さて……ここはどこだ? 先程の様子からすると、ここは次元の違う世界のようだ。そして、奴の能力内でもある。一見すると同じような部屋ではあるが、根本的に違う。その証拠に、久しぶりに【
ならば、奴の能力をこのまま適合してから出るとしよう。
適合するに従って理解できてきたが、ここは仮の平行世界のようなもの。奴自身は直近の未来を未来視できる。発動条件は、あの目を瞑る仕草だろう。そして、未来視で出た行動を改変し、それを弄る。分岐して放棄された世界が恐らくここだ。似て非なる世界。範囲は奴の周囲300メートル程。
……とんでもないな。まぁ、いい。先ずはクラピカを治療しよう。先程から目が虚ろだ。精神が壊れかかっているとみた。ならば、旅団にやった方法を応用する。
ウィルスにて、トラウマの記憶を封印する。解消すればウィルスは自然排出されるように……と。出来た。
目の焦点が合ってきた。お目覚めだ。
「…………はっ! カーム!! 何故ここに……」
「目が覚めたか。危ない所だったぞ」
「な……何が起きた? ここは?」
「そうだな。説明する。その前に服を着ろ。私の予備だがね」
私は普段着用の着替えを幾つかストックしている。暗黒大陸ではマッパになってしまう事も多かった為、念の為にだ。今は黒龍の鎧があるから大丈夫だが、何があるか分からない。もうフルチンはゴメンだからな。収納の肥やしになっていたが陽の目を見て良かった。マフィアスーツだが。
いそいそと着替えたクラピカだが、流石に頭が働くようで、大体の状況を察していた。
「どうやら助けられた様だな……ありがとう」
「どういたしまして。間に合ってよかったよ」
「一番の仇に出会えたんだが……無念だ」
「だろうな。クルタ族襲撃も奴がかなりの部分関わっているのだろう。恐らく、だが。そして、奴の相手をするには荷が重かっただろう」
「……」
「気にする事はない。クラピカは最初から嵌められていた。そして、それを主導したのは
「! 奴に会ったのか!?」
「いや、会ってない。だが、間違いないだろう。違うか?」
「あぁ…。カキンに着くや否やあれよあれよと国王の前に引き出された。抵抗したが無理だった……。そこからはあまり覚えていないが、恐らく碌でもない目にあったんだろう。記憶が混濁しているのはカームがやってくれたのか?」
「まぁ、その通りだな。実を言うと精神崩壊一歩手前だったからな。悪いがその原因は封じた。望めば徐々に解除できるようにしてある。…助けに来るのが遅れてしまってすまない」
「気にしないでくれ。奴の力は規格外だった。それに、これは罠だ。ここは異空間だろう?」
そこまで察しているか。流石だ。クラピカに頷き返しながら私も感じていた。これは
さて、そろそろ【
「さて、出るか。リターンマッチといこう」
「……すまない。私が下手を打ったばかりに……」
「気にするな。クラピカのせいじゃない。奴はいずれにせよ生かしてはおけん。人間の枠を大幅に超えて、怪物と化している。あの性質と大国の権力と合わさって、ある意味人類にとっては厄災の様なものだ」
「……聞くまでもないかもしれないが、勝算は?」
最後にクラピカが質問する。奴の力を体感した故だろう。私は奴と同じように扉を生成し、ドアノブに手を掛け、振り返る。
「私は『怪物ハンター』だ。200年以上も前から。これから奴を『ハント』する」
◇
とある街角の一角。ここはクカンユの下町、と言えば聞こえは良いが、ほぼスラムである。街道には汚いゴミが散乱し、花の都と称される首都と同じ国とは思えない。流星街よりは少しマシ、と言ったところだろう。
そんなスラムの一角。狭いアパートメントの一室にレオリオはいた。
彼も資金に余裕があるはずであり、こんな場所にいなくとも良いはずである。しかし、彼はここが気に入っていた。ここが彼の出発点であり、ハンター、そして医者を志すきっかけとなった場所でもあるからだ。狭いアパートの部屋には所狭しと医療書が並べられ、ひたすら勉学に取り組んでいる。もうすぐ医学試験だ。ここが正念場であると、気合いを入れて取り組んでいた。
トントン、とノックの音が響く。
「レオリオ、いるかい?」
その言葉にレオリオは思考を中断し、勉強机から顔を上げた。
「あ~今取り込み中だぜ。どうした?」
「精が出るねェ。そんなアンタに差し入れだよ」
「おっ! ありがてェ。いつも悪いな。ちょっと待っててくれ」
レオリオがノートを閉じ、机から立ち上がり、玄関の扉を開けると、人好きのするおばちゃんが鍋を持ってそこにいた。このアパートの大家だ。彼女は若くして夫を亡くしており、1人でこの安アパートを切り盛りしている。レオリオもこの大家には随分と世話になった。せめてものお礼にと、帰ってきてから多めのカネを振り込んでおいた。この安アパートならば100年は住めるほどの金額だ。
当初は彼女も驚いて断ったが、レオリオが押し切った。それだけ感謝していたのだ。カネが無い時でも、こうやって何かと世話を焼いてくれた大家に、レオリオは未だに頭が上がらない。
鍋を受け取りながらレオリオは頭を下げる。
「いつもすまねェな」
「そりゃこっちの台詞さね。アンタはここの出世頭さ。感謝してもしきれないよ。ま、あまり根を詰めすぎないように気をつけな」
「ありがとよ。もう大詰めだから助かる。おばちゃんもあまり無理すんなよ」
「ハッ。あたしゃ20年後でも元気さね。心配するだけ無駄さ……ただ、最近物騒でね。この街の住人も何人も行方不明になってるらしいから気をつけな」
「ふ〜ん。まぁ、オレは見ての通りしばらく缶詰だからあんまり関係ねェな。一応覚えとくぜ」
その日、彼は差し入れをありがたく頂き、再び勉強へと戻った。いよいよ試験勉強も大詰めだ。ここが頑張りどころである。そうして思考の海に沈んだ彼は、気づいていなかった。
自身の住む場所の水面下で恐ろしい事態が進行していた事を。
◆
「……っくあ〜〜ッ!! ここまでにすっかー!」
大きく伸びをして、参考書を閉じる。差し入れをいただいてから3日間ぶっ続けで集中してきたレオリオも、流石にこれぐらいにしようと立ち上がる。随分と部屋も散らかっており、一通り片付けを行う。
あまりにものめり込みすぎて時間感覚がすっかりおかしくなったが、そろそろ夕方だ。風呂でも入るかと、公衆浴場に出かける準備をする。
そういえば、集中していて気付かなかったが周りが静かだ。この時間ならもっと多くの人々の声がしてもおかしくはない。激安アパートの薄い壁は騒音を容赦なく浸透させる。よって、外からの騒音も激しい。レオリオにとっては心地よいBGMのようなものだ。しかし今、それがない。今はむしろ一番騒々しい時間帯なのにもかかわらずだ。
その事実に妙な胸騒ぎを覚える。
何だ? 何か起こったか?
ふと、全世界でニュースになっている出来事が頭に浮かぶ。なんでも、世界規模で大規模なテロが起きているという話だ。ハンターサイトでも、もし所属する国で事が起きれば最優先で対応に当たるようにという3~4日前にネテロからの声明が出ている。これまでとは異例の会見だった。どうやら相当ヤバい事が起きていると思ったが、とりあえず事が起きたら対処しようと考えていた。
胸騒ぎがする。
ドアを開けて、周りを確認するも、そこには
「お〜い! 誰かいねェのかー!?」
周辺に呼びかける。普段であれば、即反応されるはずだ。むしろ「うるせー! 静かにしろ馬鹿!!」と、総出で罵られる。ここはそういう地域だ。
しかしそれが無い。何なら人の気配すらない。
「なんなんだ一体……」
この世界から1人取り残された様な錯覚すら覚える。喧しい子供達の歓声や嬌声、路上で酒を呑み管を巻いて怒鳴り散らす名物ジジイ。トウの立った女のしつこい客引きや大学生と思われる学生グループの騒ぎ声。それこそがこのゴミ溜め一歩手前の街の風物詩であったはずだ。
みんな何処へ行った?
探す。徹底的に。片っ端から建物のドアを開け、人を探す。
いない。誰も。
あの気のいい大家すらも。
「クソっ! なんだってんだよマジで!」
まるで今し方、人々だけが掻き消えたかの様な不自然さ。それはレオリオに旧い怪談を想起させる。マリー・セレスタ号。忽然と豪華客船の住人が消え去った事件。まるでいきなり消滅したかの様な消え方で、動機も何も無い。その証拠にテーブルには朝食と思われる湯気の立ったスープが残されていたという。
彼らは一体何処に消えたのか。それは今の状況と似ている。
まずこの不可解な現象の原因として考えられるのは、何らかのテロ行為が起きて避難勧告が出され、一斉に避難したという事。
だが、これは考えにくい。それならば事前に連絡があり、一騒動が起きた筈だ。この街の治安なら場合によっては暴動だ。よってこれは却下。
次に、何らかのテロの可能性。しかし、こんなに静かに人々がいなくなるのは異常だ。やはり何らかの騒動が起きるだろう。これも却下に近い保留。
で、あれば。何らかの災害が発生したか。地震、火事等ではない災害。そう。毒やウィルスの漏洩によるパンデミック。だが、それでも忽然と人々がいなくなる理由にはならない。
頭がこんがらがってきた。何なんだこれは。そして、最大の問題点。電子機器がまるで機能しないと言うこと。事態が深刻であると言う予感を覚えてからすぐにニュースサイトを調べたり、ゴン達にケータイで連絡を取ったりしようとした。しかし、ケータイが何故か機能しなかった。画面がバグって表示され、番号すら押せない状態だ。他の公衆電話なども同じで、街中の電子機器が何故かまるで機能していない。
おかげで、どんな事態が起きているか情報収集が全くできない。
これもテロの影響だろうか? これが仮にテロだとすれば、凄まじい規模のテロであるし、災害ならば国家レベルの大災害だろう。こんな大災害が起きている傍ら、のんきにもアパートに閉じこもり、まんまと自分だけ取り残されてしまった。
……いや、
彼らとの違いがあるとすれば念能力だ。そう、念能力という線もある。むしろ、こんな不可解な現象は念能力という線が濃厚だろう。消えた彼らと自分の違いとは、念能力の有無だ。
オーラによって謎攻撃を防ぐ事が出来たか。しかし、この国にも少なからず念能力者はいるはずだ。自分を除いて丸ごといなくなる理由が分からない。
ともかく、このままじゃ何が起きたかちっとも分からない。最大限の警戒をしつつ、彼は街へと繰り出した。
◆
「誰かいねェのか〜!! いたら返事しろ〜ッ!!!」
かれこれ3時間、街を彷徨う。しかし、収穫は全く無い。何処もかしこもゴーストタウン状態だ。ともあれ、頼みにしていた連絡手段も封じられており、いよいよ孤独感が強まってきた。
「誰か〜…誰かいねェのか〜……」
流石のレオリオも心細くなってきた。どうしてこうなってしまったのか。3日前には普段の人々の溢れる街並みだったはずなのに。これではまるでゾンビ映画の主人公だ。むしろゾンビでもいた方がまだ気が紛れる。
……いや、やっぱゾンビは嫌だな。などと、とりとめも無いことを考えながらも街を彷徨う。とりあえずは人のいそうな都心に向かっているが、まだまだ旅路は長そうだ。
先ほどから展開しているオーラもそろそろキツくなってきた。ここいらで休憩しなければ。
誰もいない街並み。無人の店。無人のホテル。店員もいなければ観客もいない。スーパーの無人のレジにとりあえずカネを払って食料を貰い、ビジネスホテルに入り、無人の空き部屋を借りる。当然のようにフロントには誰もいない。ビジネスホテルの割に豪華な一室に入り、今晩の食事を済ませ、シャワーを浴びる。水や単純な電気などがまだ機能しているのは幸いだった。
警戒は解けないが、一息ついて多少はホッとすることができた。
全く訳の分からないことだらけだ。どうしてこうなった。
酒でも呑みたい気分だが、何があるか分からないため自重する。少し一眠りしよう。張り詰めていたオーラを一旦解き、レオリオは眠りに就いた。
◆
…………
夢を見た。
死んだ筈のダチが生きている夢。自身は医者として地元や世界各国でバリバリに働いており、ダチと共に数々の人々を救う夢だ。仕事が終わればスタッフと夜の街に繰り出し、派手に金を落とす。綺麗なねーちゃんに囲まれて2人して大笑いしながら遊んでいる。まるで現実の様なリアリティ。いや、現実そのものだった。だが、ダチがいる時点で夢なのは確定していた。夢の中でレオリオは大いに仕事に精を出し、大いに笑った。
夢であるが故に、覚めた時の喪失感は酷い。まるで虚無の中に放り出されたかのようだ。二度寝して続きを見ようと思うぐらいには精神的なダメージは大きかったが、現在の状況を思い出して渋々と顔を洗った。
状況は変わらない。フロントにカネを置き、ホテルを出る。街の中心がそろそろ近い。レオリオはまるで何かに導かれるかの如く、無人の都市を歩く。行くあては無い。だが、その足取りは迷いがなかった。
◆
街を歩いて行く中で気づく。電気量販店のディスプレイや、電光掲示板などだ。文字は相変わらずバグっている。まるで意味不明な文字列の羅列。しかし、レオリオにはそれがある場所を指し示していると理解できた。理屈ではない。ただ、分かったのだ。
それは塔。この国で塔と言えば、クカンユで有名な観光名所でもある電波塔がある。恐らくそれだろう。そして、そこに行きさえすれば願いが叶う。漠然とだが、そういう予感がした。
◆
2日目を別のホテルで過ごす。再び夢を見た。いや、それは夢と呼ぶには生々しすぎた。最早もう一つの現実であった。
レオリオのこれまでの人生はその夢の中で再び繰り返され、追体験する。
人間誰しも失敗や後悔する事はある。それが人生というものだ。だが、繰り返された人生では間違わない。
今日はここまでのようだ。
前より覚めた時の喪失感は酷くなった。やはり、必ず塔に行かねばならない。彼にとってそれは確信となった。恐らく、他の人々もそうだったのだろう。そして、塔へ行き、自分の夢を叶えた。レオリオは彼らが羨ましくなった。
そう、段々と分かってきた。だからみんなそこへ向かったのだ。5日前から。誰も居なかったのはそのせいだ。そこに行きさえすれば、自分の夢が叶うのだから。そう。何でも叶えてくれるのだ。:@)4;¥:-¥&が。
なんだ、勉強して損したぜ。と、レオリオは脳内で悪態を吐く。態々オーラで頭を強化しながら必死に勉強してきた。だが、そんな事をする必要すら無かったのだ。何故なら、行くだけで叶えてくれるから。
そのおかげで1人出遅れてしまった。勿体ない。
果たして、オレの分が残っているだろうか? 残っているとありがたいのだが。こちらにはダチがいない。行く理由などそれだけで充分だ。
レオリオは、夢遊病患者の様な足取りで
彼らは“生きている”。それを見ても、レオリオは何も感じなかった。寧ろ羨ましいとさえ思えた。
楽しい夢を見ているのだろう。夢は人それぞれだ。大金持ちになって豪遊したり、異世界に行って無双したりする者も居れば、ハーレムを築いてウハウハで過ごす者もいるだろう。
それらが全てほぼ現実として叶うのだ。スラムの連中などは飛び付いたに違いない。現に、レオリオですら早くそうしたくて仕方がないのだ。抗うなど無理だ。
ミイラが増えてきた。いや、増えてきたどころではない。もう至る所にミイラは溢れかえっていた。数え切れない程のミイラは、元は街の住民だった者達だ。塔も近い。あそこにいる。段々理解が深まってきた。叶えられるのは1人につき
今、この街の住人の大部分が願いを叶え、次の街に移ろうとしている。彼らは人類の夢を叶えてくれる。その代わりにそのヒトの
塔にたどり着いた。塔は元は赤色のタワーだったはずだ。だが、今はその外観にはミイラが張り付き、生々しい皺のある褐色でびっしりと覆われていた。
最早別の建物だ。趣味の悪い現代アートといった所だ。恐らく中も同じだろう。
ミイラで埋め尽くされた館内を進む。ちらほらとミイラの影に蠢く黒いネズミの様な生物が見える。その赤く輝く幾万もの眼が一様にレオリオを監視している。ソレはレオリオを導いていた。塔の頂上にお前の望むモノがあると。
もうすぐだ。オレの夢を叶えてくれる存在と出会える。
あぁ、楽しみだ。
オレは、これから全てを捧げる。
レオリオに迫るモノ。それは当然……