アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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皆様、このたびは長らく投稿ができず大変申し訳ありませんでした。
中々思うように書けず、そのうち仕事も異動を挟んだためしばらく離れてしまいました。待っててくださった方、本当にごめんなさい。
何とか書き上げ、ストックも少したまりましたので、投稿します。
展開が不安なところですが、開き直って書くことにしました。どうか温かい目でご覧ください。
3話連続で投稿しますので、ここからスタートをお願いします。





128、衆愚の王

 

 

 

 

 

 

 

『次!! 送って!!!』

 

 

 

 ケータイから勢いよく声が響く。この声はビスケット=クルーガーだ。交代してから6時間、既に闘い通しな筈だが、一向に疲れた様な気配を感じさせない。

 了解の意を告げてケータイを切ったモラウは、早速網に引っかかった一隊をノヴと共に送り込む。

 

 

「もっと梃子摺るかと思ったが……思った以上にメンバーが豪華なモンだから楽できていいな」

 

「えぇ。あの子達も期待以上ですよ。全く弟子にも見習わせたいものです」

 

「ゴンって奴は殲滅する事にゃ抵抗が強かったが……あの村々の惨状と奴等の性質から多少は割り切った様だな」

 

「まぁ、誰でも最初はそんなものですよ。その証拠に後半の動きは別物になってましたからね。他の2人の子も文句無しですし。全く末恐ろしい」

 

「ま、とりあえず雑魚や隊長クラスはかなり削ったな。カイトって奴の実力も文句ねェ。問題は……」

 

「……えぇ。問題は()()ですね」

 

 

 2人が高台から巨大な蟻塚を見つめる。その頂上付近からは莫大なオーラが漏れているのが見えた。禍々しく触手のように絶えず蠢き、少しでも接近すればあっという間に捕捉されるだろう。

 恐ろしい事に、それは【円】である。この距離から観測できるという事は尋常ではない範囲であり、そこから想定されるオーラ量は想像を絶するだろうという事が容易に想像できた。

 

 

「……アレが王直属、って奴……だよな?」

 

「まぁそうでしょうねぇ。むしろアレが一般の兵士蟻だとは思いたくありませんね」

 

「参ったな。アレを掻い潜って女王蟻まで辿り着かなきゃならんとは。会長も人が悪いぜ」

 

「しかも、護衛〝軍〟ですからね。アレ一匹とは限らないってところが尋常じゃ無く難易度が上がってますね」

 

「しかも、奴等がいるって事はもうすぐ〝王〟の誕生も近いって事だろ? ハッキリ言って厳しくねェか?」

 

「珍しいですね。弱音ですか?」

 

「たまにゃ愚痴りたくなるって事だ。気にすんな。今回ばっかりは会長の方がよりヤベェ案件だからな。全くどうなってんだよ。この世界は」

 

 

 

 2人は雑談しながら観察を終え、急ぎ次の獲物を嵌める作業へと移る。余りぼやぼやしていると威勢の良い()()()()からドヤされるからだ。

 彼女曰く、今回のミッションは「削り」と「探り」である。王が産まれるまでは敵の戦力を削れるだけ削り、被害の拡大を防ぐ。そうして相手側を削れるだけ削って時間稼ぎをする事こそが今回の目標である。

 それは全員が共有しており、スムーズな意思疎通によって現在かなりの敵戦力を削ることに成功していた。

 そして、敵の戦力を探り、可能であれば上位の蟻が産まれる前に女王蟻まで辿り着き、始末する。それがこれまでの理想のプランだった。

 

 

 

 しかし、ここで想定外が起きる。

 

 

 

 既に王直属護衛軍という上位蟻は誕生していたのである。専門家の見解から、もっと先だという想定を大幅に前倒ししている。その圧倒的な力量を察知した彼女は、理想のプランを捨てざるを得なくなった。

 

 

 そこで、彼我の戦力を計算して、戦力の削りに注力するプランに変更した。

 

 

 一見消極的なプランではある。しかし、諦めたわけでは無い。むしろ、着実に蟻退治へのプランを進めていた。

 

 

「さぁて、そろそろ休憩しましょうか!」

 

「……よくそんなに動けるね。ビスケは」

 

「だらしないわねェ。そんなんじゃいざというときに動けないわよ。これも修行! 大体ゴンはまだまだためらいすぎ。未だに相手を戦闘不能か致命傷で留めちゃってるし。何があるか分からないのが念戦闘なんだから、きちんとトドメを刺さないと駄目よ。まぁ最初よりはだいぶマシになってきたけど、いい加減相手と対話しながら闘うのをやめなさい。それは決定的な隙に繋がるわ」

 

「……うん……」

 

「まぁ、コイツにはいきなりはちょっと厳しいんじゃないか? 知性のある生物を殺すのはどうしてもためらいがあるもんだからな。フツーは」

 

「アンタはアンタで相手を舐めすぎね。効率優先して受けなくてもいいダメージ貰ってる時点でアウト。もうちょっと慎重になりなさい。〝彼〟みたいにね」

 

「『そうだぜ! 殺すときはできるだけ素早く、静かにな! ケケケケケ』……もういい、消えろ」

 

 

 

 

 ボンッ、と銃型の念能力が消える。カイトの『気狂いピエロ(クレイジースロット)』である。ランダムに現れる武器、そして一度出したらちゃんと使うまでは消せない、ピエロが勝手にしゃべり出す、等々、本人は融通が利かない能力とことあるごとに鬱陶しがっているが、その威力と強さは折り紙付きである。

 場合によっては隊長格を一撃の下に葬り去る恐ろしい威力を秘めているため、その戦闘力は全員から一目置かれている。

 

 

 

「うっ……やぶ蛇だったか」

 

「それで? いつまでこの雑魚退治を続けるの? そろそろ王が産まれてもおかしくないんじゃない?」

 

 

 カルトが鎧を解除しながらビスケに尋ねる。カルトはカルトで尋常じゃ無い数の蟻を殲滅している。新しい能力の実験台にと、兵隊蟻たちは次々と葬られていき、そのたびにカルトの鎧もバージョンアップを重ねていった。

 

 

 

「そうね。そろそろ次の段階に入りましょうか。上の人達も呼んで。会議するわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「威力偵察するわ」

 

 

 

「「「「……は?」」」」

 

 

 

 四次元マンションの一室に車座になって座り、簡易的な会議を行う一同だったが、開口一番のビスケの言葉に全員が聞き返した。

 

 

 

「聞こえなかったかしら。威力偵察よ」

 

「いや、ビスケ……たしかカームから護衛軍以上の奴には手を出すなって言われてなかったか?」

 

「そうね」

 

「いや、だから威力偵察って……アレと闘うのか?」

 

「早い話がそういう事ね」

 

「いや、どういう事だよ!」

 

「ま、今までとあまり変わらないわ。基本は『削り』。敵戦力を少しでも削る。ただ、敵も馬鹿じゃ無い。今まで通りのやり方だと限界がある。その証拠にもう雑魚はあまり出てこなくなったじゃない?」

 

 

 ビスケはモラウとノヴに視線を送る。その視線に仕方なしにモラウが答える。

 

 

「ま、その通りだな。最近はちっとも蟻塚から出てこなくなった。跳ねっ返りの部隊がちらほらとって感じだが、それも途絶えつつある。奴等も確実に俺等の存在を警戒してるな」

 

「でしょ? 本来ならそこで兵糧攻めにしてってトコなんだけど、おそらく食糧はかなりの備蓄があるから無意味ね。それどころか、時間を掛ければ掛けるほど、王の誕生のリミットが迫ってくる。ならばどうする?」

 

「こっちから攻める……か」

 

 

 カイトが呟く。心なしかカイトは口元に笑みを浮かべていた。

 

 

「その通り。少しでも直属護衛軍のリソースを削ぐ。具体的には、挑発してせめて一体でも処理する」

 

「いや、ちょっと待てよ!! そりゃ、できれば良いけど、勝算はあるのか!?」

 

「さて……そこで全員に聞くわ。みんな例のオーラは遠目から見たわね? それを見た上で聞くけど、このプランについてどう思う?」

 

 

 

 そこでビスケ以外の全員が沈黙する。が、意外とその沈黙はすぐに破られた。

 

 

 

「ハハハハハ!! オレたちゃ〝討伐隊〟だからな! 勝算なんて考える時点で野暮ってもんだ!」

 

「モラウさんの言うとおりですね。それが任務であり、最善手ならばやるのが筋でしょう」

 

「おいおいおい……そんなの自殺行為に等しいぜ……だいたい、ビスケはあれがどれぐらいのオーラか見当ついてんだろ?」

 

「2倍ぐらいね。無論アタシの全力の」

 

「!! マジか……やっぱ化けもんじゃねーか! おい、オッサンども! それで勝てんのかよ!? ビスケで2~3倍ならアンタ達だと10倍ぐれーじゃないのか!?」

 

「勝てる勝てないとかじゃねェんだよなぁ。だいたいお前は念戦闘について根本的にズレてるぞ。勝敗なんて揺蕩って当たり前! それでも100%勝つ気で闘る!! それが念使いの気概ってもんさ」

 

「それとこれとは話が別だろ!」

 

「いや、彼の言う事ももっともだ。臆しては進めない。今はそんな状況だろう」

 

「カイト!」

 

 

 横からカイトもモラウとノヴに賛同する。慎重派のように見える彼だが、その意外な発言にゴンとキルアは驚きを隠せない。カイトは続けてゴンに問いかける。

 

 

「ゴン……お前はどうなんだ? ここ数日悩んでいただろう。そんなお前はこの作戦についてどう考える?」

 

「……オレは、できればオレはこんな事態はもう終わらせたい。それで済むのなら」

 

「ゴン……」

 

 

 ゴンはどことなく思い詰めたような顔で答えた。彼はそれまでの被害に遭った村々や、秘密工場跡地での戦闘、そして、削り探りの中での戦闘を経て思うところがあったのだろう。善とは何か。悪とは何か。人間とは、蟻とは。相容れるのか、相容れないのか。様々な悩みを抱え、答えが出ないまま現在に至っている。傍目から見ると一見普通に見えるが、キルアからすれば少し危うい状態とも言えた。

 

 

 

「カルト、アンタは?」

 

「僕は……そうだね。賛成かな」

 

「その心は?」

 

「少しは役に立つところを見せたい」

 

「ブレないコね。アンタも。ま、いいわ。これで賛成5 過半数ね。決定」

 

「あ~マジか……しゃーねぇなぁ。で、具体的なプランはあるんだろうな?」

 

「勿論。じゃ、その話をこれからしましょうかね。全員少し寄って」

 

 

 

 しぶしぶながらもゴンの様子を見て了承したキルアをメンバーに加え、ビスケは具体的なプランを全員に説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移した先は、豪華な邸宅の一室。最早宮殿と言って良いほどの場所である。まるで広い中華風の謁見室の様な場所に、場違いなオブジェがそこかしこに散見される。ガラスケースに保管された紅の目玉の数々、人間の上半身、頭部、臓器など、正気を疑うような品物の数々が所狭しと並べられている。更に、目立つところに置かれた豪華な玉座は、形の変わった複数の人骨で飾られており、悪趣味を極めたような一室と化していた。中央から水滴がしたたる音が響く。若干粘つくような音を立てるソレは、水では無かった。

 

 

 

 

 そこに彼はいた。カームが渡した特製のネックレスを付けて。しかし、その姿は……目を覆うほど悲惨な状態だった。

 

 

 

 

「あ…………」

 

 

 

 

 鎖に繋がれ、天井から吊されたソレは、紛れもなくクラピカその者だった。しかし、彼は目を刳り抜かれ、舌を抜かれ、全身の皮を剥がされていた。一見誰だか分からない状態で。どう見ても瀕死だ。だが、死んではいない。そこだけは良かった。

 全身が沸騰するような怒りが湧く。誰だ? 彼にこんなことをしたのは。

 

 

 

 即座に彼を縛る鎖を切り離し、受け止める。鎖は先端を彼の手に穴を開けて通してあり、非常に苛烈な拷問を受けたと察することができた。ここまでされて何故私を呼ばなかったのか。それはひとえに彼のプライドの高さ故であるのだろう。しかし、通常であればこのような状態になる前に察することができたはずだ。何故だ。何故私の権能が機能しなかった。

 怒りに思考が染まりながらも原因を考えつつ、急ぎ、彼を治療していく。

 

 同時にある人物の事が頭に浮かぶ。考えたくは無いが、そういうことなのだろう。よくも……よくも手を出してくれたな。

 

 

 ここまで損傷した人体の復元は多少時間が掛かる。とはいえ、それも微々たる物だ。やがて、完全な姿でクラピカは復元された。

 

 

「クラピカ! クラピカ!! 私の声が聞こえるか!?」

 

「…………」

 

 

 体の復元は完了した。しかし、ショックからか、未だ反応が薄い。当然だ。仇と目された人物に何もできず、ここまでの凄まじい拷問を受けたのだから。常人ならば精神が崩壊してもおかしくは無い。彼に毛布を掛け、その場にそっと寝かせる。彼には休養が必要だ。だが……ここまでやってくれたクソ野郎には必ず制裁しなければならない。死すら生温い地獄を見せてやる。

 

 

 

「いるのだろう? 出てこい。それとも炙り出してやろうか?」

 

 

 

 

「くっくっく……怖いなァ。〝救世主〟殿は」

 

 

 

 絶を使っていたようだが、私には通用しない。椅子の後ろに隠れていたようだが、その男はのっそりとそこから出てきて椅子にふてぶてしく座った。

 

 

 

「貴様がコレをやったのか?」

 

「前途ある若者が極限状態で産み出す総合芸術ってやつさ……コイツは特に最高だったぜ? なんせ、オレが集め損ねた最後のピースを持ってやがったからな」

 

「貴様のくだらん戯れ言を聞く気は無い。私の大切な者に手を出した。それだけで万死に値する。覚悟は良いか?」

 

「オレはツェリードニヒ=ホイコーロ。このカキン王国の〝国王〟だ。他のクソ王子どもを駆逐して生き残ったカキンの正当後継者。そんなオレに万死に値するなどと……下界のゴミの分際で不敬だぞ。どうやら大層な〝力〟を持っているようだが、オレの前じゃ無意味だ。それを今から教育してやろう」

 

 

 

 そう言って男は目をつぶる。なんだコイツ? 一言一言が不愉快だ。コイツの価値観が何一つ理解できない。こんな奴が〝王〟とは、カキンも本当に腐っているな。

 

 

 

 

 

 もういい。

 

 

 

 

 

 死ね。

 

 

 

 

 

 !!?

 

 

 

 

 

 

 避けた!? 馬鹿な!!! どういうことだ!! 常人には意識することも不可能なはず……それ程の速度で念弾を撃ったはずだ。しかし、現実として奴には()()()()()()()。しかも奴は目をつぶったままだ。

 ……どういうことだ?

 

 

 

「ヒュー。すげぇすげぇ! 下界のゴミにも特殊な個体がいるもんだなァ。で? 次はどうすんだ?」

 

 

 

 何が起きている? まぁいい。ならば直接叩く!

 

 

 

 

 !!!!

 

 

 

 

 インパクトの瞬間、奴は()()()。馬鹿な……。時は止まっていない。ならば、この現象は何だ? 今の私は〝聖光気〟状態だ。呪いの類いは一切受け付けない。ならば、コイツは一体何をしている? まるで…幻と闘っているかのようだ。どこに行った?

 

 

 

「今のもヤバかったな。ま、通じねェけどなァ」

 

 

 

 ヘラヘラした声がして振り返ると、奴は丁度寝かせているクラピカの背後にいた。チッ。能力の正体が掴めない。奴はクラピカに近づき、彼に触れようとする。

 その瞬間、私の中で何かが切れる音がした。

 

 

 

 

 

〝時よ、止まれ!〟

 

 

 

 

 

 ……初めからこうすれば良かった。私の悪い癖だ。今度こそ仕留めよう。〝そして時は動き出す〟

 

 

 

 

 ブンッ!!

 

 

 

 空振った!! そしてまた消えた。今度はクラピカと共に……この野郎!

 頭に血が上るが何とか抑える。コイツの能力の原理はなんだ? まるで幻、しかし確実に実体がある。にもかかわらず、攻撃を予測したかのように躱し、消える……ん? 予測?

 

 

 

 予測、そうか。そうだ。予測だ。私の行動はかなり高い精度で予測されている。いや、私の攻撃の速度を考えると、ほぼ100%予測されている。どんな行動を取るか。そういったリアクションをとるかまで含めて!

 

 と、なると、奴の能力は、未来視! いや、それだけではないな。もしかすると、奴は未来視した結果を弄ることができ、()()()()()()()()()()()()()可能性すらある。馬鹿げた能力だ。しかし、今の私にこれほど抵抗できるとなると、これぐらいしか考えられない。一体何をすればそんな能力が身につくんだ……? いや、今は良い。とりあえずクラピカを取り戻し、奴を始末することだけに集中しよう。私の予想が正しければ、奴は再び現れる。

 

 

 

「気は済んだか? 下界のゴミ」

 

 

 やはり現れた。さて、何を要求してくる? 

 

 

「さて、貴様には選択肢を与えてやろう。貴様が大事にしているコレな。オレ様もお気に入りなわけよ。しかも、遊びすぎて壊れる寸前だったのをお前が治療してくれたようだからなァ。で、だ。寛大なオレ様はコイツと引き替えにお前をある場所に招待したい。光栄に思えよ? 下界のゴミにとっちゃ破格の対応だからな?」

 

 

「……クラピカは人質と言う事か?」

 

「よく分かってるじゃねェか。ゴミの分際で。おっと。その前にそのクソ忌々しいオーラは消せよ? オレの大部分の能力が効かない原因はソレだろ?」

 

 

 なるほど。そこまで理解しているか。……ここでクラピカを取り返すのは現時点では難しい。恐らく奴は私の行動全てを読むことができている。私が突発的な行動をすることも含めてだ。と、言うことは大人しく奴の誘いに乗るほか無い。恐らく私を拘束する罠だろう。奴の力を考えると、もしかすると異次元に飛ばす的なものかもしれない。それに乗ると言うことは普通は死と同義。あまりにも危険な行為である。

 だが、奴は勘違いしている。私はただの〝聖光気〟使いではないということを。()()()()()()()も、そこまでは知らないはずだ。

 

 

 

 

 私が【壊れない男(アンブレイカブル)】だということを。

 

 

 

 

 

「……いいだろう。で? どうするんだ?」

 

 

 そう言うと、奴はニチャリと汚らしい笑みを浮かべ、無言で手をかざし、扉を具現化させた。

 

 

「ここに入れ。言っておくが、抵抗は無駄だ。それは先ほどの遣り取りで分かっただろ? 怪しいそぶりをした時点で交渉は決裂な」

 

 

「……わかった。クラピカはこちらに渡してくれるんだろうな?」

 

「お前が変な行動を取らなければな」

 

 

 

 そう言うと、奴は先にクラピカの手を取り、扉を開けてその中に放り込んだ。ただの一枚扉であり、向こう側の風景が見えているにも関わらず、クラピカの姿は消え去った。恐らく異空間に繋がっているのだろう。

 

 

 

「おっと。無駄な事は考えるなよ? 俺を害すればこの扉は消えるからな」

 

 

 

 ……チッ。トコトンムカつくロン毛ヒゲだ。仕方ない。扉の前に立つ。扉を開ける。恐らくここで奴の言うように何かアクションを起こせば、奴も予測して動くだろう。ここまでは大人しく従う。

 私は〝聖光気〟を解除し、扉を潜り、そして後ろ手で扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぷっはぁ~! マジで緊張したぜ!! アレ殺すとか無理無理無理! てか冷や汗がヤベぇ。おい! これでいいんだろ!!!」

 

 

 

 暗がりから1人の男が出て、彼の前に跪く。

 

 

 

「ええ。ご協力ありがとうございます。これで各国のマフィアの利権は50%が貴方に譲渡なされました」

 

「はぁ~? あんだけ苦労しといてそれだけかァ!? お前、あの化けモン見ただろ!? アレと対峙するのにオレがどんだけ苦労したと思ってんだテメェは。殺すぞ?」

 

 

 ズズ…と、彼の怒りに合わせて濃厚な漆黒のオーラが部屋中を埋め尽くす。そのあまりの圧力は、常人であれば死にかねない程のものであった。相対した男は内心冷や汗をかきながら、それでもその事をおくびにも出さずに答える。

 

 

 

「勘違いしないでいただきたい。いずれは80~90%以上が貴方の物になりますよ。こちらが最初から出せる限界の分がそれなのです。これから貴国とは〝業務提携〟しますからね。我々の身分さえ保障していただければ全世界を手中に収めることも可能ですから」

 

「フン……まぁいいだろう。使えるゴミは少しは残しておかないと面倒だからな。いずれお前のトコのボスもオレに挨拶させに来い。使えるゴミか見極めてやるからよ」

 

「ありがとうございます。日程を調整しておきますね。……しかし、さすがですね。こうも上手くいくとは」

 

「当然の結果だ。何よりオレは〝無敵〟だからな」

 

「それには同意します。しかし、最近念を習得した人物とは思えない力量ですね。天才、と言うべきか、失礼ながら怪物と言うべきか」

 

「ゴミどもとは生まれつきレベルが違うんだよ。それにもうオレは()()()()()突破したしな。なぁ、モレナ」

 

 

 

 ツェリードニヒが玉座の隠しボタンを押すと、玉座の脇からガラスケースが地面からせり出す。中には裸で拘束された女性が浮かんでいた。頭部は複数の管で繋がれ、手足は拘束されている。目は刳り抜かれて存在しないが、片方の目の上から二本の傷跡が確認できた。

 

 

 

「彼女は?」

 

「オレの親戚でな。ケツ持ちしてたマフィアの親玉なんだが裏切りやがった。よって処刑しようとしたが、能力が有用だったから拷問した上で使わせてもらった。まぁ、コイツも使えるゴミって事だ」

 

「……参考までに、レベル1万、というのは?」

 

「1人殺せばレベルが上がり力が増す。シンプルだろ?」

 

「……なるほど、最近のカキンでの大量の粛正はそれだったのですね」

 

「使えないゴミどもを処理してレベルが上がる。一石二鳥だ。リサイクルってとこだな。エコだろ?」

 

「いやはや……なんとも想像を絶する力ですな。貴方が倒した彼を除けばまさに人類最強でしょう。カキンも安泰だ。では、私はこれで失礼します。国に戻って後始末をしなければならないので」

 

「おーおー。好きにしろ。オレはこれから趣味の時間だ。次に会うときは朗報を期待してるぜ。期待を裏切るなよ?」

 

「お任せください。では」

 

 

 

 そう言って、男は立ち去る。その姿を胡乱げに見つめるツェリードニヒだったが、取るに足らない存在など気に入らなければ秒で始末できると考え、思考を趣味の時間に移した。やがて、彼の中で男と会った事など一切脳裏の中から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、一週間、と言ったところでしょうかね。次に会うことはもう無いでしょう。さようなら。カキンの国王」

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