用の検討に入った。なるべくなら使いたくない。今は何とかハンター達や軍が健闘しているが、それももう保たない。そうなれば使わざるを得ない。そうしなければ国が滅びる…非常に苦しい決断を迫られていた。

 

 

 

 その時

 

 

 

 

 上空から一筋の光が、ババロフの中心地に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遅かった…! 既に1都市が壊滅状態だ…。そして、これは……これは酷い。あまりにも…! 動く者の姿がほぼ無く、惨殺された死体がそこかしこに散らばっている。その死体は老若男女問わずだ。付近一帯は血で河が出来る程になっている。正に地獄が現世に出現したかの様だ。

 そして、この付近一帯に残る濃厚な殺意を伴ったオーラ…! コレは確かに厄災と呼ぶに相応しい。

 とにかく元凶を討伐しない限り、この汚染は止まらないだろう。

 で、あるならば先ずはこの元凶を滅ぼす。その後、感染者への治療だ。従来の奇跡でも治療は可能だとは思うが、念の為に吸収してこの力を解析したらより効率的だろう。さて、何処だ? 広範囲に広がったオーラの元はどこにいる。まぁいい。ならばこうしよう。《円》! ……いた。双尾の蛇! …デカいな。奴も気付いたか。こちらに向かってくる。こちらに来る間にもその力と大きさは増している。恐らく犠牲者のオーラを吸収していると見た。昔闘ったヴリトラと同程度の大きさだ。

 しかし、暴虐もここまでだ。お前は殺しすぎた。その報い、受けて貰おう。

 

 

 

 ビルの壁を這って、ソイツが姿を現す。全長30メートル。()()()ではよくあるサイズか。

 

 

 

 ──コロセ コロセ! コロセ!!! ──

 

 

 

「いきなりご挨拶だな。だが、お前はここで滅びてもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソレは歓喜していた。

 

 

 

 これまで永い年月を眠り続けた。びっしりと書かれた神字のケースに厳重に封印され、行動や自らの権能すらも封じられたソレが選んだのは、活動を停止してひたすらに休眠する事だった。

 

 

 ソレは、元は暗黒大陸の生物だ。その特性から単性生殖であるソレは、暗黒大陸の生息域で密かに過ごしていた。しかし、他生物には容赦なくその力を振り撒く。おかげでソレが棲む場所には植物以外の他の生物はほぼ存在しない。ソレの種族特性とも言える念能力は、他生物に殺意を植え付けて殺し合わせるというものである為だ。ただ、その力は念能力と言うには()()()()。殺意は際限なくオーラを伝って感染し、更に殺した者に伝染する。その連鎖は尽きる事が無い。これは最早念能力ではなく、権能と言うに相応しい力である。

 その力の秘密として、ソレの繁殖方法が挙げられる。上で述べた様に単性生殖のソレは、卵を産む時に他生物から吸収したオーラを全て使い切る。そして生まれた新しいソレは、自らの親と殺し合いを始める。もちろん、オーラを使い果たした親に勝てる術は無い。子の方にその特性が引き継がれている為だ。膨大な殺意と怨念と共に。

 

 

 

 ある時、自らの生息域に大量の弱い生物が訪れた。ソレは嬉々としてその権能を振りかざし、全滅に追いやった。普段は休眠状態であるソレは、一度生息域を通りかかる生物を感知した場合、直ぐに権能を放出する。見事に出現した阿鼻叫喚の地獄を満喫し、思う存分に栄養を吸収したソレは、代替わりを終えて再び休眠に入る。それから、スパンを空けてボーナスタイムとも呼べる様な事が3回程続いた。

 

 

 しかし、3回目でイレギュラーが発生する。殺意を振り撒き、弱い生物達をほぼ全滅させ、代替わりしようと目論み、卵を産んだ。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()。そう。使われたのだ。人類の戒めの為に。仕方なく、親は休眠に入った。次こそは卵を孵してみせる、と。

 一方、卵の子は卵から孵って気付いた時には神字の書かれていたケースに閉じ込められていた。折角孵ったのにこれでは活動が出来ない。仕方なくソレは休眠状態に入った。ごく稀に封印が弱まる事があり、その時すぐに目覚めて殺意を振り撒いたが、僅かにしか殺意を振り撒けず、それから再び封印が解かれることは無かった。ここからソレも永い眠りについた。

 

 

 

 

 ソレの名はヘルベル。五大厄災の1体である。

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 どれぐらい眠っただろう。その眠りは、突然破られた。

 

 

 

 

 気付けば自分はケースから出ていた。封印が解かれたのだ。そして…いた! 数えるのも大変な程の獲物達が。ヘルベルは歓喜した。先ずは側にいる獲物からだ。よくも自分を永い年月閉じ込めてくれた。許さない。ケースを持つ者は、自分を見ても反応を返さない。よく見たら、針の様な物が刺さっている。だが関係ない。この力はそんな能力すらも貫通する。殺せ、殺せ、殺せ! 今までの鬱憤を晴らすかの様に強烈な殺意の権能を振り撒き、近くにいた生物は軒並み汚染された。

 

 

 

 そこから地獄は始まった。

 

 

 

 ──そして今、ヘルベルは悠々と硬い平らな地面を進む。人間の腕程の大きさだった体躯は、次第に全長30メートル程の大きさに達した。それは過去最大の大きさである。芳醇な獲物を心ゆくまで喰らい、周囲の獲物は粗方片付けた。しかも場所を移動すればまだまだ沢山いそうだ。ここは楽園だ。邪魔者はいない。ならばそろそろ代替わりしようかと目論み始める。

 

 

 

 だがそこに、上空から光が差した。次いで、何者かがそこへ降り立った。

 

 

 

 ……何だ? アレは。

 

 

 

 ヘルベルは瞬時に「敵」であると判断する。しかし、問題ない。今まで自分の権能が通じなかった事は無かった。自分のオーラにその身体が触れさえすれば、その力を伝播出来る。例外は無い。ヘルベルは過去最高に力を増している。その力を防ぐ事は出来まい。しかし、その次の瞬間、凄まじいオーラが視界全域に放たれる。それは自分すら巻き込む程の大きさだ。これは…下手したら()()()()!! 直ぐにそのオーラは消えたが、ヘルベルは逃げるべきか一瞬迷った。だが、彼は闘う事を選んだ。他者に殺意を振り撒く特性を持ち、その影響もあって自分自身も非常に好戦的であるが故に。

 それは油断とも、傲慢とも言える。だが、事実ヘルベルはそれほどの力を持っている。よって、それはプライドとも言えた。

 

 

 

 力の発生源へと向かう。そして、「敵」に遭遇した。

 

 

 

 

 ヘルベルは少し拍子抜けした。今まで見てきた弱き生物と姿形が変わらなかったからだ。他の獲物と違う部分は、非常に堅そうな()()()を身につけていた事だけだ。これならば問題無い。幾ら強かろうが、堅い鎧を身に付けようが、本気の殺意の権能をぶつければ、他の獲物同様に殺意に溺れるであろう。そして、より多くの獲物を狩ってくるだろう。

 ヘルベルはその生物に向かって本気の権能をぶつけた。自らの勝利を確信しながら。

 

 

 

 

 ………効果が()()。それも仕方あるまい。これ程強い「敵」は居なかったから。それでも多少は効果がある。これならば可能だ。その内殺意しか頭に残らなくなるだろう。

 

 

 しかし、それから一向に効く気配が無い。寧ろ()()()()()()()()()! 何故だ!? 継続的に権能を送り続けているにも関わらずだ。その時、ヘルベルの頭に「敵」からのメッセージが届く。それはイメージを介して伝えられたモノであり、人間の言語を解さないヘルベルにも理解出来た。

 

 

 

 ──お前の権能は()()()。汚染された人々の治療に必要だったからな。もうお前は用済みだ──

 

 

 

 ゾワッ!!!

 

 

 

 「敵」の存在感が膨れ上がる。同時に黒色だった革はいつの間にか白く光輝くモノへと変化した。

 

 

 不味い、不味い、不味い!!! こんな…こんな生物を超越した存在だったとは!!!

 

 

 ヘルベルは「恐怖」を感じていた。そんな事は産まれて初めて…いや、永い間代替わりしてきた中で初めての感情であった。

 古の時代にはあったかも知れない。だが、悠久の時を経て、ヘルベルはそんな感情は忘れてしまっていた。

 

 

 

 故に、ヘルベルは動けない。正に蛇に睨まれた蛙の如く。

 

 

 

 「敵」がその手から炎を発現させる。アレは、アレは駄目な奴だ。()()()()()()だ! 恐怖に縛られて動けない身体を何とか奮い立たせ、ヘルベルは逃れようとした。しかし、全てが遅かった。

 

 

 

 ──さようなら──

 

 

 瞬間、ヘルベルの視界は「死の概念」を宿した炎に包まれる。

 

 

 

 ──あぁ…これが、「死」か

 

 

 

 1つの都市を壊滅状態に追い込んだヘルベルは、ここで完全に滅びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 付近で絶望的な遅滞戦闘を繰り広げていたハンター達や軍は、上空から白金色の「何か」が降りてくるのを目撃した。しかし、目の前の戦闘に忙しく、それどころでは無い彼らにとっては、不可思議な現象としか映らなかった。

 だが、その後に行われた《円》にハンター達は驚愕した。それはこの都市ババロフ全土を覆う程の規模であった為だ。何という規模! これが厄災か! と、更に絶望感を掻き立てる。しかし、そのオーラはこれまで観測してきたオーラとは種類が違った。具体的にどうとは言えないが、非常に()()()()オーラであった為だ。

 まさか、助けが来たか? それに気付いたハンター達に俄かに活気が戻る。直ぐに引っ込んでしまったが、もしアレが厄災とは別物であったら、もしかしてこの絶望も終わるのではないだろうか、と。

 しかし、この厄災の恐ろしい所はオーラの多寡ではない。もし、アレすら取り込まれてしまったら、あの力が向くのは今度は自分達だ。そうなったらもうお終いだ。人々を救うという使命感で闘ってきた彼らも流石に命は惜しい。

 固唾を呑んでその力の行く末を戦闘を続けながら見守っていた彼らは、続けて凄まじい白金のオーラを遠くから観測した。距離が遠く、あまりハッキリとは見えないが、()()が常識を超える物である事だけは理解できた。

 

 

「神よ……」

 

 

 

 思わず呟いたハンターがいた。それも無理なからぬ事だ。あまりにも神々しいソレは、最早オーラなどと言う概念を通り越していた。それは正に、神の力と言えた。

 

 

 無論、全てのハンターがソレを目撃したわけではない。寧ろ極一部であった。しかし、次の瞬間にその白金のオーラがババロフ全土を覆った。

 そして、殺意に汚染されていた人々や動物が正気に返り始めた。それはつまり、厄災の滅びと脅威の終焉を意味していた。白金色のオーラはその場に留まり続けた。それに触れたある者は、涙を流して跪き、神の名を呼ぶ。信心深くない者でも思わず跪きそうになった為無理もない。

 念を持たぬ者にも感じられる祝福は、傷ついた者達を癒しはじめ、やがて完全に怪我や病気までを完治させた。欠損した部位すらも完全にだ。

 

 

 それは〝奇跡〟と呼ばれる物であった。

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

 〝癒し〟を完了させた神の気配が遠のく。まだまだソレを感じていたい。神の手に抱かれていたい。彼らは走り出す。その中心へと。しかし、辿り着く前にその神の遣いは上空高くへと舞い上がっていた。誰かが叫ぶ。

 

 

「神よ! 神よ! 我らを見捨てたか!!」

 

 

 それは余りにも傲慢な叫び。叫んだ後、彼は自らを恥じた。しかし、叫ばずにはいられなかった。そんな彼らに、頭の中で少し困った様な声で返事が届く。

 

 

 

 ──私は()()()()()。そして私にはまだ救うべき人々がいる。生き残った人達よ。まだまだこの地での困難は残っている。貴方達の力が必要だ。どうか、傷ついた隣人を救って欲しい。それが私の望みだ──

 

 

 

 それだけ告げると、ソレは再び上空への上昇を開始し、やがて見えなくなった。皆、その場へと跪き、祈りを捧げた。どうかあの神の遣いが舞い戻って来ますように、と。それまでは彼の言った事を必ず守っていこう。それが我等の使命であると確信しながら。

 

 

 

 

 

 

 ──彼らがあまりの衝撃に中央への報告を忘れ、大統領が危うく戦術核を打ち込みそうになったのは、また別の話である。









五大厄災:ヘルベル
・メビウス湖から南東、暗黒大陸の沿岸部に存在する「長寿食ニトロ米」を守るかの様に存在する感染性生物災害型の厄災。本文にあるように、単性生殖を可能とする。種の維持の為に代替わりを繰り返し、獲物がいない時は休眠状態に入るが、近くに獲物が通り掛かると襲いかかる。攻撃方法は、殺意を含むオーラで相手に触れる事である為、姿を見た場合は直ぐに逃げる事が唯一の回避方法である。しかし、一度殺意が伝染すれば基本的に逃れる術は無く、思考力は一部は保つがヘルベルを除く生物に激しい殺意を持つ事になる為、ある意味操作された状態となる。そして、近くの生物に無差別に襲い掛かり、殺害を繰り返す。自衛の為に感染した者を殺せば、更にその者へと殺意は感染する。また、一般の生物は、その力を限界まで引き上げられ、殺意を伴ったオーラを纏い、触手の様にそれを伸ばしてくる。そのオーラに触れても感染してしまう為、念能力者が感染すれば非常に危険である。そうして殺意は無限に増殖してゆく。
 ヘルベルは特殊な食性をしており、殺意を伝染させた獲物が殺された時、また、その獲物が多生物を殺した時に、その殺意やオーラを吸収する。その蓄積がただの念能力の範疇を超えて権能まで押し上げている。即ち、人間のルールを超える物となっている。
 一度活動を開始すれば、植物を除く生物を殺し尽くすまで活動をやめず、最後の1匹を自ら殺害して漸く活動を停止する。近辺に生物が大量にいた場合は、代替わりの為に周囲の生物を滅ぼした後、一時的に卵を産む為に活動に制限が掛かるが、基本的には止まる事が無い。よって、人間社会に放った場合には凄まじい生物災害へと成り果てる。
 一度人類圏へと持ち込まれた時に、研究者が封印を解きかけて、恐ろしい程の生物災害が発生した。その為、それ以降は絶対に封印を解かない様に国際環境許可庁の地下深くへと埋蔵された。二度と再び陽の目を見る事がないように、との戒めを遺して。

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